年次有給休暇は、労働基準法で定められた制度です。一定期間以上継続して勤務している労働者は、自由に取得できるものとされています。
しかし実際のところ、有休消化率は100%というわけではありません。これは医療従事者にも当てはまることで、「2023年病院看護実態調査」の結果、看護師の有給取得率は67.7%であることがわかっています。
なぜ看護師の有休消化率は100%というわけにはいかないのでしょうか?この記事で、看護師の有給休暇取得の実態に迫っていきます。
有給休暇とは
有給休暇(年次有給休暇)とは、一定期間以上継続して勤務している労働者に対してゆとりのある生活を保障するために、心身の疲労を回復させる時間に充てられるよう付与される休暇のことです。“有給”休暇という名前の通り、スタッフが有給休暇を取得しても、取得した日の給料は、出社した場合と同様に支払う必要があります。
ただし、有給休暇をすべての労働者に付与する必要はありません。
有給休暇が付与されるためには、以下の2つの要件を満たしている必要があります。
- 雇い入れの日から6か月経過していること
- その期間の全労働日の8割以上出勤していること
上記2点を満たしている場合、週所定の労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上の労働者、または1年間の所定労働日数が217日以上の労働者には、労働日10日分の有給休暇を付与する必要があります。
また、最初に有給休暇を付与した日から1年を経過した日に、「2.」と同様の要件(最初の年次有給休暇が付与されてから1年間の全労働日の8割以上出勤している)を満たしていれば、労働日11日分の有給休暇を付与することになります。
それより長く継続して勤務している場合、付与すべき有給休暇の日数はさらに増えます。
【一般の労働者に付与される有給休暇の日数】
| 雇い入れの日から起算した勤続期間 | 付与される有給休暇の日数 |
| 6か月 | 10労働日 |
| 1年6か月 | 11労働日 |
| 2年6か月 | 12労働日 |
| 3年6か月 | 14労働日 |
| 4年6か月 | 16労働日 |
| 5年6か月 | 18労働日 |
| 6年6か月以上 | 20労働日 |
所定労働時間が週5日未満もしくは1年間の所定労働日数が217日未満となるパートタイム労働者に関しては、有給休暇は付与しなくてはならないされるものの、付与が必要なされる日数はが少なくなります。具体的に付与すべきされる日数は以下の通りです。
【パートタイム労働者などに付与される有給休暇の日数】
| 週所定労働日数 | 1年間の所定労総日数 | 雇い入れ日から起算した勤続期間(単位:年) | ||||||
| 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 | ||
| 4日 | 169~216日 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15 |
| 3日 | 121~168日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11 |
| 2日 | 73~120日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7 |
| 1日 | 48~72日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 |
また、有給休暇のタイミングに関しては、労働者の要望に従うことが基本ですが、労働者が希望するタイミングで有給休暇を付与することが事業の正常な運営を妨げることになる場合、タイミングをずらすことは認められます。
参照:厚生労働省「年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか」
有給休暇の時効は?
付与すべきされる有給休暇の日数は上記の通り決まっていますが、この休暇は、労働者は、これを貯めておいて、3年分をまとめて使えるなどというものではなく、時効が2年と決まっています。
これは、労働基準法第115条において決められていることなので、この期間を過ぎたぶんに関しては、労働者から請求があっても応じる必要はありません。
参照:厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」
参照:労働基準法
常勤からパート、もしくはパートから常勤に変わる場合の有給休暇の日数はどうなる?
続いては、雇用形態が常勤からパート、もしくはパートから常勤に変わる場合の考え方について説明します。
労働者の有給休暇取得の権利は、前述の通り、6か月継続勤務した時点で発生します。6か月が経過した日を「基準日」といいますが、雇用形態が変わった場合の有給休暇の付与日数は、変更した直後の基準日の所定労働日数によって決まります。
たとえば、パートとして入社したスタッフがその後、常勤として雇用されることとなり、基準日には常勤スタッフだった場合、10労働日分の有給休暇が付与されることになります。
では、有給休暇の発生用件である「継続勤務年数」に関してはどう考えればいいかというと、途中から雇用形態が変わったとしても、継続勤務年数のカウント開始日は最初に雇い入れた日となります。
たとえば、パートとして入社して1年後に常勤となったスタッフが、その後、2年間継続勤務した場合、継続勤務年数は3年ということになります。
シフト制などで、1週間の所定労働日数や労働時間が定まっていない場合の考え方は?
