2月9日、中央社会保険医療協議会の総会において「令和4年診療報酬改定案」の答申がおこなわれました。これによって、クリニックの運営や課題は具体的にはどのようなことが変わるのでしょうか。医療事務コンサルタントとして独立後、多数の医療機関のコンサルティングを手掛けてきた、株式会社エム・アール・シー代表取締役の石上登喜男先生のセミナーを参考に、主たる改定ポイントを紹介します。
参照:2022年度 診療報酬改定(診療所・クリニック向け)オンラインセミナー
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コロナは改定にどう影響?
今回の診療報酬改定は、コロナ禍におこなわれた初めての改定です。そのため、コロナ感染が拡大したことによって浮き彫りとなった問題の解決のために必要なことが多く盛り込まれています。たとえば、デジタル化の遅れによってコロナ患者の孤立が問題となったことから、「ICT」を強化していくことの必要性に誰もが注目するようになりましたし、ICTの強化は「働き方改革」とも連動している問題です。また、孤立といえば「地域包括ケア」も力を入れるべき問題ですし、「感染症対策」そのものにも、今後もますます力を入れていく必要があります。
続いては、医療機関の業務内容や課題が具体的にどう変わっていくのかを詳しく説明していきます。
オンライン診療が重要になる
コロナ禍においては、オンライン診療は感染を防ぐための特例措置とされていました。しかし、コロナ期間中にオンライン診療が普及したこともあって、徐々に特例措置から通常措置へと変わっていきました。この変化によって、初診のオンライン診療、再診のオンライン診療、医学管理のオンライン診療のいずれにも点数が加算されることになっています。
また、令和4年度の診療報酬改定でオンライン診療に関して変わったことは大きく3つあります。1つめは、オンライン診療の場所です。これまでは医療機関内でしかオンライン診療することが認められていませんでしたが、マンションの一室などでもオンライン診療をおこなっていいことになりました。
2つめは距離です。これまでは、30分以内に来院できる患者のオンライン診療しか認められていませんでしたが、診療の結果、すぐに対面で診たほうがいいと判断された場合、すぐにかかりつけ医にバトンタッチできる体制が整っていれば、遠方の患者でもOKということになったのです。
3つめは、(オンライン診療の)対象となる疾患の種類です。これまでは疾患の制限がありましたが、改定によってほとんどの患者のオンライン診療が可能となりました。
【点数】
オンライン資格確認が加算
オンライン資格確認を既に導入済の医療機関、またはこれから導入予定の医療機関には点数が加算されます。
ただし、条件が3つあります。1つめはオンライン請求をおこなっていること。2つめはオンライン資格確認の対応、そして3つめが院内掲示です。初診料・再診料問わず月1で点数をとることができます。
これから導入予定の医療機関が導入するまでには、それなりに時間がかかるでしょう。これから導入するとなると、端末、回線、電子カルテおよびレセコンを用意しなければならないためです。オンライン診療に必要なものすべての導入サポートをパッケージで請け負っている業者やレセコンベンダーもありますが、回線は回線、電子カルテは電子カルテ、とそれぞれ別の業者に依頼するとスムーズに準備が進まない場合もありえます。そのことを考慮しながら、すべてをまとめて依頼できる依頼先について考えてみるのもいいかもしれません。
また、オンライン資格確認の点数を加算してもらえるタイムリミットは令和6年に設定されています。となると、オンライン資格確認を進めるうえで利用できる補助金はおおむね令和6年前半までであると予想されるので、早めに準備を進めるに越したことはありません。
【点数】※既にオンライン資格確認導入済の場合
※当該保険医療機関の見やすい場所に院内感染防止対策に関する取り組み事項を掲示していることが必要
※新興感染症の発生時や院内アウトブレイクの発生時などの有事の際の対応について、連携する感染対策向上加算に係る届出をおこなった医療機関などとあらかじめ協議して、地域連携に係る十分な整備がなされていることが必要
※院内感染管理者におって、職員を対象として、少なくとも年2回程度、定期的に院内感染対策に関する研修をおこなっていることが必要
リフィル処方箋が導入される
リフィル処方箋の導入によって、クリニックの医業収入が0.1%マイナスになると推定されています。なぜかというと、リフィル処方箋は患者が最大3回まで使うことができるので、これまで月ごとに提供していた処方箋を3か月分処方したのと同じ状況になるからです。薬の処方のためだけに来院していた患者が来なくなると、再診料や検査費が取れなくなってしまいます。
