4人に1人が75歳以上になる「2025年問題」を目前に、医療・介護への需要はさらに増えると予測されています。(参考:第1回介護施設等の在り方 委員会 H18.9.27 資料4「今後の高齢化の進展〜2025年の超高齢社会像〜」)
高齢化の進む日本の医療・介護を支えるため、利用者のニーズにマッチした在宅医療の定着が急務です。国・厚生労働省は包括ケアおよび在宅医療の充実を推進しています。さらに、ウィズコロナ時代には特例加算の算定や補助金の交付を行い、収益の面からも在宅医療の普及を推進しています。
今回は、在宅医療に対する患者の心理や最新の動向を交えながら、在宅医療のメリット・デメリットをご紹介していきます。 開業医は以下の内容を充分に理解し、在宅医療の提供にお役立てください。
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在宅医療(訪問診療)がもたらすメリット
さまざまな問題・課題を抱える在宅医療ですが、患者・医師それぞれにメリットがあります。まずは、患者のメリットについてご紹介します。
患者側のメリット1:自宅で過ごしたい希望を叶えることができる
厚生労働省が行った調査によると、最期を迎える場所として、国民の約70%が「自宅」を希望していることが分かっています。(参考:平成 30 年 3 月 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会 「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」P.53 (1-2) 最期を迎えたい場所)
このように、患者が自宅での療養を望んだ場合、在宅医療(訪問診療)によって本人の希望を叶えることができます。
CLIUSクリニック開業マガジン編集部が行った独自取材でも、在宅医療(訪問診療)を利用した患者家族はこのように話していました。
祖父は自宅で最期を迎えたいとの強い希望がありました。入院していても、何も処置できるものがないと言われ、それならば祖父の意見を尊重しようと意見がまとまったために在宅医療に至りました。本人の希望を叶えることができてとても良かったです。(香川県・30代・女性)
患者側のメリット2:通院の負担軽減につながる
高齢者や病気・障害を持つ人にとって、定期的な通院は負担が大きいものです。
さらに、老々介護が増え通院自体が介護者の負担となることも考えられます。それにより、通院による治療を受けることができない高齢者が増えると予測できます。
在宅医療は医師が患者の生活の場に出向くため、通院や待ち時間の負担もありません。薬局と連携している場合、薬は自宅に届けられます。社会資源を活用することで、患者・家族の負担は大幅に軽減できる可能性があります。
編集部の独自取材では、以下のように、通院の付き添いの負担がなくなったことを在宅医療のメリットとして挙げている患者家族もいました。
父が自宅での生活を望んだため、在宅医療を利用しておりました。普通に医療を受けるとなると待ち時間がとても長い場合が多く、車いす用と付き添いのいすなどがあるわけでもないですし、狭い通路に車いすを止めねばならなかったので、父も疲れ、付き添っている私たちも気を使うので大変でした。在宅医療にすることで、入院しなくて済むので面会時間を考えず家族の時間をとることができ、医療機関に行くことがなく、待合などの時間の負担や気をつかわず自宅で待てるようになりました。(新潟県・50代・女性)
患者側のメリット3:外出による感染症のリスクを防止しながら療養できる
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、在宅医療(訪問診療)の重要性に注目が集まりました。
在宅医療(訪問診療)を利用する高齢者や慢性疾患の患者は、新型コロナウイルス感染症に罹患すると重症・死亡化リスクが高い特徴があります。
一時期、感染対策として受診を控える患者も増加しました。 (参考:公益社団法人 日本医師会 定例記者会見「新型コロナウイルス感染症の診療所経営への影響-2020年9~10月分-」)このように継続的な管理が必要な患者が来院困難な場合、その受け皿となる医療が求められ、活躍したのが在宅医療(訪問診療)です。
在宅医療(訪問診療)であれば患者は外出することなく、継続的な医療を受けられるメリットがあります。
新型コロナウイルス感染症の蔓延による医療崩壊の際には、患者の初療を行い、在宅医療(訪問診療)でできうる限りの治療を行う最後の砦ともなりました。普段の在宅療養を支えるだけでなく、有事の際の患者の命を守る、患者の命を繋ぐという社会的役割も担うようになりました。開業医が在宅医療(訪問診療)を行うことは、地域医療を支えるという社会的なメリットも担っているのです。
そのほか、取材時には以下のように、患者家族が、患者について理解する機会が得られたとのメリットを挙げているケースもありました。
一緒に過ごす時間が多い分、相互理解に繋がることもあるようです。
メリットは、やはり家族にとってよく分からなかった祖父の病気に対し、知識を得られたことでした。また、本人は何ができて何ができないのか、どういったことが苦痛と感じるのかなど、祖父の多くを知る機会ができたことです。(大阪府・40代・女性)
医師側のメリット1:役割を分担しチームで患者を診ることができる
