
クリニックを医療法人化すると、個人開業医時代とは異なり、決算期を自院で決めることができます。決算期の決め方にルールはないので、何月を決算期にしてもOKですが、各医療機関はどのようにして決めているのでしょうか? また、診療科によって理想の決算月に違いはあるのでしょうか? 詳しくみていきましょう。
決算期とは?
法人を設立したら、どのくらいの利益が出たのか、どのくらいの資産があるのかを、毎年、計算することが必要になります。利益や資産を計算することを「決算」といいますが、決算するために1年ごとに区切った期間を「事業年度」といいます。たとえば、1月31日までで区切ると、2月1日から1月31日までが事業年度ということになりますが、この場合、事業年度の最終月となる1月が「決算期」または「決算月」ということになります。
決算期には何をする?
決算期には、その事業年度の「決算書」を作成します。決算書とは、外部の利害関係者に対して収支や資産状況を報告するために、会計帳簿に基づいて作成する計算書類のことです。具体的には、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書などです。
決算期後もやらなければいけないことがある
決算期を決める前に知っておくべきは、「決算期翌月以降も決算に関してやるべきことがある」ということです。具体的にやるべきことを流れに沿って説明していきます。
事後報告書等の作成【法定期限:事業年度終了後2か月以内まで】
決算期終了から2か月以内に、事業報告書等を作成する必要があります。事業報告書のほかには、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書などの作成が必要です 。
公認会計士または監査法人の監査
公認会計士または監査法人は、次の2つの日付のうちいずれか遅い日までに、理事および監事に対して、監査報告書の内容を通知する必要があります。
①財産目録、貸借対照表および損益計算書を受領した日から4週間を経過した日
②理事、監事および公認会計士または監査法人が合意により定めた日がある場合は、その日
監事の監査
監事は、次の2つの日付のうちいずれか遅い日までに、理事に対して、監事の監査報告書の内容を通知する必要があります。
①事業報告書等を受領した日から4週間を経過した日
②理事および監事が合意により定めた日がある場合は、その日
※「公認会計士または監査法人の監査報告書」と「監事の監査報告書」の日付は前後しても問題ありませんが、実務上、公認会計士または監査法人は、監事の監査報告書の提出日より前に監査報告書を提出することが望ましいとされています。
理事会の招集通知発送【法定期限:理事会の会日より1週間前まで】
理事会の会日の1週間前までに、各理事および各監事に対して、理事会を招集する旨を通知する必要があります。招集通知発送日と理事会開催日の間隔は中7日以上にする必要があります。ただし、決算スケジュールがタイトな場合、理事会の招集通知の省略または短縮が認められます。
省略できるのは、理事および監事全員の同意が得られた場合です。また、定款上の招集期間を1週間よりも短くすれば、招集通知機関を短縮することができます。
理事会の決算承認
監事および公認会計士または監査法人の監査を受けた事業報告書等について、理事会の承認を受ける必要があります。
事業報告書等の備置き【法定期限:社員総会の会日より1週間前まで】
理事会の承認を受けた事業報告書等を事務所に備え置く必要があります。社員総会の会日より1週間前には備え置かなければならないことから、理事会と社員総会の開催間隔が最低1週間空くということになります。
社員総会の招集通知発送【法定期限:社員総会の会日より5日前まで】
社員総会の会日より5日前までに、会議の目的である事項や日時、場所を記載して理事長が記名した書面を、社員全員に発送します。招集通知発送日と社員総会開催日の間隔は中5日以上必要です。
社員総会の決算承認
理事会で承認を受けた事業報告書等を提供して、社員総会の承認を受ける必要があります。理事会と社員総会の決算承認が同日におこなわれることがありますが、同日の開催は認められていません。理由は、前述の通り、理事会の承認を受けた事業報告書等を社員総会の1週間前から事務所に備え置かなければならないからです。
事業報告書等の都道府県知事への届出【法定期限:決算日より3か月以内】
事業報告書等の決算関係書類は、決算終了から3か月以内に都道府県知事に届け出る必要があります。届出は、郵送のほか、医療機関等情報支援システム(G-MIS)へのアップロードでも可能です。
参照:厚生労働省「医療法人は、病院・診療所の経営情報の報告が義務化されます」
決算公告【法定期限:社員総会後遅滞なく実施】
決算公告は、「官報に掲載」「日刊新聞紙に掲載」「自院のホームページに掲載」のいずれかの方法でおこなう必要があります。ホームページを通しての公告の場合、貸借対照表および損益計算書を承認した社員総会の終結の日から3年を経過するまで、継続して公告する必要があります。
決算月を決める際に考慮すべきことは?
上記で説明した通り、決算月および決算月後の3か月は、やるべきことがたくさんあります。また、上記の流れとは別に、決算日から2か月以内に法人税や消費税の申告をおこなうことも必要です 。これらを踏まえると、決算月を決める際に考慮すべきことは以下の通りです。
支出が多くなる月
前述の通り、決算日から2カ月後は法人税、消費税などの納付期限となるため、多くの現金が必要になります。そのため、支出が多くなる月がその前後に重ならないほうが安心できるでしょう。そのほか、賞与や労働保険の申告、源泉所得税の納付などで支出が大きくなる月や、売上入金が少なくなりそうな時期も、申告期限と重ならないよう調整できると安心です 。
繁忙期
繁忙期に決算関連の業務が増えるとてんてこ舞いになることは目に見えています。では、繁忙期はいつかというと、医療機関によって異なります。たとえば内科であればインフルエンザや風邪のシーズンには患者数が増えることが予測されますし、耳鼻咽喉科であれば花粉症のシーズンが忙しくなるでしょう。
そう考えると、診療科によってベストな決算月が異なるという見方もできます。
節税
今期にどの程度納税することになるかを予測することで、経費の支出を今期に収めたほうがいいか来期まで伸ばしたほうがいいかを検討しやすくなります。では、その予測ができるのはだいたいいつぐらいかというと、決算月の2~3か月前である場合が多いでしょう。これに関しては個人開業医時代にも、だいたい9月を過ぎたあたりから、ふるさと納税にどれくらい使うのがいいかなどを考えて調整してきたドクターは多いはずですから、どの時期に納税予測を立てられると自院にとって都合がいいか、どの時期なら納税予測が立ちやすいか、などは目星がつくでしょう。
節税に関してはもうひとつあります。
医療法人設立後、2期目の決算までは消費税が免除されるので、このメリットを最大限享受するためには、医療法人を設立した月の前月を決算月とするのが得策です。ただし、医療法人設立から最初の半年の間に、社員・役員に支払う給与が合計で1,000万円を超えた場合は、2期目の消費税は免除されません 。
他の医療機関の傾向
医療機関に限らずですが、日本では、4月1日を年度はじまり、3月を年度終わりとしている法人がもっとも多いです。もしくは、個人事業主時代と同じく12月を決算月とするドクターも多いです。多数派に合わせる必要はありませんが、合わせることで安心感を覚えたり、同業者に決算に関して質問しやすかったりといったメリットはあるかもしれません 。
税理士にもよく相談したうえで決算月を決めよう
個人クリニックから法人化する場合、自院の患者数の季節における変動を確認するなど、自分でできることもありますが、税理士に相談することで、節税面でより有利な時期に気づかされることもあるので、ぜひ一度じっくり相談してみてくださいね。
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診療科目
この記事は、2024年1月時点の情報を元に作成しています。