
今の時代は、誰もが資産形成を考えるべき時代であるといわれています。なぜかというと、以前よりも金利が上がったとはいえ、現在の低金利では、預金で増える額は雀の涙程度ですし、物価の上昇につれて資産価値が目減りしているからです。もちろん、今後さらに身の回りの商品やサービスの価格が上昇する可能性もあります。さらに、怪我や病気などの不測の事態によって働けなくなる可能性も考えると、少しでも早いうちから資産形成をはじめておくに越したことはありません。そこで今回は、医師の資産形成について考えていきます。
資産形成の方法とは?
資産形成とは、将来の経済的安定を目的に、貯蓄や投資などによって資産を増やしていくことですが、その方法は大きく3種類にわけられます。具体的には、「資産運用」「投資」「投機」の3種類です。このうち「投機」は、短期的な相場の変動で利益を狙うもので、運の要素が強いことから、“マネーゲーム”とも称されます。勝てば大儲けする可能性があるぶん、負けたら何も残らないゼロ・サムゲームであることから、ギャンブルに近いイメージといえるかもしれません。
資産運用と投資の違いとは?
そのため、確実に資産を形成したいなら、まずは資産運用・投資を考えることが大事です。
資産運用とは、資産を増やすことを目的にお金の置き場所を考えることを意味します。株式や債券などの商品への投資はもちろん、預貯金なども資産運用のひとつです。
一方、投資とは、利益を狙ってリスクのある金融商品などに資産を投じることを意味します。つまり、資産運用の一部ということになりますが、利益を得ることに重きを置いていることから、元本保証のある銀行預金などは投資に含まれません。具体的には、株式投資、債券投資、外貨預金、不動産投資、投資信託などが該当します。
医師が資産運用・投資に成功するためには何が必要?
続いては、医師が資産運用・投資で結果を出すためには何が必要かを確認していきます。資産運用・投資で結果を出すためには、まず以下の条件を満たすが大切です 。
それぞれ詳しく解説していきます。
余剰資金がある
もっとも大切なことですが、余剰資金がなければ資産運用や投資に注ぎ込むことはできません。余剰資金とは、貯蓄から非常時に必要とされている資金を差し引いた結果、余っているお金のことです。金融商品には多かれ少なかれリスクがあるため、「万が一全部無くなっても、今後の生活に支障が出ない」という条件をクリアできないなら、資産運用や投資をすべきではありません。
開業医の場合は、スタッフへの給料の支払いや借入金返済などもあるため、それらを差し引いて、さらに非常時に必要とされる資金を差し引いて、お金が余っていることが絶対条件だということです。
ハイリターンを狙わない
リスクとリターンは表裏一体の関係にあるため、ハイリターンを狙うと、大きく損する可能性もあるということになります。金融商品の価格は常に上下し続けるため、値動きを確認し続けなければ、下落しまくった後にそのことに気付く場合もあります。
しかし、それを防ぐために、人の命を預かっている医師が仕事そっちのけで株価チャートなどに張り付いているわけにはいきません。値動きが気になって落ち着かない状態に陥るのを防ぐためにも、ハイリターンを狙わないことは鉄則です。
情報収集力がある
世界情勢や個別銘柄の企業に関するニュース、各業界の動きは金融商品の値動きに大きく関係します。そのため、これから先、どんな金融商品の価値が高まりそうであるのかについて、常に情報を収集し続けることはとても大切です。
情報収集方法の基本は情報番組やニュースメディアですが、最近は、Xなどで“これからくる(であろう)銘柄”について発信する専門家やマニアが増えてきているので、フォローしておくといち早く有効な情報を得られることもあるかもしれません。
根拠のある投資ができる
情報収集力の有無と関連する条件として、「根拠のある投資ができる」も挙げられます。金融商品について解説するコンテンツは巷に溢れていることから、「みんながいいと言っているからこの銘柄にしておこう」という選び方をする人も増えてきています。その選択方法が悪いということはありませんが、資産運用にしろ投資にしろ、最終的な判断をするのは自分ですし、自分なりに根拠を持って投資できなければ、失敗したときに気持ちを整理しにくいといえるでしょう。
決断力がある
金融商品の価値は常に上下するため、決断力がなければ売り時・買い時を逃してしまう可能性が高いといえます。もちろん、決断した結果、「もう少し待つのが賢明だったな……」ということもあり得ます。しかし、いつでもベストなタイミングで売り買いすることは不可能なので、スパッと売り買いして、その経験を重ねていけるタイプのほうが金融商品の売買に向いているといえます。
物事を長期的な視点・広い視点で見ることができる
