
看護の質を追求するためには、環境整備を徹底することが不可欠です。では、看護における環境整備とはそもそもどんなもので、どんな目的でおこなうのか? 必要な手順や、環境整備をおこなううえでの注意点に至るまで、詳しく解説していきます。
環境整備とは
看護における環境整備とは、入院中の患者が過ごす環境を整備することです。ただし、単に清潔である状態をキープするだけでは、環境整備とはいえません。どういうことかというと、“患者が精神的に気持ちよく過ごせるよう環境を整えること”を意識することが大切だということです。
環境整備が十分でなければ、患者は精神的にリラックスして過ごすことができませんし、少しでも快適に過ごすために、患者自身が自分で納得のいく環境に整えようとした結果、余計な体力を消耗して、そのぶん疾患の治癒に時間がかかってしまう可能性も考えられます。
また、患者が臥床(がしょう)状態であれば自分で環境を整えることができないため、環境整備がなっていないと、多大なストレスを抱えてしまう可能性が高いといえます。
反対に、きちんと環境整備できていると、患者の身体的・精神的な健康のサポートが叶い、早期回復を促すための基盤を確立することができます。
それと同時に、環境整備は医療従事者が安全かつ効率的に業務をおこなううえでも不可欠な要素であるといえます。
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環境整備の目的とは ?
環境整備の目的は、主に5つ挙げられます。内訳としては、前述の環境整備の説明と被る部分もありますが、下記の5つとなります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
安全な環境づくり
環境整備の一番の目的が、患者が過ごす環境を安全に整えることです。患者の立位や歩行が不安定な場合や、認知症やせん妄によって行動が予測できない場合は特に、ベッドからの転落や転倒などの危険性が高くなります。それを防ぐためにも、寝ている間にベッドから落ちないよう柵を配置したり、歩行の邪魔になる障害物を隅に避けたりすることが大切です。
清潔な環境づくり
病室が清潔でなければ、入院患者が快適に過ごすことができないだけでなく、感染症まん延の原因ともなり得ます。病室を清潔に保つためには、掃き掃除や拭き掃除、ベッドリネンの洗濯はもちろん必要ですし、換気して新鮮な空気を取り入れることや、よく触れる場所をこまめに消毒することなども必要です。
法的・倫理的にも問題のない、快適な療養環境づくり
清潔感は快適な空間のひとつの要素ですが、「居心地がいい」と感じてもらうためにはそれだけでは不十分です。では、他にどんな要素が必要かというと、室温や湿度が適切で、照明が明るすぎず暗すぎず、カーテンなどによってプライバシーへの配慮がなされていることなどが挙げられます。
また、患者の入院部屋が個室ではない場合、同室患者との関係性において困っていることがないかを確認して、問題がある場合はその解消に努めることも、快適な療養環境づくりのひとつであるといえます。たとえば、病室内の患者同士の会話がうるさくてストレスを感じている患者がいるケースも考えられますが、病室で問題ないとされる音の大きさは次の通りなので、騒音測定器のアプリを使うなどして計測することで、改善の必要性の有無を判断してもいいでしょう。
【病室で「騒音」と判断されない音量】
さらに、プライバシー保護の観点からパーテーションを活用したり、場合によっては部屋の移動も含めて検討したりすることが必要なこともあります。
また、香りや光、音といった五感に訴えかける要素に問題がないかを確認することも重要です。たとえば、患者の好みに合わせたアロマの使用(※ただし、禁忌事項に注意)を検討したり、自然光を取り入れたり間接照明を活用したりすることで、安らぎを与える空間を演出できます。
コミュニケーションのきっかけづくり
環境整備は、患者が入院中の部屋でおこなうため、日々の環境整備の時間を患者とのコミュニケーションに充てることで、信頼関係を強化することができます。たとえば、換気のために窓を開けながら、「今日はあたたかくなりそうですね」と話を振ったり、ベッドリネンを取り換えながら、「昨夜はよく眠れましたか?」と質問したりするから会話をはじめて、患者の困っていることなどを聞き出すきっかけにするといいでしょう。
安全かつスムーズに業務を遂行するための整備
患者の安全や快適性を担保することは、実は、看護する側の心的負担や業務負担を減らすことにもつながっています。たとえば、患者が転倒したりベッドから転落したりしてケガをすれば、その処置に追われることになりますし、院内で感染症が広まれば、医師や看護師らが感染する可能性が高まります。また、空調の設定が適切でなかったり、こまめに喚起されていなかったりすることで患者がストレスを抱えた状態だと、患者のイライラが伝わってきて、適切な看護の提供が難しくなるでしょう。
環境整備の流れとは?
