訪問看護の利用者や、その家族からのハラスメントに悩んでいる看護師はとても多いといいます。そう聞くと、今後訪問看護の仕事に就きたいと考えている人でも、「もう一度考え直そう」と思うのではないでしょうか?では、訪問看護の仕事に安心して従事するために、利用者やその家族からのハラスメントに対してとれる対策はあるのでしょうか? 早速考えていきましょう。
訪問看護の現場でのハラスメントに悩んでいる看護師はどのくらいいる?
まずは、訪問看護の現場でハラスメントに悩んでいる看護師が実際にどのくらいいるのかをみていきます。『株式会社三菱総合研究所』が公表している「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」によると、訪問看護に携わっている職員で、利用者から身体的暴力を受けたことがある人の割合は45.4%、精神的暴力を受けた割合は61.8%、セクシュアルハラスメントを受けた割合は53.4%という結果が出ています。
それぞれのハラスメントの具体的な内容は、「身体的暴力」が、「手を払いのけられる」「叩かれる」「コップを投げつけられる」「洋服を引きちぎられる」などで、「精神的暴力」は、「大声を発する」「怒鳴る」「威圧的な態度で文句を言う」「土下座を強要」などです。また、「セクシュアルハラスメント」の具体的な内容は、「不必要に触る」「下半身を出して見せる」「卑猥な言動をおこなう」などです。
また、介護老人福祉施設で働いている職員に関しては、90.3%もが身体的暴力を受けた経験があるという結果が出ていることなどからも、看護や介護に携わる仕事の大変さがよくわかります。
身体的暴力 | 精神的暴力 | セクシュアルハラスメント | その他 | |
訪問介護 | 41.8% | 81.0% | 36.8% | 3.2% |
訪問看護 | 45.4% | 61.8% | 53.4% | 3.4% |
訪問リハビリステーション | 51.8% | 59.9% | 40.1% | 4.5% |
通所介護 | 67.9% | 73.4% | 49.4% | 1.7% |
特定施設入居者生活介護 | 81.9% | 76.1% | 35.6% | 3.4% |
居宅介護支援 | 41.0% | 73.7% | 36.9% | 4.1% |
介護老人福祉施設 | 90.3% | 70.6% | 30.2% | 2.2% |
認知症対応型通所介護 | 86.8% | 73.7% | 33.3% | 1.8% |
小規模多機能型居宅介護 | 74.7% | 71.9% | 32.9% | 2.7% |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 59.7% | 72.0% | 37.1% | 4.8% |
看護小規模多機能型居宅介護 | 72.6% | 71.8% | 31.1% | 3.7% |
地域密着型通所介護 | 58.4% | 70.1% | 48.0% | 2.8% |
参照:株式会社三菱総合研究所「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」介護現場における利用者や家族等によるハラスメントの実態調査結果
訪問看護の現場でハラスメントが起きる理由は?
では、なぜ上記で説明したようなハラスメントがおこなわれることがあるのかというと、下記のような理由が考えられます。
利用者の心の問題
「利用者が、訪問看護師や医療従事者に対して敵意を持っている」「病気や障害に対する不安な気持ちを周囲にぶつけてしまう」「アルコールや薬物などの影響で、利用者が自分で自分を抑えられない」などが考えられます。
利用者の認識の問題
「看護師に対してであれば多少の嫌がらせをしても問題ない」という誤った認識を持っている人もいま す。
看護を提供する側の態度の問題
反対に、看護を提供する側に問題がある場合もあります。たとえば、利用者への敬意に欠けており、きちんと敬語を使っていない場合や、利用者が嫌がることを無理矢理しようとした場合など、利用者がイヤな気分になって当然です。
また、「急に担当看護師が変わった」などが理由で利用者が暴言を吐いている場合などは、その場にいた看護師の問題ではなく、事業所がきちんと説明できていないことに原因があります。
訪問看護に携わる人がとるべきハラスメント対策は?
