医療クラークとは?電子カルテ代行入力以外の業務内容とクリニックでの運用ポイント

厚生労働省が示した「平成30年版過労死等防止対策白書(平成29年度年次報告)〔 概 要 〕」によると、勤務医の約6割は、時間外労働の増加要因として「診断書やカルテなどの書類作成」を挙げています

また、クリニックを開業する医師もまた、カルテ業務の負担に悩まされているようです。(参照:神奈川県保険医協会 「開業医の 1/4 が過労死ライン 医科・歯科とも長時間労働、休日 1 日以下が3割で過酷―「開業医の働き方」調査の結果についてー」

そんな現状があるからか、電子カルテやオーダリングシステムの代行入力など、医師の業務を支援する医療クラークを配置するクリニックが増えてきています。

新規開業の際にも、電子カルテの導入と同時に、医療クラークの配置に踏み切る例も多くなってきました。

この記事では、医療クラークの具体的な業務内容や、運用面のポイントについてご紹介します。

医療クラーク(医師事務作業補助者)とは

医療クラークは医師が行う事務的作業をサポートするスタッフです。

厚生労働省は、医療クラークについて「書類作成(診断書や主治医意見書等の作成)等の医療関係事務を処理する事務職員」と説明していますが、公的な定義はありません。(参照:厚生労働省 医政発0430第1号 平成22年4月30日「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」)

そのため、医療クラークという名称は、診療報酬の施設基準に定められている「医師事務作業補助者」の別称として使われることが多くあります。

なお、本記事では医療クラークについて、上記の、診療報酬の施設基準に定められている「医師事務作業補助者」の別称としてご説明します。

医療クラークは、これまでは病院での導入がほとんどでしたが、実務者の配置でさまざまな効果が得られており、最近ではクリニックでも活用されるケースが増えつつあります。

医療クラークは国家資格ではなく、専門性の高い知識やスキルをはじめから有しているとは限りません。

そんな中、現場では医師の事務処理や連絡調整業務を行う潤滑油的存在として期待されるため、個人の能力や細かな気配りの差が歴然と出る職種でもあります。

医師をサポートする医療クラークの主な仕事内容

医師をサポートし、診療支援を行う業務を担うこととなるので仕事内容は多種多様です。ここでは、医療クラークが担う代表的な仕事内容について紹介します。

参照:厚生労働省「診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成19年度調査)参考資料 勤務医自由記述欄【抜粋】

電子カルテ代行入力、診断書、主治医意見書等の文書作成補助

主たる業務は、電子カルテの代行入力です。

医師と患者さんの顔をつき合わせた診察に支障が出ないよう、医療クラークが一貫して電子カルテへの入力をこなします。

もちろん、主治医や診察した医師が最終的に内容を確認することが条件です。

電子カルテの代行入力以外にも、電子カルテ内に組み込まれた支援ツールや外部ツールを使い、診断書や主治医意見書などの多岐にわたる文書作成を補助します。

オーダー補助

医師の協力と連携のもと予約・検査などオーダリングシステムへの入力業務を行います

画像検査や生理検査、血液検査など検査の適応、内容、項目を決定するのは医師ですが、申し込みや日程調整など必ずしも医師がしなくてもよい業務を医療クラークが代わりに行います。

このような役割を医療クラークが担うことでダブルチェックが働くため、医療安全の面からも必要性が認められています。

診療データ等の入力、管理

行政上の業務や医療の質向上に資するための事務作業の大部分を、医療クラークが医師の代わりに行います。具体的には、以下の業務が挙げられます。

  • 医療統計などの入力
  • 検査データの入力
  • がん登録
  • 行政上の各種システム(救急医療情報システム)への入力
  • 学会やカンファレンス資料準備

