クリニックを開業すると、ただの「医師」ではなく、「経営者」や「個人事業主」といった肩書も持つこととなります。
そこで大事になってくるのが「お金の話」です。
今回はクリニック開業、さらに運営や経営に関わる「お金の話」のうち、「必要経費」についてご紹介します。
クリニックの「必要経費」とは?
必要経費とは、簡単に言うと「所得を得るために必要になったお金」のことを指します。
必要経費として扱えるのは、総収入金額に対応する売上原価(収入を得るために必要だった原価)、その他収入を得るために直接必要になった費用、その年に生じた販売費、一般管理費など業務上の費用が該当し、クリニックの場合は、薬剤費やスタッフの給与、リース料などが当てはまります。
収入から必要経費を差し引いて残った金額が「所得」となるため、何が必要経費として計上できるのかを把握しておくと、クリニックの事業所得の計算が楽になります。
クリニック開業医などの個人事業主が納める所得税などは、事業の利益(所得)に対してかかるため、利益が減れば税金も減ります。
かなりざっくりした説明をすると「必要なモノを買って、その分の税金は払わなくて良くなる」…つまり節税ができる、というわけです。
しかし、あくまでも「事業に必要なモノ」でなければ、必要経費としては認められず、税金もかかってきます。
そこで、「必要なモノでした」と税務署などに認めてもらうには、その時期ごとにかかった費用を、領収書などもとにまとめて「経費精算」を行う必要があります。ただ、数が多かったり、定期購入などで毎月同じものを買っている場合(クリニックの場合、待合室のウォーターサーバーの水代など)には、毎回同じ作業を行わなければなりません。
そうした負担は、とくにクリニックを開業したばかりの医師にとっては大きなものかと思います。
その負担を軽減するのが、次にご紹介する「概算経費」という考え方です。
概算経費について
「概算経費」とは、租税特別措置法第26条(参照・引用元:『e-GOV』「租税特別措置法)に定められている、医師または歯科を営業する個人事業主が経費計算の事務作業に煩わされないようにと導入されている経費の計算方法です。
例えば、クリニックの待合用に毎月購入している雑誌代などを計算する場合、毎月のレシートを集めて集計する作業が発生します。これを逐一行うと時間がいくらあっても足りず本業に影響しかねません。
そこで「売上の○パーセントを経費とする」という仕組みを設け、そのような作業を行わなくてもよいようにした、というわけです。
概算経費が適用できるのは、その年の社会保険診療報酬が5,000万円以下の場合と、医業(及び歯科医業)の収入金額、つまり社会保険診療と自由診療の合計額が7,000万円を超えない場合のみとなります。
社会保険診療報酬の額に応じた概算経費の割合については、以下の速算表を参考にしてください。
※年間の社会保険診療報酬=A
年間の社会保険診療報酬(A) | 概算経費 |
2,500万円以下 | A×72% |
2,500万円超 3,000万円以下 | A×70%+50万円 |
3,000万円超 4,000万円以下 | A×62%+290万円 |
4,000万円超 5,000万円以下 | A×57%+490万円 |
上記の速算表をもとに、以下に例を出してみます。
(他に収入がなく)社会保険診療報酬が3,000万円で実際の経費が1,500万円だった場合で計算すると、実経費では、売上3,000万円 - 実経費1,500万円 = 1,500万円 となり、1,500万円が所得となってこれに税金が掛かります。
しかし、概算経費で計算すると、売上3,000万円 × 70% + 290万円 = 2,390万円 ですので、3,000万円 - 2,390万円 = 610万円 となり、税金は610万円分のみでよくなるため、実に890万円分もお得です。
このことからも、クリニックを立ち上げたばかりの頃や、まだ売り上げがそこまで大きくない時期に利用しやすい制度であると言えるでしょう。
クリニックで必要経費に計上できるもの一覧
それでは改めて、クリニックでの必要経費にはどんなものがあるのか?をご紹介します。
材料費
注射器などの医療材料費、血液検査などで使用する試薬費や医薬品費などを指します。
人件費
スタッフの給料や社会保険料など、人にかかわるお金。クリニックの経費のなかでは大きな割合を占めています。
福利厚生費
歓送迎会の会費など、スタッフへの福利厚生に関する費用。健康診断を行った場合の減免額やなどの事業主負担も含まれます。
設備費
クリニックの土地代や建物代、家賃、水道光熱費、リース料など、クリニックの設備にかかわるものがこれに当たります。
