医療機関が知っておくべき「BCP」とは? 重要性と課題を解説 

企業のリスクマネジメントに不可欠とされる「BCP(事業継続計画)」を策定する「BCP対策」は、医療機関にとっても大切です。具体的に何を決めておけばいいのか、万が一のときのために今から準備しておくべきことはあるのかなど、詳しく解説していきます。

目次
  1. BCP対策の重要性
    1. BCPの基本とは
    2. BCP対策におけるトレンドは?
      1. 従業員の安否確認の手段 としてSNSを活用
      2. オンライン診療の体制確立
      3. BIA(Business Impact Analysis、事業インパクト分析)の実施
  2. BCP対策はなぜ医療機関で必要なのか?
    1. 被災者への迅速な対応
    2. 医療施設のインフラ整備
      1. 耐震性の向上
      2. ライフラインの確保
      3. 通信環境の整備
        1. ライフラインの復旧計画
        2. スタッフの緊急対応、緊急時の指揮系統確立
    3. 緊急時の業務優先順位設定
    4. BCP策定済み医療機関の課題と解決策
      1. 負担の軽減
      2. 意識の向上
  3. 電子カルテとBCPの連携
    1. BCP対策視点で見る、オンプレミス型電子カルテの特徴
    2. BCP対策で見る、クラウド型電子カルテの特徴
      1. 避難所での利用も可能な電子カルテの例
  4. BCP対策とも関係が深い医療DXとは?
  5. 電子カルテの導入も大切な準備のひとつ

BCP対策の重要性

BCPとは、“Business Continuity Plan”の頭文字を並べた言葉で、日本語にすると「事業継続計画」となります。企業が、テロや自然災害、システム障害 などの危機的状況に置かれた場合において、事業資産の損害を最小限にとどめながら、事業継続または早期復旧するための計画を意味します。

BCPを策定するうえでは、“緊急事態下で事業を継続する方法”だけでなく、“万が一の事態に備えて平常時からおこなっておくこと”も決めることが大切です。

なぜかというと、テロや自然災害、システム障害などの緊急事態は突然発生するものなので、平常時から対策を取っておかなければ、どのような行動をとればいいかがわからず、有効な手を打つことができないからです。その結果として廃業に追い込まれる恐れがあるだけでなく、医療機関の場合、患者の生死に関わる事態に発展することもあります。

参照:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針~緊急事態を生き抜くために~」

※なお、システム障害やサイバー攻撃などが原因の緊急事態に備えた事業計画は、「IT-BCP」として近年注目されています。

また、これらの事象が発生した場合の対策をとっておかなければどうなるかというと、たとえば大型地震や台風の直撃によって建物が被災したり、電気の復旧までに時間がかかったりした場合、入院中の患者の転院先を慌てて探したり、被災した人が来院した際に電子カルテの代わりに診療録をつけられるものを急いで用意したりしなければならなくなります。電子カルテがランサムウェアからの攻撃を受けるなどのシステムに関することであれば、大切な患者の情報が盗まれる可能性なども考えられます。

具体例として、東日本大震災が発生した際には、建物が倒壊した病院に入院中の患者は転院を余儀なくさせられましたが、その際、全患者の転院に1週間以上を要した病院もあります。また、被災によって患者の入院部屋変更が重なったことで、そのことを把握できなかった勤務交代後の看護師が、既に服用させた薬を重複して服薬させてしまう事例なども報告されています。
IT-BCPが不十分だった例としては、ランサムウェアの被害に遭った病院が、初動から全面復旧までに2か月かかったことが話題になったことなどが挙げられます。

BCPの基本とは

BCP対策の基本は、以下の5点です。

①優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する
②緊急時における中核事業の目標復旧時間を定めておく
③緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客(患者)と予め協議しておく
④事業拠点や生産設備、仕入品調達などの代替策を用意しておく
⑤すべての従業員と事業継続についてコニュニケーションを図っておく

これを医療機関に当てはめて考えると、③に関しては、緊急事態発生時にはどのような医療体制をとることができるのかを、院内掲示物やホームページなどに掲げておくことなどが考えられますし、④に関しては、自院の建物に影響が出た場合に、入院患者が転院できる病院を決めておくことなどが考えられます。

参照:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針~緊急事態を生き抜くために~」

BCP対策におけるトレンドは?

