受付や会計業務は、クリニック運営において診療と並ぶ大事な要素です。時にはクレームなどトラブルが起こることもありますが、どのようなことがトラブルのきっかけになり、また何が原因で騒動が拡大してしまうのでしょうか? クリニック受付のトラブル・クレームと対処法について、医療コンサルティングや人材教育業務を行う『グロースビジョン株式会社』の金子雅和代表に伺いました。
トラブルが沈静化するか拡大するかはスタッフの対応次第
——クリニックの受付業務で起こるトラブルやクレームにはどんなものが挙げられますか?
受付でのトラブルは、
など非常に多岐にわたります。実際に日々のクリニック業務の中でこうした患者さんとのトラブルやクレームというのは数多く起こっています。ところが、いずれもヒヤリハットでいえば初期段階。その時点では大事にならないものがほとんどです。しかし、スタッフの対応次第で大きなトラブルやクレームに発展してしまうのです。個々のトラブルよりも、そのトラブルへの対応に注目すべきです。
——クレームの中身ではなく、次の「対応」が重要なのですね。
実際にクリニック受付での大きなトラブルをひもとくと、きっかけは取るに足らないことだったのに、スタッフの患者さんへの対応が原因でさらに炎上してしまったケースがほとんどです。例えば、患者さんが保険証を忘れた場合、丁寧に対応すればクレームに発展することはほとんどありません。しかし、間違った言葉遣いや態度を取ってしまうと、当然ながら大きなトラブルになってしまいます。患者さんも心が弱っている状態ですし、普段なら気にしないことでも怒りのきっかけになってしまいます。
——スタッフも基本的には丁寧な対応を心掛けているはずですよね。
もちろんです。ですから、クリニックでは日々細かいトラブルは起こっているものの、スタッフの丁寧な対応でクリアできているわけです。しかし、忙しい、人手が足りないといった状況では、普段どおりの対応ができない場合もあります。どうしても「忙しいから早く対応を終わらせて次の仕事に移りたい」と思うものですからね。しかし、患者さんは「ひどい対応をされた、大事にしてもらえなかった」と思ってしまうのです。
ちょっとしたクレームが大きな騒動になる理由
——どんなクリニックだと、大きな騒動に発展しやすいといえますか?
まずはトラブルが起こった際にどのように対応するかの環境が整備されていない場合です。「取り決め」がされていない、ということですね。誰かが対応している間は、別のスタッフで業務をカバーするなど決めていないと、受付業務が止まったり、他のトラブルが起こったりして、うまくトラブル対応ができなくなります。
また、先生がスタッフ任せのクリニックも難しいですね。スタッフに一任することも時には重要ですが、提供するサービスに品質の差が生まれることがあります。例えば、先生や看護師さんの対応はすごくいいのに、受付の対応はあまり良くないといったことが起こるかもしれません。提供する医療の高品質化だけでなく、均一化も必要です。そのためにも、院長先生は他の業務を任せっきりにするのではなく、自分自身の目で確認し、指導することが大事です。難しい場合は医療コンサルタントなど第三者機関を活用して、品質の向上・均一化に努めることが求められます。
——トラブルの処理が上手に行えないことで、クリニックにどのような影響が出るのでしょうか?
まずは外部からの影響です。分かりやすいところでいえば、Googleで表示されるクリニックのページに悪いクチコミが投稿されるなど、マイナスのイメージが広がる可能性があることです。トラブルの内容や状況次第で、損害賠償の請求といった大事に発展する可能性もあるでしょう。
ただし、それよりも深刻なのが内部への影響です。例えば、クレーム対応を受付に任せっきりの場合、「結局先生は何もしてくれなかった」「任せっきりだからこんなことになる」と、院長先生とスタッフとの信頼関係が崩れかねません。「クリニックを良くしよう」といった気持ちで働くスタッフがいなくなってしまいます。中から崩壊していくわけです。
——スタッフの確保も難しくなるかもしれませんね。
悪い話は広がりますから、優秀なスタッフを得るのは難しくなり、健全なクリニック運営は困難になるかもしれません。日常のちょっとしたトラブルはどんな医療機関でも起こるものですが、トラブル対応を誤ると、クリニック全体に悪い影響を及ぼします。常にそうしたリスクを抱えているのを意識して、トラブル対応に当たるべきです。
日常のトラブルを大きな騒動にしないためには
——日々のトラブルを大きな騒動にしないためには、クリニックでどのような工夫をすればいいのでしょうか?