その他

主な業務としては文書等作成を行うことが多いのですが「医療クラーク=文書作成担当者」という画一的な見方をしないことも重要です。

「院内電話やPHSの対応」や「資料の検索や取り寄せ」「医療器材などの物的整理」など、求める役割はそれぞれのクリニックの実情に合わせて自由に定められるためです。

ただ、「医師事務作業補助体制加算」を算定する際には、窓口や受付業務、診療報酬請求業務など禁止されている業務があるので注意が必要です。(参照:厚生労働省 中医協 診-1-2 平成20年1月18日「医師事務作業補助体制加算について」)

医師事務作業補助体制加算の算定時に禁止されている業務
・医師以外から指示された業務
・受付・窓口業務
・診療報酬の請求事務
・医療機関の運営・経営のために行うデータ収集
・医療機関の運営
・看護業務の補助
・物品の運搬
引用:ソラジョブコラム「医師事務作業補助者がやってはいけない業務とは?禁止業務の範囲について解説」株式会社ソラスト

医療事務と医療クラークの違いとは

病院やクリニックなどで働く事務職といえば「医療事務」を思い浮かべる人は多くいるのではないでしょうか。

医療事務は、未経験や無資格でも働けたり、正社員やパートタイマー、派遣など勤務形態を自由に選べたりすることからも子育て中の女性や若い女性に人気の高い職業です。

では、そんな「医療事務」と「医療クラーク」の違いはどこにあるのでしょうか。

医療事務でイメージしやすいのは、来院した患者さんの受付や窓口業務だと思います。

保険証をお預かりし、診療申込書に記入してもらい、診察の方へ案内します。診察を終えると診察代を計算して、お金を受け取ります。

「病院の顔」として病院の窓口業務を行うことがほとんどです。

一方、医療クラークは、診察室の中で医師の指示に従い、医師が行う業務の事務的サポートをします。代表的な業務は電子カルテやオーダリングシステムの代行入力、診断書や紹介状などの文書作成です。

医療事務と医療クラークが求められる役割は全く異なりますが、医師や看護師といった医療専門職の間に立って、業務を行うという部分では共通点も多くあります。

また、「医師事務作業補助体制加算」の対象となる内容は、令和2年度で以下のようになっています。

• 回復期リハビリテーション病棟入院料(療養病棟)
• 地域包括ケア病棟入院料/入院医療管理料(療養病棟)
• 結核病棟入院基本料
• 有床診療所入院基本料
• 有床診療所療養病床入院基本料
• 精神療養病棟入院料
•特殊疾患病棟入院料
•児童・思春期精神科入院医療管理料
•地域移行機能強化病棟入院料
•認知症治療病棟入院料

参考:厚生労働省 令和2年3月5日版「令和2年度診療報酬改定の概要

加算対象とならない医療機関では特に、一人の事務職員が複数の事務作業を兼務することが多く、医療事務と医療クラーク両方の側面を担うスタッフが配置されていることもあります。

医師の業務集中を軽減するタスク・シフティング

医師の過重労働について、これまでは病院勤務医ばかりに注目が集まっていましたが、2019年に神奈川県保険医協会が行った、開業医を対象とした調査でも過酷な労働実態が明らかとなりました。

そして近年、勤務医や開業医への業務集中の軽減と生産性向上を目的に「医師から他職種へのタスク・シフティング(業務移管)」が注目されています。 

タスク・シフティングには「実効性」と「効果」が求められ、どの業務をタスク・シフティングすると医師の業務が軽減されるのか、実効しやすく、かつ効果の大きな業務から検討が進められ、タスクシフト先として期待されているのが、医療クラークです。

参考:神奈川県保険医協会 「開業医の 1/4 が過労死ライン 医科・歯科とも長時間労働、休日 1日以下が3割で過酷―「開業医の働き方」調査の結果についてー
厚生労働省 第1回 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 令和元年10月23日 資料2「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアについて

選ばれる理由!医療クラークの配置状況と配置効果(メリット)