交際費
ほかのクリニックの先生との食事代や、他のクリニックの先生方にあてた手土産やお中元、お歳暮などがあれば、交際費として計上可能。税務調査でチェックされることが多いため、領収書には、
- 誰との食事なのか
- 人数
- 相手の会社名、住所
- 会った理由など
などをメモしておくことが重要です。
出張費
学会参加のための費用は、出張費として計上可能。新幹線代や飛行機代、宿泊が伴うのであればホテル代などが当たります。
会議費
ミーティングに関わる経費は会議費として計上可能。貸し会議室の使用料や、お茶、コーヒー、お菓子、軽食、資料代などもその中に含まれます。
ただし、夜に営業するスナック、バーなど、アルコールを提供している店は認められません(場合によってはレストランなども対象になるケースも)。
その他、必要経費として計上できる可能性があるもの
家事関連費として経費計上可能なものの例を、いくつかご紹介します。
車・ガソリン代
プライベートで購入した車を、そのままクリニックの業務(訪問診療など)でも使いたいと考えるケースもあるでしょう。
その場合、「家事関連費」として、支出の額をプライベートと事業との2つに分け、事業に関連する費用だけを経費にできます。
テレビなどの家電製品
待合室のテレビ、スタッフルームの電子レンジなども、事業に関連するものとして経費計上が可能です。
必要経費として認められないケース
では反対に、必要経費として認められないケースにはどんなものがあるのかについても、いくつか例を挙げてご紹介します。
ケース1.家族をアルバイトとして雇った場合の給与
ご自身のご家族を一時的にアルバイトとして雇ったりするケースも珍しくはありません。
この際、そのご家族に支払う給与を経費として計上したい先生方もいらっしゃるようですが、こちらは認められませんので注意しましょう。
所得税法では事業主の「事業に専従」する家族従業員については一定の条件のもとに必要経費(青色専従者給与または専従者控除)に算入することを認めていますが、このケースでは「事業に専従」には該当せず、したがってご家族に支払ったアルバイト料は必要経費とすることはできません。
ケース2.クリニックに勤務する家族との出張
先ほど、「計上できるもの一覧」の項にて、「出張費」は必要経費として計上できる、とお伝えしました。
しかし、これには例外があり、たとえばクリニックの従業員として働いているご家族を一緒に連れて行った場合などには、「私的な家族旅行」として認識され、そのご家族の分の費用は経費として認められないケースがあります。
こちらは、専従者であっても、アルバイトであっても変わりません。
必要経費の算入時期
必要経費にできるのは、「その年に債務(特定の人に対して金銭を払ったり物を渡したりすべき法律上の義務)が確定した金額」となっています。
具体的には、以下の3つの条件があります。
- その年の12月31日までに債務が成立している
- その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生している
- その年の12月31日までに金額が合理的に算定できる
※減価償却費など、債務の確定によらないケースもあるため注意が必要です。
必要経費の割合
必要経費の割合については、厚労省によると、一般診療所の場合、およそ4割弱(37.5%)が経費の割合として適正な値となっているようです。
参考: 厚生労働省/医療機関等の課税経費率推移 (平成24年度~28年度)
必要経費を正しく理解しよう
クリニックで必要とする経費を増やすことで節税は可能ですが、それは同時に、事業の所得、ひいては自らの手取り額を減らす……という方法でもあります。
ただその面だけを見ると損した気持ちになるかもしれませんが、結局は「事業に必要なモノ」を買ったり使ったりした代金ですし、中には、自宅で使用するPCやデスクが経費として認められる場合もあります。
必要経費については正しく理解して、違反なく、収入とのバランスを見ながら、クリニックの運営・経営の助けにしていきましょう。
税金のことや、節税、クリニックの資金繰りについて詳しく知りたい方は、以下でいくつかの税理士事務所をご紹介していますので、お問い合わせください。
特徴
対応業務
その他の業務
診療科目
特徴
対応業務
その他特徴
診療科目
特徴
その他特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2023年7月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
他の関連記事はこちら