
確定申告は、基本的には勤務医に関しては自分でおこなう必要はありません。しかし、一定の条件に当てはまる場合は必要となるので、どんなときに必要となるのか、どんな点に注意して確定申告をおこなえばいいのかは知っておく必要があります。そこで今回は、医師が確定申告する際の注意点や、確定申告を通してできる節税対策についてお伝えしていきます。
確定申告の重要性
確定申告とは、申告する前年度の1月1日から12月31日までの間に得た所得と、所得に対する納税額を計算して確定させる手続きです。源泉徴収された税金や予定納税額などがある場合は、確定申告によって過不足を精算します。
確定申告がなぜ重要かというと、日本は所得税の納税に「申告納税制度」を採用しているため、原則として、納税者自身が納税額の計算から納税までの手続きをおこなう必要があるためです。確定申告をしなければならない条件に当てはまっているにも関わらず申告しなかった場合、無申告加算税の対象になりますし、期限内に申告しなかった場合は延滞税を徴収されることとなります 。
勤務医でも確定申告が必要になるケースがある
前述の通り、納税者は原則として自身で納税額の計算から納税の手続きをおこなう必要があります。ただし、給与の収入金額が2,000万円以下で、かつ給与を1か所から受けていて、その給与の全額について源泉徴収されていて、給与所得および退職所得以外の所得金額が20万円以下であれば、自分で確定申告をおこなう必要がありません。つまり、企業に雇われている会社員の多くがこれに該当するということになります。
さらに詳しく説明すると、国内において公的年金等の支払を受けている人で、「その年の公的年金等の収入金額が400万円以下」「その公的年金等の全部が源泉徴収の対象」「その年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下」の3つの条件を満たしている人も、確定申告をする必要はありません。
以上の条件から、勤務医が確定申告しなくてはならないケースとしては、以下の3パターンが考えられます。
さらに、以下の項目に当てはまる場合は、上の2パターンに当てはまらなくても確定申告が必要です。
それぞれ具体的に説明していきます。
給与の収入金額が2,000万円を超えている
給与の収入金額が2,000万円を超える場合、なぜ自分で確定申告しなければならないかというと、年収2,000万円以上だと年末調整の対象外となるためです。
参照:国税庁「給与等の金額が2,000万円を超える者の源泉徴収票の記載要領」
複数の医療機関に雇われている
給与を受けている先が1か所でない場合、確定申告が必要になることがあります。ただし、メインの勤務先において、他の勤務先の所得を合算して年末調整をすれば、確定申告の必要はありません。メインの勤務先が、自院の所得のみで年末調整をおこない、かつ年末調整をおこなっていない他の勤務先の所得が年間20万円を超える場合には、所得税の確定申告をおこなう必要があります。
副業の収入や副収入が20万円を超えている
給与所得と退職所得以外の所得が年間20万円を超える場合も、確定申告が必要です。たとえば、医師として執筆や講演をおこなった場合の謝礼は雑所得、マンションの賃貸収入は不動産所得に該当しますが、これらの合計金額が年間20万円を超える場合、確定申告しなくてはなりません。
医療費控除やセルフメディケーション税制を適用させたい
年間の医療費が10万円を超える場合、確定申告することによって所得から控除されます。セルフメディケーション税制は、医薬品の購入や健康促進・疾病予防の取り組みへの支出額が年間1万2,000円を超えた場合に超過分から所得が控除される仕組みです。ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制はいずれか一方しか適用されません。
参照:厚生労働省「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について」
寄付金控除、寄附金特別控除を受けたい
国、都道府県・市区町村、住所地にある日本赤十字社の支部、震災関連事業、政党・政治資金団体、公益財団法人・公益社団法人・学校法人、認定NPO法人などへの寄付金は、寄附金控除もしくは寄附金特別控除の対象となるため、確定申告することで節税につながります 。
ふるさと納税の納付先自治体が6か所以上で、ワンストップサービスの適用を受けていない
ふるさと納税も寄附金のひとつですが、納付先自治体が5か所以下で、かつワンストップサービスの適用を受けていれば確定申告する必要はありません。反対に、納付先自治体が6か所以上で、ワンストップサービスの適用を受けていない場合、自分で確定申告しなければ控除を受けられません。
参照:国税庁「寄付金控除(ふるさと納税など)を受けられる方へ」
初めて住宅ローン控除を受ける
「住宅ローン控除」とは、一定の要件を満たした住宅をローンで購入した場合、年末ローン残高の0.7%が最大13年間控除される制度です。しかし、住宅を購入した年は、年末調整において住宅ローン控除に対応することができないため、その年のぶんの住宅ローン控除を受けるためには、翌年の確定申告で手続きする必要があるというわけです。ただし、その翌年以降は勤務先の年末調整で対応できることから、“住宅ローンを開始した年の翌年のみ”確定申告で手続きすればいいということになります。
ただし、開業医は毎年確定申告する必要があるため、控除が適用となる期間の途中で独立して開業した場合などは、そのタイミングから自分で手続きする必要があるので、手続きを忘れないように注意しましょう。
参照:国税庁「住宅借入金等特別控除の対象となる住宅ローン等」
参照:国税庁「一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)」
特別支出控除を適用させたい
個人事業主は、必要経費にかかった費用を申告することで税金を抑えることができますが、給与所得者の場合、基本的には経費を控除することはできません。ただし、以下の項目にかかる費用の合計額が一定の基準を超えた場合、経費として申告して税金の還付を受けることができます。
雑損控除を受けたい
以下のいずれかによって被害を受けた場合、確定申告をすれば一定額が所得から控除されます。
参照:国税庁「災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
開業医の確定申告は勤務医の確定申告とどう異なる?