続いては、利用者からのハラスメントに対して、看護師が講じておくべき対策をみていきましょう。
利用者の情報を詳細まで確認する
新規に担当する利用者がいる場合、その利用者に関しての情報を詳細に把握しておくことが大事です。これまでにもハラスメント行為がみられたのか、みられた場合、これまでの担当看護師はどのように対応してきたのか、どのような対応だと効果があったのかなどを把握しておくだけで心構えが違ってきます。
ケアマネージャーなどとすぐに連絡をとれるようにしておく
利用者宅に向かう際は、万が一のことがあったときにすぐに連絡をとることができるよう、スマホを取り出しやすいポケットにいれておくことや、必要な連絡先にすぐにつながるようにしておくことなども大切です。
必要に応じて複数人で対応する
1人での訪問看護に不安がある場合、2人以上のスタッフで訪問看護をおこなうことも視野に入れるべきです。その場に看護提供者が自分しかいない場合、ハラスメント行為をされても、後々証拠を提示できない可能性があります。
可能な限り証拠を残す
スマホやレコーダーを常備しておけば、万が一の場合、映像や音声のデータを記録することができます。突然のセクシュアルハラスメントなどの場合はRecボタンを押すことが難しいかもしれませんが、長く罵倒が続く場合などはRecボタンを押すチャンスが訪れる可能性もあるので、頭のなかでいざというときのシミュレーションをおこない、すぐに行動に移せるようにしておきましょう。
ハラスメント対策の講習を受ける
訪問看護の現場ではかなりの割合の人がハラスメントを受けていることを踏まえて、事前にハラスメント対策の講習を受けておくことも大切です。事業所で研修が開催されていないなら、参加可能な研修会としてはどんなものがあるのか、自分で調べてみてもいいでしょう。場所やタイミング的に参加できるものがない場合は、オンラインの講習を受けることなどを検討しましょう。
対策をとっていてもハラスメントがおこなわれたときの対処法は?
続いては、予防策を講じていてもハラスメント行為を受けたとき、看護師がとるべき行動をみていきます。
通報する・連絡する
事業所への連絡が基本となりますが、利用者が刃物を持っていることなどから身の危険を感じる場合、警察や性暴力被害者ワンストップ支援センターなどへの連絡を検討します。また、利用者に精神疾患や認知障害があることが原因の場合などは、すぐに医師にも連絡して指示を仰ぎます。
逃げる
身の危険を感じる場合は、ケアの途中であっても逃げるのが正解です。また、もしものときのために防犯グッズを常備しておき、すぐに取り出せるようにしておきましょう。
記録する
どのようなハラスメントがあったのかを記録することも大切です。ただし、身の危険を感じる場合はその場で記録するのではなく、あとから思い出せる範囲で記録するので構いません。身体に危険が及ばないと確信できる場合などは、スマホやレコーダーでの記録も検討しましょう。
また、最終的には「ハラスメント報告書」という形に仕上げる必要がありますが、この報告書には以下の項目を盛り込みます。
・暴力の種類
・加害者名
・発生日時
・発生場所
・暴力のレベル
・暴力の内容
・暴力の発生状況
・発生時の対応
・被害状況
・受診の有無
・警察への通報の有無
・発生後の対応
・医師・行政・他職種との連携
・再発防止策
受診する
身体的暴力もしくは性的暴力を受けた場合は、適切な診療科を受診します。重症の場合は救急車を呼びましょう 。ちなみに、利用者からの暴力によってケガをした場合、基本的には労災認定されます 。認定を受けるためにも、万が一の場合には、ハラスメント報告書をきちんと作成するようにしましょう。
ハラスメントのリスクが高い環境からは逃げる勇気も必要
前半で解説した通り、訪問看護の現場では実際にかなりの割合でハラスメントが起きていますし、どれだけきちんと対策をとっていても、ハラスメントが起きる可能性をゼロにすることはできません。また、看護師自身が、自分で自分の身を守ろうとがんばっていても、事業所のハラスメント対策への意識が薄いと、自ずとリスクが高くなってしまいます。今現在働いている事業所や、面接を受けた事業所がきちんとハラスメント対策を講じていないと感じる場合は、その職場で働く選択肢を捨てて構いません。不要なストレスを抱えることなく、活き活きと働くためにも、きちんとハラスメント対策を講じている事業所を選ぶようにしてくださいね。
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診療科目
この記事は、2024年6月時点の情報を元に作成しています。