この記事の筆者である私は、人口35,000人もいない、岐阜県と愛知県の境にある市町村で言うと“町”で1人鍼灸院を開業して2年になる女性鍼灸師です。
人口規模でいうと、北海道網走市やコシヒカリで有名な新潟県魚沼市と同じようなものです。
「地方開業」の場合よくあるのは、
- 故郷に帰ってくるUターン
- 都会で生まれ育って地方へ移住するIターン
- 地方出身者が故郷とは別の地方へ移住するJターン
- もともと住んでいた
など様々な理由があるかと思いますが、私の場合は結婚を機に今の土地に引っ越したので、縁も所縁もない土地でのスタートでした。
人も情報も都会に比べるとどうしても少なくなりがちですが、例え人口が少なくても鍼灸師として地域の方々へ貢献していきたいと思われる先生方へ向けて何かのヒントになりますと幸いです。
鍼灸院を地方で開業するメリット・デメリット
まず、地方開業は有利なのか不利なのか。
どんな土地にもメリットデメリットがあるかと思いますが、しっかり把握した上でメリットをしっかり活かすことが成功のポイントでもあります。
地方開業のメリット1.大手ライバルが少ない
大手ライバルというと、FC展開しているような多店舗経営をされてる院をイメージしていただくといいかと思いますが、FC事業を展開している知り合いいわく、店舗出店をする際は20万人以上の都市から進めていっているとのことでした。
理由は、「20万人以上いる都市であればマニュアル化したFC店が勝てるから」とのこと。
人口の多い都会の場合、集客できる母数が大きいため、お客さんの「求めるもの」が画一化しやすい面もあります。そのため、マニュアル化されたサービスでも「ここに行けばこれがある」という安心感から好まれやすい、という側面があります。
またマニュアル化することによって多くの店舗を出すことも可能なため、必然的にお客さんが訪れる機会も多くなり、結果として「勝てる」のです。
しかし、そもそも人口の少ない地方だと多くの店舗を出す必要がないばかりか、むしろ出せば出すほど1店舗当たりのお客さんは減ってしまい、赤字になってしまうケースも少なくありません。
つまり、人口の少ない地方では大手ライバル店は必然的に少なくなるのです。
ライバルが少ないということは、その地域でブルーオーシャンになりやすく、「〇〇(地名・地域名地域名)といえば△△鍼灸院」と定着され必然と集客に繋がります。
地方開業のメリット2.コストを抑えられる
都会と比べて固定費などのコストが抑えられるのは、経営を安定させるためにも大きなメリットとなります。
都心で開業されている先生との話と比較すると、家賃は同じような広さで倍ほど違います。
地方開業のメリット3.流行が遅れてやってくる
これはメリットなのか?と思われるかもしれませんが、遅れてやってくる傾向にあることさえ知っていれば、都会で流行っているもの(例えば少し前の美容鍼など)や技法を先取りでキャッチしてリリースすることも容易です。
美容鍼専門院を例にとると、都心で有名なとある美容鍼専門院は今年8周年を迎えました。ですが、うちの地域周辺では美容鍼専門院はまだうちにしかありません。
そのため、最新情報に常にアンテナを貼ると「〇〇といえば△△鍼灸院」と定着されやすく、集客に繋がります。
地方開業のデメリット1.そもそも人(見込み客数)が少ない
人口が少ないということは、当たり前ですが「集客の母数も減る」ということ。
だからこそむやみやたらに集客しようとしても時間と労力の無駄になりやすいです。地方に合った集客方法で戦略的にやっていきたいですね。
詳しくは後述しますが、例えば基本的に地方はオフラインの方が強いと言われているので、チラシや地域誌等の広告は検討した方がいいです。
ほかにも地方によくありがちなのが、地域の集まりに参加して顔を売り、ただの店と客ではなく個人の付き合いから店舗に足を運んでもらう、といった方法です。
中にはそういった商売の面を抜きにして、地域とのつながりを大切にされている先生もおられます。
閉鎖的な地域になるほど、集まりを大事にされている方が多い印象です。
地方開業のデメリット2.最新の情報が遅れる
先ほどのメリット「流行が遅れてやってくる」がデメリットにもなりえます。
新しい技術やトレンドが今後の集客やお客様に喜ばれるメニュー作りに使えることも大いにあります。しかし、トレンドなどはどうしても都会から始まることが多く、どうしてもトレンドの波に乗り遅れるケースがあります。
常に情報のアンテナを張っていないと、都会の鍼灸院にどんどんお客さんが流れてしまうことにもなりかねません。
今はネット上でも無料で有益な情報がたくさん溢れているので、インプットして自院に取り入れていきたいですね。
私の場合は、トレンドは主にインスタからキャッチしています。
