![開業医の廃業率は? 経営難に陥る理由とリスクヘッジを解説](https://clius.jp/mag/wp-content/uploads/2024/12/pixta_69701612_M.jpg)
これから開業を考えているドクター、もしくは開業したばかりのやる気に満ち溢れたドクターは、自院が廃業する可能性など考えることはないかもしれません。しかし、万が一の事態が起きかけたときに、どのように立ち回るかを考えておかなければ、いざというときにベストな行動をとるのは難しいものです。そこで今回は、開業医が経営難に陥る原因やその対策を解説していきます。
開業医の廃業率の実態は?
まずは、開業医の廃業率の実態について説明します。
厚生労働省が公表している「医療施設動態調査(令和5年12月末概数)」によると、日本全国のクリニック数に関する最新データは令和5年12月時点のもので、10万5,418件となっています。
参照:厚生労働省「医療施設動態調査(令和5年12月末概数)」
一方、帝国データバンクが公表している「医療機関の休廃業・解散動向調査(2023年度)」の結果を見ると、2023年度のクリニックの休廃業・解散件数は580件、倒産件数は28件となっています。
参照:帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散、709件で過去最多」
2つのデータから、10万5,418件中608件のクリニックが休廃業・解散または倒産していることがわかるので、クリニックの廃業・倒産率は約0.58%ということになります。
なお、同じく帝国データバンクのデータによると、医療機関の休廃業・解散件数は2023年度に過去最多を記録しており、クリニックの休廃業・解散件数に至っては、10年で約2.4 倍にも膨れ上がっているという結果です。
参照:帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散、709件で過去最多」
また、医療・福祉業界全体の廃業率としては、中小企業庁が公表している2024年版の「中小企業白書 小規模企業白書」において、2.3%と発表されています。この数字には、クリニックや病院だけでなく、福祉関係の企業も含まれるため、前述の0.58%とは大きな開きがあります。なお、中小企業庁公表の全産業における廃業率は3.3%であるため、医療・福祉業界全体の廃業率にしろ、クリニックのみの廃業率にしろ、他産業と比べて高いわけではないことがわかります。
参照:中小企業庁「2024年版 中小企業白書 小規模企業白書」
開業医が廃業を選択する7つの理由
続いては、開業医が休廃業に追い込まれる理由として考えられることを解説していきます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
後継者が見つからないため
後継者不足は、少子高齢化によってあらゆる分野で深刻化していますが、医療業界も例外ではありません。しかも、厚生労働省が公表している「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 」によると、クリニック勤務の医師の平均年齢は60.4歳と既に高齢。そこから20年、30年と診療を続けことは難しいため、後継者が見つからなければ廃業せざるを得なくなるでしょう。
参照:厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 」
医師としてのスキル不足
開業医として独立するからには、それなりに自分の医療技術に自信がある場合が多いと考えられますが、仮にほかの開業医も全員自身の腕に自信があるとすると、そのなかで“選ばれるクリニック”となることは簡単ではありません。
また、個人事業主として成功するためには、患者やスタッフと円滑にコミュニケーションをとるスキルなども求められます。どんなに腕が立つドクターであっても、コミュニケーションスキルに問題があれば、「スタッフが定着しない」「患者数が伸び悩んでいる」という問題を抱えがちです。
経営に関する知識不足
医療技術、コミュニケーションスキルの両方に長けていても、経営が得意でなければ、クリニックがうまくまわらなくなる場合があります。何にどのくらいお金をかけられるのか、銀行からの融資を予定通り返済するためには月々いくら稼ぐ必要があるのかなどをきちんと把握して、目標を達成することができなければ、運営を続けることは難しいでしょう。
固定費が高すぎるため
