事業が軌道に乗ってきたら、自院を法人化したいと考えているドクターは多いのではないでしょうか? そう考える理由は人によってさまざまですが、「法人化にしたら儲かるから」と考えている人もいるかもしれません。では、実際のところ、医療機関は法人化したほうが儲かるのでしょうか? 詳しくみていきましょう。
法人化する時点での開業医の年収・クリニックの診療報酬の目安は?
まずは、開業医が自院を法人化する時点での年収の目安をみていきます。
開業医が自院を法人化するためにクリアが必要な年収条件は設けられていないため、各クリニックが法人化するタイミングはまちまちです。しかし、一般的には「年間所得が1,800万円を超えた」「クリニックの社会保険診療報酬が5,000万円を超えた」「開業7年目を迎える」「事業拡大・承継を検討している」の4つを機に、法人化を検討または実際に法人化するクリニックが多いとされています。
このうち、年収および診療報酬の目安となるのが前者の2つですが、なぜこの金額であるのかというと以下の通りです。
年間所得は1,800万円以上
個人開業医の所得税には累進課税法が適用されている一方、法人税の税率は一定です。そのため、個人事業主としての所得にかかる税金が、法人化している場合の税金を超えるラインが、法人化のひとつの目安といえますが、優位性が入れ替わるポイントが、計算上は年間所得約1,800万円となっています。
クリニックの社会保険診療報酬は5,000万円以下
社会保障診療報酬が5,000万円以下で、かつ自由診療報酬(雑収入も)を入れても売上が7,000万円以下の個人開業医は、実際に使った経費ではなく、社会保険診療報酬の額によって決められた額を「概算経費」として経費計上していいことが、租税特別措置法第26条によって定められています。概算経費を活用すると、実際の経費より多くの金額を経費として計上できる可能性があるので(実際にたくさん経費を使っている場合はお得にならない場合もあります)、概算経費を活用するために、個人開業主のままでいたいとする考えもあります。つまり、概算経費が使えなくなる、クリニックの社会保険診療報酬が5,000万円を超えた時点が、法人化のひとつのタイミングといえます。
また、開業7年目を迎えるタイミングがなぜひとつの目安かというと、クリニック開業時に導入する医療機器の償却期間が、6年目までと定められているから。7年目からは医療機器も利益に換算しなくてはならなくなり、利益の増加に比例して税金が高くなることから、7年目に医療法人化することが節税につながるのです。
将来的に承継を考えているなら、年収に関わらず法人化しても結果的に損しない場合がある
前述の通り、事業拡大や承継を検討していることから、法人化を検討するケースがあります。なぜかというと、事業拡大・承継を検討している場合は、事業を拡大したい場合、法人化しておけば拡大できる範囲と施設数に違いがありますしることや、法人化しておけば継承にあたって相続税が不要であるため、なことなどから、その時点での年収や開業年数に関わらず、法人化しておくことが有利となるからですります。
医療法人の場合、理事長を変更すれば相続税なしで承継できますが、これを「医療法人の持分についての相続税の税額控除の特例」といいます。具体的には、相続人等が、被相続人から相続または遺贈によって医療法人の持ち分を取得した場合において、その医療法人が相続開始時に認定医療法人であり、かつ相続人等が相続開始時から相続税の申告期限までの間に、認定医療法人の持ち分の全部または一部を放棄した場合に、その相続人等の相続税額から放棄相当相続税額が控除されます。
ただし、事業拡大を検討しているといっても、個人クリニックの経営状態がギリギリの場合、医療法人化すると従業員の社会保険加入が義務化されることなどから、金銭的負担が大きくなり、経営が圧迫されるリスクがあるので 、「余裕がないのに医療法人化を検討する」ということは避けてください。
参照:国税庁「医療法人の持分についての相続税の税額控除の特例」
法人化前後で年収・社会保険診療報酬はどう変わる?