開業医は、勤務医とは違って、必ず確定申告する必要があります。では、開業医の確定申告と勤務医の確定申告にはどんな違いがあるかというと、まず、所得の区分が異なります。
勤務医は、勤務先から給与を得ているため「給与所得」となる一方、開業医は自分で医療機関を経営しているため、「事業所得」となります。
事業収入は「保険診療収入」「自由診療収入」「雑収入」の3つにわけられます。保険診療収入とは、社会保険診療報酬と国民健康保険診療報酬による収入で、自由診療収入は保険適用外の診療収入です。健康診断や予防接種の収入もこれに含まれます。雑収入は医療行為以外の収入で、診断書の作成や医療関連商品の売上がこれに該当します。
また、前述の通り、開業医の場合、事業をおこなうために必要なこと・ものに支払った金額は経費として計上できるため、請求書や領収書は必ず保存しておくことを忘れないようにしましょう。
また、勤務医の確定申告とのもうひとつの大きな違いとして、「青色申告特別控除を受けられる」ことが挙げられます。青色申告特別控除は最大65万円と大きいので、控除を受けるためにも、忘れないように青色申告の届け出をおこなうことを推奨します。
確定申告を検討すべき医師とは
確定申告の手続き
確定申告の大まかな流れは以下の通りです 。
① (開業医の場合)青色申告か白色申告かを決める
② 作成方法を4種類から選ぶ
③ 確定申告に必要な書類を準備して、確定申告書を作成する
④ 税務署に確定申告書を提出する
⑤ 税金を納付する、または還付を受ける
順を追って説明していきます。
(開業医の場合)青色申告か白色申告かを決める
まずは、青色申告か白色申告かを決める必要があります。なお、勤務医は青色申告特別控除を受けることはできないため、必然的に白色申告ということになります。
では、青色申告特別控除は最大65万円とお得なのに、なぜ白色申告を選ぶ人もいるかというと、白色申告は簡易的な簿記による基調が認められているため、記帳や書類作成の負担が軽いからです。そのため、会計知識に自信がない人や、経理作業が苦手な人は白色申告が向いているといえます。また、事業収入が少なく、控除を活かせない場合も、白色申告を選んで作業負担を軽くするメリットは大きいといえるでしょう。
作成方法を4種類から選ぶ
確定申告書の作成方法は大きく以下の4つにわけられます。
それぞれ具体的に説明していきます。
確定申告書作成コーナーを利用する
国税庁のサイト内に設けられた「確定申告書等作成コーナー」から直接入力する方法です。画面の指示に従って入力を進めていくと納税額が自動で計算されますが、操作性にはやや難があるため、経費が多い場合などはおすすめできません。
確定申告ソフトで作成する
開業医をはじめとする個人事業主で、自分で確定申告したい人にもっともおすすめの方法は、確定申告ソフトを活用する方法です。確定申告ソフトはいくつかのメーカーが出していますが、注意点としては、一度これと決めたものを使い続けるのが賢明だということです。なぜなら、帳簿をつける際には、まず前年度のデータを読み込む必要があるため、途中からソフトを変えると操作が煩雑になるためです。
以下に代表的な確定申告ソフトをピックアップするので参考にしてください。
手書きで作成する
紙の確定申告書を使用して手書きで作成することも可能です。パソコンを使い慣れていない人にとってはメリットが大きいと思うかもしれませんが、青色申告の場合、申告内容にミスがあった場合などに、65万円の控除が受けられなくなるという大きなデメリットがあります。また、経費の合算などを電卓などでおこなうことになるため、非常に時間がかかる可能性が高いといえます。
税理士などの専門家に依頼する
確定申告書の作成方法を一から勉強するのが苦だという人は、税理士などの士業に依頼するのが一番です。税理士によっては節税のアドバイスもおこなってくれるので、信頼できる専門家を見つけることが大切です。
確定申告に必要な書類を準備して、確定申告書を作成する
確定申告書を作成する際は、作成に必要な書類、提出が必要な書類や用紙などを用意します。具体的には以下の書類や情報が必要となります。
【確定申告で作成する必要書類】
【申告書の作成・提出に必要な書類・用紙・情報】
なお、マイナンバーカードはe-Taxを利用して申告する場合、カードそのものが必要で、郵送や持参によって申告する場合はマイナンバーが必要です。
税務署に確定申告書を提出する
確定申告書が完成したら税務署に提出します。提出方法は以下の4種類です。
①e-Taxやスマホアプリで電子申告する
②税務署窓口に持参する
③郵送する
④税務署の時間外収集箱に投函する
税金を納付する、または還付を受ける
確定申告で計算した結果、納税の必要がある場合は、納税所を使って納税します。納税期限は、現金納付の場合、3月15日ですが、クレジットカードなどで納税することもできます。還付となる場合は、確定申告書が受理されてから概ね1~2か月後に、「国税還付金」として口座に入金されます。なお、e-Taxによる電子申告をおこなった場合、1か月より早く入金されるケースが多いようです。
まとめ
確定申告は、理解しないといけないことが多く、ある程度の知識を吸収するまでは面倒に感じられるかもしれません。しかし、2、3回(つまり2、3年)手続きを繰り返せば要領がつかめてくるので、必要以上に時間がかからなくなるはずです。また、確定申告をすることによって節税できるのはうれしいポイントなので、「いかに節税するか」を考えることで、手続きのストレスを減らせるかもしれませんね。
この記事は、2025年1月時点の情報を元に作成しています。