続いては、環境整備の流れを説明していきます。ただし、環境整備の進め方については決まりがあるわけではないので、紹介する通りの流れで進めていく必要はありません。あくまでも、一般的な手順として説明します。
準備
環境整備を実施することを患者に説明して、同意を得たら、患者のプライバシーと安全を確保することに努めます。さらに、効率的な作業のために、消毒用クロス、ごみ袋、使い捨ての手袋、使い捨てのエプロン 、マスクなど、環境整備に必要なものを用意します。
換気
室内の空気の入れ替えと臭気対策のために、ベッドリネンを整えたり、拭き掃除をしたりすることから、環境整備中はホコリが舞ったりニオイがこもったりするため、まずは窓を開けます。その際、患者に風が直接当たらないようしたり、患者が紫外線を気にしているようなら、患者の顔に太陽光が当たらないようにしたりといった配慮も必要です。
ベッド周りの整理
褥瘡予防のためにシーツのシワを伸ばし、必要があればリネンを交換します。また、ベッドの柵やナースコールの位置が適切であるかを確認します。
ゴミや廃棄物の処理
ゴミ箱に溜まっているゴミや、尿器やポータブルトイレに溜まっている汚物を適切に処理します。
清掃・消毒
ベッド柵やテーブルなどの、触れることが多い箇所を中心に、消毒用クロスで念入りに拭きあげていきます。汚染の可能性が高い箇所を拭いたクロスは、その後、清潔な場所に使用してはいけません。清潔な場所から汚染の可能性がある箇所へと一方向に拭いていきましょう。
物品の配置の確認
患者のADLに合わせて、よく使うものは手の届く位置に設置するなど工夫します。日常生活で困っていることがないかなどを患者に聞きながら配置すると、より適切な位置に設置できるでしょう。
空調および証明調整
室温や湿度、照明を適切に調整します。
安全確認
ベッドからの転落や転倒のリスクがないかどうかを今一度確認します。また、医療機器やルート類の配置を整理します。
不足がないかどうか患者に確認
一通り終えたら、患者に他に要望がないかを確認します。患者から要望が上がった場合、対応可能なことであればそれに対応します。
手指消毒
患者からの要望への対応が終わったらすべてが終了となるので、最後に手指を消毒します。
環境整備のチェックポイント
続いては、環境整備におけるチェックポイントを解説します。環境整備の精度を上げるためには、前述した流れをただこなすのではなく、予め「点検項目」を設けておいて、一つひとつの項目を点検していくことが必要です。
たとえば、次のような項目を点検項目としてまとめておくと役に立ちます。
安全確保
清潔管理
快適さ
プライバシーの保護
すべての項目を環境整備のたびにチェックすることで、環境整備の精度をキープできるだけでなく、予期しないトラブルが発生した際に、その原因の解明に役立つこともあります。
環境整備における注意点とは?
続いては、環境整備の注意点をみていきます。環境整備をおこなうにあたっては、次の点を意識することが大切です。
それぞれ詳しくみていきましょう。
患者の感覚
環境整備の基本は、「患者の身になって考えること」です。たとえば、快適に感じる室温や湿度は人によって異なる場合があるため、「暑くないですか?」「寒くないですか?」などの確認は必須ですし、スケジュールを書き込んでいるカレンダーが机のどの位置にどの角度で置かれているのがベストであるのかなども人によって異なるため、「この位置で大丈夫ですか?」の確認が必須です。
また、たとえば右半身に麻痺がある患者に対しては、棚ごと左側に移動させるなど、患者一人ひとりの状態を鑑みながらベストな配置を考えていく ことも大切です。
1日の時間による変化
窓からの最高の具合などは、朝昼晩でだいぶ異なります。そのため、環境整備に訪れたタイミングには問題がなくても、時間帯が変わればカーテンなどで調整する必要も出てきます。
患者の継時的な変化
患者の状態は、日々、変化していきます。たとえば、臥床状態から歩行可能になった際にはベッド柵の位置を変更する必要が出てきますし、患者のADLに合わせて環境を調整する必要があります。
患者の年代による違い【新生児や小児の場合、高齢者の場合】
患者が新生児や小児の場合、ベッドからの転落、ベッド付近での転倒のリスクが高いため、子どもの目線に立ってベッド周りの環境を整備することが大切です。また、食べ物ではないものでも口に入れてしまう可能性が高いため、子供の手が届く範囲に危険物を置かないことで、誤嚥や窒息のリスクを回避しましょう。