というのも、うちのターゲットは20代~40代の女性です。このあたりのターゲットが使用しているSNSといえばインスタですし、同業者もインスタを利用している院が多かったため、鍼灸院としてのトレンドをキャッチしやすいと感じたためです。
そういった中で芸能人も美容鍼の投稿が多く見られ、今後もっと広がるだろうと予測しました。
「勝てるポイント」がわかる競合分析の方法
メリットでもお伝えした「〇〇といえば△△鍼灸院」を定着させるためには競合の調査は必須です。
先述したように地方では都会よりもトレンドが遅くなりがちです。これはつまり、「競合がいない分野」がまだまだあるということでもあります。
他よりもいち早く始めておくことで、トレンドの波がその地域に来たときに、そこでの第一人者となれる可能性も高くなります。
それらを踏まえたうえで、実際にどんな方法があるのかを見ていきましょう。
実際に検索してみる
調査にはネット検索を使いますが、お客様を想定してキーワードを入れていきます。
例えば私の場合は、
- 「地域名 鍼灸」
- 「地域名 美容鍼」
- 「地域名 症状」
- 「地域名 エステ」
- 「地域名 整体」
- 「地域名 カイロプラクティック」
などのワードで、鍼灸院だけでなく他業種も調査しています。
地域については、車社会の地方の場合は車で30分圏内が商圏だと言われていますので、その範囲内を特に注視するようにしています。
何事もまずは相手を知ることから。見るポイントとしては以下があります。
- 口コミの数、ポジティブ/ネガティブの割合
- 美容系なのか治療系なのか
- 施術者の性別
- 価格帯はどのくらいか
- 自費診療なのか、保険適応なのか
- 完全個室の有無
- 完全予約制かどうか
口コミ数は信頼の度数になります。
お客様が検索して比較した後、「ここへ行こう!」と決断する判断材料になるためチェックしておくとよいでしょう。
美容系か治療系か、自費か保険診療かは、客層が変わってくるため、例え同業者であってもそもそもライバルとして気にしなくてもいい場合があります。
施術者の性別は、例えばあなたが男性だとして女性をターゲットとした院を目指していた場合、近隣に女性施術者による女性専用鍼灸院があったらどうでしょう。別の権威性やメリットを打ち出す必要があるかもしれません。
個室や予約制もお客様にとってはメリットになりうることなので、ライバルの強みや弱み、特徴を知った上で自院の強みを出していく必要があります。
差別化のポイントを探そう
調査をしたら、自分が勝てるところはどこか?または自分がやっていきたい方向性で勝てるのかを吟味します。
差別化ができていれば、自院の特徴に合っていて、自院を求めているお客様(要するにペルソナにぴったりなお客様)によりピンポイントで見つけてもらいやすくなります。
だからこそ調査は大切です。
勝てる要素が見つかったらそのワードをピックアップして、ホームページ、Googleマップの店舗情報、自院のWebサイト、SNSに盛り込んでいくとSEO対策にも繋がります。
うちの場合は、「美容鍼 女性専用」で勝てると感じ、そこを前面に出していっています。
口コミに関しては、多店舗展開されてる接骨院さんが100件越えで1店舗ありましたが、客層が違うためクリア。
他の個人の鍼灸院さんの口コミは一番あるところでも18件でしたので、まずは40件集めました。(方法は後ほど)
鍼灸院の地方開業で「強い宣伝媒体」は…
そもそも人が少ないこともあってか、地方はオンラインよりオフライン集客が強い傾向にあります。
実際、都心部の先生たちの話と比べるとオフラインの反応率は地方の方が良いです。
オフライン集客というと、チラシや地域誌が思い浮かぶかと思いますが、それぞれの媒体を見るターゲット層を考えながら打ち出す内容を変えると良いでしょう。
鍼灸は広告規制が厳しいため、ダイエットや毛穴洗浄等の内容で出していくのもありだと思います。
地域選定は、車で30分圏内であれば商圏になり得ますが、まずは近いところから出して反応をみます。
また、お客様の住所をGoogleマップでピン留めしていくと、地域ごとの年齢層が見えてくることもありますので地域選定するには効果的です。
地域柄もあるかもしれませんが、新聞屋さんも何回か顔見知りになると1番上にチラシを入れてくれるようになることもあります。
現状、チラシも地域誌もうちの場合は高額メニューでも毎回反応率0.1%は越えているので合格点です。(※チラシの反応率は0.1%を超えると当たりと言われています。高額商品が予測される場合はもっと下がると言われています。)
個人の鍼灸院はMEOやSEO対策をしている院がまだまだ少ない
地方はオフライン集客の方が強いため、ホームページでの集客はそこまで必要ではない(メインの集客手段にはならない)と思います。ただ、それは逆に「ブルーオーシャンのため、今から作っておくと勝てる可能性が高くなる」ことでもあるのです。
