
ある程度の規模がある医療機関においては、看護師が患者に適切なケアを提供するためには、誰がどの患者を担当するのか、それぞれの看護師はどのような役割を担っているのかなどをきちんと決めることが不可欠です。
そのためには、「看護方式」「看護体制」について知っておくことが大切。そこで今回は、看護方式および看護体制について詳しく解説していきます。
看護方式とは
看護方式とは、病棟勤務の看護師が患者をケアしていくにあたって、病棟全体でどのように看護していくかを定める方式のことで、いくつかの種類にわけられます。
特定の看護方式を導入する主たる目的は、患者のケアをはじめとする業務を効率的に進めることです。加えて、よりよい看護の提供を目指すことや、チームで仕事することを通して、新人看護師に効率よく仕事を覚えてもらうことなども大きな目的として挙げられます。
看護方式の種類とは
看護方式は大きく2つのタイプにわけられます。1つは、看護師数人がチームとなって複数人の患者を看護する方式です。もう1つは、1人の患者に対して1人ないしは2人の患者が専任でつく看護方式です。
なお、後者に関しては、患者からすると“自分を担当している看護師”は1人ないし2人ですが、各看護師は複数人の患者を担当することになります。
また、詳しくは後述しますが、「チーム看護」「専任看護」の2つのタイプには当てはまらない、最新の看護方式も存在します。
ここからは、「チーム看護」「専任看護」それぞれに該当する看護方式および最新の看護方式について具体的に解説していきます。
まずは、「チーム看護」に該当する看護方式から解説していきます。
チームナーシング
チームナーシングとは、病棟に配属されている看護師をいくつかのチームにわけて、各チームで一定の人数の患者を受け持つ看護方式です。チームのメンバーは、看護師としての経験年数や能力、得意なことなどを考慮しながら、お互いに補完し合える構成にします。
メンバーが決まったら、チームごとにリーダーを決めます。リーダーは、各看護師の受け持ち患者を決めて、仕事を采配します。チームとして仕事をはじめてからは、メンバーの状況を把握して、責任者としての役割を果たすことも必要です。さらに、新人看護師の教育を担当することもあるため、リーダーには、少なくとも3年以上勤めている看護師が選ばれる傾向にあります。
一方、新人看護師は、チームのメンバーに教えてもらいながら任された仕事をこなして、患者とのかかわり方を学んでいきます。
なお、チームナーシングでは、メンバーを数日もしくは週単位で入れ替えることによって、看護の水準を一定以上にキープします。
チームナーシングのメリット
チームナーシングの大きなメリットは、苦手なことがある看護師や新人看護師がいても、お互いに補完し合いながら仕事することによって、患者に質の高い看護を提供しやすいことにあります。
また、担当患者の情報をメンバー同士で共有することで、自分以外の看護師の視点に触れられるため、気づきを得やすいこともメリットです。
チームナーシングのデメリット
チームナーシングにおいては、メンバー同士、報告・連絡・相談を密に行うことが不可欠なため、ソリの合わない看護師がメンバー内にいる場合、仕事しづらさを感じることがあるかもしれません。
また、人によっては「自分ひとりで患者を担当したほうがスムーズに業務を進められるのに」と感じることもあるかもしれません。そのため、こうした状況に陥る可能性も加味しながら、リーダーが采配を行って進捗を把握することが大切ですが、そうであるがために、リーダーの負担が大きくなることもデメリットであるといえます。
また、患者ごとの担当がいない看護方式であるため、患者の細かい変化を見落としてしまう可能性もないとはいえません。
固定チームナーシング
固定チームナーシングは、ベースとしてはチームナーシングと同じですが、チームを半年以上固定するという特徴があります。
固定ナーシングのメリット
固定ナーシングは、新人にとってのメリットが大きいといえます。なぜなら、チーム内の先輩たちが、「何をどこまでできるのか」を把握してくれた状態で仕事できるため、効率よく学べるためです。
また、患者からすると、なじみの看護師が常にケアしてくれることから安心感が高いといえるでしょう。
