
かかりつけ医として地域医療に貢献していきたいと考えているクリニックは、「時間外対応加算」の対応体制を整えることによって収入アップを目指すことができるので、そのぶん経営状況にも余裕が生まれ、さらに地域に貢献しやすくなります。そこで今回は、時間外対応加算について詳しく解説していきます。
時間外対応加算とは?
時間外対応加算とは、標榜時間外においても、患者からの電話などによる問い合わせに応じられるよう体制を整備するとともに、対応者、緊急時の対応体制、連絡先などについて、院内掲示、連絡先を記載した文書の配布、診察券への記入などの方法によって、患者に周知しているクリニックが算定できる加算のことです。
時間外対応加算の対象患者は?
時間外対応加算は、再診の患者に対してのみ加算できます。つまり、「再診料に対する加算」として算定できるということになります 。
時間外対応加算の点数と施設基準は?
時間外対応加算は、満たしている施設基準によって、「時間外対応加算1」「時間外対応加算2」「時間外対応加算3」「時間外対応加算4」の4つの区分にわけられています。それぞれの点数と施設基準は次の通りです。
時間外対応加算1
診療所を継続的に受診している患者からの電話などによる問い合わせに対して、原則として当該診療所において、当該診療所の常勤の医師、看護職員または事務職員などにより、常時対応できる体制がとられていること。なお、週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務をおこなっている非常勤の医師、看護職員または事務職員などにより、常時対応できる体制がとられている場合には、当該基準を満たしているものとみなすことができる。
また、やむを得ない事由により、電話などによる問い合わせに応じることができなかった場合であっても、速やかに患者にコールバックすることができる体制がとられていること。
時間外対応加算2
診療所を継続的に受診している患者からの電話などによる問い合わせに対して、当該診療所の非常勤の医師、看護職員または事務職員などが、常時、電話などにより対応できる体制がとられていること。この場合において、必要に応じて診療録を閲覧することができる体制がとられていること。
また、やむを得ない事由により、電話などによる問い合わせに応じることができなかった場合であっても、速やかに患者にコールバックすることができる体制がとられていること。
時間外対応加算3
(1)診療所を継続的に受診している患者からの電話等による問い合わせに対して、標榜時間外の夜間の数時間は、原則として当該診療所において、当該診療所の常勤の医師、看護職員または事務職員等によって対応できる体制がとられていること。
なお、週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務をおこなっている非常勤の医師、看護職員または事務職員などによって、標榜時間外の夜間の数時間において対応できる体制がとられている場合には、当該基準を満たしているものとみなすことができる。
また、標榜時間内や標榜時間外の夜間の数時間に、やむを得ない事由により、電話などによる問い合わせに応じることができなかった場合であっても、速やかに患者にコールバックすることができる体制がとられていること。
(2)休診日、深夜および休日などにおいては、留守番電話などによって、地域の救急医療機関などの連絡先の案内をおこなうなど、対応に配慮すること。
当該保険医療機関の表示する診療時間以外の時間において、患者またはその家族などから電話などによって療養に関する意見を求められた場合に、当該保険医療機関において、または他の保険医療機関との連携によって対応できる体制が確保されていること 。
時間外対応加算4
(1)診療所(連携している診療所を含む)を継続的に受診している患者からの電話などによる問い合わせに対して、複数の診療所による連携により対応する体制がとられていること。
(2)当番日については、標榜時間外の夜間の数時間は、原則として当該診療所において対応できる体制がとられていること。また、標榜時間内や当番日の標榜時間外の夜間の数時間に、やむを得ない事由によって電話などによる問い合わせに応じることができなかった場合であっても、速やかに患者にコールバックすることができる体制がとられていること。
(3)当番日以外の日、深夜および休日などにおいては、留守番電話などによって、当番の診療所や地域の救急医療機関などの連絡先の案内をおこなうなど、対応に配慮すること。
(4)複数の診療所の連携によって対応する場合、連携する診療所の数は、当該診療所を含めて最大で3つまでとすること 。
時間外対応加算を算定するためには事前に届出を提出することが必要
時間外対応加算を算定するためには、事前に届出を提出することが必要です。提出先は管轄の厚生局です。提出する用紙は、「別添7の様式2」となります。
時間外対応加算と混同しやすい「時間外等加算」とは?
