クリニックをはじめとする医療機関には、随時、行政指導が実施されていますが、必要に応じて、集団的個別指導、個別指導が実施されることもあります。これを拒否した場合、または「要監査措置」を受けた場合、監査を受けることになります。その結果、保険指定の取り消しを受けることもありますが、そうなると5年間は再登録不可なので、取り消しにならないようにしっかりと対策をとっておくことが望ましいといえます。具体的にどんな対策が必要なのか、詳しくみていきましょう。
集団的個別指導とは?
集団的個別指導とは、医療機関を17の類型に区分して、その区分ごとに、1件当たりのレセプトの平均点を算出した結果、上位8%に該当する医療機関を対象におこなわれる指導のことです。
参照:一般社団法人 在宅医療事務協会「指導(個別指導・集団的個別指導・集団指導)
上位8%に当てはまらないよう、高得点になるのを防ぐには?
レセプトが高得点になるのを防ぐにはいくつか方法があります。
院外処方に変える
現状、院内処方であれば、高額薬品だけでも院外処方に変えることが望ましいです。
平均点が高い診療科で登録する
たとえば、内科も小児科も標榜している場合、小児科より内科のほうが平均点が高いため、「内科クリニック」として登録したほうが、上位8%に該当しづらくなります。
検査を減らす
レセプトの点数が高い検査を減らすことも、点数を下げることにつながります。ただし、当たり前ですが、患者にとって必要な検査は減らすことができません。
オンライン診療を導入する
オンライン診療は点数が低いため、オンライン診療の割合を増やすと全体の点数が低くなります。ただし、オンライン診療を増やしすぎると儲からないので注意が必要です。
月に2回以上受診する患者を少なくする
初診料が2回算定されるとそのぶん点数が高くなります。
個別指導とは?
個別指導とは、医療機関や保険医に、保険診療や診療費の請求を適切におこなってもらうことを目的に、厚生局が実施している指導です。健康保険法第73条、国民健康法第41条で、医療機関や保険医は個別指導を受ける義務があると定められています。
個別指導の対象となる4つのパターンとは?
個別指導は、全医療機関が受けるものではありません。対象となる医療機関は、以下の4つのパターンのいずれかに当てはまる医療機関です。
新規開業の医療機関
新規開業の医療機関に対しては、開業から約1年後に「新規個別指導」が実施されます。
診療報酬明細書の平均点数が2年連続で高い医療機関
診療報酬明細書の平均点数が高い医療機関には、まず「集団的個別指導」がおこなわれます。集団的個別指導が実施された医療機関が、翌年度も同様に平均点数が高かった場合、個別指導がおこなわれることになります。
患者や保険者から通報された医療機関
患者や保険者が、医療費の通知と窓口負担額が合わないことなどを不審に思い、厚生局に情報提供することがあります。その場合、不正請求の疑いがあるということになり、個別指導が実施されます。
1~3の個別指導から1年後の再指導
上記3パターンのいずれに当てはまる場合も、個別指導を受けた約1年後には、再度個別指導を受けることになります。
個別指導の結果は文書で郵送される
個別指導の結果は、約1か月後に文書郵送で伝えられます。結果は、以下の4パターンに分けられます。
1. 概ね妥当
特に問題点が見当たらなかった場合、この結果を持って指導が終了となります。
2. 経過観察
問題点があるものの軽微である場合、この結果を持って指導が終了となります。
3. 再指導
指摘された問題点が改善されているか、追って確認する必要があると判断された場合、「再指導」となります。「再指導」の結果を受けると、約1年後に再度個別指導を受けることになります。
4. 要監査
個別指導によって不正請求が明らかとなると、「要監査」となり、監査を受けることを求められます。監査後の措置は下記の3パターンあります。
1. 注意:一定期間内に再度個別指導を受けることになります。
2. 戒告:注意よりも重たい「厳重注意」の措置です。一定期間内に再度個別指導を受けることになります。
3. 取り消し処分:聴聞の後、保険指定が取り消されます。その後、5年間は再登録できません。
また、指導の結果によっては、改善報告書の提出や、診療報酬の自主返還を求められることもあります。この場合、結果の通知と一緒に「改善報告書」「自主返還についての同意書」が送られてくるので、速やかに従うことが必要です。
令和3年度に保険指定が取り消された医療機関は26件、保険医は16人
保険指定取り消しと聞くとかなり重たい処分に聞こえますし、「実際にそんな処分を受けることはあるの?」と思うかもしれません。しかし、厚生労働省の公表しているデータによると、令和3(2021)年度に保険指定が取り消された保険医療機関は26件、保険指定が取り消された保険医は16人存在します。ただし、保険医療機関26件のうち14件は歯科、4件は薬局で、残り8件が医科となります。また、保険医に関しては、13人が歯科で、残り3人が医科となっています。
また、同年度の個別指導の実施件数は1,050件、監査の実施件数は51件と公表されています。
参照:厚生労働省「令和3年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について」
どのような場合に監査で取り消し処分が科されるのか
続いては、どのような場合に保険指定が取り消されるのかをみていきます。
架空請求
実際には診療をおこなっていないのに請求書を発行した場合、架空請求とみなされます
二重請求
自費診療の診療費を患者から受領しているにもかかわらず、保険でも診療報酬を請求した場合、二重請求に該当します。
付増(つけまし)請求
診療回数や診療日数、内容などが、実際よりも多く請求されていると、付増(つけまし)請求ということになります。
振替請求
保険診療の内容を、実際の診療よりも保険点数の高い診療内容に振り替えて請求することを意味します。
取り消し処分を回避するためにはどうすればいい?
