病院やクリニックの内観を考えるうえでもっとも意識したいのは「清潔感」でしょう。
清潔感が感じられない医療機関に対して、「これからもお世話になりたい」という気持ちを持てる患者は少ないことは間違いありません。待合室から診療室まであらゆる箇所が患者のチェックの対象!
特に、清潔感が重視されるトイレに関しては患者の目も厳しくなっています。そこで今回は、医療機関のトイレに求められる条件についてみていきます
病院やクリニックのトイレに関してクリアしておきたい条件は?
清潔感
冒頭でも述べた通り、まず大切なのは掃除の行き届いた空間であることです。
自分たちで一から用意した建物ではなくテナントに入った場合などは、建物自体の古さが原因で清潔感が感じられにくい場合もあるでしょう。その場合は特に、清潔感を意識することが重要になってきます。
長年の使用によって床や壁が黒ずんでいる箇所などがあるなら、一度プロの業者を入れて徹底的にメンテナンスしてもいいかもしれません。
1~3か月に1度程度の頻度で定期的に業者にワックス洗浄などをお願いするのもおすすめです。
便座や洗面台などは常にキレイに磨いておくように心がけましょう。便座レバーや蛇口、ドアの手すりなどの不特定多数の人が触れる箇所は、アルコール消毒を行うことも必要です。
車いすでも利用できるだけの広さ
これからクリニックを設計するのであれば、車いすでも利用できる個室は用意しておきたいところです。
一般的なタンク式便器と比較してコンパクトなサイズに設計された便器を選ぶと、そのぶん空間にゆとりが生まれるため、介助も楽になります。また、手洗い器や手すりも設置しやすくなります。
ペーパータオル
公共機関などに設置されることの多いジェット式ハンドドライヤーは、細菌をまき散らすとされる研究結果などがあるため、病院での使用は控えたほうがいいという考え方があります。
この考え方はコロナ禍をきっかけに多くの人が知るところとなったうえ、最近では病院以外の公共機関でも使用不可となっているケースが多いでしょう。
ジェット式ハンドドライヤーがなければ両手を振って自然乾燥させる人も多いため、感染防止の観点からも、ペーパータオルを用意できるといいでしょう。
アルコール消毒液、便座の除菌スプレー
ジェット式ハンドドライヤーの使用が控えられるようになったと同時に、アルコール消毒液をトイレに設置するクリニックは増えています。
今後コロナが収束したとしても、アルコール消毒液の設置習慣は残したいものです。また、便座の除菌スプレーも同様です。
防音性
トイレの防音性に関しては男女ともに気にするポイント。音漏れが気になると落ち着いて用を足すことができず、体調が悪化するということもありえます。
とはいえ、クリニック全体の床面積が広くなければ、音漏れを完全にシャットアウトできるだけのスペースを確保するのは難しいでしょう。
その場合、流水音発生器を設置するほか、待合室にBGMを流したり、待合室の椅子やソファの配置に工夫したりすることが望ましいです。
ニオイ
音だけでなく、ニオイ漏れを防ぐのも重要なポイント。開業したてのころは気にならなくても、飛散した尿が固まって結晶化していくにつれ、アンモニア臭が強くなってくることもあります。
それを防ぐためには、こまめに掃除するだけでなく、定期的に換気することも大切。
場合によっては、トイレ内にも空気清浄機を設置したほうがいいこともあるでしょう。
暖房便座・ウォシュレット
暖房便座やウォシュレットは、今やマンションやレストランのトイレにも当たり前に装備されているので、装備されていないとマイナスな印象を抱く人も多いでしょう。
ただし、ウォシュレットをつけるとそのぶん掃除は大変になります。ノズル部分に汚れが溜まらないよう、こまめに掃除するよう心がけましょう。
男女別
床面積の狭いクリニックの場合、トイレをひとつしか設置できないこともあるかもしれませんが、男性専用・女性専用トイレがないことを嫌がる人は大勢います。
これから開業する場合は、そのことを考慮しながら設計を考えるのもいいかもしれません。
このほか、ベビーベッド(おむつ替えシート)や多目的トイレ(ユニバーサルトイレ)なども用意することができたら理想的。
これからクリニックを設計する場合は特に、小さな子どもから高齢者にいたるまでの「誰にとっても使いやすいトイレ」であることを考えられるといいでしょう。
これから開業するならどんな点に注意して設計すべき?