BCP対策の基本は前述の通りですが、最近では、以下についても考えておくことが大切とされています。

従業員の安否確認の手段 としてSNSを活用

医療機関が緊急時に運営を続けるためには、医療従事者であるスタッフらの力が不可欠です。そのため、万が一のときに従業員にスピーディに連絡をとって安否を確認するための方法を考えておくことが大切です。連絡をとる手段としては、電話、メール、LINE、各種SNSのDMのほか、災害用伝言ダイヤルなどの無料安否確認ツール、民間企業が提供している有料の安否確認システムなどがあります。

これらのどの連絡方法を使うとしても、相手の連絡先がわからなければ連絡をとることができません。最低限、スタッフの電話番号やメールアドレスは把握していたとしても、スマホに電話番号を登録していなければすぐに連絡をとれないということもあり得ます。また、クリニックは各スタッフの連絡先を把握していても、従業員同士つながっていなければお互いに安否を確認しあうことはできないので、「プライベートでは関わりたくないから」とLINEなどは交換していないとしても、万が一のときにはなんらかの手段で連絡をとれるようにしておくことが大切です。

オンライン診療の体制確立

一般企業の場合、各社員がリモートで仕事して緊急時を乗り切ることができます。一方、医療機関ではリモートワークでいつも通りの診療を提供するというわけにはいきませんが、オンライン診療や在宅医療の体制を整えておけば、万が一のときにも、最低限の医療を提供できます。そのため、基本的にはオンライン診療をおこなうことはないクリニックでも、やりかたを把握してデモで訓練しておくことなどは大切だといえるでしょう。

BIA(Business Impact Analysis、事業インパクト分析)の実施

災害による被害について分析する「BIA」を実施すると、BCP対策の精度が高まります。BIAを実施するにあたっては、「MTPD(Maximum Tolerable Period of Disruption、最大許容停止時間)」「RTO(Recovery Time Objective、目標復旧時間)」「RLO(Recovery Level Objective、目標復旧レベル)」を決めることが大事です。

「MTPD」とは、事業が中断してから最大限に許容できる業務中断の最長時間を表す指標で、これを超えると事業の存続が不可能になる最大限の時間のこと。「RTO」とは、災害などで事業が中断した場合、いつまでに復旧させるかを示した目標の時間を表す指標のこと。「RLO」とは、災害などで事業が中断した場合に、RTO内にどの程度まで復旧させるかという目標となる水準です。なぜこれらを具体的に定めるBIAを実施することが大切かというと、MTPDの説明でも述べた通り、いつまでも業務を再開できないと組織の存続が難しくなるためです。たとえば医療機関の場合、災害によって自院が損害を受け、患者に転院してもらった結果、患者が自院に戻ってこないことなどもその理由のひとつと考えられます。

BCP対策はなぜ医療機関で必要なのか?

医療機関におけるBCP対策は、民間企業のBCP対策とは異なる部分があることから、“Medical Continuity Plan”(医療継続計画)の頭文字をとって「MCP」と呼ばれることがあります。具体的にどのような点が異なるかというと、自院のみが損害を被る「IT-BCP」などを除き、災害によって負傷した人々に対応するために、平時よりも医療需要が高まります。また、電力などのインフラに影響が出ているなかでも、医療を提供し続けなければならないため、平常時から準備しておくべきことにも大きな違いがあります。

被災者への迅速な対応

前述の通り、医療機関ならではの課題としてまず考えられることは、災害によって大勢が負傷した場合、どのように処置や治療に当たるかということです。医療を必要とする人数が一気に増える可能性が高いうえ、自院の診療科目の範疇ではない処置をおこなわなければならないこともあるでしょう。

医療施設のインフラ整備

医療施設のインフラは、前述の電力以外にもいろいろあります。医療サービスを提供するための基盤や設備、システムのすべてが「医療インフラ」 だという考えのもと、建物、電力、スタッフ、医療データ、各種医療機器にいたるまでの整備を考える必要があります。

耐震性の向上

医療機関の耐震診断・耐震改修は、以前は努力義務とされていましたが、2013年に耐震改修促進法が改正されたことにより、1981年5月31日以前に新築工事に着手した建物である場合、耐震診断の実施と結果の報告が義務付けられることとなりました 。

