これからクリニックの開業を検討されている医師はもちろんのこと、すでに開業している医師の方も、人口動態の変化、競合の激増などのため、患者数が減少したり、売上が減少傾向に入ったり、新患がいなかったりなど、色々な環境変化に直面します。
その時に頼りになるのが、経営を数値で分析することです。数値という指標で、過去、現状、そして他のクリニックとの比較を通じて、自院を客観的に評価し、見直しをすることができるのです。
そこで、今回はクリニック経営を数値という側面で分析し、ここだけは絶対に抑えておきたいポイントを解説します。
クリニックのコスト管理では「対比売上比率」が重要
同一業界で安定した利益を出すためには、共通の業界売上比率や粗利益分配率があり、それから大きく外れると、経営が不安定になり、赤字転落することになります。
また、このことはクリニックだけではなく、すべての経営に共通するもので、安定的な利益を持続的に出すためには、売上に対するコストの比率を管理することが、経営の基本中の基本となります。
売上は自分の力だけでは簡単にコントロールできない変数となりますが、コストはある程度コントロールが可能であるため、適正比率をまず知った上で、それに近づける努力をしていきます。
また粗利益に対するコストの配分の考えもよく使います(粗利分配率)が、今回は売上比率で説明をしていきます。
クリニックの平均売上、対売上比率
統計庁が表している医療経済実態調査(2019年)の個人診診療所(入院のない外来のみの売上)売上を見ると、1施設当たり78,012千円/年となっており、1施設当たりの平均売上は650万円/月となっています。
※入院のない個人経営の診療所が対象です。
※新型コロナウイルス感染拡大の影響のため2020年以降は異常値があるため、2019年の数値を使っています。
売上に対するコスト比率については、以下の図の売上比率の右側の空欄に自院の比率を記載し、どのくらい乖離があるかを確認してみましょう。
医療経済実態調査」2019(千円) | 医業経営指標 | 自院の比率 | |
売上 | 78,012 | 100% | |
保険診療 | 66,778 | 85.6% | |
介護保険 | 390 | 0.5% | |
自由診療 | 10,844 | 13.9% | |
材料費率 | 12,357 | 17.6% | |
検査委託費率 | 2,225 | 2.9 | |
限界利益 | 63,430 | 79.5% | |
損益分岐点比率 | 48,259 | 61.9% | |
人件費 | 21,976 | 28.2% | |
その他の経費 | 16,146 | 20.7% | |
経常利益 | 30.4% |
絶対に押さえておくべきクリニック経営の指標について
損益分岐点売上
損益分岐点売上とは、利益がプラスでもマイナスでもない0のときの売上高をいいます。
例えば新規開業を考えている医師でしたら、患者さんが一日何名来たら、損益分析点に達するのかを知っておくのは非常に大事です。
損益分的点売上計算式:
「固定費÷限界利益率」、あるいは「損益分岐点売上高=固定費÷(1—変動費比率)」
※変動費とは、売上によって変わるコストのことで、クリニック経営では、医療材料費、医薬品、外注検査費くらいだと理解して問題ありません。
計算例)内科、診療日は月当たり22日と仮定した場合
売上:650万円/月、材料費+外注検査費:122万円、限界利益529万円(650-122)、限界利益率:79.5%、固定費:331万円
損益分岐点:331(固定費)÷(79.5%)=416万円
・必要な患者数=416万円/6,500円(内科平均診療報酬)/22日=29人/日
上記の前提ですと、1日29名が患者として来院して初めて利益が出はじめると言えます。
損益分岐点比率
損益分岐点比率とは、実際の売上高に対して損益分岐点売上高がどの程度の割合になっているのかをみる財務分析の収益性の指標となります。 実際の売上高100%に対して損益分岐点売上が何%なのかを算出するものです。 損益分岐点比率の割合は低ければ低いほど売上高の減少に対しての赤字への耐性が強いことで良いとされています。
ex)損益分岐点比率:416万円/650万円=64%
家賃比率(売上に対する家賃)の想定
開業準備中の物件を探す時は想定家賃比率を確認し、契約有無を判断することが非常に大事です。
私たち、クリニック開業ナビのコンシェルジュもよく「人通りが多くて視認性もよい物件だが、家賃が100万円だけどどう?」というような相談を受けます。この場合は、この物件の良し悪しをどう判断したらいいのか、そのヒントをご紹介します。
クリニック経営における家賃の目安は、おおよそ「6~8%」と言われています。例えば、上記の家賃100万円でも利益が出るクリニックにするには、何名患者が必要かを試算してみました。
この場合、売り上げ全体の8%が100万円と想定されるため、月の売り上げは1,250万円となります。この1,250万円を達成するためには、患者さん1人当たりの単価が仮に6,500円だとして、診療日が22日あった場合、1日当たり87名の患者さんに来てもらう必要があります。
1日約90名の患者さんを1人で対応していくことを考えると、若いときはいいですが、60歳以上になっても体力的にも問題ないか、そのあたりも検討して判断して頂きたいです。
人件費比率:売上の25%を超えると要注意
クリニックの売上に占める人件費率が25%を超えると要注意と言われています。しかし、例えば整形外科は他の科に比べても多くのスタッフを必要とするため、25%以下で抑えるのは厳しい面がありますが、30%を超えると利益が出にくくなるので、気を付けていただきたいです。
人時生産性
人時生産性とは、スタッフが1時間働いてどのくらいの粗利益(売上から材料費を引いて金額)を稼いでいるかを見る指標です。
今回の例で言うと、粗利益:528万円(650万円-122万円)で、例えば、スタッフの合計勤務時間が900時間とすると、528万円/900時間=5,866円/時間、となります。
つまり、スタッフ1名が1時間あたり約5,800円を稼いでいるということになります。
人時生産性は科目によって変わり、報酬単価が低くなりやすい皮膚科や耳鼻咽喉科などの診療科目は低くなりがちです。
他の診療科に比べても、人員計画、綿密なシフト作成、そして業務効率の改善を行って行かなければ、人件費の比重が高くなり、利益が出づらい体質となりますので注意しましょう。
まとめ
今回はクリニックの新規開業時に必要となる経営指標の考え方について、簡単な説明をいたしました。
クリニック開業ナビでは、医療の経験・専門知識を備えたコンシェルジュがこうした質問にも迅速に丁寧にお応えしております。
クリニックの開業について気になることがあれば、いつでもお問い合わせください。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2023年9月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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