シフト制などにより、1週間の所定動労日数や労働時間が定まっていない場合、「過去6か月分の労働日数の実績を2倍にしたものを、1年間の所定労働日数とみなす」という考え方もあります。
必ずしもこの方法を適用しなければならないというわけではありませんが、シフト制のスタッフが多い場合などは、この方法を適用させると決めておけば、有給休暇の日数をどのように決めたらいいだろうかと迷うことがないでしょう。
看護師の有給休暇取得率は?
付与される有給休暇の日数は前述の通り法律で定められていますが、付与された日数の全日を取得しなければならないということではありません。
では、実際のところ、医療機関で働いている看護師の有給休暇取得率はどのくらいかというと、冒頭でも述べた通り、日本看護協会が公表している「2023病院看護実態調査」の結果で2022年度における看護師の有給休暇取得率を平均すると67.7%であることがわかっています。
ちなみに、これはクリニック勤務の看護師のみを対象としたものではなく、医療機関全体での結果ですが、クリニック単独の場合も大差はないものと考えられます。
| 10%未満 | 0.9% |
| 10~20%未満 | 1.8% |
| 20~30%未満 | 2.4% |
| 30~40%未満 | 4.6% |
| 40~50%未満 | 9.3% |
| 50~60%未満 | 13.2% |
| 60~70%未満 | 16.1% |
| 70~80%未満 | 16.7% |
| 80~90%未満 | 15.2% |
| 90%以上 | 16.0% |
| 無回答・不明 | 3.8% |
| 計 | 100.0% |
有給休暇取得の義務化とは?
「2023病院看護実態調査」の結果から、看護師の有給休暇取得率は、100%とはいかないまでもかなり高めであることがわかります。
同じ調査の5年前の調査にあたる、「2018病院看護実態調査」の結果を見ると、2017年度の有給休暇取得率の割合がもっとも高いのは「50~60%未満」の14.5%で、ついで「40~50%未満」の13.4%、「60~70%未満」の12.4%と、「2023病院看護実態調査」の結果に比べて全体的に低めとなっています。
| 10%未満 | 1.7% |
| 10~20%未満 | 3.7% |
| 20~30%未満 | 5.3% |
| 30~40%未満 | 10.1% |
| 40~50%未満 | 13.4% |
| 50~60%未満 | 14.5% |
| 60~70%未満 | 12.4% |
| 70~80%未満 | 11.8% |
| 80~90%未満 | 9.7% |
| 90%以上 | 8.3% |
| 無回答・不明 | 9.1% |
| 計 | 100.0% |
なぜこのような差があるかというと、「働き方改革」によって、2019年4月から、有給休暇の取得が義務化されたためです。ただし、全日の取得ではなく、「条件を満たした従業員には、年5日の有給休暇を取得させなければならない」と定められています。これに違反した場合の罰則も設けられています。
具体的には、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合は30万円以下の罰金、使用者による時季指定をおこなう場合において就業規則に記載していない場合は30万円以下の罰金、労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金と定められています。
参照:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」2019年4月施行
有給の取得率には病院の規模が影響している
前述の「2023病院看護実態調査」の結果を病院の規模別にみると、病床数が多い大病院ほど、有給取得率が低いことがわかります。
| 病床数 | 年次有給休暇取得率 |
| 99床以下 | 68.7% |
| 100~199床 | 69.1% |
| 200~299床 | 68.5% |
| 300~399床 | 66.4% |
| 400~499床 | 64.3% |
| 500床以上 | 60.9% |
病床数と忙しさは必ずしも比例するというわけではありませんが、急患も受け入れている規模の大きな病院などは、人手が足りないことが多く、休みづらい傾向にあるかもしれません。
また、大病院は中小規模の病院と比べて新卒の採用人数が多い傾向にあることから、経験の浅い新人が一定数いるということになるため、看護の質をキープするためにも、中堅以上だからといって気軽に有休を取得しにくい傾向にあるかもしれません。
