私は総合病院の外科病棟で働く看護師です。認知症やせん妄症状が出現している患者さんの中には、帰宅願望が強い患者さんもおり、対応に困ることもしばしばあります。今回は、帰宅願望が強い患者への対応について、実際の私の体験を通して紹介していきます。今回の記事が認知症やせん妄症状のある患者さんへの対応の参考になればと思います。
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帰宅願望とは
帰宅願望とは、その名の通り、自宅へ帰りたいと思う気持ちのことです。実際の医療現場でも、認知症の患者さんや術後せん妄の患者さんが入院中に帰宅願望を訴え、実際に離院してしまうケースもあり、対応に困ることがあります。
自宅で暮らしている認知症の高齢者でも帰宅願望が強く出現し、徘徊してしまい、事故に繋がるケースもあるため、社会問題であるとも言えます。自宅にいるのに帰宅願望があるということは、ただ単に家に帰りたいという気持ちだけでなく、何らかの理由で、自宅である家を自分の居場所であると感じていないということも考えられます。
私たちも学校や職場にいる際に、信頼する家族がいて、安心できる自宅に帰りたいと感じることがあるように、帰宅願望は人間の本能であるとも言えます。私たち健康な人間が自宅に帰りたいと思う理由は、緊張した場面などで安心できる居場所が欲しくなったり、疲れていたりするときでしょうか。帰宅願望を訴える患者さんにも、帰宅願望が出る要因があると考えられます。次の章でこの要因について考えていきたいと思います。
帰宅願望の要因
帰宅願望を訴える患者さんが、どうして家に帰りたいと感じているのか原因が理解できれば、対応策につなげ、どうすれば予防できるのか考えるきっかけになると思います。ここからは、考えられる要因ごとに分けて解説していきます。
家族が気がかり
まず、1つ目に考えられる要因としては、入院中に自宅にいる家族が気がかりで、帰宅願望が出現するケースです。
私が実際に経験したケースで言うと、術後にICUから帰室した患者さんがせん妄状態となり、まだ安静の指示であったにも関わらず、ものすごい剣幕で「私はもう家に帰ります。タクシーを呼んでいるので大丈夫です」と非常階段から出て行こうとしていました。看護スタッフ3人がかりで押さえましたが、ものすごい力で応援にスタッフを呼ばなければ階段から転落してしまいそうになる程でした。
こちらも必死であるため、表情がこわばっていたのか、それが患者さんにも伝わり、「あなたたちは寄ってたかって何なんですか! 私は犯罪者でもないのに! 手をどけなさい!」と怒鳴りました。筋力低下もあり、転倒のリスクも高かったため、まずは車いすに座るように促しますが、全く聞く耳を持ちません。
安全なところまで看護スタッフ数人で連れて行き、看護師が患者さんの傍に寄り添い、目線を合わせて、「どうしてそんなに帰りたいんですか」と冷静に穏やかな口調で聞きました。すると、「お父さんは私が居ないと何もできないの。早く帰らないと」と旦那さんのことを心配している様子でした。
結局、家族には、事情を説明して面会に来ていただきました。すると、家族と話したあとにはすっかり落ち着きました。医療従事者がいくら説得しても、余計に怒ってしまって無意味でしたが、家族が来た瞬間に患者さんが落ち着いたため、家族の存在の大きさを実感した事例でした。
病院の生活に適応できない
次に私が経験した事例は、病院での生活に適応できず、その場から逃げ出したいと感じてしまい、帰宅願望が出現してしまうケースです。
その患者さんは認知症で見当識障害があったため、場所の認識も難しく、自分がどうして病院にいるのか忘れてしまい、時にはここが病院であることもわからなくなってしまう方でした。毎日、入院の必要性を説明しますが、短期記憶力が乏しく、すぐに忘れてしまっていました。
入院中は帰宅願望が強く、離院のリスクがあるため、センサーマットを使用して対応していました。センサーマットの存在も必要性も仕組みも患者さんは理解しておらず、センサーマットが起動するたびに、「電話が鳴っています。誰か出てください」とそわそわしていました。
この患者さんは歩くのが速く、早く駆けつけないと離院に繋がってしまうリスクが高い人でした。そのため、医療スタッフは急いで駆けつけることになります。その対応に患者さん自身も不審に思い、「何かあったんですか」と驚いた様子であることが多かったです。そのたびに他愛のない会話をして何とか乗り切っていたのですが、だんだんと患者さん自身のストレスも大きくなり、「もうこんな所には居られません。帰ります」と帰宅願望が強くなっていきました。
