不穏とは?せん妄との違い・原因と、クリニックでの対応方法をわかりやすく解説

医療の現場で使われる「不穏」とは、患者が周囲を警戒し、落ち着きなく興奮している状態を指す言葉です。

ここでまず押さえておきたいのは、不穏は病名でも診断名でもなく、患者が示している「状態・行動」を表す言葉だという点です。「発熱」と同じで、それ自体が診断ではなく、背後に何らかの原因が隠れていることが多いものです。よく混同される「せん妄」との違いも、ここに理由があります。

統合失調症やうつ病などの精神疾患に起因していることがあるため、精神科で使われることが多い言葉ですが、脳炎などの感染症、甲状腺機能亢進症などが関与していることもあるため、診療科を問わず、不穏状態の患者と接する可能性はあります。

いざそのときになってうまく対応できなかったりストレスを感じたりすることがないよう、“不穏状態”とはどのような状態であるのか、どのように対応していくのが適切であるのかを知っておきましょう。

目次
  1. 不穏とせん妄の違いは?
  2. 不穏状態になる原因とは?
    1. 病気の影響
    2. 薬の副作用、アルコールや薬物の中毒
    3. せん妄
    4. 身体的な苦痛や不快
    5. 環境の変化
  3. 見逃してはいけない「背景に急変が隠れているサイン」
  4. 不穏状態の患者への適切な対応方法は?
    1. 今いる場所や状況を理解しやすいような環境を用意する
    2. 処置の前に十分に説明する
    3. 昼間はカーテンを開けておく
    4. 湿度や温度を適切に保つ
    5. 声のかけ方を統一しておく
  5. やってはいけない対応
  6. 外来クリニックならではの難しさと工夫
  7. よくある質問
    1. Q. 不穏は病名ですか?
    2. Q. 不穏とせん妄はどう違いますか?
    3. Q. 落ち着かせることを優先すべきですか?
    4. Q. 家族から何を聞き取ればよいですか?
  8. まとめ

不穏とせん妄の違いは?

不穏とせん妄は現場でしばしば同じ意味で使われますが、そもそも指しているものの階層が違います

不穏は「行動」に着目した状態の表現、せん妄は「意識」に着目した診断概念です。せん妄は意識障害・認知機能の急性変化・注意力の低下・覚醒度の変動を特徴とする、急性の脳機能障害を指します。

 不穏せん妄
位置づけ状態・行動の表現(診断名ではない)診断概念(急性の脳機能障害)
着目点落ち着きのなさ・興奮・過剰な行動意識レベルと注意力の変動
経過原因によりさまざま急激に発症し、日内変動がある
関係せん妄の症状として現れることがある不穏を伴わないタイプ(低活動型)もある

両者の関係で見落とされやすいのが、表の最終行です。せん妄には、興奮を伴わず、ぼんやりして反応が鈍くなる「低活動型」があります。不穏がないからせん妄ではない、とは言えません。むしろ低活動型のほうが見逃されやすく、発見が遅れがちです。

不穏状態になる原因とは?

まずは、患者が不穏状態に陥る原因をみていきましょう。

病気の影響

冒頭で述べた通り、統合失調症やうつ病などの精神疾患のほか、脳炎などの感染症、甲状腺機能亢進症、また、認知症を患っていると不穏状態に陥りやすいことが知られています。

認知症が原因の場合は、夕暮れ時になると自宅以外の場所にいることへの不安を覚えて声を荒げるなどする「夕暮れ症候群」の症状が現れやすいとされています。また、認知症を患っていることによる身体的苦痛や苛立ちなども、不穏状態と大きく関係しています。

上記に列記した疾患の治療のために通院しているなら、「病気が原因だ!」とわかりやすいですが、その他の疾患の治療で通院しているのに不穏状態がみられた場合、不穏状態を引き起こす原因となる病気も患っている可能性に目を向けてみる必要があるでしょう。

