紙カルテがたまって保存場所に困っているクリニックは少なくないでしょう。紙カルテを使い続けても、電子カルテに移行しても「過去の紙カルテをどうしよう」という悩みは同じです。この場合、「紙カルテを電子化して保存する」のが解決策になります。電子化する際にはスキャナーを用いるわけですが、ではスキャンした後の紙カルテはどのようにすればいいのでしょうか?
厚生労働省の定める「ガイドライン」とは?
「厚生労働省」は「「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」という資料を公開しています。最新版は2017年(平成29年)5月付けの「第五版」ですが、その中に「診療録等をスキャナ等により電子化して保存する場合について」という章があり(P.126)、ここで紙カルテをスキャンした場合の取り扱いについての指針を述べています。
(1)電子カルテ等の運用において、診療の大部分が電子化された状態で行われている一方、他院から紙やフィルムでの診療情報提供書等の受け入れが避けられない事情がある場合
紙の調剤済み処方せん(薬剤師法第28条第2項に基づき調剤録への記入が不要とされた場合の調剤済み処方せんを含む。)も、これに相当する。(2)電子カルテ等の運用を開始し、電子保存を施行したが、施行前の診療録等が紙やフィルムで残り、一貫した運用ができない場合、及びオーダエントリシステムや医事システムのみの運用であって、紙等の保管に窮している場合
⇒参照・引用元:「厚生労働省」「「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版」
参照・引用元:「厚生労働省」「「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版」
という2つの場合を想定して説明しています。簡単にいえば、
- 診療のたびにスキャナーで電子化して保存する場合
- 蓄積された過去の紙カルテをスキャナーで電子化して保存する場合
の2つです。本記事のテーマは、これからも紙カルテを使うが過去の紙カルテの保管場所がない場合、電子カルテに移行する場合の2つですが、結局「過去の紙カルテをどうしよう」ですから、どちらも②に当たります。
スキャンが終わった元の紙カルテは廃棄してもよい
では、スキャンして紙カルテの電子化が終了した場合、元の紙カルテは廃棄してもいいのでしょうか?
結論からいえば「廃棄してもいい」です。
「第5版に関するQ&A」という文書の中に以下の質問があります。
Q-64
①診療録等をスキャナで電子化した場合、原本の取扱いはどのようにすべきか。
②電子化された場合、法定保存年限を経過した文書も保存すべきと考えるべきか。
この質問に対して「厚生労働省」は以下のとおり回答しています。
A 「9.1 共通の要件」の記載に従って電子化し、電子化されたものを保存義務のある対象とする場合は、スキャンされた原本は個人情報保護の観点に注意して廃棄しても構いません。
つまり、スキャンしたデータの方を「診療が終了してから5年間」保存しなければならない診療録とするのであれば、紙カルテは廃棄してもいいといっています。
ただし、回答は以下のように続きます。
しかし、電子化した上で、元の媒体も保存することは真正性・保存性の確保の観点からきわめて有効であり、破棄を義務付けるものではありません。また、法定保存年限を経過した文書の保存期限は、各医療機関等で規定することとなります。
参照・引用元:「厚生労働省」「「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版」に関するQ&A」
「できれば紙カルテの方も保存しておくのがいい」ので「破棄は義務ではありません」というわけです。といっても、紙カルテを保存しておくのなら電子化する必要はありまんし、紙カルテが場所を取るのは変わらないことになります。ですので、スキャンが完了したらかさばる紙カルテは廃棄するクリニックが多いでしょう。
しかし、電子データは停電や災害時には使えないことがあります。実際の運用面からいえば、必要になりそうなカルテは印刷して参照しやすい場所に保管することになるでしょう。また、電子データは一瞬で全てが失われる可能性があります。そのため、定期的にバックアップを取るなどのデータのメンテ作業が必要になります。
過去の紙カルテをスキャンして電子化したいと考えている医師・クリニック院長の皆さんは、電子化したデータが少なくとも法定期間は確実に保護されるような手段を講じなければなりません。紙カルテの電子化を考えるのであればこの点に十分留意してください。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2021年2月時点の情報を元に作成しています。