【開業医にインタビュー:坂巻 壽 医師】3カ月で医院継承できた理由を取材

医院継承のきっかけを教えてください

知人からの相談がきっかけです。私は2014年の3月まで、都立駒込病院の院長として働いていました。その後は同院で非常勤の名誉院長として血液内科の外来診療を行って、2019年3月に退職することになっていました。
それとは別で以前から、義理の弟(以下、弟)、そして彼の娘と一緒にクリニックを開こうという話はしていましたが、「そんな話があったな」という程度でした。
そして2019年の1月中旬、当時81歳だった知人から「自分はリタイアしたいから医院を継承してくれないか」という話がありました。都内で開業する希望のあった弟に話を振ったのですが、当時の彼の立場上、クリニックの開設者になれなかったため、私が当面頑張ることを決断しました。

結果的に、数週間もせずに継承の意志を伝えてからは話がトントン進み、約3カ月後のGW明けには開業することになりました。

短期間で継承を決定できた理由を教えてください

継承開業に踏み切れた理由はいくつかあります。

(1)信頼関係ができていた方からの継承だった
(2)自分が医師を志した原点に戻れると思った
(3)自身のスキルや興味に大きな相違がない診療ができると感じた
(4)将来あり得る事態のバックアップ、継承の見込みがあった

(1)信頼関係ができていた方からの継承だった

継承のお話をくださった先生とは、前々から付き合いがありました。私が駒込病院在職中に、医師会の繋がりや、それ以外のことでも定期的にお会いして話す機会はよくありました。
仕事・プライベートなことを話す中で継承の話をいただいたので、最初は驚きましたが、もともと信頼している先生だったこともあり、先生のお人柄に合う患者さんが通っているクリニックであれば何も心配することはないと思ったのです。

(2)自分が医師を志した原点に戻れると思った

私が医師になりたいと思ったきっかけには、子供の時に近所の診療所で診てくれていたおじいちゃん先生がいます。先生に「お腹が痛い」と診てもらうことで当時は安心していました。そういった町の先生への憧れが影響して、医師になったところもあります。
ただ、当時の自分は、大きな病院で白血病をメインに最先端の医療を突き進んでいました。もちろんその道も面白く、ライフワークとしてとても良かったのですが、継承の話をいただいたときに “ 昔自分が憧れていた医師の姿に近づける ” “ 自分が医師を志した原点に戻れる ” とも思いました。周囲には、「なぜいまさら開業を?」と感じる人もいたかもしれませんが「自分がやりたいことって何だろう?」と考えた時に、これまでの私の経歴にとらわれる必要はないと思えました。

(3)自身のスキルや興味に大きな相違がない診療ができると感じた

私は血液内科の医師として患者さんと向き合ってきたので、もともとは高血圧や高脂血症で通院している高齢者への診察経験が少なかったです。しかし、病院を退職する3〜4年ほど前から、弟が所長をしているクリニックで診察を手伝っていくなかで、そういった類の診察もできるようになり、自信もついてきました。

もともと地域医療への思いはありましたし、自分のスキル面での不安も減り、患者さんとのコミュニケーションも楽しめていたので、であればこの話に乗ってみようと思いました。

(4)将来あり得る事態のバックアップ、継承の見込みがあった

自分の年齢を考えると、健康面や将来の継承などのリスクも考えてしまいます。しかし、弟や姪に私のいざという時のバックアップ・継承を託せるという安心感も、この決断には重要な要素でした。

継承にあたって、利益・経営面の計画はどのように立てましたか?

マーケットリサーチや、綿密な経営方針の検討はしていません。
今さら「儲けたい」という気持ちもなかったので、前任の先生から患者さんがどのくらい来ているか伺うなかで、経営上なんとかやって行けると判断できたため、コンサル等にサポートをお願いすることなく運営し続けています。

もともと私生活でもその先生とコミュニケーションをとっていたこと、私が駒込病院在職中に医師会でつながっていたことから、診療所の状況はわかっていたので大きな不安もありませんでした。特殊かもしれませんが、私の場合は本当に前任の先生への信頼ですべてが動いていったように思います。

継承後でも患者さんがほとんど減らなかった理由は?

