
皮膚科で受けられるレーザー治療は、治療の目的や使う機器によっていくつかの種類にわけられます。また、保険適用になるのかならないのかは、治療の種類によって異なりますが、どういった基準によってわけられているのでしょうか? 詳しく解説していきます。
レーザー治療とは
レーザー治療とは、特定の波長を持つレーザー光を用いて、皮膚のさまざまな問題を改善する治療法のことです。
自然光や人工光などの一般的な光は、さまざまな波長の光が混ざっているため単色ではありませんが、レーザーはそのなかから一種類の波長のみを選択して増幅させたものです 。なぜ一種類の波長に絞るかというと、波長ごとに、特定の肌トラブルを改善に導く効果を有しているためです。
たとえば、非常に短いパルス幅を持つ「ピコレーザー」は、パルス幅が短いがためにレーザーのエネルギーが集中的に皮膚に到達するため、周囲の健康な組織へのダメージを最小限に抑えながら、メラニン色素の粒子を細かく粉砕することに適しています。また、1,064メートルと532メートルの2つの波長を有したQスイッチヤグレーザーは、メラニンやタトゥーの顔料などの特定の色素をターゲットにできるため、シミやほくろ、あざなどの改善や、タトゥーやアートメイクの顔料の分解および除去などに使用されます 。
レーザー治療が保険適用となる条件は?
レーザー治療は、美容皮膚科ではない一般皮膚科において、患者の症状が皮膚疾患であると認められた場合に限って保険適用となります。「加齢によってできてしまったシミをとりたい」などの美容目的の場合は保険適用外です。
「皮膚疾患」とは、皮膚に生じるさまざまな病気のことで、加齢もしくは紫外線の影響などで皮膚に生じたシミやシワなどはこれに該当しません。あくまでも、「病気」とみなされた場合のみ、保険適用で「治療」して問題ないと判断されるのです。
一方、加齢もしくは紫外線の影響などで皮膚に生じたシミやシワなどを取り除くためにレーザーを使う場合、自由診療となるため、患者は10割負担の医療費で治療を受けることになります 。
一般皮膚科において保険適用でレーザー治療できる皮膚疾患とは?
続いては、一般皮膚科において保険適用でレーザー治療できる皮膚疾患について解説します。保険適用でレーザー治療できる皮膚疾患は次の7種類です。
それぞれ詳しく解説していきます。
太田母斑(おおたぼはん)
太田母斑は青あざの一種で、一度発生すると自然消退することがないことから、レーザーでの治療がすすめられています。発症する領域は、おでこや目のまわり、頬、上唇などで、通常、顔の片側のみに発症しますが、稀に両側に発症することもあります。生後すぐに発症する「早発型」と思春期に発症する「遅発型がありますが、思春期以降に発症するケースが多いとされています。
扁平母斑(へんぺいぼはん)
扁平母斑は茶色いシミのような見た目であることから、「茶あざ」とも呼ばれている皮膚疾患で、成長するにつれて薄くなる場合もありますが、自然に消えることはないため、太田母斑同様、レーザーでの治療が必要とされています。大きさは数ミリから数センチ程度で、顔や手をはじめ、体中どこにでも出現する可能性があります。生まれつき存在している場合や、生後間もなく発症する場合が多いですが、思春期以降に発症するケースもあります。なお、ほくろのように皮膚が盛り上がることがないことから、「扁平母斑」と呼ばれるようになりました。
異所性蒙古斑(いしょせいもうこはん)
「蒙古斑」は通常、生まれつきお尻や背中の下部に出現しているものを指しますが、これ以外の箇所に発症した場合や、もしくはもともと存在している蒙古斑が消えずに残っている場合、「異所性蒙古斑」と診断されます。異所性蒙古斑も自然に消える可能性は低いため、レーザー治療をおこなうことが望ましいとされています。
外傷性色素沈着
外傷性色素沈着は、傷口から砂や鉛筆の芯などの異物が侵入したあと、そのまま傷口が塞がってしまった場合に生じる色素沈着です。転倒してケガをした際、患部に砂が入ったり、もしくは鉛筆の芯が刺さったりした場合、そのまま傷口が塞がると外傷性色素沈着になる可能性があるということになります。
単純性血管腫