この患者さんは、病院が自分の居場所ではないと感じてしまい、帰宅願望が強くなってしまっていました。そのため、「ここに今日は泊まって行ってください。ここが〇〇さんのベッドなんですよ」と適宜声かけをして安心してもらえるように関わりました。その後、病状も良くなり、元気に自宅へ退院されて行きました。
帰宅願望がある患者への対応
帰宅願望がある患者さんに対する対応は、その理由や状況によっても異なるため、それぞれに合わせた対応が必要になります。例えば、認知症の患者さんであれば、自分の要望をうまく訴えることができず、それが「帰る」ということばでしか表せなくなっていることもあります。そのような場合には、「トイレに行ってみませんか?」などの予想できることを考えて促すことで、帰宅願望が落ち着くケースもあります。原因と思われることが、痛みや痒み、居心地の悪さなど、原因が何なのかによって対応も異なってくるため、医療者側の予測する能力が必要になります。
また、「帰りたい」という気持ちは私たちも感じる自然な気持ちであるため、患者さんの気持ちに共感し、否定をせずに話を傾聴することで「わかってもらえた」と感じ、感情的だった患者さんの気持ちが落ち着くケースもあります。精神的に落ち着いたあとは、他の話題を出して「帰りたい」という気持ちから話題をそらしてコミュニケーションを取っているうちに、病室に戻って生活できるようになるケースもあります。
患者さんの「帰りたい」という気持ちが強い場合には、「少し散歩してみませんか?」と実際に一緒に歩行して話しているうちに気分転換になり、落ち着くケースもあります。この他にも、帰宅願望に固執しないように、他に気がまぎれるような塗り絵などのレクリエーションを促すことも対応の1つです。
どのケースでも共通して言えることとしては、患者さんの気持ちに共感し、否定しないことが大切であるということです。
帰宅願望の出現を予防するには
帰宅願望がある患者さんは、転倒や離院などのさまざまなリスクがあることから、医療スタッフは、患者さんの安全が守れるように必死で対応します。時には患者さんの理解が得られない場合もあり、医療スタッフも人間であるため、イライラしてしまうこともあるかと思います。
ことばに出さなくてもちょっとした口調や表情、しぐさから患者さんは敏感にそれを感じとってしまい、余計に興奮するケースも多いです。このような対応を繰り返すうちに、患者さんはだんだんと、「ここは安心できない場所だ」と認識してしまう可能性もあります。
私たちも居心地の悪い場所には長くいたくないと思います。これと同様に、患者さんも環境によっては帰宅願望が強くなってしまうこともあります。そのため、まずは患者さんに病院が自分の居場所であることを理解してもらい、安心して生活できるような環境を整えていくことが大切であると考えます。
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理想の医療現場
私の考える理想の医療現場とは、患者さんが安心して生活できる環境が整っている病院です。入院生活では、検査や治療などの慣れないことが多く、患者さんは、多かれ少なかれストレスを抱えています。
そのため、少しでもストレスを少なくして安心して生活できる環境を提供することが大切であると考えます。そのためには、患者さんとコミュニケーションを取り、今までの生活スタイルや考え方、何に不安を持っているのかなど、さまざまなことを知る必要があります。
ストレスを感じているポイントが理解できれば、自ずと対応策なども見えてくると思います。
帰宅願望が強い患者さんの対応のポイントを以下にまとめます。
- 患者さんのことばを否定せず、気持ちに共感する姿勢でコミュニケーションを取る
- 何に不安を感じているのか傾聴して安心できるような声かけをする
- 患者さんが安心できるような療養環境を整える
- 他に気をそらすことができるような行動やレクリエーションを提案する
- 家族の協力を得て面会や電話などができる場を調整する
これらのポイントを押さえて対応すれば、患者さんにとっても安心できる居場所を提供して、帰宅願望を予防することに繋がると思います。今回の記事が患者の対応について考えるきっかけとなり、今後のより良い医療に繋がればと思います。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2021年9月時点の情報を元に作成しています。
執筆 看護師 | risa
看護師歴9年目で現在、総合病院勤務。日々、慌ただしく忙しい中でも、看護師としてやりがいを持って医療にたずさわっています。内科や外科での実際の経験を通して、皆さんに役立つ情報を提供していければと思います。
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