2021年(令和3年)10月から、マイナンバーカードと一体化した保険証の運用が開始されました。
従来の健康保険証の機能をマイナンバーカードに組み込んだマイナ保険証には様々なメリットはあるものの、実際の現場からは一体化廃止の声が上がるなど、クリニックなどの医療現場では混乱も起きているようです。
この記事では、そうしたマイナ保険証をめぐるトラブルの実例と共に、それらに対する対策をいくつかまとめました。
なぜマイナ保険証は導入されたのか?
日本におけるマイナンバー制度は、2015年1月から開始されました。これは、一人ひとりに割り当てられた固有の12桁の番号をもとに国民を判別し、行政サービスの効率化や社会保障制度の改革を促進することを目的として導入されたものです。
このマイナンバー制度の利用範囲を拡大するために、2022年1月からは、健康保険証とマイナンバーカードを一体化することが義務付けられました。これにより、
医療機関などでの本人確認がより簡便になるとともに、医療費の精算手続きもスムーズに行えるようになることが期待されています。
例えば、体調が悪くなった際には、一般的には症状に合わせて複数の医療機関にかかりますが、これまでは医療機関の間で、患者の医療情報を共有する仕組みはありませんでした。
医療機関で患者の医療情報を把握する負担が生じ、重複した投薬や検査が発生するといったミスもありました。
マイナ保険証の導入により、医療機関の垣根を越えて個人個人の医療情報を管理でき、こうしたミスも防げるため、国民へのより適切な医療の提供を目的としたマイナ保険証の導入が進められてきました。※現在のマイナ保険証の普及率は、全体の約4%となっています。
しかし、その一方でデメリットも存在することが指摘されています。
マイナ保険証導入のデメリット~現場で起きるトラブル~
先日からなにかとニュースになっているマイナ保険証ですが、報じられているニュースとはまた別に、現在はまだ運用面でのトラブルも多いようです。
例えば、マイナ保険証でオンライン資格確認を行うための設備投資についてです。
一部「IT補助金」などの補助金制度も利用できますが、費用負担やセキュリティ対策の対応が困難になり、義務化によって閉院した医療機関、閉院せざるをえない医療機関も少なくないようです。
それだけでなく、無事にマイナ保険証によるオンライン資格確認システムの導入を完了し、運用を開始した医療機関にとっても、
- 「マイナカード利用に不慣れな患者への窓口対応の増加」
- 「マイナカードの携帯・持参が困難な患者(単身高齢者など)への対応の難しさ」
- 「システム不具合時の診療継続困難」
- 「個人情報の流出の心配」
- 「これまでの保険証への対応が重なることによる手間」
などの不満が上がっています。こうした状況に陥っている背景には、
- システムの不備とそれに伴う人為的ミス
- 患者、医療機関への説明の不足
などが挙げられます。
前者は担当機関に改善してもらうほかありませんが、後者であれば、クリニックなどの医療機関でも改善できる点はいくつかあります。以下では、HPでの対策と院内での対策に分けて、その方法をご紹介します。
マイナ保険証でのオンライン資格確認・トラブル対策
【HPでの対策】マイナ保険証のFAQを目立つ場所に掲載する
現在では、新規の場合は(地域にもよりますが)ネット検索を経由した来院となるケースが多いです。
そこで、必然的に自院のHPが閲覧される場面も多くなるかと思います。
検索を通していなくても、わざわざクリニックのHPを見ている以上、来院する可能性は高いと言えるでしょう。
そんな見込み患者様に対して、マイナ保険証にありがちな疑問に対する答えを「マイナ保険証のよくある質問(Q&A)」として掲載しておくだけでも、信頼性は上がるはず。具体的には、以下のような文言です。
■Q.マイナンバーカードは、持っているだけで保険証になるの?
A.マイナ保険証を利用するには「事前登録」が必要です。
マイナポータルサイトかセブン銀行ATMで、保険証として利用するための事前登録を行ってください。事前登録について詳しくはこちら。
■Q.マイナ保険証は受付に出せばいいの?
A. マイナ保険証は健康保険証とは違い、受付ではなくカードリーダーに置いて認証してください。受付登録は、タッチパネルで行ってください。スタッフが代理で操作することはできません。
「よくある質問」の内容は、クリニックによっても少しずつ違ってくるものかと思います。基本的なところはマイナポータルWebサイトや他のクリニックを参考にするなどして、自院に合った内容を掲載しましょう。
また、小児科などではカードリーダーの顔認証が効かない例もあるようです(お子さんの成長は早いですからね)ので、該当するクリニックの場合は、そのあたりも注意書きをしておくとよさそうです。
【院内での対策】院内掲示の充実
マイナ保険証の利用に当たって、とくに高齢の患者さんに多いのが「(カードリーダーなどの)機械の取り扱いがわからない」というもの。
自院のHPに「よくある質問」として「マイナ保険証の申請→使用まで」の流れをまとめつつ、院内では、実際の受付の流れや機械の操作方法について図を用いて解説する掲示を行うと、少しは改善できるかもしれません。
操作手順を段階に分けて、実際にその操作を行っている写真を付ければ、はじめての作業でも1人で完了できるのではないでしょうか。
慣れるまでは多少時間はかかるかもしれませんが、一度覚えてしまえば後はスムーズになるはずです。
マイナ保険証の今後について
総務省の公表しているデータによると、マイナンバーカードの普及率は2023年(令和5年)5月時点でおよそ76.8%です。国民の8割弱がマイナンバーカードを保有している現状です。
厚生労働省の発表によると、マイナンバーカードの申請が済んでいる人は2023年(令和5年)4月時点で96,622,275件で、マイナ保険証の登録を完了している人は国民の2割強でした。
なお、マイナ保険証を利用するには、マイナンバーカードが必要になります。マイナンバーカードの交付を受けていない人が多いことも、マイナ保険証の普及が進まない理由にあるのは確かですね。
とはいえ、国は現行の保険証を原則2024年秋までに廃止し、マイナ保険証に一本化する方針を打ち出しています(発行済みの従来の健康保険証も、有効期限までは利用可)。
こうした状況から、マイナ保険証をめぐるニュースなどの影響もしばらくはあるかと思います。今後も、あらゆるトラブルを防ぐための対策が必要と言えそうです。
この記事は、2023年6月時点の情報を元に作成しています。