当たり前ですが、集客の窓口は広ければ広いほどいいわけですから、オンライン集客も対策をして損はありません。
中でも、お客様が選ぶ要素だけでなく「権威性」や「信頼性」は大切な要素になります。
ではどのようにして権威・信頼を上げていくのか?私がしてきた方法をお伝えします。
口コミをもらう
googleの口コミが多いと、Googleマップ上での検索結果の上位に表示されやすくなります(Googleマップ上での検索結果をなるべく上位にするための対策を、MEOと言います)。
うちの場合は「口コミキャンペーン」として、メニューの価格を下げても口コミを増やす、といった手法を行っています。
もちろんライバル院以上の口コミ数を目指します。集めれば集めるほど信頼と権威性はあがりますが、うちの場合は20件でも上位に上がってきました。
価格はテストしながらでいいと思いますが、私が今でもたまにやるのが70%オフの口コミキャンペーンです。
それくらい口コミは重要だと感じています。
「お客様の声」を活用する
お客様からの生の声は財産です。
うちの場合は、仲良くなったお客様に感想をもらい、お客様の写真と感想を書いてもらったボードを一緒におさめて、ホームページやSNSに使っていきます。
自院のポジティブな口コミをもらえるばかりか、投稿内容としてもよい印象を持ってもらいやすくなる施策だと思います。
とにかくホームページは作っておく
個人院のホームページをいくつか見てみると分かるかと思いますが、レスポンシブデザイン(1つのテンプレートでPCもスマホも表示対応できる)で作られていないものがあります。
ホームページのデザインやレイアウトはとても大事で、お客さんが少しでも「見にくい」と感じると、それだけで離脱に繋がります。
ですので、最低限のレイアウトやデザインには気をつけつつ、まずは店舗情報(店舗名、電話番号、予約フォーム、診療内容など)と写真のみの1ページのWebサイトでもいいので、簡単に作っておくといいでしょう。
個人的には、余力があればワードプレスで自作するのもおすすめです。
自分でできることには限界があるかと思いますが、後々、業者にお金を出してホームページを作ってもらう際にそれぞれの作業の難易度や重要性が分かるため、要望をより細かく伝えられるからです。
実際、筆者も最初のホームページはワードプレスで自作しましたが、おかげで後々外注した際に、外注先へ「今後も編集できるようにしてほしい箇所」や「文中に盛り込みたいワード」など、細かい要望を出すことができました。
これを読んでくださっている方の中には「自作は難しいんじゃないの?」と思う方も多いのかもしれません。
でもご安心ください。当時「ドメインとは?」レベルだった私でも作れたので、もしお時間が許すようであれば、ぜひ一度は作ってみることをお勧めします。
もしそれで満足いくものになればコストは抑えられますし、満足できなければ、そこから業者に頼むこともできますし。
リピーター増加には「理由付け」が最重要
これまで集客に触れてきましたが、人口の少ない地方では新規ばかりに頼っていてはいずれ売上はたたなくなります。
リピートしてもらうための取り組みとしては、回数券、プリカ、ポイント、定額制などいろいろありますが、それよりも大切なのは「理由づけ」です!
うちの場合、リピートに促す際、なぜこの回数が必要なのか、なぜメンテナンスが必要なのかをしっかりお伝えすることを徹底しています。
買う理由が分かれば、必要以上に売り込むことなく、自然な形でリピートに繋がります。
筆者の経験上ですが、口頭で伝えるだけより資料等作って、「見える化」をした方が伝わりやすいようで、リピート率を比較すると、資料を作って説明したときの方が、15%ほど上がりました。
また、視覚化して分かりやすくするのも大切ですが、専門用語を使わないといったことにも気を付けています。
大事なのは「お客さんに納得してもらうこと」「納得の上で、自発的にリピートしてもらえること」なので、お客さんにわからない・難しい専門用語はむしろ説明の邪魔になりやすいんです。
いかにお客様目線になれるかが大切です。
鍼灸院の地方開業を成功させるために
人口が少ない地方でも逆に地方だからこその強みがあります。
さらに他院を知り、自院の強みを理解して作り上げれば、都心より容易にトップを取れますのでぜひ実践してみてください。
特徴
対応業務
その他特徴
診療科目
この記事は、2022年11月時点の情報を元に作成しています。
執筆 薬剤師・鍼灸師りえ
薬剤師から鍼灸師へとキャリアチェンジをし、現在は女性専用の鍼灸院を経営。
2022年には、女性の生き方や働き方をテーマとした書籍も出版した他、社会での女性の活躍を重視した大会の理事も務めている。
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