これからクリニックを開院しようという医師の皆さんは、自院をどんなふうにしようかと考えていらっしゃるでしょう。具体的な内装にまで思い至っている方もいらっしゃるかもしれません。もし、すでに開院日まで決めているのなら、いち早く内装工事の相談を始めるべきです。クリニックの内装工事というのは、考えているよりもずっと手間のかかるものなのです。今回は、クリニックの内装工事について百戦錬磨のプロに取材しました。
クリニック開院の半年前には施工業者に相談を始めましょう!
これまで多くのクリニックを手掛けてきた「フルサポート株式会社」の大屋和之取締役にお話を伺いました。
――クリニックの内装工事を依頼する際に注意しなければならないことはなんでしょうか?
大屋取締役 まず「スケジュール感」を持っていただくのがよいのではないでしょうか。例えば、5月1日に開院したいという希望をお持ちの場合なら、内装工事は3月末には現場を開けなければなりません。什器や医療器具の設置などで1カ月かかるからです。
工事自体は2、3カ月を要しますから、1、2、3月が工事期間。その1カ月半前には施主さまとの打ち合わせを始めていなければなりません。1カ月半あればじっくり考え打ち合わせをしながら進めることができます。
ですから逆算すると、5月1日に開院というのであれば、前年の11月上旬には施主さまは施工会社に相談を始めるのがいい、ということになります。
――ということは、相談を始めてから実際にクリニックが開院できるまで6カ月ぐらいかかるということでしょうか。
大屋取締役 そうですね。それぐらいの時間を見ておいた方が何かあったときに対応もできます。これより短くなると打ち合わせの回数が減って心配ですね。このスケジュール感をつかんでおいていただければ、お話もスムーズに進むと思います。
――打ち合わせについての注意点はありますか?
大屋取締役 これはご発注の意志表示をいただいてからのことになりますが、打ち合わせ中盤には施主さま、医療機器を入れるメーカーのご担当者さま、不動産会社のご担当者さまなど、関係者が全員そろっているのがベストです。この顔合わせを行っておくと後々随分違います。
というのは、内装工事が終わってクリニックが完成というわけではありません。什器や医療機器を搬入し、設置しなければなりません。そのためのスペース、電気は足りているのかなどを確認する必要があります。工事の途中で確認事項が出ても、顔合わせが終わっていれば連絡できるので安心です。
――なるほど。
見積もりは現地を見てから!
――内装工事の費用についてですが、見積もりはどのようにお願いすればいいのでしょうか?
大屋取締役 見積もりは、やはり現地を見てからしか出すことができないのです。よく「ざっくりいくらですか?」といったご質問を受けることがあるのですが、そこで間違ったことは言えませんので、「現地を拝見してからお出しします」とお答えしています。それでもざっくりした費用感をつかみたい場合は後述の坪単価を参考にしていただければと思います。
――ということは立地で費用も異なる?
大屋取締役 はい。全然違います。多いのは路面店舗でそこに開院するというパターンですが、この場合は工事もしやすいのです。ところが、商業施設内や医療ビルとなると、作業できる時間が限られるなど制限があることが多いのです。夜間しか作業できないとなれば、そのぶん人を多く投入しなければならず、それだけ費用がかかります。他には「B工事」が発生するなどですね。
――B工事ってなんですか?
大屋取締役 その場所のテナントオーナーさまや管理会社が指定する工事のことで、これは私たちが行うわけにはいかないのです。電気容量が足らないといったときにはB工事になって、テナントオーナーさまが指定業者に発注します。そうすると、別の工事費がかかって、いくらになるのか読めないのです。
――そういう費用もかかるのですね。
大屋取締役 はい。こちらとしては工事費が100万円ぐらいかなと思っていても、実際には指定業者が出す工事費が500~600万円だった、なんてことが実際にあります。ですから、やはりざっくりした見積もりはできませんし、危ないと考えた方がいいのです。
――見積もりを出してもらうのにどのくらいの費用がかかりますか?
大屋取締役 見積もりについては弊社では無償でやらせていただいています。
診療科目ごとの内装費・相場
大屋取締役に伺ったところ、診療科目によって内装工事費もずいぶん変わるとのこと。以下は「これだけは見ておかなければならない」という診療科目ごとの坪単価です。ただし、路面の1Fという条件(状態が良い場合)です。商業施設内であれば、上記のとおり制限が掛かることが多いため、そのぶんの費用がかかります。
診療科目 | 費用 |
内科 | 35万円~ |
小児科 | 35万円~ |
整形外科 | 38、40万円~ |
耳鼻咽喉科 | 30万円~ |
眼科 | 40万円~ |
心療内科 | 25万円~ |
オンラインクリニック | 15万円~ |
整形外科の坪単価が高めになっているのはレントゲン装置の設置などが見込まれるからです。天井からばくしゃ装置をつり下げる機種などがあって、その場合には特殊な対応が必要になります。眼科では暗室を設けたりするのでそのぶん高めに見ておいた方がいいのです。
基本的には、この坪単価に坪数を掛けたものが内装工事費になるとのことですが、あくまでも目安と考えてください。広ければ坪単価は下がり、狭ければ坪単価が上がります。また、大屋取締役の「フルサポート株式会社」では設計・施工を一括で引き受けているためこの金額で済みますが、設計デザインを別の会社に発注するなどの場合には余計にお金がかかります。
内装費の費用項目とその相場感
上記では坪単価でしたが、これが工事の細目ごとにいくらになっているのか、大屋取締役よりご厚意で実際の見積もりをご提供いただいたので見てみましょう。
以下はある形成外科クリニック(25坪)の「内装工事一式」の見積もりの中身です。
1,267万円なので
総額 | 1,393万7,000円(税込) |
坪単価 | 55万7,480円(税込) |
以下は「循環器内科クリニック」(46坪)の見積もりです。
1,695万円なので
総額 | 1,864万5,000円(税込) |
坪単価 | 40万5,326円(税込) |
以下は「整形外科クリニック」(42坪)の見積もりです。
1,932万円なので
総額 | 2,125万2,000円(税込) |
坪単価 | 50万6,000円(税込) |
実際の見積もり例ですので非常に参考になるでしょう。
これから開院する医師へのアドバイス
――これから開院しようとする医師へアドバイスがあればお願いします。
大屋取締役 そうですね、できればドクターご自身で動いて発注されるのがいいと思います。また、インターネットなどできちんと調べられた方がいいでしょう。複数の業者に見積もってもらう、「あいみつ」を取るのもおすすめです。弊社でも「あいみつを取っていただいても大丈夫ですから」とドクターにお話ししています。
――ありがとうございました。
さすが多くのクリニックを手掛けてきた施工会社さんでした。これからの開院を考える医師の皆さんの参考になるお話だったのではないでしょうか。繰り返しになりますが、くれぐれも「スケジュール感」を持って開院の準備に当たってください。十分に施工会社と相談を行いながら素晴らしいクリニックを開院してください。
取材協力:フルサポート株式会社
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依頼内容
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診療科目
この記事は、2021年3月時点の情報を元に作成しています。