固定費が高すぎる場合は、「今と同じ固定費をかけ続けていたらクリニックがまわらなくなる」と気づいた時点で、固定費を減らす必要があります。そうでなければ、どれだけ軌道修正に力を入れても、経営改革の結果は出にくいでしょう。
クリニックの固定費には、賃貸料、リース料、電気光熱費、インターネット回線代、各種システムの利用料、人件費などが該当します。このうち物件を乗り換えることはそう簡単にはできませんが、それ以外は、工夫次第で月額を減らせる場合もあるでしょう。
たとえば人件費に関しては、レセプトチェックに時間がかかるぶん、残業代が発生しているとしたら、レセプト点検に役立つソフトを導入することによって減らせる可能性があります。
電子カルテをはじめとするシステムに関しても、導入時より、各社ともに機能が充実している場合が多いので、今より安くていいシステムを見つけることができるかもしれません。
集患がうまくいっていないため
基本的な経営手腕があっても、時流にうまく乗れていないと、集患で結果を出せない場合があります。具体的にいうと、今の時代であれば、ホームページを用意することはもちろん、SNSやGoogleアカウントをうまく活用しながら自院のことを宣伝していくことが必要ですが、ユーザーがよく観るメディア・よく使うツールなどは常に変化するものであるため、時代の流れをつかまなければ十分に宣伝することができない場合があります。
情報収集力が弱いため
経営に関する基礎知識を有していたとしても、最新情報をキャッチし続けることが不得手であれば、結果的に大きな損を招く可能性があります。たとえば、診療報酬点数は定期的に改訂されているため、重大な変更点を見落とすと点数を取りこぼしますし、オンライン資格確認のスタートなどの大きな変革があった際、利用できる補助金や助成金を早い段階で見つけることができるかどうかでも、得をする人・損をする人にわかれます。ひとつの損が小さなものであっても、チリツモで資金繰りが悪くなり経営難に陥る可能性がゼロとはいえないでしょう。
人手不足
前述の通り、コミュニケーションスキル不足でスタッフが集まらないこともあれば、そもそも過疎地で医療従事者が少ないことから、働き手をみつけられないこともあるでしょう。また、競合と比べて高い給料を出せないことから、働き手を周囲のクリニックにとられてしまう可能性もあります。
開業医が廃業を回避するための6つの対策
続いては、開業医が廃業を回避するためにできることをみていきます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
後継者探しを早めにスタートする
廃業を回避することそのものを重視するなら、早い段階で後継者探しをスタートすることが得策です。現在、40~50代前後であれば、「いくらなんでもまだ早い」と思うかもしれませんが、後継者が見つかったらすぐに自院を譲り渡すのではなく、「まずは自院で一緒に働いてもらいながら育成して、ゆくゆくは自院を継いでもらう」などの方法もあります。
もう少し上の世代であれば、理想の承継タイミングより数年早い時点で、「条件に合う医師がいたら紹介してほしい」と仲介業者に頼んでおけば、お互いゆとりを持って相手を見極めることができるでしょう。
スタッフや患者の意見に真摯に耳を傾け、経営や診療を改良し続ける姿勢を保つ
「スタッフが定着しない」「患者数が減り続けている」などが原因となる廃業を防ぐために第一に実践すべきは、スタッフや患者の意見に耳を傾け、改良できるところを改良していくことです。設備の老朽化などが大きな問題であるケースなどは、すぐに状況を変えることは難しいですが、「他院のほうが待遇がいい」「隣の病院の先生のほうがしっかり診察してくれる」などが原因のケースのほうが圧倒的に多いはずなので、改良の余地は大きいといえるでしょう。
スタッフの考えを知りたい場合は、1on1などが役立ちますし、患者の意見を知りたい場合は、まずはGoogleマップのコメントなどをチェックすることが有効。辛辣な意見が入っていたとしても、それが真実であるなら、きちんと受け止めて改良するよう努力しましょう。
地域医療に力をいれる。近隣の医療機関や行政としっかり連携をとる
地域医療に力をいれて、近隣の医療機関や行政との連携を強めていけば、患者が何を求めているかがよりはっきりとつかめるようになります。特に、集患がうまくいかないことが原因で廃業に追い込まれかけているクリニックなどにとっては、大きな改革のきっかけとなり得るでしょう。
経営に関する知識を磨き続ける
経営スキルに長けていないことが原因で赤字が続いているなら、まずやるべきは自身の経営スキルを磨くことです。そもそも何から始めたらいいかわからない、自分にできていないことがなんなのかがわからないという場合は、経営に関する勉強会などに定期的に足を運ぶことをおすすめします。
