少子高齢化が進んでいる日本では、昨今、地域医療の重要性に注目が集まっています。そこで今回は、クリニックが地域医療に携わるメリット、デメリットをみていきます。地域の人々の健康をサポートするためにも、地域医療そのものへの理解を深めていきましょう。
地域医療とは?
地域医療とは、医療機関での治療やケアという枠組みにとらわれることなく、地域全体で住民の健康を守る医療体制のことです。「健康を守る」ためには、子育て支援や高齢者、障碍者への支援なども必要であるため、福祉や保健に関する住民組織や行政とも連携を取りながら、住民の健康のための取り組みを実施していきます。
地域医療に注目が集まるようになった背景は?
冒頭で述べた通り、地域医療に注目が集まるようになったもっとも大きな理由は、少子高齢化が進んでいることです。統計によって、今から2年後の2025年には、人口の4人に1人が高齢者になることがわかっていますが、そうなると、医療を必要とする高齢者を、労働力となる若い人たちで支えることが難しくなります。また、病床が足りず入院できない患者が増えることや、高齢者の医療費として国が支払うお金が増えることも大きな問題です。そこで、2014(平成26)年に成立した「医療介護総合確保推進法」によって、2015(平成27)年、「地域医療構想」が制度化されることとなったのです。
「地域医療構想」においては、都道府県・地域ごとに地域医療連携ができるシステムを考えることや、「高度急性期病院」「急性期病院」「回復期病院」「慢性期病院」それぞれの役割を分担させることなどが決められています。
参照:厚生労働省「医療・介護総合確保の推進について」PDF8枚目~より一部抜粋
地域医療のメリットは?
続いては、地域医療のメリットをみていきます。
患者の紹介数が増える
前述の通り、地域医療においては、患者の症状や疾患の程度によって、「高度急性期病院」「急性期病院」「回復期病院」「慢性期病院」の4段階の医療機関に患者を振り分けるのが基本です。たとえば、診療所を訪れた患者の症状が緊急性の高いものだと判断された場合、連携している大病院へとすぐに紹介することになりますし、反対に、大病院を訪れた患者の症状が軽い場合、より身近に感じられる診療所でのケアがふさわしいと判断されて、診療所に紹介患者が回ってくることになります。
患者のデータを地域の医療機関で共有できる
地域内の複数の医療機関で診療情報を共有できる「地域医療連携システム」を活用することで、自院に送られてきた患者が、前の医療機関でどういう検査を受けてどういう結果であったのかなどを知ることができますし、自院から他院に送り出した患者の経過を確認することもできます。
紹介状などの書類作成の手間が省ける
地域医療連携システムを活用すれば、各医療機関がシステム上で患者の情報を確認できるため、これまでの検査や治療に関する詳細を記した書類を作成する必要がなくなります。そのため、業務効率化がアップします。
高齢者医療・在宅医療の経験を積むことができる
地域医療を受ける患者の年齢に決まりはありませんが、少子高齢化が背景にあることからも、必然的に高齢者が多くなります。そのため、高齢者医療・在宅医療における経験を積むことができます。
プライマリ・ケアのスキルを磨ける
プライマリ・ケア(Primary Care)の「Primary」とは、「初期の、基本の」という意味。なんとなく体調に違和感を覚える程度でも、気軽に相談にのってもらえる総合的な医療を意味します。プライマリ・ケアのスキルはすべての臨床医に必要ですが、特に地域医療においては重要なので、経験を積むことでスキルが磨かれます。
一人ひとりをしっかりサポートできる
通常の診療においては、大勢の患者が待っていて、一人ひとりにかけられる時間が限られてしまうこともあります。一方、地域医療においては、医療機関や行政などが一体となって地域住民のケアにあたるので、自院だけでは時間的に万全なサポートができない場合でも、医療を受ける側には万全の医療を施すことができます。
複数の機関や施設と連携することで視野が広がる
地域医療においては、行政や介護施設、薬局などとの連携が不可欠です。通常のクリニックの業務をおこなううえでは関わることのない職種の人と関わることで、視野や可能性が広がるでしょう。
年収が上がる場合がある
医師不足が深刻化している地域では、医師を確保するために給与を高く設定している傾向にあります。そのため、地域医療を担うために地方へ移住すると年収が高くなることがあります。また、年収が高いだけでなく、勤務条件がいいケースが多いのも特徴です。たとえば、「当直なし」「時短OK」などの柔軟な働き方でも採用してもらえるケースが多いので、医師本人がワークライフバランスを整えやすいのも魅力です。
地域医療のデメリットは?
続いてはデメリットです。
情報共有に時間がかかる場合がある
診療情報提供書の大まかな形式は決まっていますが、書き方に関して細かな決まりはないため、他院が作成した診療情報提供書を見ても内容を把握しきれない部分があることも。その場合、先方に電話などで確認する必要がありますが、電話先が立て込んでいるなどすると、スムーズに確認できないこともあるでしょう。
どの医療機関に紹介すべきかの判断が難しいことがある
患者に紹介したいと考えている医療機関があっても、患者の症状の程度や先方のキャパシティによっては受け入れてもらえない場合があります。また、紹介先候補と考えている医療機関に、患者の治療に必要な機器や設備がそろっているかがわからないこともあるでしょう。その場合、各医療機関のホームページなどで確認する必要があるため、患者を待たせてしまうことも。
行政や各種施設との連携が不可欠
地域が一体となって住民の健康をサポートできることは、人と関わることが好き、または得意な人にとってはメリットといえますが、そうではない人にとってはデメリットといえるかもしれません。また、連携するうえで、書類作成やシステム入力などの手間が発生することもあるので、面倒だと感じる人もいるでしょう。
外部機関や施設の意見にも耳を傾ける必要がある
外部機関や施設と連携するとなると、それぞれが「この人にはこういうケアをしてあげたい(あげてほしい)」という思いがあるため、衝突することもあるかもしれません。そのため、自分の判断を信じて患者を診ていきたいという医師には向いていないかもしれません。
途中で辞めにくい
医師として働くことを辞めることはないにしても、働いているうちに、キャリアの方向性を転換したくなったり、もっといい条件でのお誘いに乗りたくなったりすることはあるでしょう。しかし、一度、地域住民から頼られる立場として仕事することになると、そうそう簡単に方向転換することはできないでしょう。
地域医療の分野でパイオニアを目指すのもアリ
医師のキャリアにおける選択肢は幅広く、なかには、ニュースでコメントするなど、一見、華やかに見えるドクターも多く存在します。また、書籍を上梓したり、医療法人化して事業を拡大したりしているドクターなどは憧れの対象となることも多いでしょう。一方、地域医療に貢献しているドクターやクリニックは、特に活躍の場が地方の場合などは、一見、地味に見えるかもしれません。しかし、地域医療構想が制度化されてまだ歴史が浅いからこそ、これから地域医療の分野で注目される医師やクリニックが増える可能性は大いにあり得ます。さらにいうと、SNSを駆使するなどして、多くの人に自分の信念を発信していくことで、地方からでも日本の医療を変えられる可能性があります。そのパイオニアになるために何をすればいいか、今のうちから考えはじめてみるといいかもしれませんね!
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2023年5月時点の情報を元に作成しています。