単純性血管腫とは、盛り上がりのない平らな状態の赤あざです。「ポートワイン母斑」とも呼ばれています。単純性血管腫は生まれたときから存在しているものなので、生まれた時点で発症していなければ、その後も発症することはありません。発症原因は、皮膚に存在する血管が部分的に増えることです。単純性血管腫の治療にはレーザーが有効とされていますが、顔や首に症状がある場合、レーザーが有効なのは70~80%で、手足にできている場合はあまり効果が期待できないとされています 。
苺状血管腫(いちごじょうけっかんしゅ)
苺状血管腫とは、生後から1歳くらいまでの乳児期にもっともよくできる、皮膚の良性腫瘍です。見た目がイチゴのように赤いことから、苺状血管腫と呼ばれています。乳児期に発症することから、「乳児血管腫」とも呼ばれています。自然に退縮する場合が多いため、自然経過を観察することも多いですが、気道や目の周り、口唇などに発症すると、呼吸困難や視野障害、哺乳障害などが起こることがあるほか、首や脇、陰部などの擦れやすい場所に発症すると出血や潰瘍を起こすこともあるので、その場合はすぐにレーザーで治療する必要性があります 。
毛細血管拡張症
毛細血管拡張症とは、毛細血管が拡張したまま元に戻らなくなり、皮膚から透けて見えている状態のことをいいます。原因は大きく2パターンあります。1つめは、加齢や遺伝、女性ホルモンの影響など、体質やホルモンバランスの変化によるもので、もう1つは、寒暖差や飲酒、香辛料など生活環境や生活習慣によるものです。いずれの場合も、原因となっている毛細血管をレーザーで破壊することで肌の赤みを軽減させます 。
保険適用となる皮膚科のレーザー治療の点数は? 令和6年度の診療報酬改定で何が変わった?
続いては、保険適用となる皮膚科のレーザー治療の点数をみていきましょう。皮膚科のレーザー治療における保険診療での算定項目は、次の2種類とされています。
それぞれの点数をみていきます。
色素レーザー照射療法
点数は2,712点です。ただし、照射面積が10平方センチメートルを超えた場合、10平方センチメートルまたはその端数を増すごとに所定点数に500点を加算します。なお、8,500点を加算の限度とします。
令和6年度診療報酬改定での見直しについて
色素レーザー照射療法の点数は、令和6年度診療報酬改定において見直されており、もともと2,170点だったところ、2,712点へと改定されています。
Qスイッチ付レーザー照射療法
※なお、次の部位ごとに算定が可能で、同一部位でも別疾患で病変部位が重複していない場合は、それぞれに算定が可能です。
【算定可能部位】頭頚部、左上肢、左下肢、右上肢、右下肢、胸腹部または背部(臀部を含む)
※また、いずれの療法の場合も、治療の対象となる疾患に対して所期の目的を達成するまでにおこなう一連の治療過程に関して1回算出可能です。「一連の治療過程」は概ね3か月にわたっておこなわれることとします。つまり、症状が発症している箇所への照射を3か月にわたって数回おこなったとして、1回のみ所定点数を算定できるということです。
色素レーザー照射療法、Qスイッチ付レーザー照射療法の対象疾患は?
前述の通り、保険適用でレーザー治療できる皮膚疾患は7種類ですが、それぞれにどの照射療法が適用となるかというと次の通りです。なお、Qスイッチ付きレーザー照射療法は大きく3種類にわけられます。
色素レーザー照射療法
適応疾患:単純性血管腫、苺状血管腫、毛細血管拡張症
算定回数:制限なし
Qスイッチ付レーザー照射療法
①(Qスイッチ付)ルビーレーザー照射療法
適応疾患:扁平母斑
算定回数:2回まで
適応疾患:太田母斑、異所性蒙古斑、外傷性色素沈着
算定回数:5回まで
②Qスイッチ付アレキサンドライトレーザー照射療法
適応疾患:太田母斑、異所性蒙古斑、外傷性色素沈着
算定回数:制限なし
③Qスイッチ付ヤグレーザー照射療法
適応疾患:太田母斑、異所性蒙古斑、外傷性色素沈着
算定回数:制限なし
※(Qスイッチ付)ルビーレーザー照射療法に関しては、一連の治療が終了した後、再び当該療法をおこなう場合、前述の通り、同一部位に対して初回治療を含めて2回または5回を限度として算定できます 。
3歳未満の患者に保険適用のレーザー治療をおこなう場合の加算は?
前述の通り、保険適用となるレーザー治療で治療できる可能性の高い疾患のうちいくつかは、乳幼児が罹患する場合があります。3歳未満の患者に保険適用となるレーザー治療をおこなう場合は、2,200点の乳幼児加算を所定点数に加算することができます。
保険適用外となる皮膚科のレーザー治療は?
