クリニック開業時、銀行からの借り入れ額は「大きめにしておいたほうがいい」理由とは?

クリニックを開業するには巨額の資金が必要です。潤沢にお金があればいいのですが、必要な額に足りない場合には銀行などから融資を受けることも視野に入れないといけません。

融資を受けるにあたっては、日本人は借金を嫌う傾向があるため、できるだけ額を少なくしようとします。しかし、これによって開院した後の経営が苦しくなることもあるのです。

今回は、クリニックの開業時の借り入れ額について、一体どのくらいを見ておくべきなのか?を解説します。

目次
  1. クリニックを開業するにはどのくらいの資金が必要?
  2. 融資先によっては限度額が設けられている
  3. クリニックが存続するには「キャッシュ」が必要
  4. クリニックを開院後に融資を受けるのはハードルが高い

クリニックを開業するにはどのくらいの資金が必要?

どのくらいの金額が妥当な金額であるかを考えるために、まずは開業に必要な資金の目安を確認しましょう。

開業に必要な資金は診療科によっても異なりますが、たとえば内科であれば、土地、建物代が不要なテナント開業の場合は6,000万円〜8,000万円といわれています。

開業資金がもっとも高い診療科は脳神経外科です。特に、画像診断装置やCT、MRIを導入する場合は高くつきますが、導入しない場合でも6,000万円はくだりません、導入した場合は2億円を超える心づもりでいたほうがいいでしょう。

ちなみに、画像診断装置を導入しない場合は、画像診断センターなどとの連携が必須ということになります。

反対に、開業資金がもっとも少なくて済むのは精神科です。診療用ベッド、電子カルテ、レジスターがそろっていれば診療可能なので、テナント開業であれば、場合によっては自己資金で事足りるでしょう。

全額融資でも開業できるのか?についてですが、これに関しては極めて難しくなっています。

開業のための融資を希望するなら、何にどのくらいのお金がかかるのか、どれくらいのお金が足りないのかを含めた事業計画書を提出する必要がありますが、「自己資金ゼロだけどこんなことがやりたい!」と申請してもやる気を疑われてしまうからです。

融資先によっては限度額が設けられている

では、必要資金のうちどの程度を自己資金として用意すればいいのでしょうか。

ひとつには、融資先が設定している融資の限度額が目安になります。

クリニック開業時に融資を依頼できる先としては、

  • 日本政策金融公庫
  • 信用保証協会の制度融資
  • 民間金融機関
  • 福祉医療機構
  • リース会社

などが挙げられますが、たとえば、「日本政策金融公庫」の融資限度額は7,200万円に設定されています。

また、銀行プロパー融資の場合は一律の条件はなく金融機関によって対応が異なるので、目当ての銀行に確認するのが一番です。

クリニックが存続するには「キャッシュ」が必要

自己資金の不足を銀行などからの融資で賄うのは普通のことです。むしろ全額自己資金での開業はとても珍しいと言えます。

また、融資を受けるにあたって「必要最低限と思われる融資額で済ませようとする」「融資額をできるだけ減らそうとする」のもありがちです。

日本人は基本的に「借金=悪いこと」と考える傾向があり、開業にあたっての借金もできるだけ少額の方がよいと考えるからです。

しかし、クリニック開業に際しては、この考え方は間違っていると言っていいでしょう。

開院してから何が起こるのかは誰にも分かりません。当初の計画どおりに集患できなかったらどうなるでしょうか。売上が予測よりも少なければ持ち出しばかりになりますし、赤字が続いた場合、クリニックの存続に直結します。現金がなくなったらその時点でおしまいです。

ですから、開院に当たって銀行から融資を受ける場合には、必要な医療機器の購入などに充てるのはもちろんですが、きちんと運営にかかるコストのことまで考え、余裕を持って資金を借り入れることが大事です。

商売の基本は、キャッシュをできるだけ手元に残すことにあります。

これは医業であっても八百屋であっても同じです。明日売る野菜を仕入れるためのキャッシュがなければ八百屋を続けることはできません。医業でも来月の家賃が支払えなければ続けられません。

勤務医からいきなりクリニック院長になるとすぐに経営者の視点を持つことはできませんが、「キャッシュフローを最も重視すること」を常に念頭に置くことです。

たとえ借金であってもそれによってキャッシュが手元に増えるのであればむしろ歓迎すべきことなのです。クリニックの経営が軌道に乗れば借金は返せますし、経営がうまくいったら早期返済すればいいのです。

ただし、借り入れ額が大きすぎて利子の支払いにも困るほどになるのはいけません。どこまでなら借り入れが可能かは十分シミュレーションを行って銀行と交渉するようにしてください。

クリニックを開院後に融資を受けるのはハードルが高い

最初に余裕を持って資金を借り入れておかないと、後で困ることがあります。

典型的な例は、クリニックを開院したものの思うように集患できず、新たな借り入れをしないとクリニックが存続できなくなるというものです。

そうなってからの融資は、一筋縄ではいきません。

開業前であれば、計画書で判断してお金を貸してくれますが、開院してからは「これまでの実績」「これからの収益改善計画」を出さなければなりません。実績が悪いと当然ながら改善計画も疑問視されますし、新規借入のハードルは高くなります

このように銀行からの融資というのは「行きはよいよい帰りは怖い」ものです。クリニックの経営がうまく回りだしてからの新規借入はたやすいでしょうが、経営難に陥ってからの借り入れは容易なことではありません。

実際、赤字決算になると銀行からの融資は大変難しく、なかでもメガバンクはほぼ申請が通らなくなると言われています。

ただし、地域密着型の地方銀行や信用金庫、信用組合などは、地域の活性化につながる事業は全力でサポートする傾向にあるため、メガバンクから断られたからと諦める必要はありません。また、赤字決算時には課税所得が存在せず、法人税の支払額はゼロとなるので、法人税がかからないうちに勢いを盛り返すことを目指したいものです。

「借金はできるだけしない」というのは個人としては立派な心掛けかもしれません。

しかし、医師・クリニック院長は経営者の視点を持つ必要があります。クリニックの存続を考え、できるだけキャッシュを手元に確保しておくのが得策です。

これからクリニックを開院するという医師の皆さんはぜひこの点を忘れないでください。

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執筆 コラム配信 | クリニック開業ナビ

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