医師の働き方改革の具体的な方策として、タスク・シフティングが注目され、医療クラークは重要な役割を担うとされています。以前から病院では医療クラークの配置によって、

  • 医師がより患者さんに集中できる診療時間が増えた
  • 書類作成の負担が軽減した
  • 待ち時間が少なくなった
  • 医療クラークがいることで安心する

といった患者サービスの向上など一定の効果が得られていました。

(参照:2020年8月5日 NPO法人 日本医師事務作業補助研究会「医師事務作業補助者の実態調査」結果報告書)

参照:2020年8月5日 NPO法人 日本医師事務作業補助研究会「医師事務作業補助者の実態調査」結果報告書

このように院内の業務全体の効率化や看護師数削減など、医療機関でのさまざまな効果が明らかとなってからは、診療報酬が改定されるたびに医療クラークの配置が評価されるようになりました。

2020年の診療報酬改定では、これまでは評価されてこなかった有床診療所でも「医師事務作業補助体制加算」の算定が可能となり、クリニックにおいても配置を後押しする流れになってきています。

医療クラークを配置する際の重要なポイント

病院やクリニックで実務者を配置する際にどのようことに注意したらよいのでしょうか。医療クラーク配置の重要なポイントについて具体的に紹介します。

組織内の業務に対する合意と承認、現場体制の見直し

医療クラークが医師を中心とした医療チームに参加し、多くの専門職の中で医師の支援を行うためには、高いコミュニケーション能力と調整能力が求められます

能力を最大限に発揮し現場で活躍するためには組織内のポジションと運用体制をしっかりと固めることも重要なのです。

往々にして医療現場では、明文化されていないルールが存在しており、変化を嫌う気風が流れていることもあります。

その場合、医療クラークが活躍する場を作るために、医療クラークが行う業務への全体的な合意と承認、そして根本的な体質改善が必要になるでしょう。

教育・訓練

医療クラークは多岐にわたる業務の遂行が求められ、新規採用者が現場に放り込まれても1人で必要なスキルを習得することは難しいです。

そのため、質の高い医療クラークを育成するには、しっかりとした教育体制が必要です。

基本的な考え方としては、まず基礎知識を習得するための機会を作り、医師法や医療法、一般的な医療用語、そして診療録等の記載・管理、電子カルテの使用方法などを学習してもらいます。

実地研修では組織全体で支えながら行っていき、ほかの専門職が歩むプロセスと同じように取り扱うことが重要です。

医療クラークのモチベーションの問題

学習する機会を得ても医療クラークとなる職員全員がはじめからモチベーションにあふれているかといえばそうではありません。


専門的な医学教育を受けていない職員にとって、医師のそばで高度な業務内容を求められても、「対応できる自信がない」と思うのも当然です。

“決して焦らないこと”を肝に銘じて時間がかかることを念頭に育成し、自分たちが“認められている”、“期待されている”ことを感じられる体制づくりが重要となります。

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マニュアル整備

規定やマニュアルを整備することで、全職員へ医療クラークの業務がクリニックの指示した業務範囲であることを認知できます。

また、医師個人の都合による範囲外の業務の指示を抑制できるといったメリットもあります。担当医師の責務を定めて、一定の規律と運用の疎通を図ります。

クリニックでも医療クラークの導入を

医療クラークは国家資格ではなく、比較的新しい職種です。職場内での体制が固まるまでは、個人の能力に頼る可能性が往々にしてあります。


クリニックにおいて医療クラークを導入する場合、単なる事務職ではなく医療チームの一員として招き入れることが非常に重要であることを考えておくとよいでしょう。

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※本記事では、医療クラークについて、診療報酬の施設基準に定められている「医師事務作業補助者」の別称としてご説明しました。「医師事務作業補助体制加算」の対象でないクリニックで、広義的に「クラーク」として人材を採用する際は、上記の点をご留意いただいたうえで本記事を参考にしていただけますと幸いです。

執筆 CLIUS(クリアス )

クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。


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