日本も超高齢社会になり、患者さんの高齢化も進んでいます。これから開業する医師の皆さんには自院を高齢者に優しいものとすることが求められます。バリアフリーな内装としたいところですが、特に気を付けたいのはトイレです。
高齢者のみならず、オストメイト(人工肛門・人工膀胱を造設している人)への配慮も怠らない、いわゆる「多機能トイレ」がベストな選択だと思われますが、クリニックに設置するのは難しいのでしょうか? これからクリニックを開業する医師は自院のトイレについてきっと悩むことでしょう。
そこで今回は、先進的なトイレ、お風呂、キッチンなど水まわり製品を広く手掛ける「株式会社LIXIL(リクシル)」に取材。トイレ・洗面商品部の杉浦 功さんにお話を伺いました。
「多機能トイレ」はさまざまな機能を持つトイレ
――まず、定義について教えていただきたいのですが、「多機能トイレ」とはどのようなトイレのことをいうのでしょうか?
杉浦さん 「多機能トイレ」とは、公的にも使われている言葉で、弊社や他社さんも含めて業界でも一般に使われています。しかし、実は「これが多機能トイレ」という厳密な定義はありません。いろいろな機能を持つトイレという意味で使われています。
――定義はないのですね。
杉浦さん 「多目的トイレ」という呼び方もありましたが、これも「多機能トイレ」と同様の意味で使われていました。また、多機能トイレは医療施設だけではなく、バリアフリー法※以降、駅や商業ビルなど多くの方が利用する施設で設置が進んでおり、駅では、男女の区別なく入れる多機能トイレが、男女に分かれる入口付近に設置されることも多いです。
――大きな自動ドアが設けられているトイレがありますね。
杉浦さん はい。
- 手すりがある
- 車いすの方が使用できる
- オストメイトの方用の流しがある
- 簡易ベッドがある
- おしめ、おむつを換えるための台がある
などの機能を備えています。車いすの方も使える多機能トイレはどうしても大きくなってしまいます。最低でもやはり2メートル×2メートルの広さが必要です。
しかし、多機能トイレは、高齢者や車いすを利用する方、オストメイトの方のみならず、トランスジェンダーなどの方々が安心して利用できるトイレですから、社会に必要とされるものと言っていいと思います。
※バリアフリー法の趣旨(建築設計標準からの抜粋)
高齢者・障害者、妊婦、けが人などの移動や施設利用の利便性や安全性の向上を促進するために、公共交通機関、建築物、公共施設のバリアフリー化を推進する。
クリニック院長が設置するトイレについて「知っておくべきこと」とは?
――クリニックで多機能トイレを導入する際には、スペースを確保するのが難しそうですね。
杉浦さん はい。ただ、商業施設内にあるクリニックでは、その施設の共用トイレを利用するケースもあるでしょう。その場合には、バリアフリー法によって多機能トイレが設置されていることもあると思います。
――クリニックでできる限り多機能トイレに近付けることは可能でしょうか?
杉浦さん 最近では「多機能トイレの機能分散化」という動きがあります。例えば、男性用トイレや女性用トイレでも個室のブース(便房)を少し大きくし、赤ちゃん用のベビーシート、ベビーベッドを入れるといったことを行っています。
――最近、駅の男性用トイレでもブース内におしめを換える設備が入っていたりしますね。
杉浦さん はい。車いすが入れるのが絶対となりますと、どうしても2メートル×2メートルのスペースが必要ですが、もう少しコンパクトな空間でもさまざまな工夫によって車いす使用者以外への配慮をすることができます。私たちがクリニックにお勧めするのは、手すりを付けたり、オストメイトの流しを便座の正面に付けるなどです。そうすれば便房が1メートルの幅であっても入れることができます。また、トイレにどのような機能が備えているかを表示することもポイントです。
――なるほど。小規模なクリニックでもできる限り多機能トイレに近付けることができそうですね。
杉浦さん 私どもではWeb上にさまざまなプランの図面を用途に合わせて公開しております(以下参照)。
LIXIL|WEBカタログ|21パブリックトイレプランニングブック
――用途別に見られるのは便利ですね。クリニックのトイレをどうしようかと考えるときに役立ちますね。
杉浦さん また、「A-spec(エースペック)」というWeb上の無料サービスを行っております(要ユーザー登録)。広さと必要な機器を入力すると条件に合わせて「これだけの設備を入れられます」というレイアウトの提案が複数表示されますし、カタログにある設備を入れたときに実際にはどのようになるのかを3Dデータで確認できます。
クリニックの設計を行う方も「車いすの方が使うのに不便はないか」などを確認するのが難しいことも多いと思いますが、このサービスを利用していただければ、できあがりをシミュレートできます。
――Web上のカタログで価格も分かるようになっているのですね。
杉浦さん 注意していただきたいのは、この価格には工事費が入っていません。ですので、実際に施工を行うと、施工業者さんによって価格は変わってきます。いわば部品代金としての価格ですので、実際にクリニックで導入する際には施工業者さんに見積もりを出していただいてご検討ください。
――ありがとうございました。
まとめ
というわけで、医師・クリニック院長が、自院に設置するべく多機能トイレを検討する際に、知っておくべきことは以下の点になります。
- トイレのスペースは限られているので、利用目的(産婦人科、歯医者、整形外科、内科など診療科目による違いも考慮)による選び方が必要。
- トイレは、現在多機能トイレ(国としてバリアフリートイレといわれてきている)に集中というより、機能分散への動きがある。車いす用トイレをはじめとした広めのトイレ、男女のトイレにどのように機能を持たせるかを考えるべき。
- 実際の金額などは内装工事業者に相談する。
また、今回お話を伺った「株式会社LIXIL」のカタログサイトには、非常に多くのプランサンプルが掲載されています。クリニックのトイレをどうしようかと考えている将来のクリニック院長は必見といっていいでしょう。ぜひ一度閲覧してみてください。
付録:「LIXIL」さんからクリニックにお勧めの商品
クリニック院長にお勧めの商品も伺いましたので、付録としてご紹介します。コロナ禍の中ですので、「非接触」がキーワードとのこと。ですので「自動水栓」と「オートソープ」(自動で手洗い用の液体せっけんを出す装置)がお勧めだそうです。
以下がその商品例です。
「自動水栓」装置(10万5,000円[税別])混合水栓・100V仕様
「オートソープ」(10万7,000円[税別])
※水栓とオートソープのみの金額になり、他洗面器や付随の金具は別途になります。詳細は施工業者にお問い合わせください。
取材協力:「株式会社LIXIL」
特徴
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この記事は、2021年6月時点の情報を元に作成しています。