また、これに該当しない場合でも、患者に安全な環境や最新の医療を提供するためには、30~40年を目安に建て替えることが望ましいとされています。しかし現実的には、建て替えをおこなうために休業することは難しいため、建物の老朽化が進んでいる場合は、仮設病棟を用意するか別の土地を確保するかして新しい病棟を建てなければならない場合もあるでしょう 。

ライフラインの確保

医療機関のライフラインには、電気、ガス、水道のほかに、医療資機材や食料も含まれます 。これらすべてについて、災害時でも必要量をまかなえるよう備えておくことが大切です。そのためには、たとえば以下のような方法が有効です。

  • 自家発電機を設置しておく
  • 災害時用の食料品を備蓄しておく
  • (規模の大きい病院の場合)ヘリコプターの離着陸場を備えておく
  • 医療資機材を格納している棚などに耐震グッズを取り付ける
  • (規模の大きな病院の場合)地下水飲料化システムを備えておく
  • 通信環境の整備

    災害時に情報共有をおこなう通信インフラとしては、衛星回線インターネット や業務用IP無線システム が有効です。

    ライフラインの復旧計画

    ライフラインの復旧計画に関しては、BCP策定の際、政府や自治体が発表している、ライフライン復旧までに要する日数も考慮する必要があります。たとえば、内閣府が公表している首都直下地震等による東京の被害想定に関しては、電気で6日、上水道で30日、都市ガスで55日とされています 。ただし、小さな診療所ではなく大病院の場合、優先的にライフラインが復旧されることになっています。

    スタッフの緊急対応、緊急時の指揮系統確立

    前述の通り、災害時にはどこの医療機関でも医療ニーズが増えるため、医療従事者らは緊急対応する必要があります。しかし、医療従事者自身が被災する可能性もあるため、メンバーが欠けている場合の指揮命令系統について考えておくことが不可欠です。

    自己判断の範囲の明確化

    スタッフの対応についてもうひとつ決めておくべきことは、「自己判断の範囲」です。緊急時には、医師の判断を待っていたら間に合わないことも考えられます。また、医師が不在のまま、医療を提供し続けなければならない可能性も十分考えられます。そのため、予め、自己判断の範囲を明確化しておかなければ、「責任問題になったら困るから」と看護師が患者に適切な処置をおこなえないこともあり得ます。

    緊急時の業務優先順位設定

    先に述べた通り、BCP策定にあたっては、業務優先順位を設定することが非常に大切です。たとえば、「電気は何への使用を優先するか」。入院患者がいる場合は、ICUなどの生命維持装置になりますが、それ以外の電子カルテサーバーや放射線機材はどうするのか、エレベーターは動かすのかなども考えておくことが大事です。また、水に関しては、患者の飲料水を優先するのか透析用なのかトイレなのかを考えると同時に、簡易トイレの用意にも手を回しておくことが必要でしょう 。

    BCP策定済み医療機関の課題と解決策

    続いては、既にBCP対策を講じている医療機関の課題およびその解決策を考えていきましょう。

    負担の軽減

    BCP対策を講じるうえでは、まず、「どういう行動をとるのが患者にとってベストであるのか」を考えるため、その施策を実践するためにいくらかかるのかを考えるのは後回しになります。結果、たとえば建物の建て替えなど、実際に対策をとるためには膨大なお金がかかるということがあり得ますが、その場合、まずは補助金を活用することを考えましょう。

    BCP策定に活用できる補助金はいくつかありますが、たとえば東京都なら、東京都中小企業振興公社が主催している「BCP実践促進助成金」を活用できます。

    参照:公益財団法人「東京都中小企業振興公社」BCP実践促進助成金

    ※現在、第2回の申請エントリー・受付は終了していますが、令和7年1月8日より、第3回の申請エントリー・受付が開始される予定です

    意識の向上

    BCP対策が万全であっても、スタッフの意識が追い付いていなければ、いざ、対策を講じたことを実践するタイミングが訪れても、その通りに実践できないことがあります。そのため、スタッフの意識を向上させるための施策を講じることは大変重要です。具体的には、社内報、 もしくはChatworkなどのツールを通じて、全員に危機管理意識を高めてもらうことが大切です。