薬の副作用、アルコールや薬物の中毒

ステロイドや化学療法、インターフェロンなどの副作用、またはアルコールや薬物などの中毒症状として、不穏状態がみられるケースがあります。そのため、場合によっては治療に使用する薬を変えたほうがいいこともあるでしょう。

せん妄

一過性の意識障害である「せん妄」は、興奮や錯乱などのさまざまな症状が生じます。せん妄の症状は急激かつ一時的に起こるため、日によっては不穏状態が見られないというケースも多いでしょう。

身体的な苦痛や不快

見落とされやすいのが、単純な身体的不快です。痛み、便秘、尿閉、脱水、空腹、かゆみ、眠れないこと——これらはいずれも不穏の引き金になります。自分の状態をうまく言葉にできない患者ほど、不快が行動として表れます。

「落ち着かない」と見えている行動が、実際には「トイレに行きたいが伝えられない」だけ、というケースは珍しくありません。

環境の変化

入院や転院、施設への入所、あるいは慣れない待合室での長い待ち時間など、環境が変わること自体がストレスになります。見慣れない場所、知らない人、聞き慣れない音——高齢の患者ほど、こうした変化の影響を受けやすくなります。

いずれの場合も、現場のスタッフ以上に、一緒に暮らしている家族がストレスを抱えていることは間違いないので、クリニックでの対処方法を考えるだけでなく、患者の不穏状態を落ち着かせるにはどうすればいいのかを探ることも大切です。

見逃してはいけない「背景に急変が隠れているサイン」

不穏への対応でもっとも重要なのは、落ち着かせることそのものではなく、まず「なぜこの行動が起きているのか」を疑うことです。不穏の背景に、すぐの対応が必要な状態が隠れていることがあります。

  • 低酸素——酸素飽和度の低下は、まず落ち着きのなさとして現れることがある
  • 低血糖——冷汗や振戦を伴う場合は特に疑う
  • 感染症——高齢者では、発熱より先に「いつもと様子が違う」が現れることがある
  • 脱水・電解質異常
  • 薬剤の影響——新しく始めた薬、量を変えた薬がないかを確認する
  • 頭部外傷——転倒歴の有無を家族に確認する

「急に不穏が現れた」「いつもと様子が違う」という家族の言葉は、それ自体が重要な情報です。普段の様子を知っているのは家族であり、その変化を最初に気づくのも家族です。来院時に必ず聞き取っておきましょう。

不穏状態の患者への適切な対応方法は?

続いては、不穏状態にある患者への適切な対応方法を紹介していきます。前提として、不穏そのものを止めようとするのではなく、不穏を引き起こしている不安や不快を取り除くという順序で考えます。

今いる場所や状況を理解しやすいような環境を用意する

不穏状態の患者の大半は、現状を十分理解できないことから不安を覚えています。そのため、時計やカレンダーがすぐに目に入る位置に置いておくことや、トイレや病室などの場所がわかりやすいよう廊下などに大きく目印をつけておくなどすると、患者が不穏状態になることを事前に防ぎやすくなります。

また、予期せず患者が急に不穏状態に陥ったときは、日時や場所などの情報をさりげなく会話に盛り込んで相手に伝えるといいでしょう。

処置の前に十分に説明する

なぜ注射されているのか、なぜケアされているのかなどが理解できていない状況だと、患者は不安を覚えて当然です。処置の前に、相手の立場に立ってわかりやすく説明してあげましょう。

昼間はカーテンを開けておく

前述の通り、認知症患者は夕暮れ症候群を発症することもありますし、暗い部屋だと患者は不安な気持ちに陥りやすいです。昼間であればカーテンをあけて室内を明るくしておきましょう。

湿度や温度を適切に保つ

これはすべての患者にとっていえることですが、ジメジメしていたり空気が乾燥していたり、または暑さや寒さが堪えるようだと、不穏状態に陥りやすいです。冷暖房器具や加湿器、空気清浄機を使って室内を快適に保ちましょう。

