2022年度診療報酬改定の全貌が見えてきました。そのなかで、診療所やクリニックに関するものをピックアップして解説します。
本稿は3部構成で、第1部を外来の改定、第2部を在宅の改定、第3部をどちらにも属さないものの重要な改定、としています。
診療報酬を正確に算定することは診療所経営の基礎になりますので、この記事でしっかり押さえておいてください。
ただ、本稿の内容は確定していない部分もあるので、厚生労働省や医師会の情報も引き続きウォッチするようにしてください。
※本稿「第1部 外来の改定」にある、「再診料と外来診療料もオンライン診療用が用意される」の見出し内の文章にて、算定要件が有床の保険医療機関とされている旨を記載しておらず、誤解を与える表現となっておりました。
お詫びして、訂正いたします。
なお、現在(2022年9月7日〜)は、見出しや本文で、有床に限る内容であることの追記、該当する算定要件についての明記をしております。
第1部 外来の改定
外来に関連する改定の目玉は、オンライン診療の算定が手厚くなったことです。オンライン診療に興味がある医師は多いと思うので、詳しく解説します。
さらに「外来感染対策」や「かかりつけ医の要件」「データ提出」「地域包括診療」も重要テーマになっているので紹介します。
オンライン診療用の初診が新設「制限も緩和され始めやすくなった」
「オンライン診療を始めたい」または「オンライン診療を拡充したい」と考えている診療所の院長にとって、今回の改定は朗報といえるでしょう。
オンライン診療の診療報酬が手厚くなり、制限も撤廃されます。
オンライン診療関連の改定のポイントは以下のとおりです。
●オンライン診療用(「情報通信機器を用いた場合」という項目)の初診が新設される
●再診料と外来診療料もオンライン診療用(「情報通信機器を用いた場合」という項目)が用意される
●さまざまな制限が緩和される
1つずつみていきましょう。
オンライン診療用の初診が新設される「制度の恒常化が進む」
これまでのオンライン診療料は廃止され、その代わり、オンライン診療が初診料に組み込まれます。つまり、オンライン診療用の初診料が新設された形になります。
これは、コロナ禍で臨時的に緩和したオンライン診療の運用を恒常化する狙いがあります。
新設されるオンライン診療の初診の名称は「初診料(情報通信機器を用いた場合)」で251点です。これまでの「電話等初診」や「コロナ臨時特例でのオンライン診療」の214点より37点アップします。
ただし251点が算定されるのは、新施設基準をクリアして地方厚生局長等に届け出を行った医療機関です。
そして新施設基準の届け出を行わない場合でも、臨時特例の初診点数(214点)を算定できます。
再診料と外来診療料もオンライン診療用が用意される(※有床クリニックの場合)
オンラインによる再診と外来診療も新たに「再診料(情報通信機器を用いた場合)」と「外来診療料(情報通信機器を用いた場合)」が設定されます。
いずれも73点になります。
なお、上記の算定要件には、有床の医療機関であることが記載されているため、注意が必要です。
② 情報通信機器を用いた再診に係る評価の新設及びオンライン診療料の廃止
算定要件(1)
保険医療機関(許可病床のうち一般病床に係るものの数が 200 以上のものを除く。)において再診を行った場合(別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において情報通信機器を用いた再診を行った場合を含む。)に算定する。
引用:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第516回)議事次第「 総-1」P.280
さまざまな制限が緩和「慢性疾患以外も対象に」
そしてオンライン診療の普及をさらに後押ししそうなのが、各種制限の大幅緩和です。
これまでオンライン診療は、「緊急時の外来対応」「診療の場所を院内に限る」「慢性疾患に限る」といった制限がありましたが、これらが緩和されます。
例えば次のとおりです。
<オンライン診療の制限緩和の一例>
●原則として、保険医療機関に所属する保険医が保険医療機関内で実施すること。なお、保険医療機関外で情報通信機器を用いた診療を実施する場合であっても、当該指針に沿った適切な診療が行われるものであり、情報通信機器を用いた診療を実施した場所については、事後的に確認可能な場所であること。
●医学管理料について以下の14種類を追加する
・ウイルス疾患指導料
・皮膚科特定疾患指導管理料
・小児悪性腫瘍患者指導管理料
・がん性疼痛緩和指導管理料
・がん患者指導管理料
・外来緩和ケア管理料
・移植後患者指導管理料
・腎代替療法指導管理料
・乳幼児育児栄養指導料
・療養・就労両立支援指導料
・がん治療連携計画策定料2
・外来がん患者在宅連携指導料
・肝炎インターフェロン治療計画料
・薬剤総合評価調整管理料
参考:公益社団法人 日本医師会「令和4年度診療報酬改定の概要について」P.114 4.情報通信機器を用いた診療に係る評価 (2)情報通信機器を用いた医学管理等に係る評価の見直し
外来感染対策向上加算の新設「有事の際に向けた対策をする診療所を評価」
「外来感染対策向上加算」が新設されます。点数は患者1人につき月1回、6点となります。これは、診療所限定の加算です。
この加算の狙いは「平時からの感染防止対策の実施や、地域の医療機関などが連携して実施する感染症対策への参画をさらに推進する観点から、外来診療時の感染防止対策に係る評価」(引用:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定の概要 - 厚生労働省」P.3 外来感染対策向上加算の新設及び感染防止対策加算の見直し①)することです。