これらのことから、就職・転職にあたって、有給をきちんと取得できる勤め先を探しているのであれば、病院の規模も一つの判断材料になりえると考えられます。
看護師が「有給を取りにくい」構造的な理由とは
続いては、看護師はなぜ有休を取得しにくいのかを考察していきます。
圧倒的な人員不足と代わりの不在
一番の理由は、医療業界全体が人手不足であることです。一人が休むと他のスタッフにしわ寄せがいくことから、「周りのみんなに迷惑をかけてしまう」と考えて、有給取得を申し出ることができない看護師も多いでしょう。
しかも、子どもの病気や自らの体調不良など、「どうしても休まなければならないとき」が訪れる可能性を考えると、そのときに堂々と休めるよう、「同僚たちにはできるだけ、日ごろ休まずに真面目に働いている姿をみせておきたい」と考える人もいるかもしれません。
シフト制・夜勤体制による人員調整の難しさ
二交代制、三交替制の病院などは特にシフト作成が複雑です。誰かが休んで穴が開くと夜勤体制などに影響する場合があるため、有休の希望を出しても、希望日が通りにくい場合があるでしょう。
緊急性の高い業務と業務の属人化
看護師の仕事は専門性が高いうえ、「この仕事は資格がある看護師でなくてはならない」「この患者のことをよくわかっている看護師が適任である」などの事情があって、簡単に休んだり業務を引き継いだりするのが難しい場合があります。
また、患者の救急対応などがあれば、予定通りの時間に帰路につけないこともあるでしょう。
有給休暇を円滑に取得するための看護師側の【注意点とマナー】
続いては、有給休暇を円滑に取得するために、看護師側が気を付けるべき注意点とマナーをお伝えしていきます。
出社日にはチームで協力し合って働き、病院に貢献する
有休休暇を円滑に取得するためには、まず、なんといっても、日ごろの勤務態度に関して100点を目指すことです。
遅刻やミスはもってのほかですし、他のスタッフと協力し合って仕事できていないことも大きなマイナスポイントとなります。こうした行動がみられるスタッフは病院からしてもお荷物となるため、本人から退職の希望が申し入れられると、病院としても「どうぞお辞めください」とすんなり受け入れる場合もあるでしょう。
しかし一方で、常に働く姿勢が立派で、病院の経営に貢献してくれているスタッフに対しては、「できるだけ長く働いてもらいたい」と思うものです。さらにいうと、「できるだけ長く働いてもらえるよう、いい条件を提示したい」と考えるため、有休取得に関しても希望を受け入れてもらいやすいと考えられます。
できるだけ早めに希望を出す
シフトを組むスタッフが困らないよう、できるだけ早めに希望を伝えることも重要なポイントです。家族や友人との旅行目的で、自分以外の参加者の予定が確定しないことからなかなか希望日を決められない場合もあるかもしれませんが、その場合も、可能な限り早めに調整できるといいでしょう。
なお、一般的には、取得日の2日~1週間前までに申請することが求められますが、会社によっては、申請期限を1か月前などと定めている場合もあるため、まずは会社の就業規則や社内ルールを確認しましょう。
【必須】丁寧な業務の引き継ぎ
申請を出した後には、有休希望日に自分が休んでも周りのスタッフが困ることのないよう、業務を丁寧に引き継ぐことが大切です。引き継ぐ相手の経験が浅く、不安が残る場合などは、業務の引き継ぎリストを作成することを検討します。
他のスタッフの希望日と被らないよう調整する
スタッフ同士の仲が良い中小規模の病院などの場合は、スタッフ間で話し合って、希望日が他のスタッフと被らないように予め調整するという方法も考えられます。
繁忙期の連続休暇は避けるのが賢明
家族旅行などが目的の場合、子どもの休みに合わせないといけないなどの事情もあって当然ですが、可能な範囲で、4月(入職・異動の時期)、12月(年末)などの繁忙期は避けるといいでしょう。
繁忙期に申請を出してはいけないということはありませんが、時季変更権を行使される確率が高くなってしまいます。そのため、時期を調整することで、事前に時季変更権を行使される確率を下げておくことが得策であるといえます。
申請理由を伝えるか否かを慎重に判断する
有給の取得申請は、原則、「私用のため」で構いません。しかし、長期休暇の場合は「家族旅行」など具体的な理由を伝えたほうが、職場によってはスムーズに受理してもらえる可能性があります。
「休みやすい職場」を見つけるには?