声のかけ方を統一しておく

複数のスタッフがそれぞれ違う言い方で話しかけると、患者の混乱はかえって強まります。基本の型を院内で決めておくと、誰が対応しても一定の質が保てます。

  • 正面から、視線の高さを合わせて話しかける(背後や高い位置からは驚かせる)
  • 一度にひとつのことだけを伝える
  • 急がせない。返事を待つ
  • 否定や訂正から入らない。まず本人の訴えを聞く

これらに加えて、急に不穏状態がみられるようになった場合や、なぜ不穏状態になっているかがわからない場合は、なんらかの疾患もしくはアルコールや薬物の摂取が関係していることが考えられるため、原因を探ることも必要です。患者が家族と一緒に来院している場合は、家族にも話を聞くなどして原因を探っていきましょう。

やってはいけない対応

よかれと思ってやったことが、かえって不穏を強めることがあります。

  • 強く制止する・押さえつける——恐怖が加わり、興奮が増幅する
  • 「違います」「そんなことないですよ」と訂正から入る——本人にとっては現実なので、否定は不信を招く
  • 複数人で一斉に取り囲む——威圧に感じられる。対応するのは原則ひとりに絞る
  • 大きな声で説得する——声量が上がるほど、相手も声を張る
  • 原因を探らずに落ち着かせることだけを続ける——背景の身体疾患を見逃す

外来クリニックならではの難しさと工夫

不穏への対応を扱った情報の多くは、病棟や施設を前提にしています。しかし外来クリニックには、そことは違う制約があります。待合室に他の患者がいること、対応できるスタッフが限られること、そして関われる時間が短いことです。

この制約のなかでできることは、事前の備えに寄ります。

  • 静かに待てる場所を1つ決めておく——専用の部屋でなくてよい。刺激の少ない一角があるだけで違う
  • 待ち時間が長くなりそうなときは先に伝える——見通しが立たないこと自体が不安の原因になる
  • 対応するスタッフを固定する——顔が変わるたびに患者は状況を捉え直すことになる
  • 家族への聞き取り項目を決めておく——いつから/変わったこと/薬の変更/転倒の有無
  • 紹介先を事前に確保しておく——精神科・認知症疾患医療センターなど、自院で抱えきれない場合の受け渡し先

認知症が背景にある場合の関わり方については、認知症患者への対応もあわせて参考にしてください。

よくある質問

Q. 不穏は病名ですか?

いいえ。不穏は患者が示している状態・行動を表す言葉であり、病名でも診断名でもありません。発熱と同じで、背後に何らかの原因が隠れていることが多いものです。

Q. 不穏とせん妄はどう違いますか?

不穏は「行動」に着目した状態の表現、せん妄は「意識」に着目した診断概念です。せん妄の症状として不穏が現れることはありますが、興奮を伴わない低活動型のせん妄もあるため、両者は同じではありません。

Q. 落ち着かせることを優先すべきですか?

落ち着いてもらうことは必要ですが、それだけで終わらせないことが重要です。低酸素・低血糖・感染症・薬剤の影響など、すぐの対応が必要な状態が背景に隠れていることがあります。特に「急に始まった」場合は原因検索を優先します。

Q. 家族から何を聞き取ればよいですか?

いつから様子が変わったか、普段と何が違うか、最近始めた薬や量を変えた薬はないか、転倒などのけがはないか。この4点は最低限確認しておきたい情報です。

まとめ

不穏状態の患者とうまくつきあっていくことは、決して簡単なことではありません。クリニック側が適切に対応していたとしても、患者の興奮がおさまらないことも多々あるでしょう。それでもとことん付き合っていくことはひとつの理想ではありますが、他にも大勢の患者がいるのですから、十分に時間を取ってあげられないこともあるでしょう。その場合は、地域内の他のクリニックと連携したり、外部の専門家に頼ったりするのも一手ですよ。

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執筆 CLIUS(クリアス )

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