これまで医療機関は現金払いが主流でしたが、決済システムの多様化が求められています。クレジットカードやデビットカードなどのキャッシュレス決済に対応してほしい、というのが一般のニーズといえます。
医療機関でも近年キャッシュレス決済システムの導入が進んでいます。しかし、その導入スピードは決して早いものではありません。他の業種と比較すると遅々として進まないのが現状といえます。
そこで今回は、医療機関向けに決済システム「PayCAS POS for クリニック」を展開している『SB C&S株式会社』を取材し、医療機関向けキャッシュレス決済システムの導入のハードルや課題についてご紹介します。
医療現場での決済システムの導入が遅れている!
コンビニやスーパーなどでは自分で決済を行うセルフレジ、自動精算機の導入を積極的に推進しています。現金はもちろん、クレジットカードやデビットカード、電子マネー、QRコードでも決済可能となり、決済システムは多様化、多対応化が当然となってきています。
例えば『一般社団法人キャッシュレス推進協議会』の調査データによれば、コンビニの「月間のキャッシュレス決済による支払い件数の割合」は、2022年9月時点で「40.9%」に達しています。
参照・引用元:『一般社団法人キャッシュレス推進協議会』「コンビニエンスストア決済動向調査 2022年11月11日公表」
また、『三菱UFJリサーチ&コンサルティング』の調査結果によれば、2021年のキャッシュレス決済の比率は以下のように「32.5%」に達しています。
参照・引用元:『三菱UFJリサーチ&コンサルティング』「キャッシュレス決済の動向整理 2022年9月16日」
また、同リポートによると、2022年2月時点でキャッシュレス決済を「よく利用している」とアンケートに答えた人は以下のように全体の「64.0%」まで増加しています。
ご注目いただきたいのは、上掲右のグラフの「バーコード、QRコード決済」を利用と答えた人の増加具合です。
クレジットカードが最も普及していることに変わりはありませんが、PayPayやLINE Payが急速にユーザーを増やしていることを示しています。
それに比べて銀行圏が普及を進めているデビットカードは5~6%で横ばいで、利用はほとんど増加していません。
キャッシュレス化への対応はもはや時代の流れといってもいいでしょう。なぜなら、お金を支払うシーンでキャッシュレス決済を選べることが普通になると、「どこでも可能」という意識が定着してしまうからです。キャッシュレス決済ができないと「え?」となってしまう時代になってきたということです。
しかし、医療機関での導入は遅れています。『公益社団法人 日本医師会』が2019年11月に出したリポートによれば、キャッシュレス決済を導入している医療機関は以下のようになっています。
無床診療所:9.8%
有床診療所:17.7%
病院(100床未満):27.1%
病院(100床以上200床未満):42.9%
病院(200床以上500床未満):56.8%
病院(500床以上):80.0%
さすがに有床病院になると入院費が高額になるため、クレジットカードなどの導入率は上がるのですが、無床診療所では「導入していない:1,694カ所」「導入している:184カ所」ですから、全体1,878カ所のうちわずか「9.8%」しか導入していません。
最も数の多い無床診療所では、医療という特殊性はあるにしてもキャッシュレス決済の導入が他業種と比較して進んでいないと見て間違いないようです。
なぜ医療機関ではキャッシュレス決済の導入が進まないのか?
