開業のクリニックでしっかり節税対策を行う方法とは?税理士が解説する忘れがちなポイント

多くの医師が開業時には個人事業主としてスタートします。これまでの勤務医とは大きく変わるのが税金の考え方。

確定申告を行った経験のある方でも、とくに開業1年目は制度の違いに戸惑うケースも多いものです。

「何が経費として認められる、認められないのか」
「クリニックならではの注意すべき点はあるか」
「医療法人にしたほうがよいタイミングはあるのか」

など税金に関する質問について、多数のクリニックを顧客に持つ税理士に詳しくお聞きしました。

今後の開業を検討している方は、とくに参考にしてください。

※本記事に記載の情報は取材を行った2022年7月15日現在です。

回答者:アミックビジネスコンサルティンググループ 代表・税理士法人 アミック&パートナーズ 代表/税理士・行政書士 谷中田 悟氏

税理士、行政書士とともに医業経営コンサルタントとして会計業務を中心に40年以上活躍してきた。数多くの経験と人とのつながりを大切にし、経営・開業に関する助言指導を得意としている。とくに医療・ヘルスケア領域の実績が豊富で、グループに税理士、行政書士、社労士など有資格者が所属していることからワンストップでサービス提供を受けられると経営者からの評価も高い。

目次
  1. 開業医の確定申告
  2. クリニックの事業収入は3つ
  3. 一定のクリニックが使える特例経費
  4. 個人開業医が節税に使える有効な制度
    1. 小規模企業共済に加入する
    2. 経営セーフティ共済(倒産防止共済)に加入する
    3. 従業員を対象とした生命保険加入
    4. iDeCoを活用する
  5. 節税対策に関するQ&A
    1. Q:医療法人に移行するタイミング、目安はどう考えればよいでしょう
    2. Q:開業までにかかった費用も経費になるのですか?
    3. Q:他にありがちなミスがあれば教えてください。
  6. 確定申告は個人でも可能。ただ税理士との相談は大切

開業医の確定申告

まず税金の考え方が、勤務医すなわちサラリーマン時代とどう変わるのかを整理します。

勤務医は原則、給与所得のため次の式で計算できます。

  • 課税所得=給与収入-給与所得控除-所得控除
  • 課税所得×所得税率-税額控除=納付税額

給与所得控除は一律計算できるため、税額の計算も簡単です。複数の医療機関に勤めたり、年間の給与所得が2,000万円以上だったりする場合は、確定申告が必要です。しかし該当しない場合は、年末調整で年税額が確定できるため確定申告は不要です。

一方、クリニックを開業した個人事業主は、所得のメインが事業所得に変わります。経費の金額が正しいか、源泉徴収税額に間違いがないか、自身で納付税額を計算して必ず確定申告を行わなければなりません。

個人事業主の税金は、次のような考え方となります。

  • 課税所得=事業収入-必要経費-所得控除
  • 課税所得×所得税率-税額控除=納付税額

所得から差し引ける必要経費や所得控除、また税額を差し引ける税額控除なども、自身で計算して申告をする必要があります。

--自院以外からも得られる収入を自分で把握しなければなりませんね。
谷中田:そうですね。勤務医時代に「ほぼ給与所得しかなかった」先生は、戸惑うかもしれません。開業後も他の病院・医院で非常勤で働く場合がありますね。これらは給与所得となります。ほかにも不動産所得や雑所得などがあるので、これら副収入は事業所得と合わせて計算する必要があります。

クリニックの事業収入は3つ

クリニックの事業収入は次の3つに分類されます。

  • 保険診療収入
  • 自由診療収入
  • 雑収入

保険診療収入とは、社保と国保から支払われる公的保険による収入のこと。「うちは基本的にすべて保険診療」と言う先生は、自由診療と言われてもイメージが湧かないかもしれません。

しかし実際には、予防接種、健康診断、保険証を持参しなかった場合の診療などはすべて自由診療にあたります。また労災や自賠責による収入なども同様です。

文書料、クリニックで販売しているちょっとした健康食品や自動販売機による収入は「雑収入」に分類されます。

一定のクリニックが使える特例経費

医薬品費や診療材料費、人件費、管理費など、事業のために支出した金額を必要経費として計上します。

一定の条件に当てはまるクリニックだけが適用できる租税特別措置法の特例により、大きく節税できるケースがあります。

条件は保険診療収入が5,000万円以下で、かつ他の収入を含めた総収入が7,000万円以下であること。

保険診療収入 概算経費率
~2,500万円 72%
2,500万円超~3,000万円 70%+50万円
3,000万円超~4,000万円 62%+290万円
4,000万円超~5,000万円 57%+490万円

例として、収入はすべて保険診療収入で3,600万円、経費総額2,000万円の個人開業クリニックを想定します。

課税所得は、特例を適用しなければ3,600-2,000=1,600万円。

一方で、特例下では概算経費は3,600万円×62%+290万円=2,522万円なので、課税所得は3,600-2,522=1,078万円です。

この場合、特例を適用すると、所得を500万円圧縮できます。

谷中田:ポイントは特例を「使うか」「使わないか」で有利な方を選択できる点です。つまり計上できる経費が少ないなどの場合は、概算経費で計算した方が所得税が安くなります。