固定ナーシングのデメリット
チームナーシングと同じく、相性が合わないメンバーがいる場合はストレスを感じる場合があると考えられます。また、長期間同じ患者を担当することから、経験できる症例が少なく、スキルアップにはつながりにくいといえます。
モジュールナーシング
モジュールナーシングとは、病棟の看護師を2つ以上のチームにわけたうえで、各チーム内の看護師を数人の「モジュール(単位)」にわけて患者のケアにあたる看護方式です。
チーム内のメンバーをさらにわけるため、モジュールごとの人数は、チームナーシングにおけるチームの人数より少なくなります。つまり、チームナーシングと比べて、小規模なチームで患者を担当するということになります。
チームナーシングは日本独自の看護方式ですが、なぜこのような看護方式が誕生したかというと、欧米のように看護師の数を確保することが難しいためです。
モジュールナーシングのメリット
チームナーシング同様、メンバーで補完し合って患者をケアできるため、看護の質を高く保てる点が挙げられます。また、チームナーシングと比べて少ない人数で患者を担当するため、入院から退院まで一貫して受け持てることにやりがいを感じやすいといえるでしょう。
モジュールナーシングのデメリット
自分が属しているモジュール外の看護師とコミュニケーションをとる機会が少なくなるため、仕事のなかで気付きを得る機会も少なくなる場合があります。
機能別看護方式
続いては、「専任看護」に該当する看護方式です。まずは「機能別看護方式」から説明します。
機能別看護方式とは、看護業務を分業化・専業化して、業務ごとに担当する看護師を決めて患者のケアにあたる看護方式です。バイタルチェック、採血、点滴・投薬などの業務ごとに担当をわけて、担当業務以外は行いませんが、担当する業務は早くて1日で変わります。
機能別看護方式のメリット
同じ業務を集中的に行うことから、得意分野の業務であればスムーズにこなせますし、反対に苦手な分野の業務であれば、同じことを繰り返し行うことでスキルを強化できます。
機能別看護方式のデメリット
看護師同士のコミュニケーションの機会が少なくなることや、一人ひとりの患者と深い関係性を築きにくいことがデメリットとして挙げられます。
また、患者視点でみると、ケアの種類ごとに担当する看護師が異なるため、困ったことなどがあったときに誰に相談すればいいかわからず、相談しにくいかもしれません。
プライマリーナーシング
プライマリーナーシングとは、患者の入院から担当までを1人の看護師が受け持つ看護方式で、担当看護師は「プライマリーナース」と呼ばれます。
プライマリーナースが休みの日などは、患者の入院時にプライマリーナースが立案している看護計画をもとに、ほかの看護師がケアを実施します。また、そもそも不在時に備えて他の看護方式と組み合わせて運用したり、サブの看護師が決められたりしていることもあります。
プライマリーナーシングのメリット
患者の入院時からずっと担当することから、些細な変化に気づいてサポートできるのが大きなメリットです。また、基本的に自分1人で患者を担当することから、責任感を持って看護に取り組む姿勢が身に付きます。
プライマリーナーシングのデメリット
看護師一人ひとりのスキルの差によって、看護の質にも差が出ます。その結果、患者から「ほかの看護師に変えてほしい」という声が上がることもあるかもしれません。
PNS(パートナーシップナーシング)
PNS(パートナーシップナーシング)とは、看護師2人がペアを組み、お互いの能力や得手不得手を補い合いながら業務を進める看護方式です。ただし、“補い合う”といっても、新人教育のために採用されることが多い看護方式であるため、新人とベテランがペアになるのが一般的です。
PNS(パートナーシップナーシング)のメリット
業務に関してわからないことがあれば、すぐにペアを組んでいる看護師に聞けるため、業務を進めるにあたって不安な気持ちになりにくいのがメリットです。
PNS(パートナーシップナーシング)のデメリット
新人とベテランでペアを組む場合、ベテランの負担が大きくなりやすいというデメリットがあります。また、新人看護師がベテラン看護師に頼り過ぎた場合、新人看護師に自分で考える力がつきにくいという懸念もあります。