では、なぜ医療機関でのキャッシュレス決済が進まないのでしょうか。これには以下のようなデメリットが存在するからと考えられます。
- 決済の手数料が掛かる
- システムの導入にコストが掛かる
- システムのランニングコストが掛かる
まず、決済ごとに手数料が掛かるのが最も大きなデメリットといえます。患者さんが診療費を支払うごとに、決済手段によって手数料が決済会社に取られます。
例えばクレジットカード決済の場合、最も安価であっても1.5%は掛かります。現金で診療費を支払ってくれるのであれば不要なコストですので「そもそも無用な手数料をなぜ取られなければならないのか」と考えると、導入に後ろ向きとなっても無理はありません。
また、キャッシュレス決済システムを導入するとなると導入費用、月額費用が掛かることがあります。同様に「そのような費用は払いたくない」と考える医師・クリニック院長なら、導入をためらうでしょう。
ただし、導入コスト、ランニングコストは業者によって異なります。例えば診療費を決済する際の手数料だけで導入できるシステムもありますし、導入費用・ランニングコストを安価に設定しているシステムもあるのです。
キャッシュレス決済導入のメリット
コストがかかるから……と敬遠するのは分かりますが、キャッシュレス決済の導
入には以下のようなメリットがあることも確かです。
- レジ締めの作業が簡単になる
- 決済を省力化できる
- 支払い間違いが起こらない
キャッシュレスな支払いですので、患者さんが「支払い」を選択した時点で確定
され、支払い間違い・釣り銭間違いといったことが起こりません。キャッシュレ
ス決済が増加すればするだけ現金決済が減って毎日のレジ締め作業が少なくなり、
マンパワーの省力化につながるのです。
ですので、結局キャッシュレス決済は手数料コストをどのように考えるかという
点が最大のポイントということになります。患者さんに決済の選択肢を多く提供
することで集患に役立つ、また売り上げ拡大に有益だと見込みがあるのならためらう
ことはないでしょう。
ただし、医療機関でキャッシュレス決済が行えるのが普通になってしまうと、
「あのクリニックではクレジットカード決済ができないから行かない」といった
逆選択が発生してしまう可能性はあります。
また、そもそも保険診療の場合、窓口負担は基本3割。その決済なのでこの3割の
数%になります。そこまで大きな負担にはならないという判断も可能です。
クリニックにPOSを導入するメリットとは?
医療機関で使えるキャッシュレス決済の一つの方法として、POSレジを導入するというソリューションがあります。今回取材した『SB C&S株式会社』が提供している「PayCAS POS for クリニック」はまさにそれです。
「PayCAS POS for クリニック」は、レセコンと連携させたキャッシュレス決済を実現し、経営分析用のツールも用意しています。このシステムは以下のような特徴を持っています。
「PayCAS POS for クリニック」は、レセコンから患者さんの会計情報を受けて「決済用端末」に連動して決済を行います。
決済の多様化に対応
キャッシュレス決済導入サービスPayCASとの同時導入によって、クレジットカード、電子マネー、QRコードなどのキャッシュレスが実現できます。決済用端末でカード情報を読み取り、患者さんに暗証番号を入力してもらい決済、またバーコードを表示してもらい決済などを行えるようになります。
※ただし電子マネーは準備中
レセコンとの連携可能
クリニックに設置済みのレセコンから会計データを呼び出して決済を可能とします。レセコンと連動しないシステムの場合、二度打ちによる入力ミスが発生したりするので、これはクリニックにとって有益な機能です。
クリニックの受付に設置するのは最低限のハードウエア
クリニックの受付に設置するのは10.5インチのタブレットと決済端末のみでOKです。
必要十分の機能を搭載
保険診療、自由診療ごとの金額表示、会計待ち一覧の取得など、クリニックの使用に特化した機能を搭載しています。
経営分析ツールを提供
「キャッシュレス決済による会計」と「現金会計」が混ざっても売り上げの集計が行えます。また、「来院患者数」「未収入金」「客単価」といった、クリニック院長が経営視点の分析ができるアプリケーションが用意されます。
「PayCAS POS for クリニック」の大きな特徴は、「レセコンとの連携可能」という点です。これができないと上記のようにPOS側で診療費を再度入力しなければならない、といった面倒なことになりかねません。入力ミスがあると、レセコン側と診療費の齟齬が発生してしまいます。診療費の一元管理ができるのは同システムのメリットといえます。
ただし、「レセコンと連携しなくてもいい」という場合でも、レセコンから出力されるバーコードを利用してキャッシュレス決済を行うことも可能です。つまり、「レセコンと連動」「レセコンと非連動」の2つのパターンで使えるシステムというわけです。
また、診療費の入金状況を集計してモニターでき、経営判断の材料とできるのも「PayCAS POS for クリニック」の特徴です。保険診療と自由診療が混ざっていてもOKですから、「基本は保険診療だが自由診療にも力を入れて売り上げを伸ばす」といったクリニックには向いているシステムといえます。
「PayCAS POS for クリニック」導入のコスト
「PayCAS POS for クリニック」には、「シンプル」と「スタンダード」の2つのプランが用意されています。導入に掛かるコストは以下のようになっています。レセコンとのデータ連携を行いたい場合は、スタンダードプランを選択します。
決済手数料など詳細についてはこちらのURLから要問合せとなっています。
手数料ばかりに気を取られるのも問題!