これからクリニックを開業するなら、トイレの使い勝手や見た目の印象、清潔感の保ちやすさなどにも配慮して設計してくれる設計士または業者に依頼するのがベストです。
一社だけに見積もりを出してもらうのではなく、複数業者によるコンペを行うことで、より理想的な設計士または業者に設計してもらいましょう。
先輩開業医がクリニックのトイレ設計に関して後悔していること
より理想的なトイレにするためには、どんな失敗例があるのかを知っておくことが役立ちます。
先輩開業医たちがクリニックのトイレ設計に関して後悔していることとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 職員用トイレを用意しなかった、または男女別にしなかったため安心して使えない
- 待合室からトイレが見える配置のため、患者が利用しにくい。特に検尿の際などに嫌がられる
- 採光に配慮していなかったためトイレが暗い印象になった
- バリアフリーにしなかったため高齢者や車いすの人が使いにくい
- 旧来のタイル張りにしたため、掃除していても清潔に見えづらい
- 構造的に下水の臭いが上がってきやすい
- スロープと手すりを設けていなかったため、足が不自由な患者などのサポートが大変だ
- 開き戸ではなく引き戸にすべきだった
クリニックのトイレに関して患者からはどんな意見が上がっている?
TOTO株式会社が公表している「2019年 クリニックの水まわりに関するアンケート調査結果」によると、「クリニックのトイレが汚いとどう思いますか?」という質問に対して、
「他のクリニックに行きたくなる」と回答した人は12.9%。
「クリニック全体が汚いと思う」は27.1%。
「あまり患者に配慮されていないと思う」は36.6%にも及びます。
また、「クリニックを選ぶときに、トイレのキレイさは影響しますか?」の問いに対しては、20.9%の人が「とても影響する」、45.6%もの人が「やや影響する」と回答しています。
具体的なコメントとしては、
- 「トイレ掃除に気を配っているかどうかで患者への気遣いの度合いがわかる」
- 「清潔感が保たれていないクリニックは信用できない」
- 「クリニックの診療にもリンクしていると思う」
- 「洗面化粧台が汚いと気分が悪い」
などが挙がっています。
さらに、「直近5年以内の経験で、クリニックのトイレに不満を感じたのはどんなことですか?」の質問に対する回答としては、「荷物置き場がなかった」「お湯が出なかった」などが上位にランクインしています。
⇒参照:TOTO株式会社「2019年 クリニックの水まわりに関するアンケート調査結果」
診療科別にトイレに求められることは異なる?
続いては、同じアンケート調査結果から、診療科別にトイレに求められることのなかから注目すべき回答を中心にご紹介します。
内科、外科・整形外科
内科および外科・整形外科に通う患者がトイレに求めることとしては、「掃除が行き届いていること」「臭いがないこと」などの基本的なことが上位を占めています。
また、洗面化粧台に関しては「自動水栓であってほしい」という意見も多数見られました。
小児科
小児科は、子どもに付き添う親からの視点として、「赤ちゃんを座らせるシート」「おむつ替えシート」「おむつを捨てられるゴミ箱」「ベビーカーが入る広さ」を求める声が多く上がっています。
産婦人科
産婦人科でも同様に、「赤ちゃんを座らせるシート」「おむつ替えシート」「おむつを捨てられるゴミ箱」「ベビーカーが入る広さ」を求める声が多数上がっているほか、
妊婦さんからは「立ち座りをサポートできる手すり」の設置も求められています。
心療内科
心療内科でもっとも多かった回答は、「明るい照明・壁材」と明るさを求めるもの。暗い照明、暗い雰囲気のトイレだと、気持ちまで暗くなってしまうようです。
眼科
眼科の患者から多く上がった意見は、「立ち座りをサポートできる手すり」や「万一転倒してもケガをしない床材」です。
目の治療のあとなどはいつもより視野が狭くなることも考えられますし、そもそも目の調子が悪い人が受診する診療科であるため、視覚的配慮は重要であると言えるでしょう。
できることから少しずつ変えていこう
患者のニーズがわかったところで、既に開業しているクリニックにとって、設備面を大きく変えることは難しいかもしれません。
しかし、毎日の掃除を徹底するなど、少しずつでもできることから取り組んでいくことで、患者には好感を持ってもらいやすくなるでしょう。
また、最近では温水洗浄便座などを求める声も多くなっていますが、便座は後から温水洗浄便座への交換も可能なので、自院の患者にもアンケートを取りながら改良を検討していくのもいいかもしれませんね。
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この記事は、2022年1月時点の情報を元に作成しています。