クリニック開業時にクリアすべき消防法の要件とは?

クリニック開業時にはさまざまな手続きが必要です。そのひとつとして、消防法を遵守できるよう、防火管理責任者を配置することが必要です。では、消防法とはどんな法律で、防火管理責任者にはどんな資格が必要なのでしょうか? 詳しくみていきます。

消防法とは?

消防法とは、火災の予防や警戒に務めることで、人名や財産を守ったり、火災による被害を軽減したりすることを目的に制定された法律です。具体的には、消防設備、消火活動、火災調査、救急業務などの火災に関する基本的な事項が規定されています。

クリニックが満たすべき設備基準

消防法で規定されているクリニックの設備基準は、病床数によって2パターンにわけられます。

病床数4以上のクリニック

病床数4以上のクリニックの設置基準は以下の通りです。

  • 消化器:無条件で設置が必要
  • スプリンクラー:診療科目によって異なるが、延面積3,000平方メートル以上の場合、必ず設置が必要
  • 自動火災報知設備:無条件で設置が必要
  • 消防機関へ通報する火災報知設備:無条件で設置が必要

病床数4未満のクリニック

病床数4未満のクリニックの設置基準は以下の通りです。

  • 消化器:150平方メートル以上で設置が必要
  • スプリンクラー:6,000平方メートル以上で設置が必要
  • 自動火災報知設備:300平方メートル以上で設置が必要
  • 消防機関へ通報する火災報知設備:500平方メートル以上で設置が必要

入居する階数によってはさらに多くの設備が必要

ビル診などの場合、クリニックが入居している階数によっても必要な設備が変わってきます。

  • 地上3階以上: 消火器具(階面積が50平方メートル以上の場合)、自動火災報知機(階面積が300平方メートル以上の場合)
  • 地上4階以上:スプリンクラー設備(階面積が1,500平方メートル以上の場合)、 屋内消火栓設備(階面積が150平方メートル以下=一般、300平方メートル以下=準耐火、450平方メートル以下=耐火)、動力消防ポンプ設備(階面積が150平方メートル以下=一般、300平方メートル以下=準耐火、450平方メートル以下=耐火)
  • 地上5階以上:連結送水管(延床面積が6,000平方メートル以下の場合)、総合操作盤(床面積が20,000平方メートル以下で消防長などが必要と認める場合に限る)
  • 地上7階以上:連結送水管
  • 地上11階以上:非常コンセント設備、スプリンクラー設備(2フロア以上ある場合、各階に必須)、自動火災報知設備、非常警報設備(放送設備付加)、総合操作盤(床面積が10,000平方メートルで消防長などが必要と認めたものに限る)
  • 地上15階以上:総合操作盤(床面積が30,000平方メートル以下で消防長などが必要と認めた場合に限る)

また、クリニックの立地としてはほぼあり得ないと考えられますが、地下3階以下の場合は非常警報設備の設置が必要です。

クリニックは消防法に対してどんな備えをすればいい?

クリニックが消防法を遵守するためには、以下の3点が必要だと考えられます。

設計事務所に相談する

クリニックの内装を決める際、設計事務所に相談することが大切です。そもそも消防法が遵守できていなければ、クリニック開業は認められません。そのため、まずは消防法に詳しい設計事務所をみつけることが不可欠です。

消防検査を受ける

消防検査とは、消防用設備などを設置した後、消防署に来院してもらい、問題がないかどうか確認してもらう検査です。

検査前にはまず、クリニック開業において消防法に基づいた設備を設置していることを申告する必要があります。その後、申告内容通りに設備が設置されているかが確認されます。また、避難経路に問題がないかなども確認されます。

防火管理責任者を配置する

30人以上を収容できるクリニックを開業する場合、防火管理者および防災管理者の設置が義務付けられています。30人以上収容できない場合は設置する必要はありませんが、注意すべきは、テナント開業の場合、ビル全体で30人以上収容可能であれば設置義務が生じるということです。

一般的に、防火管理者は院長が務めます。院長でなければならないというわけではありませんが、当人が退職すると改めて選任しなければならなくなるため、退職の可能性が低い、管理者的な立場の人を選ぶことが望ましいです。

防火管理者になるためには、地域の消防本部もしくは『一般財団法人 日本防火・防災協会』が実施している防火管理講習を受ける必要があります。

防火管理者の資格とはどんな資格?

続いては、前述の一般財団法人日本防火・防災協会に、消防法や防火管理者の資格について聞いてみました。

――クリニック開業の際、なぜ防火管理者を設置することが必要なのですか?

