電波環境協議会、医療機関における電波利用推進委員会が2021年5月に公表している「2020年度医療機関における適正な電波利用推進に関する調査の結果」によると、全国の有床診療所における2020年度の無線LANの導入率は71.2%です。
無線LANを導入しているすべてのクリニックが、患者のインターネット接続用としてwifiを開放しているわけではありませんが、2019年度の59.2%、2018年度の54.1%と比べてかなりの伸び率であることは一目瞭然です。
この背景には、コロナ禍で患者の孤立が浮き彫りになり、その改善のために導入が必要だと声を上げた人が多かったことなどがありますが、現在では医療機関におけるwifiを取り巻く状況はどのように変化しているのでしょうか?
参照:2020年度医療機関における適正な電波利用推進に関する調査の結果
実際のところ、現状は何割の病院に無料wifiが導入されている?
病室でwifiを使えるよう国を挙げて整備を!
と呼びかける「#病室WiFi協議会」が2021年9月6日に厚生労働省でおこなった会見によると、同年6月3日から8月27日にかけて同協議会が独自に行った調査の結果、「全病室において無料でWiFiが使える」医療機関は全体の約20%であることがわかっています。
また、「まったく使えない」は47%ともっとも多く、そのほかには「環境を整備していく予定だ」との回答もありました。
調査の対象となった医療機関は、がん診療連携拠点病院、小児がん拠点病院、国立病院機構、筋ジストロフィー病棟がある主要な病院など。
これらの病院に入院中の患者の約半数がwifiを使えないとなると、患者の孤立解消はあまり進んでいないようにも思えます。
クリニックにwifiを導入するメリットは?
続いては、クリニックにwifiを導入するメリットをみていきます。
患者の孤立感解消
冒頭で述べた通り、クリニックに患者が使えるwifiを導入することは、患者の孤立感解消と深い関係があります。
特に入院患者を受け入れている有床のクリニックであれば、自由にインターネットに接続できず家族や友だちと交流できないとなると、患者の精神的孤立感は日々高まっていきます。
インターネットに自在に接続できれば、家族や友だちとチャットしたいときにすぐに楽しむこともできるため、患者は寂しい思いをせずに済みます。
患者の体感的待ち時間を削減できる
無床クリニックに関しても、wifi導入はメリットが大きいです。スマホやタブレットで時間を潰せるかどうかによって、体感的待ち時間が大きく変わるためです。
有床、無床、いずれの場合も患者にとってはwifiが提供されることは喜ばしいことなので、患者満足度向上にもつながります。
患者もお見舞いにくる人も通信料を気にせずに済む
患者本人だけではなく、お見舞いにくる家族や友だちにとっても同様です。
特に、毎日のように顔を出す家族にとっては、一度設定すれば自動でネットに接続できることから、通信料を節約できることから、好感を抱いてもらいやすいでしょう。
万が一の災害時などに外部とコンタクトを取りやすい
また、災害などが発生した場合、wifiを導入していれば患者がより迅速に外部とコンタクトを取れますし、ネットで情報収集しやすいことから安心感が増すでしょう。
クリニックにwifiを導入するデメリットは?
では、クリニックにwifiを導入するデメリットはあるのでしょうか? 早速みていきます。
医療機器に影響を及ぼす可能性がゼロではない
wifiの電波と医療機器の電波は基本的には干渉することがないといわれています。
ただし、100%影響を及ぼさないという保証はないので、精密な機器を多く使う診療科やクリニックのドクターは不安に思うこともあるでしょう。
導入してもつながりにくい場合がある
クリニックがあるエリアや環境によっては、wifiを導入してもつながりにくい場合があります。
そのため、wifiを導入していることを売りにしているのに電波が入りづらく、患者からクレームが入る可能性がないとはいえません。
医療機器と干渉を起こさせないためのwifiの設計とは?
デメリットのひとつとして説明した医療機器との干渉については、きちんとした設計で防げます。
wifiで使用される電波の周波数帯には、2.4GHz帯と5GHz帯が存在しますが、前者の周波数帯の電波を発生させる電子機器は他にも多く存在するため、まずは「5GHz帯を使用するwifi機器を選定すること」がポイントとなります。
また、心臓ペースメーカーや医療用テレメーター、非接触ICタグといった院内の電子機器との干渉を確実に防ぐためには、これらの機器とwifiが干渉を起こしていないかを測定したうえで電波環境を構築する必要があります。
とはいえ、一つひとつの医療機器との干渉の有無を考えながら電波環境を構築することは簡単ではありません。専門的知識を要するので、プロに依頼するのが一番といえるでしょう。
院内ネットワークを見直そう
メリットや患者のニーズを理解したところで、wifi導入に踏み切りたいと考えるなら、まずは現状の院内ネットワークを確認したうえで無線LANの構築が必要です。
確認した結果、医療情報システムごとにネットワークが分断されていた場合、無線APを入れようとすると問題が生じます。
どのような問題が生じるかというと、「特定の医療情報システムにしか接続できない」「院内に設置している複数のルーターそれぞれに経路設定しないといけなくなる」といった問題です。
また、医療情報システムで無線LANを諦めて、インターネット接続専用にしなくてはいけなくなる場合もあります。
これもひとつの選択肢ではありますが、医療情報システムにも接続したいとなると、院内ネットワークに無線APを接続しても無線LAN導入のメリットを十二分に活かすことは難しいでしょう。加えてセキュリティの観点からも、院内ネットワークの状況を把握していないまま無線LANの接続環境を構築することは好ましくありません。
そこで、システムごとにルーターを配置するのではなく、仮想LANの機能を有した1台のルーターに集約させる方法があります。そのうえで無線APを導入すれば、ルーターの設定を変更するだけで、無線LAN経由で接続させる医療情報システムを選択できます。
ルーターを集約させることで、外部との通信経路や集約されてセキュリティ対策を取りやすくなることもメリットです。また、ルーターの台数が減ることで設定漏れのリスクも軽減されます。
トラブルが発生した場合、問題となっている箇所を特定しやすいことも大きなメリットでしょう。
さらに、iOS端末で標準サポートしている暗号化トンネル技術「L2TP/IPsec」を活用すれば、院外から院内ネットワークへの安全なアクセスも可能です。L2TP/IPsecを使用してルーターとVPN接続すれば、ネットワーク的には院内にいる場合と同じ安全性を担保できます。
また、ルーターに搭載されている「Wake on LAN」という機能を使えば、スリープ状態のPCを遠隔起動できるので、ルーターにL2TP/IPsecで接続したiOS端末を使って、自宅や外出先からのPC起動も可能です。
自院で設定が難しい場合はプロを頼ろう!
システムやネットワークを設定することに苦手意識がないクリニックであれば、自院で環境を整えることもスムーズでしょう。
しかし、そうでないクリニックであれば、この記事で紹介している方法を理解すること自体困難かもしれません。その場合は、設定はすべてプロに任せるのが得策です。
ただし、システムの構築やネットワーク環境整備は高額な作業費を請求される場合もあるので、電子カルテ導入時にネットワーク調査も行えるとベストです。Donutsの電子カルテCLIUSなら、ネットワーク調査も初期費用に含まれているので、興味がある人はお気軽にお問い合わせください。
特徴
診療科目
この記事は、2022年1月時点の情報を元に作成しています。