続いては医師側のメリットを2つ紹介します。
在宅医療(訪問診療)は医師だけで提供するものではありません。訪問看護やリハビリテーション、理学療法士などさまざまな職種と連携し、患者の状態・問題・課題を把握したうえで、医師は診療にあたっています。
多職種連携による多角的な専門家の意見が医師に集約されるため、診断・治療に専従できるというメリットがまずあります。
医師側のメリット2:患者増減の波を一定数抑えることができる
在宅医療(訪問診療)は、外来診療よりも1患者あたりにかかる時間は長くなりますが、その分、クリニックの経営面を助ける働きも少なからずあります。
診療報酬で見ても、例えば在宅患者訪問診療(Ⅰ) は最大で888点と、外来の再診料より大幅に高くなっています。その他にも在宅患者訪問診療(Ⅰ) の加算として、乳幼児加算400点、死亡診断加算200点、看取り加算3000点などがあります。(参考:アイネットシステムズ株式会社「在宅医療 往診料・在宅患者訪問診療料」)
岐阜県岐阜市の「なかうずらクリニック」にて、外来・在宅診療を行う後藤芳文先生は、在宅医療(訪問診療)とその経営面に関して、このように話しています。
「当院は在宅療養支援診療所です。コロナウイルス感染症の蔓延により、多くのクリニックでは受診控えの影響を受けましたが、在宅医療(訪問診療)で月に2回ほど診察する患者さんが一定数いることで、感染症など外的要因による患者増減の波は、比較的抑えられるようになると思います。
もちろんこれは患者さんの需要ありきですが、一種のリスクヘッジとも言えるでしょう。
なお、2021年8月は、全国の感染者数が過去最多(〜2021年11月までの期間)」となりましたが、その時期は県からの要請で、自宅療養患者への診察も合わせて行っていました。この対応は予想外のことでしたが、その影響もあり開業以来医療収益が最も高かった月とも言えます」
在宅医療(訪問診療)のデメリット
ここまでは、在宅医療(訪問診療)のメリットをあげました。では在宅医療(訪問診療)にはどのようなデメリットがあるのでしょうか?
患者側のデメリット1:家族の不安や、家族にかかる負担が大きい
患者家族に伺った話の中では、患者のそばに医療従事者がおらず、自分たち(家族)しかいないことでの不安を感じるとの意見がありました。
医者や看護師がいない中で秒台が急変した場合、近くに対処できる人がいないことで、助かる命が助からなくなってしまったら…という不安はありました。薬の投与に関しても、頓服が必要な場合なのか、通常のお薬で様子をみるべきなのか判断がしかねる状況が多々ありました。(香川県、30代、女性)
また、在宅医療(訪問診療)は家族の多大なサポートが不可欠なため、患者に対して家族が理解を示せない場合、負担をより強く捉えることがあるようです。
医療の知識もないため、祖父がなにが出来てなにが出来ないのか、家族も困惑が大きく、祖父の甘えと感じてしまうこともあり、家族全員がぎすぎすした状態になりはじめ、全員が疲れ始めていました。(大阪府、40代、女性)
医師側のデメリット1:24時間対応のため、時間の切れ目なく診療する可能性がある
医師側の一番のデメリットは、24時間対応が求められることによる負担感です。
厚生労働省の調査によると、在宅療養支援診療所の医師の約70%以上が、24時間体制への負担を感じているとのデータがあります。(参考:日本医師会総合政策研究機構 野村真美、出口真弓 日医総研ワーキングペーパー「在宅医療の提供と連携に関する実態調査」在宅療養支援診療所調査 No.183 P.46)
逆に、負担ではないと感じている医師は、根拠として以下の点を挙げています。
・看護職員等のサポートがあるから(24時間体制に必要な看護職員の確保ができている)
・地域の事業所との連携がうまくいっているから(訪問看護ステーションとの連携)
・複数の医師で分担できているから
つまり、他クリニックとの連携もしくはクリニック内での人員配置の調整、そのほか訪問看護ステーションとの連携など、さまざまな工夫によりデメリットを改善できる可能性はあるということです。
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まとめ
今回の取材により、在宅医療(訪問診療)は患者側にも医師側にもさまざまなメリット・デメリットがあることが分かりました。
患者側のメリットは通院の負担軽減や、外出による感染症のリスクを低減できる点です。デメリットは家族の負担が大きくなるという意見がありましたが、十分な社会資源の導入、24時間体制のサポートで、その軽減が期待できます。
医師側のメリットは役割を分担しチームで多角的に診療を行え、さらに、患者増減の波を抑えられる点です。デメリットは24時間体制による身体的・精神的負担がありますが、他院や訪問看護ステーションとの連携で改善が見込めます。
これらを理解し、在宅医療への取り組み方を検討・見直していきましょう。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2022年1月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
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