高齢になってリタイアする医師が増加しており、そのためクリニックの承継案件も増えています。また、新たに開業する医師が既存の住宅などをクリニックとして使うという例も増加しているのです。このような場合、大なり小なり「改装工事」が必要になります。
現在では一般住宅でも、古いものを新たな装いとするリノベーションが一般的になりました。今回は「クリニックのリノベーション」を行う際の注意点などについて、『クラフトスピリッツ株式会社』に取材しました。同社は、クリニックのリノベーションを多数手がける企業です。
クリニックのリノベーションには3パターンある!
『クラフトスピリッツ株式会社』の中村誠孝さんにお話を伺いました。
――クリニックのリノベーションというと、承継案件や「ファシリティーが古くなったのでそろそろ新しくしようかな」という要望など、さまざまなニーズがあると思われますが、実際にはどのような依頼が多いのでしょうか。
私たちが手掛けてきた改修案件では大きく分けて以下の3つのパターンがあります。
①戸建てのクリニックを改修する
②全く違う用途の建物をクリニックに改修する
③商業施設(テナント)のクリニックに改修する
私が手掛けた案件で多いのは②と③です。ただ、①のパターンも経験はあります。
例えば、①に当たる承継案件では、皮膚科の医師である息子さんに内科の先生がクリニックの一部を改修して皮膚科の科目を増やすリフォームを行いました。皮膚科だったため、特に大きな変更を加える必要などはありませんでしたが、診療科目が変わると作業も大変になります。
――どんな点が大変なのでしょうか。
最も大変なのは、電気関係や給水・排水の部分です。診療科目によって使用する医療器具や処置室などのレイアウトも大きく異なります。このような場合には、電気容量や配線、給排水のシステムを新たに考えないといけなくなります。
――なるほど。リノベーションも大事になるわけですね。②の全く違う建物をクリニックにするというのは?
住宅をクリニックに改修するといった例です。これは、実際にあったのですが、それまで先生が家族で住んでいらっしゃった駅近くの一軒家をクリニックにして、住居を引っ越すという例でした。
専用住宅とクリニックでは全く造りが違います。受付・待合を設けて診察室を作り、医療器具を置くスペースを設けて……というように、住宅の中身をすっかり変更しないといけません。
↑リノベーション前
↑リノベーション後。エントランスの階段を広げ、階段の裏側にはエレベーターも完備。ガレージは駐輪スペースとして開放しました。
――それは「大ごと」ですね。
はい。壁を剥がし、躯体のみを残したスケルトン状態にしてリノベーションを行いました。住宅からクリニックなど用途変更を伴うリノベーション(コンバージョン)を行う場合、このような「スケルトンリフォーム」で対応することが可能です。既存利用する部分は表面からは見えない躯体なので、新築同様の仕上がりになります。
↑リノベーション前
↑リノベーション後。玄関を入って左手にあった居室を受付兼待合スペースに。
――そういったこともできるのですね。③の商業施設の場合はいかがでしょうか。
複合用途の商業施設内にテナントとして入居しているクリニックを改装するというものです。ただ、それはそれでリノベーションが難しいポイントがあります。最近竣工した物件などには少ないですが、古い物件などでは実際の建物と図面が異なることや図面が無いケースがあり、電気関係や給排水、構造的な面で解体後に当初の設計通りに進まない事が判明し、図面を描き直さなければならないケースです。
場合によっては、専有部分内で話が完結しないケースもあり、共有部分の設備にまで作業が必要になることも。その際、ビル側の指定業者が担当しなければならない、といったことが起こる事もあり、工期などにも影響してきます。また、防災設備の関係で思ったデザインにできないということもあります。
――最近のトレンドなどありますか?
最近では、都心のオフィス需要が減少したためオーナーさんがクリニック開業OKの判断をすることが多くなりました。そのため、これまで普通のビジネスビルだったところにクリニックが開業できるといったケースが増加しているのです。
受付・待合室に気を配るクリニックが多い!
