
紙カルテから電子カルテへの乗り換えを検討中に気になることのひとつが、「移行期間はどのくらい必要なのか?」「移行期間中はどのように診察を続けていけばいいのか?」ということではないでしょうか? そこで今回は、主に紙カルテから電子カルテへの切り替えについて考えていきます。
紙カルテから電子カルテに移行する問題点とは? 移行作業の課題や対策を解説
未カルテから電子カルテへの移行方法や移行期間について考える前に、まずは、紙カルテから電子カルテに移行するメリットを確認していきましょう。紙カルテから電子カルテに乗り換えると、以下のようなメリットを享受することができます。
それぞれ詳しく解説していきます。
カルテの保管スペースを削減できる
カルテの保存期間は、保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条によって5年間と義務付けられています。5年間の起点となる日にちは、患者が最後に診察を受けた日です。4年以上5年未満来院していない患者のカルテもすべて保存しておく必要があるため、これまでに来院した患者の総数を考えると、紙カルテの場合、かなりの保管スペースが必要であることがわかるでしょう。
一方、電子カルテの場合、記入したデータはサーバー上に保存されるため、実態としてはスペースが必要ありません。そのため、院内のスペースを広く使えることは大きなメリットであるといえます。
業務効率化が期待できる
紙カルテから電子カルテに切り替えて、選択機能、DO処方などの便利な機能を駆使すえば、カルテの入力時間を大幅に削減できる可能性が高いといえます。さらに、レセコンや各種検査機器を電子カルテと連携させれば、院内業務を一気通貫させることができるため、業務効率化が期待できます。
検査結果をスピーディに閲覧・共有できる
電子カルテと各種検査機器を連携させれば、検査結果を医師がスピーディに閲覧できるだけでなく、結果のデータを患者やその家族、スタッフとスピーディに共有することも可能となります。検査室や外部検査機関のデータが電子カルテに反映されるとなると、そのデータを診察室にいながらにしてリアルタイムで確認することもできますし、電子カルテに反映されたデータを患者にみてもらいながら、今後の治療方針について説明していくこともできます。
患者の待ち時間を短縮できる
カルテの入力時間が短くなれば、そのぶん、患者の待ち時間が短縮されます。WEB問診システムと電子カルテを連携させて、患者に事前に問診に答えてもらうようにすると、一人ひとりの待ち時間がさらに短くなります。
患者満足度が上がる
待ち時間が短くなれば、患者満足度が上がることが考えられます。また、選択機能やDO処方などを使うと、たとえば薬剤の容量なども間違えにくいため、診察の精度が上がって患者満足度が向上します。
ヒューマンエラーを防止できる
前述の通り、カルテの機能を駆使すると、ヒューマンエラーを未然に防止することができます。また、病名と処方に整合性がとれていない場合、アラートで教えてくれる電子カルテなどを使えば、間違いを犯す可能性がさらに低くなるため、レセプト返戻も減ります。
紙カルテから電子カルテへの移行ステップは?
続いては、紙カルテから電子カルテへの移行ステップを確認します。紙カルテから電子カルテへの移行ステップは以下の通りです。
① 電子カルテの選定
② 要件確認、システム設定
③ 試験運用
④ 本稼働
それぞれ詳しく解説していきます。
電子カルテの選定
数ある電子カルテメーカーが出している製品のメリット・デメリット、使い勝手のよさを比較しながら、導入する電子カルテを選定します。選定の際、最終的に導入候補として3社前後のベンダーに絞ったら、実際に候補となる電子カルテを触ってみたり、先方の営業担当者から直接話を聞いたりすることで、実際にどの電子カルテを導入するかを決めていくといいでしょう。
要件確認、システム設定
要件確認およびシステム設定の段階では、自院の業務フローについて改めて考える必要があります。どんな設定をおこなえば業務効率化に役立てられるのかを考えることは、業務改善点のあぶりだしにもつながってきます。
試験運用
紙カルテから電子カルテに100%切り替える前に、試験運用を挟むことは一般的です。医師以外の看護師や受付事務などのスタッフも、本試験中に電子カルテの使い方を習得していきます。試験運用できる期間はメーカーによって異なります。また、定められている試験運用期間を過ぎても不安が残るクリニックに対して、試験運用期間を長めに設けてくれるメーカーも存在します。試験運用を経て、「やはり他のメーカーのものにしたい」と思うケースもありますが、その可能性を加味してテスト運用させてもらっている場合に関しては、契約に至らなくても問題ありません。
また、テスト運用してみて気になった点や改良を希望する点に関しては、ベンダー側に積極的に伝えることがおすすめです。特にクラウド型電子カルテの場合、随時改良を重ねているものなので、ユーザーの声にすぐに応えてくれる可能性が高いといえます。また、すぐには対応できないとしても、なぜすぐに改良することが難しいのかをきちんと説明してくれるベンダーが多いはずです。
本稼働
試験運用を経て、「この電子カルテを導入する」と決めたら、本稼働のステップへと移ります。基本的には試験運用中に不安点を解消しておくべきですが、本稼働後に思わぬトラブルに見舞われることは多々あるので、その場合に備えて、電子化されたデータをプリントアウトしておくと役に立つことがあります。
紙カルテから電子カルテに移行する流れは?