資産運用や投資はすぐに結果が出るものではありません。細かな価値変動は日常茶飯事なので、そのたびに一喜一憂することなく、長期的な視点を持って物事をとらえていくことが大切です。また、リスクの可能性を考えて複数の金融商品に投資する“リスク分散”も重要であることから、広い視点を持って物事をとらえる能力も不可欠であるといえます。
医師が資産運用・投資すべき理由
続いては、医師が資産運用・投資すべき理由を解説します。医師が資産運用・投資すべき主な理由は以下の3つです。
それぞれ詳しく解説していきます。
高収入であるため
医師の平均年収は、勤務医、開業医ともに一般的な会社員より高めです。そのため、余剰資金が生まれやすいといえます。また、20代・30代のうちから高収入である場合も多いですが、その年齢からの資産形成であれば、リターンの大きい金融商品を選ばずとも目標額に到達しやすいため、リスクも少なくて済みます。
節税対策になるため
高収入だと必然的に所得税率が高くなりますが、iDeCoや不動産投資を活用すれば大きく節税することが可能です。iDeCoの掛金は全額所得控除されますし、不動産投資では、以下の経費を計上できることから、所得税・住民税を抑えられます。
また、長期的目線で見ると、不動産は贈与税や相続税の節税にも役立ちます。
働けなくなるリスクがあるため
働けなくなるリスクは誰にもありますが、開業医の場合、自院に医師が自分ひとりしかいなければ、休業を余儀なくされた場合に収入を得ることができなくなります。しかし、不動産投資していれば家賃収入を得ることができますし、毎月分配型投資信託で毎月一定額の分配金を受け取れることもあります。
なお、働けなくなった場合への備えとしては、各種保険商品を検討することもおすすめです 。
医師におすすめの資産運用・投資
続いては、医師におすすめの資産運用・投資の制度について解説していきます。医師におすすめの資産運用・投資は以下の4つです。
それぞれ詳しく解説していきます。
不動産投資
先に解説した通り、不動産投資は節税効果が高いことがまず大きなおすすめ理由です。しかも、不動産そのものの購入費用を数年にわけて費用計上することができます。また、勤務医の場合、給与所得と相殺することで税金の還付を受けられます。
なお、不動産投資購入に際して利用する不動産投資ローンは、高収入であれば有利な金利でスタートできる可能性が高いため、医師にはもってこいであるといえます。
また、先に述べた通り、怪我や病気で働けなくなった場合、家賃収入があれば生活に困りにくいのもメリットです。
投資信託
投資信託とは、投資から集めたお金をひとつの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品のことです。運用の成果が投資家一人ひとりの投資額に応じて分配されます。
先に解説した通り、毎月分配型の投資信託を選択すると、働けなくなったときの不安が軽減します。
iDeCo
これも先に解説した通りですが、iDeCoは掛金を全額所得控除にできるため、節税効果が非常に大きいのが特長です。ただし、勤務医の場合、基本的には掛金の月額上限が20,000円 であるため、大きく節税できるとはいえません。開業医の場合、月額上限は68,000円なので、年間で816,000円分が控除の対象となります。
株式投資
株式投資とは、企業の株式を購入して、売買差益や配当で収益を得る方法です。配当は減配することもありますが、配当を維持もしくは増配させ続けている安定配当株をランキング形式で紹介する記事 なども多いので、参考にするといいでしょう。
医師が資産運用・投資を始めるためのステップ
続いては、先にピックアップした4つの資産運用・投資を始めるためのステップを解説します。
不動産投資
不動産投資は以下の10のステップを踏むことが必要です。
1. 情報収集する
不動産同士の情報収集には、マクロな視点とミクロな視点が必要です。マクロな視点とは、投資環境や地域別の人口動態など、不動産投資を取り巻く市場を見つめる視点で、ミクロな視点とは、「おすすめの不動産会社は?」「2つの物件のどちらがよいか?」などの身近なことを見つめる視点です。
2. 収益物件を探す
収益につながりそうな物件を探します。「新築/中古」「区分所有/一棟所有」など比較しながら考えていきます。
3. 買い付けを入れる
目当ての物件を内覧後、購入を希望する場合、不動産会社に買付証明書を提出します。ただし、買付証明書を出しても必ずしも購入できるわけではありません。なぜかというと、売り先の決定権は売主にあるためです。買付証明書を他の購入希望者より早く出していたか、現金払いに対応できるかなどによって売り先が決まります。
4. 融資の仮審査を受ける