――クリニックのリノベーションではどのような依頼が多いですか? 例えば「ここに力を入れてほしい」というようなポイントは?
やはり、受付・待ち合いスペースをラグジュアリー感のあるものにしてほしい、という希望を出されることが多いでしょうか。他のクリニックとの差別化を図りやすく、患者さんが快適に診察を待てることは大事です。医院経営においてデザイン性は重要な要素。リピーターを増やすなど、集患に関わるポイントですので、重要だとお考えになるのだと思います。
美容整形外科の受付・待合スペース│モノトーンを基調としたインテリア。
耳鼻咽喉科の受付・待合スペース│子供も大人も楽しめる絵本のような世界観に。
婦人科の待合スペース│ルーフバルコニーに増築し、確保した待合室。正面には壁面緑化を行った。
――リノベーションのコストですが、これは坪単価でどのくらいになるのでしょうか。
それは一概にはいえません。そのクリニックが保険診療なのか、自由診療なのかによっても違いますし、改修の規模や診療科目によっても異なってきます。また、先ほど「ラグジュアリー感」と申しましたが、そのような重視するポイントによっても違ってきます。
ただ、受付・待ち合いスペースの内装部分を重視してお金をかけるクリニックが多いことは確かです。患者さんが過ごす時間が長く、クリニックの印象に大きな影響を与えるからだと思います。
リノベーションは「半年前」には相談すべき!
――クリニックをリノベーションする際のスケジュール感を教えてください。
そうですね、まずはどのようなクリニックにしたいのか、ご相談を受けるところから始まり、先生のご希望をヒアリングさせていただきます。どのようにリノベーションしたいのかという要望事項などです。弊社の場合はヒアリングを受けて、そのご希望に合うプランをプレゼンテーションさせていただきます。そのプランを気に入っていただければ申込となり、細かい部分の打合せを行いながら設計を詰めていきます。一度で終わることはないですから、数回のミーティングを重ねます。
先生にご納得いただいた上で契約を結び、実施設計に入りますが、設計に1~2カ月、実際の工事で2カ月。そんなスケジュール感になります。
――では、リノベーションの相談は、遅くともリニューアルオープンの半年ぐらい前にはすべきということになりますか。
はい。やはり半年前には、ご相談いただくのがよいかと思います。あと、入れなければならない医療機器は、あらかじめ教えていただけるといいですね。例えば、レントゲンの機械を入れるのであれば壁に鉛材を仕込む、オペ室を設けるのであればクリーンルームにしなければならない、といった準備が必要になりますので。
リノベーションの際に「クリニック院長が考えるべきこと」とは?
――実際に現在クリニックのリノベーションを考えている医師・院長にアドバイスをお願いしたいのですが、どんな点に注意すべきでしょうか。
まず、「どんなクリニックにしたいのか」というコンセプトを明確にしていただくのがいいと思います。私たちはそれをお伺いしてデザイン・設計を行いますので、先生のご希望がはっきりしていると進行もスムーズです。また、診療科目、部屋の構成、スタッフの動線、スタッフルームの広さなども大事になります。
ただ、それらも最終的にはコストとのせめぎ合いになりますので、どのくらいの金額をかけられるのかは明確にしておかれることをお勧めします。設計が終わってから「実はその予算は出せない」といったことになると、また一からやり直しになってしまいます。
ですので、ご希望の優先順位とご予算を決めておかれるのが良いでしょう。私たちもその予算の中で、できる限りのことをさせていだだきます。
診療科目:眼科│商業施設のテナントをスケルトン状態からリノベーション 51万円/坪
診療科目:美容外科・美容皮膚科│商業施設のテナントにある既存のクリニックを一部リノベーション 19万円/坪
――ありがとうございました。
「リノベーションで一番重要なことは?」と最後に伺うと、「医療機関のコンセプトの明確さ」とのことでした。コンセプトは先生ご自身が考える必要がありますが、ある程度方向性が明確になった段階で、こういったリノベーションを手がける企業に相談してみてはいかがでしょうか?
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2022年10月時点の情報を元に作成しています。