しかしもちろん、リフィル処方箋は現場の医師の判断が必要なもの。慢性疾患といえど、定期的に診察や検査が必要と判断すれば、リフィル処方箋ではなく、通常処方をおこなう必要があります。そうした背景もあり、多くのクリニックがリフィル処方箋の導入に反対しているのが現状ですが、リフィル処方箋の導入にはメリットもあるということにも目を向けたいところです。それはどういうことかというと、たとえば自院と競合の2つのクリニックが同じ薬を処方していたとして、リフィル処方箋が浸透する過程で、すべてのクリニックで出された患者の処方箋情報が集約されることになると、薬局が重複に気づくことができるのです。患者に処方する薬を一元管理することは、患者の健康を守ることにもつながっていきます。
地域連携が拡大
今回の診療報酬改定によって、「紹介状なしで受診した患者等から定額負担を徴収する責務がある医療機関」の対象範囲が拡大しています。これまでは、特定機能病院および地域医療支援病院のみでしたが、今回の改定によって、一般200床以上の医療機関すべてにまで範囲が拡大しました。医療機関の割合でいうと、8%から16%にまで拡大することになります。そうなると、かかりつけ医であるクリニックにとっては、紹介状作成業務が増えることになります。そのため、効率的に紹介状を作成する体制を整える必要があります。
紹介所の作成スタイルは大きく3パターンに分けられます。「患者が来院してからすぐに書く」「医師が空いている時間に書く」「診察が終わったタイミングで書く」の3パターンですが、患者の理想としては、紹介状を持ってその日のうちにでも紹介先の医療機関を訪れたい気持ちがあるので、早いに越したことはありません。では、どうすれば早く書くことができるかというと、「電子カルテを活用する」「音声入力ツールを使う」「クラークを導入する」が考えられます。
電子カルテの入力に時間がかかるなら、音声入力ツールやクラークを導入することが望ましいですが、そのぶん費用もかかるので、費用対効果で自院にとってどの選択がベストかを考えるといいでしょう。
内科医を軸にした在宅対応が拡大
地域連携におけるもうひとつの課題は「在宅対応をどうするか?」ということです。"在宅対応"は医療・介護・生活に関してまでの対応なので、今以上にすそ野を広げていく必要があるでしょう。そのなかで各クリニックは、自院の役割を考える必要が出てきます。
「自分は内科医じゃないから在宅医療とは無縁だ」と思うかもしれませんが、団塊の世代が75歳以上になる2025年を目途に、「内科医+α」で在宅対応を担当するようになることが想定されます。たとえば、耳が遠い患者が在宅対応を必要とする段階になったとき、普段のフォローは内科、耳鼻科医が月一でフォローアップということもありえます。そうした状況においては、(内科医以外の先生は)内科医との連携が非常に大切。「次の診療はいつごろがいいですよ」のやりとりなども含め、"内科医を軸にした在宅対応"のニーズが高まってくるでしょう。
【点数】
耳鼻咽喉科に対して加算される処置が増える
最後の注目点としては、耳鼻咽喉科に対して加算される処置が増えたことです。
具体的には、6歳未満の乳幼児に対して耳処置や鼓室処置などをおこなった場合、「耳鼻咽喉科乳幼児処置加算」として60点が加算されます。また、急性気道感染症、急性中耳炎または急性副鼻腔炎によって受診した6歳未満の乳幼児に対して、診察の結果、抗菌薬の投与の必要性が認められないために抗菌薬を使用しない場合において、療養上必要な指導および当該処置の結果を説明して、文書による説明内容を提供した場合は、「耳鼻咽喉科小児抗菌薬適正使用支援加算」として、月1回限り80点が加算されます。さらに、入院中以外の患者のアレルギー性鼻炎に対して、アレルゲン免疫療法による治療の必要性を認めて適切な治療管理をおこなった場合、月1回に限って「アレルギー性鼻炎免疫療法治療管理料」が算定されます。
【点数】
医療の未来を見越して、できることからひとつずつ始めていこう
紹介した5つのポイントすべてに同時進行で対応していくのはハードルが高いですが、たとえば音声入力ツールの情報収集からはじめたり、オンライン診療をスムーズに行えるように院内ネットワークを見直したりと、すぐにでもできることはたくさんあります。ただし、「数年かけて対応していこう」というほどのスローペースだと、次の診療報酬改定時にやるべきことが山積みになってしまいます。できることからひとつずつであっても、一歩一歩着実に、理想の医療を提供できる未来に向けて進んでいきましょう。
特徴
オプション機能
対象規模
提供形態
診療科目
特徴
オンライン診療機能
システム提携
診療科目
特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2022年3月時点の情報を元に作成しています。