オンラインの経営セミナーや、経営に役立つ動画を活用すれば、スキマ時間に必要な知識を得ることができます。
参照:クリニック開業ナビチャンネル「クリニック開業・経営支援のお役立ち情報を動画でご紹介」
医療DXについての学びを深める
医療DXへの意識が低く、オンライン診療や予約システムの導入がまだであれば、まずは医療DXの有用性についての学びを深め、業務効率化に役立つシステムやツールを導入することが大切です。なぜかというと、オンライン診療にしても予約システムにしても、業務効率化に役立つと同時に、患者にとっても「自宅で診察を受けて薬を受け取ることができる」「体調が悪いなか、院内で何十分も待たなくいい」などメリットが大きいためです。つまり、医療DXを進めることで、患者から選ばれるクリニックとなるため、廃業回避につながるというわけです。
専門家のサポートを受ける
経営スキルが不足している場合も、IT・IoTに関する知識が不足している場合も、自分で必要な知識を吸収するのが難しいなら、専門家を頼るのが得策です。たとえば、コンサルや税理士に介入してもらったり、電子カルテメーカーの担当者に、オプション機能の設定などを任せたりもそのひとつ。サポート内容によっては有償の場合もありますが、サポートによって得られる恩恵を考えると大きなプラスとなる場合もあります。
成功する開業医の共通点とは?
続いては、成功する開業医の共通点をみていきましょう。成功する開業医には、主に次のような共通点があります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
成功しやすいエリアを選んで開業している
開業地選びは、クリニックの今後を大きく左右する大事なポイントです。どんなに腕が立つドクターであっても、患者が来院しにくい場所に立地したクリニックであれば、自身の腕に見合っただけの患者数は見込めません。また、競合が多いエリアであれば、そのぶん患者が分散してしまいます。
開業地選びの際には、駅からの距離や駐車場の有無はもちろん、自院のターゲットとなる患者を多く集患できそうなエリアであるのかどうかなども考慮することが大切です。
医師として必要な知識およびスキル、経営者として必要な知識およびスキルの両方を有している
ここまでにも説明してきた通り、開業医として成功するためには、医師として必要な知識およびスキル、経営者として必要な知識およびスキルの両方を有していることが不可欠です。勤務医として働いている時代には、経営者としての知識やスキルが求められることはないので、開業医として成功するためには、経営に関して一から勉強することが必須となります。
よりよい医療を提供できるよう、システムやツールを刷新し続けている
クリニックの運営に必要な機材やシステムは、開業時にすべてそろえるものですが、その後も必要に応じて新しいものに入れ替えていくことが大切です。たとえば、紙カルテからスタートしたクリニックは、時代の流れとともに、電子カルテに切り替えることが求められるようになりましたが、診療に使う機材やIoT関連のものも常に進歩し続けているため、よりよいものへと変え続けていくことが理想です。
特に、美容外科クリニックや美容皮膚科クリニックの場合、最先端の機器があるかどうかで、患者に選ばれる確率が大きく変わってくるので、最新の技術を取り入れ続けることを考えて資金繰りしていくことも大切です。
開業医として、廃業リスクを下げる努力をすることはとても大切
開業医のなかには、「いずれは引退することになるのだから、最終的に廃業となっても問題ない」「もし廃業に追い込まれた場合はまた勤務医としてがんばればいい」と思う人もいるかもしれません。もちろん、どんなに努力しても廃業となる可能性をゼロにすることはできないので、結果的にそうなってしまった場合は仕方ありません。しかし、自院が廃業となった結果、かかりつけ医がいなくなる患者、仕事がなくなるスタッフも存在するのですから、できる限りリスクヘッジに力を入れることは開業医としての責務でもあるといえます。「医療の勉強を続けるのは苦じゃないけど、開業してみたら経営者には向いていないことがわかった」などの葛藤もあるでしょうが、その場合は早めに承継に向けて動いたり、経営は他の人に任せたりと、選択肢はいくつかあるので、まずは自分に何ができるか考えてみるといいかもしれませんね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年12月時点の情報を元に作成しています。