前任の先生が患者さんに対して説明をしてくれていたからだと思います。「5月からこういう先生が来ますよ」と全て話して引き継ぎをしっかりしていただけた点は大きいです。
また、通っていた患者さんがとても良い方だったことも関係していると思います。幸い、クレーマーのような患者さんもおらず、前任の先生の人柄に合うような穏やかな方が多いので、私とも良い関係を築けていると思います。前任の先生と私の年齢もひと回り程度しか離れていないこと、空気感・性格的に少し似ていることもあって患者さんも大きなギャップを感じずに来院されるのではないでしょうか。

継承の手続き、提出書類等はどのように準備しましたか?

前の先生が紹介してくれた、手続き系のサポートに詳しい専門家にお願いしました。
最初は全て自分で進めるものだと思っていたので、分からないなりに資料集めをしたところ「全て私がやりますよ」と手を貸してくれました。もしも自分ひとりでこの作業をしなければならないとしたら、3カ月での継承は難しかったかもしれません。

集患対策はどのように行っていますか?

これまではほとんどしていませんでした。前任の先生から引き継いだ時に来てくれる患者さんがいたので、その方々としっかりコミュニケーションをとることを心がけて診察を進め、開業から半年ほど経過し患者さんが増えてきたこともあり、忙しく過ごしていました。

しかしその後、新型コロナウイルス感染症の第一波によって患者さんが激減しました。第一波の収束とともに来院患者さんは戻ってきましたが、完全にコロナ前には戻っていないように感じます。最初の一年は、引き継いだ患者さんをしっかり診ることを第一に考えておりましたが、今後はこのような社会状況にも対応できる体制にしないといけないと思いました。
そのため、今は診療スタイルを多様化させるためにオンラインツールの準備をしたり、そもそもホームページもなかったのでその依頼をしているところです。当院は高齢者の患者さんが多いので、このまま新規の患者さんが増えずに尻すぼみになることを防ぐためにも、違った層の患者さんも呼び込める方法を模索しています。

前の先生と坂巻先生の診療方針の違いをどのように調整しましたか?

私と前任の先生との違いはいくつかありました。私が病院で診ていた血液内科では、患者さんの血液検査は毎回必須でした。しかし、クリニックでの診療では毎回の血液検査は不要ですし、やりすぎてもいけません。
こういった違いはカルテを見返して把握し、患者さんにあまり違和感がないよう、一年程度は前の先生に倣うよう、検査も極端に増やさず様子を見ていました。その後、こまめに検査する必要がある患者さんだと判断すれば、頻度を増やしていきました。

また、患者さんの考えを見ながら慎重に診察するようにもしました。私の判断だけでなく患者さんの意志も汲み取りながら「その患者さんにとってベストな診察」を見極めて試行錯誤しています。

坂巻先生が感じている「医院継承のメリット」を教えてください

設備も患者数もある程度確保されている点だと思います。
新規開業の場合は、患者さんを0から獲得する必要がありますので大変です。前任の先生から私に代わるタイミングで離れた患者さんもいるとは思います。ただ、そのまま残ってくれた方々はその後減ることなく来てくれているのでありがたいです。

また、当院ではクリニックの建物もレントゲンなどの機器、ワクチンなどを入れておく冷蔵庫、さらに什器までもそのまま引き継ぐことでコスト削減できたので、お金の面でも「継承」によって大いに助けられていると思います。

継承してから新しくした設備等を教えてください

新たに導入したものは電子カルテです。電子カルテやレセプトに詳しい弟に相談し、紹介してもらった電子カルテを使っています。電子カルテは駒込病院やその他いくつかの診療機関で使用経験がありますが、クラウドで管理されたCLIUSの電子カルテは安全で快適だと実感してます。紙カルテより、受付の人件費の削減にも役立ちますし、今回電子カルテCLIUSと同時に導入したクラウドORCAを使って、コスト削減に寄与していると感じてます。レントゲンや心電図の機器は前の先生から引き継ぎ、検査結果を電子カルテで管理しています。