消防法では、火災予防の対象となるすべてのものを「防火対象物」としています。さらにそれらを「用途」という形で全20項に分類しています。たとえば、第1項は「劇場や映画館など」、第2項は「遊技場など」と分類されています。そして、この20項を「特定防火対象物」「非特定防火対象物」の2つに大きく分けています。特定防火対象物は、不特定の人が出入りする建物が該当します。一方、「非特定防火対象物」は、共同住宅など、出入りする人がある程度決まっている建物です。

そのなかで、第1項から第17項までのうち、「特定防火対象物」に該当する防火対象物は、収容人数が「30人以上(高齢者福祉施設などの第6項のロは10人以上)」、「非特定防火対象物」に該当する防火対象物は収容人数が「50人以上」であれば、「防火管理者を選任して必要な業務を行うこと」と定められています。

――「防災管理者」という資格もありますが、防火管理者とどんな点が異なるのでしょうか?

「防災管理者」は、「共同住宅、(航空機の)格納庫、倉庫などを除く第1項から第17項の防火対象物」「地下街(延面積1,000㎡以上)」において、定められた階数と延べ面積以上の場合に選任する必要があります。

クリニックはこのうち前者に該当するため、たとえば(防火管理者の設置が必要な)商業施設での開業であれば、防火管理者・防災管理者の両方の有資格者を設置する必要があります。

なお、防災管理者の選任が必要な場合は、防火管理者とは別の方を選任するということではなく、防災管理者が防火管理者の業務を併せて行うこととなりますので、お一人の方を防災管理者及び防火管理者に選任するといいでしょう。

――防火管理者が必要かどうか自分で判断できない場合、どうすればいいのでしょうか?

クリニック開業時には、消防法で定められた「防火対象物使用開始届出書」を開業する地域の消防署に提出する必要があります。その際に防火管理者の選任が必要か否かの指導があるので、指導に従って資格を持つ人を選任するといいでしょう。

防火・防災管理者になるには?

――防火管理者になるための詳しい要件を教えてください。

防火管理者に選任されるための要件は以下の2つです。

  • 防火管理業務を適切に遂行することができる「管理的、監督的地位」にあること
  • 防火管理上必要な「知識・技能」を有していること(防火管理講習修了者、学識経験者など)

つまり、「管理的、監督的地位」にある人が、防火管理上必要な知識を有している場合に防火管理者に選任することができるわけです。このうち、「2」の防火管理上必要な「知識・技能」については、「防火管理講習」の課程を修了することにより得られます。

――防火管理講習を受ける方法を教えてください。

防火管理講習を受ける方法は2つあります。1つ目は地域の消防本部(局)が行っている講習を受講すること、2つ目は私ども「一般財団法人 日本防火・防災協会」が行っている講習を受けることです。これは地域によって異なるため、開業する地域の消防本部(局)に問い合わせるといいでしょう。

防火管理講習は、2日間講習を受ける「甲種防火管理新規講習」と1日間の「乙種防火管理講習」、再講習が義務付けられている防火管理者の方が受ける「甲種防火管理再講習」の3つです。甲種は全ての防火対象物で防火管理者に選任でき、乙種は、防火管理者に選任できる防火対象物が比較的小規模なものに限られます。受講料は甲種が8,000円、乙種と甲種再講習が7,000円です。

――防災管理講習についても同じような流れなのでしょうか?

防災管理講習は、すでに甲種防火管理者修了資格を有する人が受ける「防災管理新規講習」と、甲種防火管理新規講習と防災管理新規講習の修了資格を同時に取得するための「防火・防災管理新規講習」。すでに両方の資格者であり、再講習を受ける必要のある人に向けた「防火・防災管理再講習」の3つです。防災管理新規講習は1日間、防火・防災管理新規講習は2日間、再講習は半日で行われます。受講料は防災管理新規講習が7,000円、防火・防災管理新規講習が10,000円、再講習が7,500円です。

――資格を有している場合は必ず再講習を受けないといけないのでしょうか?

資格を有しているだけなら再講習を受ける必要はありません。防火・防災管理者を選任することが義務付けられている建物で、防火・防災管理者に「選任された」場合、「講習修了日以後、最初の4月1日から5年以内」に再講習を受ける必要があるのです。

――防火・防災管理者講習を受ける際の注意点を教えてください。

気を付けていただきたいのは「スケジュール」でしょうか。クリニックの場合、開業日が決まっていると思いますが、防火・防災管理者講習は申し込んですぐに受けられない場合もあります。防火・防災管理者は多くの事業所で必要な資格ですが、現在はコロナ禍で講習会場での受講者数が制限されていることからなかなかご希望通りに受講できない状況です。

――開業時に資格を有した人がいないと違反になってしまいますね。

そうした事態を避けるためにも、余裕をもって受講していただきたいと思います。「一般財団法人 日本防火・防災協会」のHPでは、Q&Aなども掲載していますので、そちらも参考にしていただきたいですね。

――ありがとうございました。

30人以上を収容するクリニックを開く際に必要な防火管理者。また、大きな商業施設のテナントの場合は、防火管理者だけでなく防災管理者を選任する必要もあります。これから開業を考えている医師は、今回の記事を参考に、防火・防災管理者資格の取得スケジュールを考えてみてはいかがでしょうか。

取材協力: 一般財団法人 日本防火・防災協会

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設計事務所

依頼内容

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執筆 コラム配信 | クリニック開業ナビ

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