    電子カルテとBCPの連携

    続いては、電子カルテはBCP対策とどのように紐づけて考えることができるかをみていきましょう。

    BCP対策視点で見る、オンプレミス型電子カルテの特徴

    オンプレミス型電子カルテのよいところは、災害時に通信が可能だということです。院内サーバーを活用しているため、災害時でも通信可能で、建物の損壊などの物理的な被害を受けていなければ、通常通りクリニックを運営して電子カルテに入力することができます。

    デメリットとしては、災害によるデータ損失のリスクが高いことが挙げられます。浸水や火災などで建物が被害を受けた場合、院内サーバーもろともやられてしまうため、データ損失のリスクが高いといえます。サーバーが院内にあるため、災害によって損害を被ると、サーバーにアクセスすること自体難しくなります。

    BCP対策で見る、クラウド型電子カルテの特徴

    クラウド型電子カルテは、オンプレミス型電子カルテとは異なり、災害時に通信が不可能になります。事業者のサーバーを使うクラウド型電子カルテの場合、災害時にインターネットに接続できなくなると、電子カルテにもアクセスすることができないのです。

    一方、クラウド型電子カルテは、基本的にインターネット回線に接続できさえすれば、院内からでも院外からでもアクセスできるので、災害時であっても、インターネット回線が通っているところまで移動すれば接続できるメリットがあります。

    避難所にインターネット回線があれば、避難所での診療時にも電子カルテを活用できます。

    避難所での利用も可能な電子カルテの例

    株式会社DONUTSが提供しているクラウド型電子カルテ「CLIUS」をはじめ、クラウド型電子カルテであれてば、インターネット回線が通っている避難所で使用することができます。

    BCP対策とも関係が深い医療DXとは?

    厚生労働省は、保健・医療・介護の各段階において発生する情報やデータ保存の(クラウド事業者のサーバーなどの)外部化・共通化・標準化を目指す「医療DX」を推進しています。データを安全に取り扱い、必要に応じて外部機関や行政と共有するためには、セキュリティ対策も強化する必要がありますが、これらはすべて、医療DXの促進となると同時にBCP対策にもなるので、早い段階で積極的に準備を進めておくことが大切です。

    電子カルテの導入も大切な準備のひとつ

    テロや自然災害によってクリニックの建物自体がダメージを負う可能性を考えると、紙カルテから電子カルテに切り替えておくことの大切さがわかるでしょう。ただし、システム障害などによってインターネット接続ができなくなると、電子カルテしかないと診療が滞ってしまうので、万が一のときには紙カルテで対応できるよう、紙カルテ用の用紙も一定量は準備しておくことが大切です。また、災害発生時に電子カルテのデータを守るために、ローカルではなくクラウドに保存する方法を考えることもとても大切。クラウド型電子カルテを使っている場合、この点に関してははじめからクリアされていますが、オンプレミス型電子カルテを使っている場合は、別途、大事なデータをクラウドに保存する方法を考えてみてもいいかもしれませんね。

    Mac・Windows・iPadで自由に操作、マニュア ルいらずで最短クリック数で診療効率アップ

    特徴

    1.使いやすさを追求したUI・UX ・ゲーム事業で培って来た視認性・操作性を追求したシンプルな画面設計 ・必要な情報のみ瞬時に呼び出すことが出来るため、診療中のストレスを軽減 2.診療中の工数削減 ・AIによる自動学習機能、セット作成機能、クイック登録機能等 ・カルテ入力時間の大幅削減による患者様と向き合う時間を増加 3.予約機能・グループ医院管理機能による経営サポート ・電子カルテ内の予約システムとの連動、グループ医院管理機能を活用することにより経営サポート実現 ・さらにオンライン診療の搭載による効率的・効果的な診療体制実現

    対象規模

    無床クリニック向け 在宅向け

    オプション機能

    オンライン診療 予約システム モバイル端末 タブレット対応 WEB予約

    提供形態

    サービス クラウド SaaS 分離型

    診療科目

    内科、精神科、神経科、神経内科、呼吸器科、消化器科、、循環器科、小児科、外科、整形外科、形成外科、美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管科、小児外科、皮膚泌尿器科、皮膚科、泌尿器科、性病科、肛門科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、気管食道科、放射線科、麻酔科、心療内科、アレルギー科、リウマチ科、リハビリテーション科、、、、