
消費税の納税義務は、インボイス制度が導入される前までは、原則として「基準期間」とされる2期前の課税売上が1,000万円を超えた場合に生じていました。そのため、課税売上が1,000万円より少ないクリニックは、「うちとは関係ないことだから消費税については知っておかなくてよい」と考えていたかもしれません。しかし実際のところ、消費税に関しては、非課税売上しかないクリニックにとってこそ問題となっていることがあります。具体的にどんなことなのか説明していきます。
そもそもなぜ保険診療の診療費は非課税なのか?
国内におけるほとんどの取引には消費税が課税されていますが、一部サービスの利用料などは課税の対象となっていません。非課税となる主なものは、土地の譲渡および貸付、保険料などの「課税することになじまないもの」と、保険診療や学校教育における一定の授業料、埋葬料、火葬料、住宅の家賃など、「政策的配慮によって非課税と決められているもの」です。
参照:日本医師会「今こそ考えよう医療における消費税問題」 課税、非課税の分類
医療機関が知っておくべき「控除対象外消費税問題」とは?
続いては本題です。
非課税売上しかないクリニックにとっては、消費税について考えなければならないことはないように思われがちですが、実は、非課税売上しかないクリニックこそ、消費税に関して不合理な負担を強いられています。この問題は、「控除対象外消費税問題」と呼ばれています 。
具体的にどのような問題かというと、保険診療の診療費は非課税である一方、保険診療をおこなうための医療機器や設備の仕入れには消費税を支払う必要があり、この仕入れの際に支払っている消費税は、控除の対象外になっているということです。
通常、事業者は「受け取った税額」から仕入れのときに「支払った税額」を控除した金額を納付します。しかし、この控除は医療機関においては、自由診療をはじめとする“消費税をもらう診療”にのみ適用される仕組みとなっているのです。
つまり、保険診療をおこなうための医療機器や設備、医薬品、そのほか運営コストとして多額の消費税を支払っているクリニックにとっては大きな痛手ということになります。
参照:日本医師会「今こそ考えよう医療における消費税問題」業者に支払う消費税
参照:日本医師会「今こそ考えよう医療における消費税問題」 控除対象外消費税とは
控除できなかった消費税額等はどうすればいい?
続いては、控除対象外消費税額をクリニックでどのように処理するのかをみていきます。
控除対象外消費税額は、「資産に係る控除対象外消費税額等」と「資産に係るもの以外の控除対象外消費税額等」の2種類にわけて処理します。
資産に係る控除対象外消費税額等
資産に係る控除対象外消費税額等は、次の1~3のいずれかの方法によって、「損金の額」または「必要経費」に算入します。
1. その資産の取得価額に算入して、それ以後の事業年度または年分において償却費などとして損金の額に算入します
2. 次のイ~ハのいずれかに該当する場合には、法人税法上は、損金経理を要件としてその事業年度の損金の額に算入して、所得税法上は、全額をその年分の必要経費に算入します
イ その事業年度または年分の課税売上割合が80%以上であること
ロ 棚卸資産に係る控除対象外消費税額等であること
ハ 一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満であること
3. 上記に該当しない場合には、「繰延消費税額等」として資産計上して、次に掲げる方法によって損金の額または必要経費に算入します
イ 法人税
繰延消費税額等を60分割して、これにその事業年度の月数を乗じて計算した金額の範囲内で、その法人が損金経理した金額を損金の額に算入します。なお、その資産を取得した事業年度においては、上記によって計算した金額の2分の1に相当する金額の範囲内で、その法人が損金経理した金額を損金の額に算入します
ロ 所得税
繰延消費税額等を60分割して、これにその年において事業所得等を生ずべき業務をおこなっていた期間の月数を乗じて計算した金額を必要経費に算入する。なお、その資産を取得した年分においては、上記によって計算した金額の2分の1に相当する金額を必要経費の額に算入します
資産に係るもの以外の控除対象外消費税額等
次に説明する方法によって損金の額または必要経費に算入します。
全額をその事業年度の損金の額に算入します。ただし、交際費等に係る控除対象外消費税額等に相当する金額は交際費等の額に加算して、交際費等の損金不算入額を計算します
全額をその年分の必要経費に算入します
参照:国税庁「No.6921 控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理」
金銭的負担を少しでも減らすよう工夫しよう!
控除対象外消費税問題に適切に対応する方法を知っているかどうかで、クリニックの金銭的負担は大きく変わってきます。適切に仕分けする以外には、たとえば課税売上もそれなりに発生しているクリニックであるなら、消費税の計算方法は「本則課税」ではなく「簡易課税」を選択したほうがお得になる場合もあります。また、節税する方法そのものもさまざまに存在するので、自院の役に立ちそうなことは、積極的に導入していくようにするといいですね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年3月時点の情報を元に作成しています。