▶︎【無料】「1分でわかるクラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)」をダウンロードする

今後検討しているものは、超音波検査です。
現在は、レントゲンと心電図、採血といった最低限の検査しか整っていない状態です。そこに超音波検査を入れれば情報量が増え、見逃しも減らせると思うので前向きに検討しています。
私は超音波での検査に慣れていないので、導入が実現したらエキスパートに依頼しますが、私自身も覚えるつもりです。

とはいえ機器も決して安価ではありません。経営面を考えると、もう少し患者さんを増やしてから導入するのが現実的かと思っています。

▶︎【無料】CLIUS「図解あり 一番やさしい電子カルテの選びかたブック」をダウンロードする

医院継承を検討している方へのアドバイスを教えてください

アドバイスと言えるかは分かりませんが、一番大事なことは「相手を知るためのコミュニケーションと信頼感」だと思います。継承を検討している方は、意地やエゴではなく、継承してくれる人の考えを理解するためのコミュニケーションを意識すると良いのではないでしょうか。自分の意見を伝えるだけなく、相手の意見に耳を傾けることで信頼関係が構築されるのだと思います。
そして、継承時に引き継いだ患者さんに安心感を与える診療を心がけていただきたいです。

先述したように継承のメリットは、設備が整っていて患者数の心配も少ないことです。継承だからこそ、走り始めてからでも新たな施策を考えていけると思います。継承のメリットを大いに享受して、そのアドバンテージを生かしながらクリニックの未来を作ってゆくと良いのではないでしょうか。

そして、今回の取材を受けて、私のようなスムーズな継承はとても珍しいのだと気づきました。前の先生のお人柄、多くの方々が繋いでくださった機会や人脈が、この継承開業に全て向かって動いていったような、不思議な縁を改めて感じています。

<関連記事 >
親子継承を経験した和久井医師へのインタビューはこちらから

Mac・Windows・iPadで自由に操作、マニュア ルいらずで最短クリック数で診療効率アップ

特徴

1.使いやすさを追求したUI・UX ・ゲーム事業で培って来た視認性・操作性を追求したシンプルな画面設計 ・必要な情報のみ瞬時に呼び出すことが出来るため、診療中のストレスを軽減 2.診療中の工数削減 ・AIによる自動学習機能、セット作成機能、クイック登録機能等 ・カルテ入力時間の大幅削減による患者様と向き合う時間を増加 3.予約機能・グループ医院管理機能による経営サポート ・電子カルテ内の予約システムとの連動、グループ医院管理機能を活用することにより経営サポート実現 ・さらにオンライン診療の搭載による効率的・効果的な診療体制実現

対象規模

無床クリニック向け 在宅向け

オプション機能

オンライン診療 予約システム モバイル端末 タブレット対応 WEB予約

提供形態

サービス クラウド SaaS 分離型

診療科目

内科、精神科、神経科、神経内科、呼吸器科、消化器科、、循環器科、小児科、外科、整形外科、形成外科、美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管科、小児外科、皮膚泌尿器科、皮膚科、泌尿器科、性病科、肛門科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、気管食道科、放射線科、麻酔科、心療内科、アレルギー科、リウマチ科、リハビリテーション科、、、、

坂巻 壽

取材協力 坂巻クリニック 院長 | 坂巻 壽

坂巻クリニック・院長。東京医科歯科大学卒。日本内科学会認定医、日本血液学会認定医・指導医。専門分野は血液内科学・造血細胞移植。
日本造血細胞移植学会の理事を務めた後、名誉会員へ。


他の関連記事はこちら

執筆 CLIUS(クリアス )

クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。


他の関連記事はこちら