法人化する時点での開業医の年収・クリニックの診療報酬の目安がわかったところで気になるのが、「その時点で法人化した結果、さらに年収や診療報酬費がUPするのか」ということでしょう。
まず、結論から言うと、当たり前ですが医療機関によりけりです。
医療法人化に成功して所得が大幅にUPするドクターもいれば、医療法人化に失敗して事業が立ち行かなくなってしまうこともあります。
ただし、医療法人化あとの節税のポイントを抑えておけば、少なくとも余計な支出を防ぐことはできますし、そのぶん所得をキープまたは上げられる可能性が高まります。
医療法人の節税を成功させるためのポイント
具体的にどうすれば節税を実現できるのかを説明していきます。
所得を分散させる
家族経営の医療法人の場合、家族を理事長や理事に就任させて報酬を支給すれば、院長個人の所得は抑えながら世帯所得を上げることができるので、院長個人に累進課税制によって高い税率がかけられることを防げます。
MS法人も設立して所得を分散させる
診療をおこなう医療法人とは別に、家族や親族が経営するMS法人も設立すると、医療法人の過剰な収益をMS法人に流すことができるので、それぞれの法人税を節税することができます。
MS法人について、詳しくは下記記事をご参照ください。
生命保険料を経費として計上する
医療法人化すると、保険料を経費(損金)として計上できます。原則、掛け捨ての定期保険の場合、保険料を全額損金算入できますが、保険のタイプによっては3分の1または2分の1しか損金算入できないこと もあります。いずれにしても、生命保険に加入することが節税につながるので、どの保険がいいかなどは税理士や保険会社に相談したうえで、加入を検討するといいでしょう。
決算賞与を活用する
決算賞与とは、当期の利益に応じて、ボーナスとは別にスタッフに支給される賞与のことです。業績が好調で予想より高額な利益が計上される場合、スタッフに決算賞与を支給することで、法人経費として計上できるので節税につながります。また、スタッフにとっては臨時にボーナスがもらえることになるため、モチベーション向上につながります。
社用車が必要な場合、4年落ち中古車を選ぶ
在宅医療を提供するなどの理由で社用車が必要なら、4年落ちの中古車を選ぶと節税につながります。普通自動車の新車の場合、法定耐用年数は6年と決められていますが、既に耐用年数のうち4年を経ている中古車の法定耐用年数は2年です。この条件の中古車を選び、「定率法」によって減価償却して、購入費全額を一度にまとめて経費として計上すれば、該当年度は大きく節税することができます。ただし、決算期の途中で購入した場合、月割りしたぶんしか減価償却費の計上ができないため、期首の月末までに購入することが必須です。
役員自宅を社宅にする
利用法人名義で自宅の購入または賃貸物件の借り上げをおこない、該当物件を役員の社宅として経営者に賃貸すれば、かかった費用を法人経費として計上できるため、節税につながります。
物件を会社で購入した場合は、物件購入費を「減価償却費」、維持管理にかかる費用を「修繕費」や「固定資産税」などとして計上できるほか、不動産所得税、登記費用、仲介手数料、物件を取得するための借入金の利息なども、経費として計上することができます。
物件を会社名義で賃貸契約した場合、家賃相当額及び賃貸契約にかかる仲介手数料などの費用も経費として計上できます。
医療法人化をきっかけに所得や診療報酬を上げるにはどうすればいい?
医療法人化をきっかけに所得や診療報酬を上げるためのコツとしては、まずは前述の節税対策を意識して、資金繰りについてよく考えることです。
また、そのほか、個人開業医時代に共通していえることですが、「運営方針をしっかりと定める」「経営スキルに磨きをかける」「目先の利益ばかりを追求して物事を判断しない」「スタッフや外部連携先とのコミュニケーションを大切にする」などを意識することも大切です。
医療法人化する前に、クリニックの借入金はすべて返済しておくことも大切!
最後に、医療法人化のタイミングに関しての注意点ですが、個人開業医として独立した際の借入金がまだ残っている場合は、医療法人化することはおすすめではありません。多くの場合、医療法人化を検討するタイミングは、個人開業医としては軌道に乗ってきてからだと考えられますが、いち早く事業を拡大したくて、クリニック設立のために借りたお金を返し終わらないうちに法人化にチャレンジするドクターもなかにはいます。これの何が問題かというと、個人事業主時代に運転資金として借入した負債は、原則として法人で引き継ぐことができないのです。
つまり、残りの運転資金はドクターが個人で返済しなくてはならなくなるということです。これを実現するためには、自分の役員報酬を上げることが必要ですが、役員報酬には累進課税が適用となるため、税金が高くなってしまうのです。その結果、法人に残るお金が少なくなり、経営状況を圧迫してしまう可能性は十分ありえるので、法人化のタイミングにはどうぞ気を付けてくださいね!
特徴
対象規模
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診療科目
この記事は、2024年2月時点の情報を元に作成しています。