患者が高齢者の場合、認知力や筋力の低下が原因で転倒するリスクが高くなるため、転倒の予防に努めることが大切です。たとえば、「床が濡れていないか確認する」「滑りやすい靴を避けさせる」などもそのひとつです。
患者の状態による違い【緩和ケア・ターミナル期(終末期)の患者の場合】
緩和ケアにおける看護の環境整備は、患者の身体的・精神的な苦痛を和らげるために非常に重要です。痛みや不快感を最小限に抑えられるよう、ベッドリネンの清潔さを保つことやこまめに体位を変換させることを心がけます。また、カーテンやパーテーションで患者のプライバシーを守るだけでなく、面会時には、家族との静かな時間を確保できるよう配慮します。加えて、患者の宗教的・文化的背景を尊重して、静寂で落ち着ける空間を提供することも、緩和ケアにおける看護の環境整備の大事なポイントです。また、患者自身の意思や価値観を最大限尊重して、お気に入りの写真を飾りたい、私物を持ち込みたいなどの個別の希望があれば、可能な範囲でそれに応じた環境調整をおこなうことが、精神的な安らぎにつながります。
ターミナル期(終末期)においても、患者の身体的・精神的苦痛を和らげることを最重視することが大切ですが、それに加えて、本人が望む最期の過ごし方を取り入れられるよう、環境を整備していくことがとても大切です。たとえば、音楽やアロマなどもそのひとつです。また、家族が長時間付き添えるよう、椅子や毛布などを整備して、付き添いの家族にとっても快適で居心地のいい空間をつくることを心がけます。さらに、必要以上に話しかけずに、家族との穏やかな時間を守ることも大切ですが、患者本人や家族の不安な気持ちをサポートできるよう、相談しやすい雰囲気づくりも意識できるといいでしょう。
スマートホスピタルが、看護における環境整備に与える影響は?
続いては、スマートホスピタルの台頭によって、看護における環境整備はどう変わってきているのか? 今後どのように変わる可能性があるのかを解説していきます。
「スマートホスピタル」とは、ITを用いて医療サービスの質向上や業務効率化、医療従事者の働き方改革、患者の利便性向上などを目指す概念、もしくはそうした医療機関そのものことを指します 。
清掃ロボットによってより清潔に。掃除のベストタイミングもAIが提案
こうした考え方、もしくはそれを実践している医療機関が出てきたことによって、看護における環境整備にどのような変化がみられているか、もしくはこれから変化していくことが予想されるかというと、まず、清掃ロボットの活躍によって、「患者の入院部屋を清潔に保つこと」がより容易になったということが挙げられます。また、シフトやスケジュールもAIで管理されるため、ベストなタイミングで清掃できるのも大きなメリットです。
外国人患者や聴覚障害者ともスムーズなコミュニケーションが可能に
多言語対応システムの導入などによって、外国人患者や聴覚障害者ともしっかりコミュニケーションをとれるようになったことも大きな変化です。
空調管理・感染管理の精度が向上
IoTを活用した環境モニタリングによって、温度や湿度を快適に保てるようになり、非接触センサーや空気清浄システムなどの導入によって感染管理が強化されています。たこともポイントです。
患者の状態変化予測で変化に未然に対応
患者モニタリングシステムで心拍数や血圧などのバイタルサインをリアルタイムで収集・関しできるようになったことで、急変リスクが低減しています。なお、患者モニタリングシステムに関しては、スマートウォッチを導入することで在宅患者のケアにも役立てられています。
さらに、AIによる患者予後予測も可能になったことで、早期介入を実現できるようになったことから、重症化リスクも低減しています。
環境整備のスキルは看護師にとって欠かせないスキルのひとつ
「環境整備」という言葉を聞くと、ホテルの客室を整える清掃員のような仕事内容も連想されますが、看護における環境整備は、看護師にとって不可欠なスキルのひとつです。清潔で快適な空間をつくるという点においてはハウスキーピングに共通していますが、対象となる患者のADLに適した環境に整え、患者との信頼関係を構築していくことは、患者の状態を正しく理解している医療従事者にしかできないことです。もちろん、患者一人ひとりに合わせて最適な環境に整えることがとても大切です。また、環境看護のスキルを磨いていくことで、患者からの信頼度もUPするので、「清潔感を保てればそれでいいや」と考えるのではなく、患者にとってより快適な空間を提供することを目指してくださいね。
特徴
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この記事は、2025年7月時点の情報を元に作成しています。