金融機関から不動産投資ローンの融資を受けるために、まずは金融機関の仮審査を受けます。なお、仮審査の申し込みは、不動産投資の買付と同じタイミングでおこなうのが一般的です。
5.重要事項説明を受ける
重要事項とは、不動産売買前に必ず買主に対して説明しなければならない物件情報を指します。重要事項説明は、国家資格を持った宅地建物取引士によっておこなわれ、書面が交付されます。
6. 売買契約を結ぶ
重要事項説明の内容に問題が無ければ、買主、売主が不動産売買契約書を締結して、買主は手付金を支払います。
7. 賃貸管理会社を決めて賃貸契約を結ぶ
賃貸管理会社を決めて賃貸契約を結びます。賃貸管理会社に所有物件の管理を委託すれば、水漏れをはじめとするトラブルに、オーナーに代わって対応してもらえます。
8. 融資の本審査を申し込む
売買契約を結ぶのと同じタイミングで、金融機関に融資の本審査を申し込むのが一般的です。
9. 金銭消費賃貸契約を結ぶ
不動産投資ローンの融資が決まったら、借入金を消費して、借入金と同額の金銭を返済することを約束する「金銭消費賃貸契約」を金融機関と交わします。
10. 決済と物件の引き渡しをおこなう
代金の決済と物件引き渡しをおこないます。
投資信託
投資信託は以下の4つのステップを踏む必要があります。
1. 商品の選択・決定
購入したい商品を選んで、決定します。
2. 口座を開設する
預貯金の口座とは別に、投資信託を扱っている販売会社の投資信託用口座の開設が必要になります。NISAを活用したい場合、NISA口座を開設することになります。なお、NISA口座を活用すれば、利益が出た場合に非課税となります。また、確定申告の必要がありません 。
3. 購入を申し込む
購入方法は、「一括投資」と「積立投資」から選択します。また、収益分配金をそのまま受け取る「分配金受取」にするか、受け取らずに再投資する「分配金再投資」にするかも決めます。一発投資の場合、金額もしくは口数を指定します。積立投資の場合、任意で購入金額を決定します。購入の申し込みは、窓口・電話・インターネットなど、販売会社によって異なります。申し込みの際には、必ず交付目論見書を確認します。
4. 取引内容の確認
取引が成立したら、販売会社から契約締結時交付書面、取引報告書が送付されるので、内容を確認します。
iDeCo
iDeCoを始める際には以下の4つのステップを踏みます。
1. 加入可能か確認する
加入者が勤務医で、勤務先で企業型確定拠出年金を導入している場合、加入者がマッチング拠出を利用していないことが加入可能の条件となります。なお、企業型確定拠出年金では、会社が拠出する掛金に加えて、加入者本人が掛金を上乗せして拠出することができますが、この仕組みのことを「マッチング拠出」といいます。
2. 金融機関を決定する
iDeCoを運営管理する金融機関を選びます。金融機関によって、管理手数料や商品ラインナップなどが異なります。
3. 掛金、運用したい商品を検討する
掛金および運用したい商品を決めます。
4. iDeCoに申し込む
iDeCo申込時には、個人型年金加入申込書(=iDeCoの申込書)、(勤務医の場合)勤め先の事業主に記入してもらった証明書、マイナンバーカードなどの本人確認書類、基礎年金番号がわかる書類などを用意する必要があります。
株式投資
iDeCoを始める際には以下の6つのステップを踏みます。
1. 店頭窓口やインターネットなどで口座の口座開設を申し込む
2. 本人確認書類などの必要書類を提出する
3. 審査に通ると口座が開設される
4. 証券口座に購入資金を入金する
5. 購入する株式と口座(NISA口座または特定口座または一般口座)を選んで注文する
なお、NISA口座に関しては、利益が出た場合、非課税であることを先に説明しましたが、特定口座と一般口座は利益に対して課税されます。
6. 定期的に値動きや業績を確認して、保有継続または売却を判断する
資産運用・投資は早くスタートするほど有利
前述の通り、資産運用・投資で成功するためにはハイリスクをとらないことが鉄則なので、長期的に運用することが大事です。つまり、少しでも早い段階でスタートしておいた方が有利だということです。「十分な余剰資金ができるまでは手を出さないようにしよう」という判断をした結果、思うように資産形成できずに年を食ってしまう可能性も高いので、今すぐ大きな金額を運用するのが難しいなら、小額から始めてみるのもいいかもしれません。一度運用してみることでコツがつかめてくるというメリットもあるので、節税効果が得られることを楽しみながら、少しずつ額を増やしていくことを目標にするのもおすすめですよ。
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この記事は、2025年1月時点の情報を元に作成しています。