看護師として患者と接するのは好きでも、自分以外のスタッフとの業務連絡はあまり得意ではないという人は少なくありません。特に、看護師歴が浅い場合や転職したばかりであれば、「先輩看護師から怒られたらどうしよう?」「この病院での正しいやりかたがわからない」などの不安を覚えることも多いはず。そこで今回は、看護師が苦手とすることが多い業務のひとつ、「申し送り」のコツを解説していきます。コツさえつかめば、申し送りに対する苦手意識は不思議なくらいすーっと消えていきますよ。
申し送りとは?
申し送りとは、交代制勤務の医療機関や介護施設において、患者に継続したケアを提供するために必要な情報を次の担当者に伝えることです。基本的には、日勤と夜勤が入れ替わるタイミングでおこなわれることになり、約15分~30分程度の時間がかけられます。
かつては、ナースステーションなどに集まって口頭で申し送りするのが一般的でしたが、最近は、看護記録を介して伝達する事業所もあれば、申し送りは各時間帯のリーダーが担当して、リーダーから各担当看護師に指示を出す事業所もあります。これらはいずれも、業務効率化を図るために導入されている試みです。
申し送りと混同されがちな「引き継ぎ」とは?
「申し送り」と「引き継ぎ」は混同されがちですが、この2つの言葉は意味がまったく異なります。
前述の通り、前者が「業務上、必要な情報を伝えること」であるのに対して、後者は、「退職や異動によって現場を離れた前任者に代わり、後任者が業務を担当すること」を意味します。
申し送りが大切な理由
申し送りに対する苦手意識が強く、「できるだけ短時間で済ませたい」「目新しい情報がない日はやらなくていいのでは?」と考えている人もいるかもしれませんが、申し送りは看護業務のなかでもなくてはならない不可欠なものです。その理由は以下の通りです。
病棟や施設内で起こったこと、担当医師からの指示は全員が知っておく必要がある
病棟や施設内でいつもと違う出来事が起きた場合や、担当医師から指示があった場合には、その場に居なかったスタッフにもしっかり伝達する必要があります。重要な情報を把握できていないまま業務に入るとなると、あってはならないミスを犯してしまう可能性も否めません。
安全かつ正確な処置をおこなうためには、患者の情報を正しく把握することが不可欠
患者一人ひとりに関する最新の情報を把握していなければ、安全かつ正確な処置をおこなえない場合があります。そのため、容体の変化や、何気ない会話のなかで違和感を覚えたことなどがあればすべて申し送りの際に伝えます。
患者に寄り添った看護を提供するために、患者の要望を共有することが必要
看護をおこなううえでは、医師の指示に従うだけでなく、患者の辛さや痛みを少しでも軽減してあげられるよう、一人ひとりの心に寄り添うことが大切です。そのためには、患者の何気ない変化に気づいてあげられることも望ましいですが、まずは患者の声に耳を傾け、できるだけ要望に沿った看護を提供できるよう考慮してあげることが大切です。患者から具体的な要望があがってきた場合は、申し送りを通して他のスタッフにも要望を共有します。
看護の質を追求できなくなる
申し送りに関して、医師の指示などの、“伝えないと患者が危険な目に遭う可能性が高い情報”のみを伝えるのではダメなの? と思う人もいるかもしれません。確かにそれでも業務が回らないということはありませんが、“必要最低限の情報だけ伝えておけばOKでしょ”というスタンスで仕事しているようでは、患者に対して質の高い看護を提供することはできません。また、そうした態度で申し送りしていては、他の看護師から不満の声が上がる可能性も高く、場合によっては先輩看護師などから注意されることもあるでしょう。
申し送りで伝えるべき内容は?
続いては、申し送りで伝えるべき内容を説明します。
【入院中の患者に関する情報】
⇒変化がない場合は「変化なし」でOK
⇒変化があった場合は、「変化が起きた時間」「対処の内容」「対処前後の容態の変化」「医師の指示」などを伝えます。
【新しい入院患者に関する情報】
後任者がやるべきこと
前任者の勤務中に病棟や施設内で起きたこと
いつもとは異なる出来事などが起きた場合、その情報も共有します。
申し送りをスムーズにおこなうためのコツは?