紙カルテから電子カルテに移行する流れはいくつか考えられますが、「①(来院履歴や通院状況が)どんな状態の患者のデータを ②どのくらい時間をかけて ③どこまで移行させたいか」「カルテの保存スペースをどのくらい確保できるか」などによってベストな方法は異なります。大別すると2通りの方法が考えられますが、さらにそれぞれの方法の手段がいくつか考えられます。
また、「紙カルテのデータは移行させず、電子カルテ導入以降は電子カルテに入力していく」という方法もあります。詳しくは後述しますが、この方法の場合、完全に紙カルテが不要となるまでにかなりの時間を要します。
では、下記3つのケースについて詳しく解説していきます。
すべての紙カルテのデータを電子カルテに移行させる
すべての紙カルテのデータを電子カルテに移行させるには、主に以下の3つの手段が考えられます。
自院で作業する
自院スタッフで紙カルテのデータを電子カルテに移行させるとなると、それなりに時間がかかります。具体的な方法としては、紙カルテをスキャンして電子カルテに取り込んでいくことになります。
紙カルテのスキャンサービスを利用する
スキャン作業にかかる時間を省きたい場合は、専門業者に依頼するといいでしょう。
『富士マイクロ株式会社』では、紙カルテをスキャンして電子化(PDF化)するだけでなく、患者IDなどの検索用の情報データを追加して、クリニックのパソコンから検索できるようにしてくれるサービスを提供しています。
『株式会社寿データバンク』では、紙カルテの電子化だけではなく、元の紙カルテを保管するサービスも提供しています。医師にとってありがたいのは、必要なカルテなどがあれば管理倉庫から出して届けてくれることです。電子化を進める一方で、元の紙カルテもしっかり保管しておきたいという意向であれば、利用を一考してもいいのではないでしょうか。
なお、電子カルテから電子カルテへのデータ移行の場合は、旧電子カルテの印刷機能を利用してカルテをPDF印刷して、新カルテに簡単にデータ移行できる、『京葉電子販売』の「E-Port Viewer」がおすすめです。
既存レセコンからデータを移行させる
レセコンのデータから電子カルテに診療録を移すのもひとつの手段です。電子カルテの種類によっては、レセコンに保持している診療録データを電子カルテから参照できる機能があるので、この機能を利用すればスムーズに作業できます。
電子カルテよりもレセコンのほうが普及しており、歴史も長いことから、電子カルテを導入する前からレセコンは使っていたというクリニックは多いでしょう。たとえば、電子カルテ『CLIUS(クリアス)』では日医標準レセコンである『ORCA(オルカ)』の過去レセプトを参照してオーダーを出せます。『ORCA』を利用しているクリニックであればこの機能を活用できるでしょう。
再来があった患者のデータを移行させる
保管されている大量の紙カルテすべてをスキャンすることを考えると気が遠くなることでしょう。そのため、必要なもののみをコンピューターで管理することを考えてもいいかもしれません。具体的には、再診で来院した患者のカルテから電子化していくことなどが考えられます。
再診した患者の紙カルテを見ながら電子カルテに入力、あるいはスキャンして電子データ化します。初診の患者は最初から電子カルテを使用しますので問題ありませんね。この運用方法なら必要なカルテから電子データにしていけます。もし可能なら、これと並行して過去の紙カルテのスキャン作業も少しずつ進めればいいのです。
紙カルテのデータは移行させず、数年間は紙カルテと電子カルテを併用する
紙カルテのデータは移行させず、電子カルテと併用するとはとういうことかというと、たとえば1月1日から電子カルテを使い始めたとして、前年の12月までに来院している患者が1月に入ってから来院した場合、12月までの診療緑は紙カルテで参照しながら、1月以降の診療録は電子カルテに記入していくという方法です。
1月以降初診の患者に関しては最初から電子カルテに診療録をつけていくことになりますが、前月以前に来院歴がある患者に関しては、毎回、紙カルテと電子カルテを併用しながら診察することになるのがネック。時間が経つにつれて、紙カルテを参照しなければならないことが減るため、2つを見比べながらの診察の割合は減りますが、電子カルテ一本で診察できるようになるまでにはかなりの時間がかかるということになります。
紙カルテと電子カルテは併用できる
前述の通り、紙カルテから電子カルテへの移行は、どの手段でおこなったとしてもそれなりに時間がかかります。そのため、移行期間中は必然的に紙カルテと電子カルテを併用することになるケースがほとんどでしょう。
紙カルテから電子カルテに移行するにあたっての注意点は?
