2020年10月、株式会社リード エグジビション ジャパンによる、第一回クリニックEXPO 東京が開催されました。
本記事は、第一回クリニックEXPOでの、日本医師会副会長・今村 聡 氏の講演内容(テーマ:「地域医療におけるクリニックの役割と経営」)を受けて行った取材をもとに作成しました。クリニックEXPOで今村 氏は、診療所を開業するには、医師としての専門性を持つだけでなく、地域ごとの将来的な需要を予測する必要があるとおっしゃっていました。このような内容も含め、これからの診療所開業・経営に求められる要素を伺いました。
※以下は、質問に対して今村 氏が回答した内容です。
Q これから診療所を開業・経営する際に求められる要素を教えてください
医療的な知識や技術はもちろんのこと、それ以外のさまざまな要素を押さえておく必要があると思います。
地域との連携を強化し、初期投資を最小化する
病院で働き続けていた医師が開業する際によくすることは、病院の医療をそのままやろうと、初期設備投資をし過ぎたり、病院の看護師を何人も呼んできて人件費をかけ過ぎたりすることです。これでは固定費がかさんで、毎月赤字になります。
本来なら、地域でどういった役割の病院・診療所があり、そこではどんな機器があるのか把握した上で、自院の導入機器を検討するなど、他の医療機関と差別化しつつ連携できるようにした方がいいです。リスクを認識して、スモールスタートすることが現代に適した開業スタイルだと思います。
先日のクリニックEXPOでも話した通り、これから特に大病院は専門的な入院治療や処置が中心になってくると思います。病院は、それらの治療が終わって状態が落ち着いたら患者さんを地域の診療所に戻し、逆に病院での治療が必要な患者さんを診療所から紹介してもらう流れにシフトしていく。そうすれば、医療機関全体が円滑に循環します。
診療所単位でも、検査機器を補い合えるよう連携すれば、多くの機器を導入せずとも患者さんのスムーズな診察を担保できます。
このような地域の医療機関との連携は今後、より大事になってくるはずです。
コミュニケーションスキルや将来を見越した計画など、医療以外の要素
また、開業自体が個人的適性として向いているかどうかがあります。医学的に能力が同じでも、開業して継続的に集患できる医師もいれば、なかなか患者さんが集まらない医師が生まれてしまいます。
同じ地域に1000人の需要があり、3人の医師しかいないとしても、それぞれが均等に333人の患者さんを担当できるわけではありません。
特に昨今は、開業して、例えば患者さんが増える診療所と、そうでない診療所といったように、差が出てきています。
この原因は、まずは医師のコミュニケーションスキルなど、医学ではない部分が関係していると思います。
また、地域需要の予測ができるかどうかも大事です。駅前に人が集まりやすいからと開業しても、20年、30年で患者さんがいなくなることもありえる話です。
コロナもその一例です。都市部のビジネス街を狙って開業したとたん、コロナによって在宅勤務が当たり前になり、患者さんが集まらない状態に陥った診療所もあるでしょう。
このようなことは誰も想定できませんでした。
日本医師会と政府は、医師が未来を予見できるよう情報網の整備について話を始めたところです。
つまり、医師一人ひとりが地域動向に応じた開業戦略を立てられるように、医師の偏在指標、今後想定される患者の流出入状況、将来の人口推計などを可視化したデータを提供する、といった方向で固まりつつあります。
また、計画を立てるときには、開業してから軌道に乗るまでの間、事業を継続できるかどうかも大切です。
最近はホームページからの集患がメジャーになっている印象ですが、口コミの影響力は未だに大きいです。その口コミも、1人からの情報ではなく、知り合い2、3人から聞いて初めて患者さんは「試しに行ってみよう」となります。
したがって、地域での評価が高まるまで、事業を継続することが必要となります。
Q コロナで注目されたオンライン診療は、今後の診療所運営にとって欠かせない存在になると思いますか?
システムとして販売している企業や、医療界のイノベーション・IT化に関わっている医師はオンライン診療を進めようとします。しかし、実際には、患者のニーズとはややズレがあるように思います。診療所がオンライン診療システムを導入しても結局ほとんど使わず、患者さんは対面での診療を受けに来ることも多いようです。
医師としての懸念点もいくつかあります。
懸念点1:患者さん自身で示せる数値的な情報が少なく、診断が困難
患者さんが自分で提示できる数値的な情報に乏しいのは問題です。患者さんが申告できるのは、おそらく血圧くらいでしょう。パルスオキシメーターを誰しもが持っているわけではありませんから、酸素飽和度を把握することはおおよそ不可能です。
さらに、オンライン診療の画面だけを通して得られる情報の少なさもあります。顔色や爪の色、震えの確認などは直接会うからこそ違いに気づくこともあります。
このように、限られた情報で診断を下すことの難しさがオンライン診療の懸念点といえます。
懸念点2:オンライン診療によって時間が制限されてしまう
医師は、オンラインで1対1の診療をしている間は何もできなくなってしまう不自由さもあります。患者さんが時間通りにオンライン診療の画面に現れないと、画面に現れるまで待ったり、「当日キャンセル」と判断するまでタイムロスが発生します。たとえ10分遅れてきたとしても、その10分間、医師は拘束されたり、院内に来ている患者さんを待たせる可能性があります。
以上のようなことから、今後の診療所運営にオンライン診療が必須とは言い切れません。オンライン診療を、診療スタイルのひとつの選択肢として持っておく分にはいいと思います。オンライン診療をするとしても、対面とオンラインを組み合わせながら、オンライン診療専用の時間を作るなど、対面診療の患者さんを待たせない工夫をしながら進める必要があると思います。
Q 開業医にとって、医師会に入会するメリットは何だと思いますか?
医師会に入る意味は大いにあります。
医師会に入らずとも、例えば個人間で医師同士コミュニケーションをとっていくことも確かに可能ですが、医師会でしか得られないネットワーク・情報は確かにあります。
現在は数年前よりも、開業をするにあたって将来的な予測をしっかり立てて計画を練らなければならない時代です。
診療報酬の将来を例にとると、これはもちろん医療行為によりますが、2年ごとに単価が変わっていきます。仮に患者数が同じで、今の技術の対価が変動した場合は、医業損益も変わってきます。こういった情報は日々アップデートされますから、医師会でのアナウンスや集まりを通じてしっかり理解していただければと思います。
医師会に入らない医師は、積極的に自分で情報収集する必要がありますが、医師会に入っていればこのような情報が定期的に手に入ります。
よりよい経営をしていただくためにも、医師会を活用していただければと思います。
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>>>(1)【セミナーレポ】クリニックEXPO「地域医療におけるクリニックの役割と経営」
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2020年12月時点の情報を元に作成しています。
取材協力 日本医師会 副会長 | 今村 聡
秋田大学医学部卒業。三井記念病院、神奈川県立こども医療センター等で勤務の後、浜松医科大学講師を経て、1991年に今村医院を開設し、現在は医療法人社団聡伸会 今村医院 理事長。板橋区医師会理事、東京都医師会理事等を歴任し、2012年より日本医師会 副会長。
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