前半で述べた通り、最近は、看護記録を介して申し送りをおこなう事業所もあれば、各時間帯のリーダーのみが申し送り業務を担い、リーダーから各担当看護師に指示を出す事業所もありますが、ここからは、スタンダードなやりかたである、「各自が口頭でおこなう申し送り」に関するコツを3つのステップごとに解説していきます。
① 申し送り事項は業務中に“簡潔に”メモしておく
② メモに肉付けして申し送り事項を確認する
③ 後任者に聞き取りやすいよう話す
申し送り事項は業務中に“簡潔に”メモしておく
申し送り事項は業務中にメモ帳やタブレットなどに記録する
まず大切なのは、「申し送り事項は業務中にメモ帳やタブレットなどに記録しておく」ということです。なぜかというと、すべての業務が終わったあとにまとめて書き出そうとすると、漏れが発生してしまうためです。とはいえ、手書きでメモ帳に記録するにしろ、手持ちのタブレットに入力するにしろ、伝えたいことを伝えたいままの言葉で書き出すとなるとそれなりに時間がかかります。そのため、キーワードのみを記録しておくことをおすすめします。タブレットに入力する場合は、よく使う言葉は辞書登録しておけばすぐに呼び出せるので便利です。
また、メモには具体的な数字を残すことが必須です。使用した薬の量や使った時間帯などは、多忙なときでも絶対に間違えないように記録します。
予めフォーマットを作っておく
前述の通り、申し送りの際に必ず伝えるべき内容は決まっているので、たとえば、「排尿回数( )回/排尿時間( 時、 時、 時、 時)/医師からの指示( )」などと、( )内を埋めるだけでOKのフォーマット用紙やPDFを1枚作成しておいて、それをコピーまたはプリントアウトして毎回の業務に使うのも一手です。もしくは、ノートの表紙裏側などにフォーマットを記録しておけば、毎回コピーやプリントアウトする必要がありません。
メモに肉付けして申し送り事項を確認する
メモしたことを、客観的事実と主観にわけていく
申し送りでは、「実際に起こったことや実際のデータ」と「それに対して自分が感じたこと」の両方を伝えるのが基本です。後任者が、客観的事実なのか前任者の主観なのか間違えることのないよう、情報を整理しましょう。
5W1Hを伝える
「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」を意識してメモを取るのが理想ですが、すべてをメモできていない場合は、メモに肉付けしていきます。
不要な言葉は省く
漏れがないように申し送りしようとした結果、だらだらと長くなってしまうと、伝えられた相手は、要点をつかめず混乱してしまいます。肝心な情報をしっかりと伝えるためには、不要な言葉を省いて簡潔に伝えることが大切です。
SBAR(エスバー)を活用する
SBAR(エスバー)とは、主に患者の容態急変時に用いられる手法で、他者に情報をわかりやすく伝えられるメリットがあります。具体的には、以下の4点に関して順を追って説明する手法です。
1. 状況(Situation)…何が起きているのか
2. 背景(Background)…患者の背景
3. アセスメント(Assessment)…患者を看護した看護師の件かい
4. 提案(Recommendation)…看護師の提案、要望
後任者に聴き取りやすいよう話す
申し送り内容が完璧であっても、後任者に伝わるよう話すことができなければ意味がありません。申し送りの際には、以下の3つのことを意識しましょう。
1. はきはきと大きな声で話すこと
2. 相手が聴いていることを確認しながら話すこと
3. 早口にならないようゆっくりと話すこと
なお、自分のイメージでは3点ともクリアできていると思えても、相手からすると「わかりにくい」ということもありえるので、申し送りの相手に、ちゃんと伝わったかどうかを確認したり、スマホのレコーダーで自分の申し送りを録音して聴いてみたりするといいでしょう。
申し送りがうまい人を真似するのは、上達の一番の近道
申し送りは、コツを踏まえて一つひとつ着実に実践していけば難しいことではありませんが、なかなかうまくならないなと感じられるなら、自分が「この人は申し送りが上手だな」と思う人の真似をすると、自然とコツがつかめてくるでしょう。たとえば、声の大きさやトーン、話しているときの視線や話すスピードなどに着目しながら観察すると、うまい人は何が違うのかがみえてきやすいですよ。もしくは、申し送りがうまいと感じる看護師に、直接アドバイスをお願いするのも一手。「あなたの申し送りが上手だからコツを教えてほしい」と言われてイヤな気分になる人はいないので、勇気を出して聞いてみては?
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年7月時点の情報を元に作成しています。