続いては、紙カルテから電子カルテに移行するにあたっての注意点をみていきます。紙カルテから電子カルテに移行するにあたっての注意点は次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
無理のないスケジュールを考える
紙カルテから電子カルテへの移行手続きにはそれなりに時間がかかります。そのため、事前に綿密なスケジュールを組んでおかなければ、本格運用までに準備が間に合わなくて焦ってしまうことが考えられます。自院の場合、本格運用までにどのくらいかかるか知りたい場合は、ベンダーに、現状のクリニック運営状況やスタッフのITスキルを伝えることで見積もってもらうといいでしょう。
電子カルテ運用後のルールを決めておく
紙カルテから電子カルテに移行すると、クリニックの業務の流れが変わってきます。そのため、本格運用後のルールについて事前に考えておくことが望ましいといえます。
データ移行後の原本に保存義務はないが、できれば5年間は保存しておくことが望ましいことを知っておく
『厚生労働省』はカルテの保存期間を「診療終了後5年間」と定めています。この5年間が過ぎないとカルテは廃棄できません。では、紙カルテから電子カルテにデータを移行した場合、原本はどのように扱うのが望ましいのかというと、「保存義務はないが、できれば5年間は保存することが望ましい」とされています。
根拠としては、厚生労働省が公表している「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版 Q&A」において、「①診療録等をスキャナで電子化した場合、原本の取扱いはどのようにすべきか② 電子化された場合、法定保存年限を経過した文書も保存すべきと考えるべきか」のQに対して、「電子化されたものを保存義務のある対象とする場合は、スキャンされた原本は個人情報保護の観点に注意して廃棄しても構いません。しかし、電子化した上で、元の媒体も保存することは真正性・保存性の確保の観点からきわめて有効であり、破棄を義務付けるものではありません。また、法定保存年限を経過した文書の保存期限は、各医療機関等で規定することとなります」と回答されているためです。
参照:厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版 Q&A」
電子カルテにデータ移行後も、紙カルテ用紙は一定枚数常備しておく
電子カルテにデータを移行してしまえば、未使用の紙カルテ用紙は使うことがないから破棄しようと考えるかもしれませんが、データ移行後も、紙カルテ用紙は一定数常備しておくことが大切です。なぜかというと、被災時や通信障害時などには、電子カルテにアクセスできない場合があるため、その際に診療録をつけるものがないと困ってしまうからです。
紙カルテから電子カルテに必ず移行したほうがいい?
厚生労働省が公表している、電子カルテシステムの普及率に関する最新のデータは令和2年のもので、一般病棟では57.2%、一般診療所では49.9%という普及状況であるとされています。
つまり、現在でも電子カルテを導入しておらず、紙カルテを使い続けている医療機関はかなり多いということになります。ただし、普及率の推移を見ると右肩上がりであるため、令和7年現在はもう少し普及率が上がっていることは想像に難くありませんが、それでも100%には遠く及びません。
では、電子カルテ未導入の医療機関すべてが、今後、電子カルテを導入することが考えられるかというと答えはNO! なぜかというと、たとえばあと数年以内に閉院もしくは事業承継を考えているクリニックなどは、これから新しいことを導入していく意義はあまりないと考えられるためです。
しかし、そうした特別な事情がなく、今後も長く自院を経営し続ける予定で、他の医療機関にも情報を共有する必要が生じることもあるなら、早い段階に電子カルテの導入を済ませておくと後々とても楽です。
なお、厚生労働省は標準型電子カルテの開発を進めていて、遅くとも2040年には概ねすべての医療機関において、患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指すことを明言しているので、近い将来、閉院予定であるとはいえ、あと5年以上は続けたいと考えている場合は、後々大変な思いをすることがないよう、早々に導入手続きを進めることをおすすめします。
参照:厚生労働省「第1回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料」標準型電子カルテ開発に向けた利用者/技術者目線の知見収集の場について
電子カルテの乗り換えタイミングはいつがベスト?
ここまで解説してきた通り、紙カルテから電子カルテへの移行はそれなりに時間がかかります。移行期間中は、いつもの業務とは別に業務が発生するため、時間的にも余裕がなくなります。そのため、繁忙期は避けたほうが無難だといえます。たとえば、耳鼻咽喉科や眼科であれば、花粉症のシーズンは避けたほうがいいですし、内科であれば風邪やインフルエンザの流行シーズンは避けたほうがいいでしょう。
また、スタッフの定着率が高くないクリニックなどは、一般的に転職や退職が多い時期などは避けるのが賢明です。定年を控えているスタッフ、育児休暇取得を控えているスタッフなどがいて、そのぶん、新規スタッフを採用しなければならないと考えている間なども同様です。
紙カルテから電子カルテのデータ移行についてはベンダーに相談するのもおすすめ
紙カルテから電子カルテに乗り換えるにあたって、「どうすればスムーズにデータ移行できるだろうか?」ということはほとんどの医療機関が考えるため、ベンダー側でも答えを用意しているのが一般的です。しかも、各医療機関に適した方法をアドバイスしてくれることが考えられるので、まずは一度、電子カルテの導入を検討しているベンダーの担当者に相談してみることをおすすめしますよ。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2021年2月時点の情報を元に作成しています。