つまり、しっかり感染症対策を行っている診療所に手厚く算定するわけです。
施設基準について
外来感染対策向上加算を算定するには、以下の施設基準をクリアして、地方厚生局長に届け出る必要があります。
<外来感染対策向上加算の施設基準>
●専任の院内感染管理者がいる
●少なくとも年2回程度、感染対策向上加算1に係る届出を行った医療機関または地域の医師会が定期的に主催する院内感染対策に関するカンファレンスに参加する
●感染対策向上加算1に係る届出を行った医療機関または地域の医師会が主催する新興感染症の発生等を想定した訓練について、少なくとも年1回参加する
●新興感染症の発生時などに、都道府県などの要請を受けて発熱患者の外来診療などを実施する体制を有し、そのことについて自治体のホームページで公開されている
●新興感染症の発生時などに、発熱患者の診療を実施することを念頭に、発熱患者の動線をわけることができる体制を有する
施設基準の詳細はこちらを確認:東京都医師会「外来感染対策向上加算等について」
この加算を算定するには、新型コロナのような新興感染症が発生したときに、発熱患者を積極的に受け入れる必要があります。
機能強化加算の見直し「かかりつけ医の要件が厳格化」
「機能強化加算」(80点)は、外来医療の役割分担を図る目的で、かかりつけ医機能を有する診療所などの初診料に加算されるものですが、今回、算定要件が厳しくなります。
改定後の機能強化加算の算定要件と施設基準は次のとおりです。
<改定後の機能強化加算の算定要件>
●専門医療機関への受診の要否を的確に判断する
●患者に対して以下の対応を行い、自院のホームページなどに掲示する
・患者が受診している他の医療機関および処方されている医薬品を把握し、必要な服薬管理を行うとともに診療録に記載する
・専門医師または専門医療機関への紹介を行う
・健康診断の結果などの健康管理に係る相談に応じる
・保健・福祉サービスの相談に応じる
・診療時間外を含む緊急時の対応方法に関する情報提供を行う
<改定後の機能強化加算の施設基準>
●適切な受診につながるような助言や指導を行うなど、質の高い診療機能を有する
●地域において包括的な診療を担う医療機関であることについて、院内のみやすい場所やホームページに掲示する
参考:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定説明資料等について」08 令和4年度診療報酬改定の概要 外来Ⅱ P.7
厚生労働省にデータを提出すると加算
診療所などが厚生労働省に、「診療報酬の請求状況」や「生活習慣病の治療管理の状況」などのデータを継続して提出すると加算される仕組みが導入されます。
新設される加算は3つあり、いずれも月1回50点です。
<新設される加算>いずれも月1回50点
●生活習慣病管理料における「外来データ提出加算」
●在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料、在宅がん医療総合診療料における「在宅データ提出加算」
●疾患別リハビリテーション料における「リハビリテーションデータ提出加算」
これらの加算の施設基準は以下のとおりです。
<加算の施設基準>
●データを継続的かつ適切に提出する体制が整備されている
●データ提出加算に係る届け出を行っていない保険医療機関
参考:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定説明資料等について」08 令和4年度診療報酬改定の概要 外来Ⅱ P.15
地域包括診療料、地域包括診療加算の見直し
地域包括診療料と地域包括診療加算の対象疾患が拡大して、算定要件が緩和されます。これも、かかりつけ医機能を強化する狙いとみてよいでしょう。
対象疾患は、従来は「高血圧症、糖尿病、脂質異常症、認知症の4疾患のうち2つ以上」となっていましたが、これに慢性心不全と慢性腎臓病を加えて「6疾患のうち2つ以上」となる予定です。
参考:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定説明資料等について」08 令和4年度診療報酬改定の概要 外来Ⅱ P.5
第2部 在宅の改定
続いて、在宅関連の改定を確認していきます。
外来在宅共同指導料が新設
外来在宅共同指導料(1は400点、2は600点)が新設されます。
外来を受診していた患者が在宅医療を受けることになると主治医が変わることがあり、そのとき患者が抱える医療・介護の課題が複雑になることがあります。外来在宅共同指導料は、こうした問題の解決を目指して設置されます。
同指導料の対象となる患者は、外来で継続的に4回以上診察を受けていて、これから在宅療養を行う人です。
外来在宅共同指導料には、在宅療養の医療機関用の1と、外来の医療機関用の2があり、それぞれの算定要件は以下のとおり。
●外来在宅共同指導料1の算定要件(400点)
在宅療養を担当する保険医療機関の医師が、1)患者宅などを訪問して療養上必要な説明や指導を、外来を担当する保険医療機関の医師と共同して行い、2)文書により情報提供した場合に、その医療機関は患者1人につき1回算定できる。
●外来在宅共同指導料2の算定要件(600点)
外来を担当した保険医療機関が、患者1人につき1回算定できる。なお、同医師が在宅での療養上必要な説明や指導を情報通信機器を用いて行った場合でも算定できる。
