個人事業主としてクリニックを開業するなら配偶者や親族に仕事を手伝ってもらうことがあるでしょう。このようなケースで給与を支払うことにすると、その給与は通常は経費として認められません。経費にした方が節税効果が高い場合には、働いてくれる配偶者や親族を「事業専従者」とし、税務署に届ける必要があります。今回は「青色事業専従者給与」についてご紹介します。
そもそも「青色申告」とは
個人事業主として開業すると、確定申告を行って税金を支払うことになります。これまで勤務医として働いてきた皆さんにとっては初めての経験になるかもしれませんが、確定申告の際には、青色申告と白色申告があります。
青色申告 | 青色申告の申請書を出した事業者が行う |
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白色申告 | 青色申告の申請書を出していない事業者が行う |
青色申告の場合は、一般に複式簿記※1の帳簿を作って申告しますので手間が掛かりますが(ただし2014年分から白色申告でも帳簿への記載・帳簿の保存が義務付けられました)、その分以下のようなメリットがあります。
- 特別控除が「最高65万円」※2
- 赤字の繰り越しと黒字の繰り戻しができる
控除額も大きいですし、2は特に開業すぐのクリニックにとって必須の節税効果といえます。開業1年目は赤字になるかもしれませんが、「赤字の繰り越し」ができると翌年黒字になっても前年の赤字でこれを消し込み、税金を下げることが可能なのです。また逆に、前年は黒字だったが今年は赤字といった場合には、今年の赤字分を前年の黒字で消し込んで税金の還付を受けることができます。
ですから、個人事業主としてクリニックを開業する場合には青色申告を選択するのがお勧めです。ただし、青色申告を行う事業者として税務署に「青色申告承認申請書」を出しておかなければなりません。事業開始から2カ月以内が提出期限です※3。
開業したら税務署には「個人事業開業廃業届出書」を出す必要がありますが、これと同時に「青色申告承認申請書」を提出しておきましょう。
「青色事業専従者給与」とは
さて本題の「青色事業専従者」についてです。これは、「青色申告を行う事業者の事業に専従する者」といった意味です。
申請書を提出してクリニックが青色申告を行う事業者と認められ、夫・妻や親族に支払う給与を経費としたい場合には、税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を出さなくてはいけません。
なぜ、このような書類が必要かというと、税法上は、「生計を一にする者への給与支払いは経費として認められない」という原則があるからです。例えば、奥さんに出した給与は結局その家庭の収入になるので、経費ではないという考え方をするのです。つまり「財布は一つじゃないか」というわけです。
ですから、特例として経費として認めるので、そのため届け出を出しなさいと決まっているのです。「青色事業専従者給与に関する届出書」には「青色事業専従者」の氏名、続柄、年齢、仕事の内容・従事の程度や給料・賞与の額もきちんと記載しなければなりません。
この金額が経費になって税金の額に影響しますから、記載した額よりも多く支払うことはできません。
ここで注意していただきたいのは、「青色事業専従者」として認められるためには以下の条件を満たしていなければならないという点です。
イ 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
ロ その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
ハ その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
参照・引用元:『国税庁』「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
特に「ハ」の「その青色申告者の営む事業に専ら従事していること」という点に注意が必要です。1年の半分、6カ月を超える期間働く人でなければいけません。あくまで「専ら」ですので、他に仕事を行いつつクリニックを手伝っている、というのは駄目です。「専従者」の給与だから認められる特例であることを理解しておきましょう。
また、「青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当であると認められる金額であること。なお、過大とされる部分は必要経費とはなりません」と『国税庁』自身が記載しているとおり、あまりに給与が高すぎる場合には認められない可能性があります。
この「青色事業専従者給与に関する届出書」は、「青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日までが提出期限です。その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった場合は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2カ月以内が提出期限になります※4。
どちらが得かは試算してみる必要があります
「青色事業専従者給与に関する届出書」が無事に受領されたら、青色事業専従者の給与を経費に取り込むことが可能になります。ただし、提出前には本当にその方が節税効果が高いかどうかを確認しておかなければなりません。というのは、青色事業専従者になると配偶者控除、扶養控除が使えなくなります。また給与の額によっては青色事業専従者が所得税、住民税を支払うことになりますので、一つの財布として見るとかえって利益が減ったということがあり得るのです(条件によって異なります)。
そのため、青色事業専従者になると得なのか損なのか、節税効果はどのくらいなのかをあらかじめシミュレートしておく必要があります。この点については税理士に相談しておくのがよいでしょう。
※1 青色申告では「簡易帳簿」でも申告可能ですが、控除額が10万円になります。
※2 2020年(令和2年)度から55万円に引き下げられましたが、e-Taxによる申告(電子申告)または電子帳簿保存を行うと、引き続き65万円の青色申告特別控除が受けられます。
参照:『国税庁』「令和2年分の所得税確定申告から65万円の青色申告特別控除の適用案件が変わります」
※3 原則としては「青色申告の承認を受けようとする年の3月15日」が提出期限。新規開業の場合(その年の1月16日以後に新規に業務を開始した場合)には業務を開始した日から2カ月以内です。
参照・引用元:『国税庁』「No.2070 青色申告制度」
※4 参照・引用元:『国税庁』「[手続名]青色事業専従者給与に関する届出手続」
特徴
対応業務
その他の業務
診療科目
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その他特徴
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この記事は、2021年5月時点の情報を元に作成しています。