上記4つのいずれかだとみなされると、保険指定取り消し処分となる可能性が非常に高いといえます。では、それを回避するためにはどうすればいいかというと、請求の内容や金額などが合っているかを念入りに確認することです。架空請求とみなされることを回避するためには、経理・事務・診療それぞれの記録を照合することが有効ですが、一つひとつ順番に確認していくと時間がかかりすぎるので、電子カルテを導入することで一元管理するのが望ましいでしょう。
二重請求に関しては、先に自費診療で請求しているため、支払い記録とレセプトを照合することで間違いが見付かりやすくなりますが、こちらに関しても、電子カルテを導入すればより効率的に確認作業できます。付増請求、振替請求に関しても、レセプトとカルテの照合をぬかりなくおこなうことが重要なので、レセコン一体型のシステムを導入するか、または電子カルテとレセコンを連携させることで、スムーズに確認作業できる環境を整えましょう。
個別指導で注意すべきこと
続いては、個別指導を受けるにあたっての注意点を説明していきます。
個別指導を拒否しない
まず覚えておくべきことは、個別指導を拒否してはならないということです。個別指導を拒否した場合、監査がおこなわれることになっているので、万が一問題点が見付かった場合の改善のチャンスが少なくなります。
指定された持ち物を忘れずに持参する
個別指導の持参物として指定されたものは、必ず持参することが必要です。もしも持参することを忘れた場合、個別指導がやりなおしとなる場合があります。電子カルテのデータに関しては、プリントアウトして持参することが原則なので、当日、用意ができていなくて焦ることがないよう、事前に準備しておくことが望ましいでしょう。
個別指導が決まった後、診療録に追記しない
個別指導が決まった後に診療録に足りない点が見付かったとしても、追記は避けるべきです。なぜなら、診療録の改ざんに値するからです。
間違いが見付かった場合は素直に認める
個別指導で間違いや不備を指摘されて、その指摘が正しかった場合は、素直に認めて改善の意思を示すことがとても大切です。間違いを認めなかった場合、再指導の必要があるとみなされるので、余計に時間を食われてしまいます。
ちなみに、個別指導を通して、不備や間違いが見つからずに指摘されないということはほとんどありません。間違いを最小限にするために電子カルテを導入して万全な体制を整えていたとしても、「合っている」との思い込みによってミスがミスのままになっていることもあり得ます。そう考えると、個別指導は、知識を刷新できるチャンスともとらえることができます。
間違いや不備を指摘されたときに感情的にならない
データ確認に時間をかけて一生懸命準備してきたのに間違いや不備を指摘されたら、「なんでそんなに細かいことまで言われないといけないの!」と感情的になってしまうことがあるかもしれません。しかし、そのような態度をとると、「問題を改善しようとする意識が低い」とみなされ、場合によっては再指導を通告されます。指導する側も人間なので、どうしても相性がよくなくて感情を露わにしたくなることもあるとは思いますが、余計なゴタゴタを避けるためにも素直に従うことがもっとも賢いといえます。ただし、厚生局の指導内容が100%正しいとは限らないので、先方に間違いがある場合は、抗議することが必要です。
故意に不正請求していない場合はそのことを伝える
架空請求、二重請求、付増請求、振替請求が見付かった場合、不正請求の意図があったのかどうか尋ねられる場合があります。間違いや不備によってこの4パターンのいずれかになっている場合と、不正請求の意図があった場合とではわけが違います。不正請求の意図がなかった場合は、そのことをしっかり伝えなければ、監査を受けることになるので十分注意することが必要です。
個別指導は弁護士に立ち会ってもらってもOK!
個別指導を受けることに対して不安な気持ちをぬぐえないなら、弁護士に立ち会ってもらうといいでしょう。前述の通り、個別指導においては、厚生局の指導した内容が間違っている場合もあり得ます。もしそうであったとしても、ひとりだとどう抗議すればいいかわからないということもあるでしょう。しかし、信頼できる弁護士に立ち会ってもらえば、根拠なく保険料の自主返還を要求されるリスクなどを避けることができます。また、弁護士が立ち会っていることで、厚生局の担当者が威圧的な態度をとることも少なくなるでしょう。どんな弁護士に頼めばいいのかわからない場合は、ぜひ開業ナビにもお気軽にご相談くださいね。
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この記事は、2023年4月時点の情報を元に作成しています。