参考:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定説明資料等について」P.10 09 令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)
通院精神療法と在宅精神療法の評価の見直し
在宅療養移行加算の新設 (継続診療加算からの変更)
従来の「継続診療加算」が「在宅療養移行加算」に名称変更されます(新設されます)。
名称を変更したのは、評価を見直したためです。
従来の継続診療加算は216点でしたが、新設の在宅療養移行加算は1が216点、2は116点へと減点されます。
1と2の施設基準は以下のとおり。
●在宅療養移行加算1の施設基準
・24時間の往診体制および24時間の連絡体制
・訪問看護が必要な患者に対し、訪問看護ステーションが訪問看護を提供する体制を確保している
・当該医療機関または連携する医療機関の連絡担当者の氏名、診療時間内・外の連絡先電話番号など、緊急時の注意事項や往診担当医の氏名などについて、患者または患者の家族に文書により提供し、説明している
●在宅療養移行加算2の施設基準
・当該医療機関または連携する他の医療機関が往診を提供する体制を有している
・24時間の連絡体制を有している
・訪問看護が必要な患者に対し、訪問看護ステーションが訪問看護を提供する体制を確保している
・当該医療機関または連携する医療機関の連絡担当者の氏名、診療時間内・外の連絡先電話番号など、緊急時の注意事項や往診担当医の氏名などについて、患者または患者の家族に文書により提供し、説明している
参考:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定説明資料等について」09 令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護) P.11
在宅療養支援診療所の施設基準の見直し
在宅療養支援診療所について施設基準などが見直されました。
<在宅療養支援診療所の施設基準の見直し内容>
●機能強化型の在宅療養支援診療所について、市町村が実施する在宅医療・介護連携推進事業等において在宅療養支援診療所以外の診療所などと連携することや、地域において24時間体制での在宅医療の提供に係る積極的役割を担うことが望ましい旨を施設基準に明記する
●施設基準に「適切な意思決定支援に係る指針を作成していること」が追加になった
在宅がん医療総合診療料で「小児加算」を新設
在宅医療で小児がん診療のニーズが高まっていることから、在宅がん医療総合診療料に「小児加算(1,000点、週1回)」が新設されます。
参考:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定説明資料等について」09 令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護) P.14
第3部 その他の重要な改定
外来(第1部)にも在宅(第2部)にも分類できないものの、診療所にとって重要になると思われる改定の内容を紹介します。
オンライン資格確認システムに関する加算を新設
オンライン資格確認システムを導入した診療所が患者の薬剤情報や特定健診情報を取得し、その情報を使って診療を行ったときに「電子的保健医療情報活用加算」を加算できるようにします。新設です。
点数は、初診料7点、再診料4点、外来診療料4点。
電子的保健医療情報活用加算を算定するための施設基準は以下のとおり。
<電子的保健医療情報活用加算の施設基準>
●オンライン請求を行っている
●電子資格確認を行う体制を有している
●電子資格確認に関する事項について、医療機関の見やすい場所に掲示している
処方箋の反復利用が可能になるリフィル処方箋の新設
反復利用できる処方箋「リフィル処方箋」の仕組みを設けます。これも新設です。
リフィル処方箋の目的は、症状が安定した慢性疾患で、薬をもらうためだけに診療所に行く受診を抑制することにあります。
当該処方箋の1回の使用による投与期間が29日以内の投薬において、処方箋料における長期投薬に係る減算を適用しないこと、とします。
リフィル処方箋の総使用回数は3回までで、患者はこの間、同じ処方箋で医師の診察なしに薬を受け取ることができます。
診療所にとっては、患者対応のリソースが圧迫されないなど良い点がある一方で、収入減につながる可能性があります。
参考:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定説明資料等について」08 令和4年度診療報酬改定の概要 外来Ⅰ P.9
まとめ:オンライン診療を始めるきっかけになる可能性も
診療所の院長にとって2022年度改定の目玉は、オンライン診療の充実になるのではないでしょうか。
オンライン診療が正式に「初診・再診」に組み込まれることから、政府の本気度がうかがえます。
オンライン診療に興味がありながら、実際の導入に踏み切ることができなかった診療所では、今回の改定が好機になるはずです。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2022年5月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
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