前半で説明した通り、皮膚疾患に対するレーザー治療は保険適用となりますが、「加齢によってできてしまったシミをとりたい」などの美容目的の場合は保険適用外となります。つまり、シミやシワ、ほくろ、いぼを取りたいなどの見た目の改善や美容目的の場合は保険適用外ということです。
保険適用外の主なレーザー治療の種類と特徴は次の通りです。
ピコレーザー
ピコレーザーは、パルス幅が短いため、レーザーのエネルギーが集中して治療したい箇所に届くとく特徴があります。そのため、周囲の健康的な組織に対するダメージを最小限に抑えられます。しかも、1兆分の1秒という超短時間の照射で症状を改善していきます。
対象となる症状はいくつかあります。まず、メラニン色素を破壊することで肌のターンオーバーを促進できるため、シミや肝斑の改善に適しています。また、肌の再生を促してくれることから毛穴の開きやニキビ跡の改善も期待できます。
炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)
炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)は、10,600nmの波長を持っているレーザーです。皮膚の水分と反応して細胞に熱をもたらし、蒸発させる効果を有しており、ホクロやシミ、イボの除去に適しています。
実際の施術では、レーザーの光が皮膚に当たった部分の水分が急激に熱くなって蒸発しますが、これによって出血が抑えられやすくなることから、治療後の傷が治りやすくなります。
Qスイッチヤグレーザー
保険適用疾患にも使われることがあるQスイッチヤグレーザーですが、特定の色素に反応して熱を発生させるため、シミやそばかすなどの色素沈着改善にも有効です。高出力のレーザー光を短時間のみ照射するため、周囲の皮膚組織に影響が及びにくいメリットがあります。
Qスイッチヤグレーザーには532nmと1064nmの2つの波長があり、前者は浅い色素、後者は深い色素に作用します。つまり、異なる深さにあるシミやそばかすを効率よく治療できるということです。
Qスイッチルビーレーザー
Qスイッチルビーレーザーも、前述の通り、保険適用疾患にも使われるレーザーです。Qスイッチルビーレーザーが有している694nmの波長は、特に黒色のメラニン色素に反応しやすいのが特徴です。保険適用疾患以外では、シミやそばかす、青あざ、茶あざの改善に使用されます。
メラニン色素のみをターゲットとするため、健康な細胞や血管へのダメージは少ないですが、日焼けしている肌や肝斑がある肌に使うと、色素新着を起こしたり、肌の色が抜けるリスクが高まったりします。
フラクショナルレーザー
「フラクショナル(fractional)」は、英語で「ほんの少し」「一部分」「断片的」を意味します。では、フラクショナルレーザーとはどのようなレーザー治療かというと、肌に非常に小さな穴をたくさん開けることによって、一時的なダメージを与え、肌の自然修復力を引き出す治療です。肌はダメージを受けると、自然に修復しようとして、新しいコラーゲンを生成するため、結果的に肌がなめらかになり、健康的な状態へと導かれるのです。
つまり、肌のコラーゲン生成を促すことで、ハリを向上させるために役立つレーザー治療ということになります。
レーザートーニング
レーザートーニングの「トーニング」は、肌を整えることを意味します。強いレーザーでシミを一気に取る施術とは異なり、肌にやさしいレーザーを使って少しずつメラニンを取り除くため、施術後にかさぶたができにくいのが特徴です。
逆にいうと、一回の施術で劇的に肌が変わるということはありませんが、施術を何回か繰り返すうち、肌のトーンが上がり、キメやハリも向上してくることが期待できます。
令和6年度診療報酬改定による皮膚科への影響
前述の通り、令和6年度診療報酬改定によって、色素レーザー照射療法の点数が見直されましたが、それ以外で皮膚科診療に影響のあるものは、「初診料・再診料の引き上げ」「処方箋料の減額」「医療情報取得加算(マイナンバー対応)」「医療DX情報取得加算(医療のIT化促進)」「外来ベースアップ評価料I(医療スタッフの賃上げ対策)」と、特定の処置などに関するものではなく、全体として体制を変えていくことが必要な内容となっています。しかも、ざっくり解説すると、処方箋料が大きく引き下げられた一方、マイナンバー対応や医療のIT化などを推し進めると、そのぶんの点数を加算できる仕組みとなっているため、各医療機関としても対応を余儀なくされているかもしれません。体制を整えていくには手間がかかる場合もありますが、取れるはずの加点を取り逃して損をすることのないよう、しっかり対策を講じていきましょう。
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この記事は、2025年3月時点の情報を元に作成しています。