また本来はかかった経費の金額を正確に算出しなければなりませんが、この制度により領収書などをすべて集計しなくても経費が計上できる点が便利です。

個人開業医が節税に使える有効な制度

ここからはクリニック以外でも、一般的な個人事業主が利用したときの節税効果が高い制度を3つ紹介します。

小規模企業共済に加入する

節税対策として広く知られているのが「小規模企業共済」です。業種を問わず、個人事業主が退職金代わりとして積み立てているケースが多くあります。

谷中田:月額7万円、つまり年間84万円が個人の所得から控除されます。個人事業主なら、利用をおすすめします。ただし医療法人に法人成りした場合には、特定の場合を除いて加入資格を失い、解約が必要となります。その場合も解約手当金は受け取れますが、積み立てた金額を下回ることもあるので、すぐに法人化を検討している方は注意です。

経営セーフティ共済(倒産防止共済)に加入する

正式名称を「中小企業倒産防止共済」と言います。取引先が倒産したとき、連鎖倒産を防ぐための貸付を受けられるというものです。

掛金は最大で800万円まで積み立てられ、すべてが事業の経費として処理できます。こちらも医療法人は加入できませんので、法人化を検討している方は注意してください。

谷中田:月々の掛金は5,000円~20万円まで。最低40か月の払い込みを続ければ積立額は100%戻ってきます。いつでも解約できますが、戻ってきたときには収入となるので、税金がかかります。

従業員を対象とした生命保険加入

スタッフのケガや病気、また死亡時の対策として、さらには退職金の原資として、生命保険を活用する方法があります。

養老保険など積立式の生命保険に加入し、死亡保険金の受取人を従業員の家族とすることで、保険料の半分を経費に計上できます。医療法人成りした場合には、年間保険料が30万円未満の一定の生命保険について全額を損金にすることも可能です。

谷中田:院長自身の保険も一般・介護医療・個人年金の各分野合計で12万円の所得控除が受けられるので、原則フル活用をおすすめしています、

iDeCoを活用する

個人事業主の開業医は、毎月68,000円まで掛けられます。

税制面で優遇されているうえに投資信託や定期預金として利益をあげられます。掛け金全額が所得控除されるので、年間80万円以上が控除対象になるというわけです。

投資信託にまわした場合は元本割れのリスクがある、また60歳になるまでお金を引き出せない点はデメリットと言えますが、個人でできる対策としての節税効果は大きいです。

節税対策に関するQ&A

そのほかよく開業医に行うというアドバイスを谷中田氏にお聞きしました。

Q:医療法人に移行するタイミング、目安はどう考えればよいでしょう

谷中田:やはり所得税の税率が上がり、法人税率と比較してどちらが高いか低いかというのが一般的に言われるポイントです。
一方で法人になると社会保険への強制加入という点も考慮しなくてはなりません。それらも含めて、節税効果を期待するなら、課税所得が2,500〜3,000万円程度がひとつの目安になるでしょう。

法人と個人の区切りをつける、また法人の方が対外的な信用を得やすいなどの効果もあるので、課税所得額だけで判断するのはやや乱暴ですが節税対策だけを考えるならば、所得が一定の水準を超えるようになったタイミングで法人成りを考えるのもありです。

Q:開業までにかかった費用も経費になるのですか?

谷中田:はい、開業前の領収証も取っておいてください、というのはよくお伝えしますね。開業準備にかかったお金、たとえば下見のときの費用、パソコンの購入費、コンサルタントや業者との打ち合わせ費用、開業前の家賃などもありますね。開業日までの借入金の利子なども含まれることがあります。ただし10万円以上のものは、別段の処理が必要となることもあるので注意が必要です。

Q:他にありがちなミスがあれば教えてください。

谷中田:比較的地方に多いのですが、クリニック兼住宅として開業する場合の住宅ローン控除に注意です。全体の面積のうちクリニック部分は2分の1未満にしなくてはなりません。

それに合計所得金額が2,000万円(令和3年までは3,000万円)を超えた場合にも、住宅ローン控除が受けられなくなります。

また意外と知られていないのですが、レセコンや電子カルテを導入した場合、税額控除の対象になります。その年に控除しきれなかった金額があっても、申告しておけば翌年まで繰り越せるんです。これは忘れがちですね。

確定申告は個人でも可能。ただ税理士との相談は大切

クリニックを開業した医師が、個人でできるさまざまな節税対策を紹介しました。今や会計ソフトなども発達したので、確定申告自体は以前よりも簡易に実施できるようになっています。

しかし「医療機関の事情に詳しい税理士がおすすめ」だと谷中田氏は指摘します。悪意はなくても、知識がないゆえに申告漏れが起これば、追徴の可能性もあります。ぜひ一度、税務相談を受けてはいかがでしょうか。

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藤原友亮

執筆 執筆者 | 藤原友亮

医療ライター。病院長や医師のインタビュー記事を多く手がけるほか、クリニックのブログ執筆やSNS運用なども担当。また、法人営業経験が長く医療機器メーカーや電子カルテベンダーの他、医師会、病院団体などの取材にも精通している。


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