「PayCAS POS for クリニック」の提供元である『SB C&S株式会社』クラウドサービス事業本部 FinTech事業統括部 事業推進部 システム開発課 程氏に、クリニックでキャッシュレス決済の導入が進むための課題について伺いました。
――医療機関、特に無床の診療所ではキャッシュレス決済の導入が遅れていますが、理由はなんでしょうか?
幾つか理由はありますが、主には、
①コストがかかる
②運用が煩雑になる
といった理由であると感じています。まず①ですが、これまでの現金決済であれば、患者さんとのお金の受け渡しで済んでいたものが、決済手数料が掛かり、またシステムの運用費などが掛かったりしますので、クリニックにとってはキャッシュレス決済の導入はコスト増になります。
次に②ですが、多くのキャッシュレス決済では会計の部分だけを行うものになっています。そうなると、現金決済、クレジットカード決済、QRコード決済など、複数の決済手段による売り上げとなりますので、集計が面倒になって日々のレジ締作業が煩雑になってしまいます。
クリニックで使うレセコンと決済システムが連動していないと、診療費を二度打ちしないといけなくなります。つまり、独立して動く決済システムを後から単体で導入してもかえって面倒なことになる可能性があります。
このような点がクリニックの先生方が導入に躊躇される理由だと思われます。
――クリニックへの導入が進むための課題は何だと思われますか?
やはり、①②をいかにクリアするかだと思います。先生方がリーズナブルだと感じていただける決済手数料であり、ランニングコストでなければいけないでしょう。また、売り上げの集計作業、在庫管理、データ分析などの運用が楽にならないと評価していただけないと思います。
――「PayCAS POS for クリニック」の場合には、①②をどのようにクリアしていますか?
決済手数料は掛かってしまいますが、運用コストなどトータルのコストをできるだけ安価に抑えるよう努めております。また、②については多種の決済を行っても、売り上げを一元管理して把握できるようなシステムとなっています。これによって運用の煩雑さをなくすことが可能です。さらに、レセコンとの連携も可能ですから、運用を始めてから「しまった」といったことは起こらないでしょう。
開業するなら最初からキャッシュレス決済を導入しましょう
これからクリニックを開業する医師に向けてのアドバイスをお願いしたところ――
「決済システムを導入するのであれば、開院時に最初から使えるようにするのをお勧めします。開業後にと考えると忙しくて後回しになったり、スタッフの動線の変更で手間が取られたりといったことが起こりがちです。最初から導入しておけば、決済はどうするかを決めてスタッフはそれに合わせて動くことができます。
また、決済手数料が安いシステムを導入したいというお気持ちは分かりますが、どのようなシステムなのか、院内の他のシステムと連動できるのか、運用が楽になるのかなど、全体としてコスパが良いのかどうか詳細に検討した後に選択することをお勧めいたします。ぜひ『PayCAS POS for クリニック』もご考慮ください」
――とのことでした。
手数料は確かに選択をする上での重要なポイントになりますが、そればかりを見て決めるのはお勧めできないようです。
今回ご紹介した「PayCAS POS for クリニック」では、レセコンとの連携など医師・クリニック院長がほしい機能を搭載しています。実際にクリニックに役立つのか全ての機能を考慮し、リーズナブルかどうかを判断するのがよいようです。
これから開業する医師の皆さんはぜひ開院時からキャッシュレス決済システムの導入を考えてみてください。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2023年1月時点の情報を元に作成しています。