繰り返しになりますが、大きな問題にならないようにするための「環境づくり」が大事です。例えば、緊急時の対応マニュアルの整備です。この場合はこうしましょう、という取り決めをしておくことです。診療については先生に確認する、受付であれば主任スタッフに確認する、こうした問い合わせにはこう答えるなど、ケース別の対応方法を準備しておくとスムーズです。
また、クレームへの鉄則として、その場で相手を言いくるめようとするのは避けるべきです。お互いにヒートアップしてしまい、大きな騒動に発展しかねません。まずは最初に対応したスタッフがしっかりと患者さんの声に耳を傾け、相手が納得してもらうまで丁寧に対応します。その上で、もし納得いただけそうにないのならば、他のスタッフに変わる、話を伺う場所を変えるなど、状況を変えることでクールダウンするタイミングが生まれます。人、時間、場所を変えることが重要です。この点を意識して、クレームへの対応マニュアルを作ることをお勧めします。
——お互いにカバーし合える仕組み作りも大事ですね。
そうですね。1人のスタッフがクレームに対応している間は、他のスタッフが業務をカバーするなど、落ち着いてクレーム対応ができる環境をつくることも重要です。他の業務を気にしながら対応すれば、患者さんが「向き合ってくれていない」と不満を感じてしまい、さらなるクレームに発展してしまいます。クレームやトラブルが起こった場合は、その処理を最優先にすることをクリニック全体で認識しておくだけでも、変わってきます。
——サービスの質を高めるにはどうすればいいでしょうか?
品質を高めるには、当然ですがスタッフ個々の教育も大事です。先ほど品質の差が生じるのは良くないと話しましたが、スタッフごとに対応の差が生じるのは避けるべきです。あのスタッフはしっかりと聞いてくれるけどあの人は適当といった形で、対応に差が出るのもクレームのきっかけになります。
すべきことを明確にし、達成できているかを正しく評価する、この繰り返しで品質は向上していきます。院長は「なんとかしておいて」といった曖昧な指示は避けるべきです。スタッフはどうしていいか分からなくなってしまいます。もし、運営ノウハウ不足で、具体的にこの場合はこうするといったルールを作るのが難しい場合は、「とにかく何かあれば必ず報告してほしい」といった取り決めを設けるだけでも、対応は変わります。
——過去に起こったトラブルなど、実際のケースを振り返る時間をつくるのも有効でしょうか?
有効だと思います。開業段階では分からないことも多いと思いますが、スタートアップ研修や接遇研修を行う時点で院長先生とスタッフでしっかりと話し合い、実例を踏まえて緊急時のマニュアルを作るのもいいですね。医療コンサルやスタッフ教育に特化したサービスを利用して、体制を整えるのも有効ですから、ぜひ活用していただきたいです。
——最後にこれから開業する医師へメッセージをお願いします。
これから開業する皆さんは、ぜひ自分がどのような医療を提供したいのか、どんなクリニックにしたいのか、何を大切にするのかを言語化し、スタッフと共有してください。その気持ちが、患者対応の質の向上につながります。表面だけを取り繕うのではなく、中身のある接遇を心掛けてください。
——ありがとうございました。
クリニック受付でトラブルやクレームは日常的に起こるものですが、重要なのは「トラブルに対するスタッフの対応」とのこと。対応を誤ると大きな騒動に発展します。トラブルが大きくなるのを防ぐためにも、丁寧な対応を心掛けるのはもちろん、忙しい中でも真摯(しんし)に対応できる環境づくりや、何を優先するのかのマニュアルの作成が必要です。もちろん、スタッフ任せにせず院長自身も状況を把握し、環境づくりに参加することも重要です。健全なクリニック運営を実現するためにも、開業の際は「トラブル対応」という点にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
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この記事は、2023年2月時点の情報を元に作成しています。