セル型
最新の看護方式は、「セル型」(セル看護提供方式(R))と呼ばれる看護方式で、福岡県の飯塚病院によって開発されました。看護師長以外の全看護師が、ナースステーションを拠点とすることなく、基本的に患者の近くで業務を行う看護方式です。
各看護師は、電子カルテを入力できるパソコンやケアに必要なものを載せたカートごと移動して、担当患者の部屋、もしくはその近くで業務を行います。なお、担当する患者はその日によって異なります。
セル型のメリット
看護師が常に患者のそばにいるため、患者に異変があった場合すぐに気づいて対応できます。患者がナースコールを鳴らした場合も、素早く対応できます。
セル型のデメリット
急な検査や処置、あるいは急変が発生すると、看護師間の業務量に偏りが生じる場合があります。また、看護師の力量によって進捗度合いに差が出ることから、勤務終了間際における看護師間の業務量にも差が出る場合があります。
そうなった場合、自分の業務を終えた看護師がカバーすることになるため、結果的に、業務を早く終えた看護師の業務量が増えてしまうこともデメリットです。
看護体制とは
看護体制とは、病棟に入院している患者に対して、看護師が何人配置されているかの比率のことです。入院患者数に対して看護師が1名以上配置されていることを、「(入院患者の数)対1」と表記します。
看護体制は、入院基本料と大きく関わっています。つまり、入院患者の数と看護師との比率が変わると、入院基本料が変わるということです。なぜ病院や病棟によって比率が変わるかというと、患者の重症度などが異なるためです。
たとえば、急変リスクが高い患者などが入院しているICU(集中治療室)で、患者10人以上に対して看護師が1人しかいなければ、必要なときにすぐに対応できません。一方、病状が安定している患者などが入院している慢性期病棟などでは、看護師1人で担当可能な患者数は多いと考えられます。
代表的な看護体制は次の表の通りです。
看護体制 | 適用 | 概要 |
2対1 | ICU(集中治療室)、HCU(高度治療室)CCC(循環器疾患集中治療室)など | 急変リスクが高い患者、重篤な状態の患者、大手術後の患者などを看るための看護体制 |
3対1 | NICU(新生児集中治療室)、SCU(脳卒中集中治療室) | 集中的・専門的なケアが必要な患者、救急搬送された患者、術後ケアが必要な患者などを看るための看護体制 |
4対1 | HCU(高度治療室)、救急病棟など | |
7対1 | 大学病院、総合病院、急性期病棟 | がんや外傷などによる病状急変リスクがある患者を受け入れている病棟、患者の入れ替わりが激しい病棟向け |
10対1 | 地域の中核病院など | |
13対1 | 慢性期病棟、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、精神科急性期病棟など | 病状が安定している患者が入院する病棟向け |
15対1 | 慢性期病棟、精神科一般病棟など | 病状が安定しており、かつ自宅での生活が難しい患者や長期療養が必要な患者が入院する病棟向け |
20対1 | 療養病棟 |
看護方式×看護体制の組み合わせはさまざま
ここまで解説してきた通り、看護方式、看護体制ともにいくつかの種類があり、それぞれに特徴がありますが、看護方式と看護体制をうまく組み合わせることによって、それぞれの看護方式のよさをしっかり出すことができます。
そのため、自院にどんな看護方式を導入すべきか考えている立場であれば、看護方式と看護体制をどう組み合わせるのかを考えてみることが望ましいといえます。
病院勤務を希望している場合は、転職候補先の看護方式や看護体制について事前に確認することで、より理想に近い働き方ができる可能性が高まるので、転職活動時などにはしっかりチェックしてみてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2025年4月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
他の関連記事はこちら