確実に有休を取得したいなら、「有休を取得しやすい職場」を選ぶことも大切です。まずは、次のポイントを意識して、求人票をチェックしてみましょう。
土日祝が固定休になりやすい職場
土日祝も診察している医療機関、有床の医療機関は、土日祝関係なくシフトが組まれます。しかし、土日祝は診察していない無床のクリニックや、もしくは健診センターなどは、必ず土日祝は休みとなります。
そのため、金曜日や月曜日に有休をとれば2泊3日の旅行に充てられるなど、少ない遊休でも満足のいく休みとなりやすいといえます。
有給取得率の高さをアピールしている職場
求人票で有給取得率の高さをアピールしている職場は、基本的には有休を取得しやすいと考えられます。たとえば、「5日以上の連続休暇取得推奨」「年間休日120日以上」などがその一例です。
有給休暇をきちんと取得してもらうことのメリットは?
有給休暇取得は労働者の権利ですが、雇用する側は、「人手が足りなくて困る」と思ってしまうこともあるかもしれません。しかし、スタッフにきちんと有給を取得してもらうことで生まれるメリットは大きいです。
スタッフが働くモチベーションをキープしやすい
まず挙げられるメリットは、スタッフが働くモチベーションをキープしやすいということです。日々、仕事に追われていると、心身ともに疲労が蓄積されて、ある日突然、「もう働きたくない」と働く意欲が失われてしまうこともあります。
一方、有給を活用することで必要なタイミングで心身を休めることができれば、「あしたからもまたがんばろう!」と思えます。
求職者から選ばれやすくなる
年次有給休暇取得の義務化によって定められている「年5日」より多くの有給を取得させているなら、そのことを求職票に記すなどしてアピールすれば、求職者から選ばれやすくなる可能性が高いといえます。
「勤務していない日に働く金額が増えると損をする」と考えてしまうかもしれませんが、求職者から選ばれやすくなるだけでなく、離職者が減るなどの副次効果も考えられるため、採用にかかる費用の削減につながり、結果的に大幅なプラスになる可能性も高いといえるでしょう。
有給休暇をきちんと取得させていない場合のデメリットは?
反対に、有給休暇をきちんと取得させていない場合、どんなデメリットがあるのかをみていきましょう。
懲役刑もしくは罰金が科せられる
前述の通り、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合や、使用者による時季指定をおこなう場合において就業規則に記載していない場合、または労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合には懲役刑または罰金が科せられます。
スタッフの士気が下がる
休みなく働き続けたスタッフの士気が下がり、覇気がなくなると同時に、そうしたスタッフの姿を目の当たりにした患者から、「あのクリニックで働いているスタッフはみんな疲れが溜まっているけど、ブラック企業なのでは?」という印象をもたれます。
さらに、気力が落ちているスタッフがミスをしようものなら、「スタッフが疲れていてミスをしがちで安心できません」などの悪いコメントを書き込まれる可能性も。
求職者から選ばれにくくなる
有給を取得しにくいなどのネガティブな噂は、どこからともなく広まるものです。なぜかというと、労働環境が悪いと、そのことにストレスを抱えている人は、必ず周囲に愚痴をこぼすからです。
噂が広がり、多くの人に、有給がとりにくいという事実が知れ渡ると、みるまに求職者から選ばれにくくなります。
有給取得は労働者の大切な権利
有給取得は労働者の大切な権利。当然ながら「周りのみんなも取得していないから私も我慢しなくてはいけない」などと考える必要はありません。
とはいえ、有休を取得しにくい雰囲気の職場があることも事実です。そのため、気持ちよく働き続けるためにも、きちんと有休を取得できる職場を選ぶこと(または有休を取得できる職場に転職すること)はとても大切です。
反対に雇用主目線でみると、スタッフに長く働いてもらうためにも、有給休暇をいつでも取れるような対策が非常に重要です。
「そうしてあげたい気持ちはやまやまだけど、人手が足りなくて困っている……」などなんらかの課題があるなら、改善が急務となります。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
他の関連記事はこちら