時間外対応加算と混同しやすい診療報酬点数に「時間外等加算」があります。
時間外対応加算と時間外等加算の違い
時間外等加算とは、「診療時間外に受診対応した」ことに対する加算です。時間外対応加算が、「時間外対応の体制を整えていること」に対しての加算であるのに対して、時間外等加算は、実際に診療をおこなった場合のみ加算されるということになります。
時間外等加算の種類
時間外等加算は、次の3つにわけられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
早朝・夜間加算
【点数】
早朝・夜間加算とは、診察時間外のうち、早朝6~8時もしくは夜間18~22時に対応した場合に算定できる加算です。ただし、深夜加算と休日加算の時間帯は除きます。
深夜加算
【点数】
深夜加算とは、22時~翌朝6時までに対応した場合に算定できる加算です。
休日加算
【点数】
休日加算とは、日曜日や国民の祝日、または年末年始(12月29日~1月3日)に対応した場合に算定できる加算です。
時間外等加算の注意点①
時間外等加算は、緊急時に患者からの希望で対応した場合には算定できますが、クリニックの都合で時間外に対応した場合には算定できません。「クリニックの都合」とはどういうことかというと、たとえば次のようなケースが考えられます。
つまり、「時間外」「深夜」「休日」のいずれかに該当することに加えて、「患者の希望であること」「緊急性があること」も算定要件ということになります。
時間外等加算の注意点②
早朝・夜間加算が、深夜加算と休日加算の時間帯を除いた時間帯に対してしか加算できないことは前述の通りですが、深夜加算と休日加算も併算定することはできません。
「早朝・夜間加算」「深夜加算」「休日加算」のうち2つ以上の条件が重複する場合、より点数が高いほうの加算を算定することになります。
「時間外等加算」と「時間外対応加算」は併算定可
前述の通り、時間外等加算同士は併算定することはできませんが、時間外等加算と時間外対応加算は併算定可能です 。
時間外対応加算を導入するメリットは?
時間外対応加算を導入するメリットは大きく2つあります。
1つは、時間外に対応していることを示すことで、患者から「もしものときに頼れるクリニック」と認識してもらえることです。ひいては、「日ごろからこのクリニックに診ておいてもらうのがよさそうだ」と患者からかかりつけ医として選ばれやすくなります。
もう1つは、収益が向上する可能性が高いことです。先に解説した通り、時間外対応加算は再診料に対して加算できる点数なので、患者の再診があるたびに時間外対応加算が増えていくことになります。
クリニックの患者数は、1日あたり40人が目安といわれていますが 、たとえば週に5日診察しているクリニックの再診率が80% だとすると、
1日の再診患者数32人×月の診察日数20=640
となり、たとえば「時間外対応加算1」の施設基準を満たしていた場合、
640×5点=3,200点
となりますが、診療報酬点数は1点10円なので、月に32,000円収入が上がるということになります。つまり、年収で384,000円増額ということになりますが、患者数が多ければさらにこの額が大きくなるぶん、インパクトも大きいのではないでしょうか。
時間外対応加算を導入するにあたっての注意点は?
時間外対応加算を導入するにあたってもっとも注意したいことは、患者からクレームが入る可能性を考え、しっかりと対策を講じることを忘れないことです。
具体的にどのようなクレームが入る可能性があるかというと、「診療時間内に受診したのに、なぜ時間外対応加算が請求されているのか?」という主旨のクレームです。
これを防ぐためにも、院内の掲示物やホームページ、診察券裏面などに、「夜間などへの診療体制を整えています」の説明と、体制を整えていることによって、再診の患者から時間外対応加算を請求することになる旨の説明をしっかり記しておくことが大切です。
ただし、こうした予防策を張っておいても、クレームが入る可能性を100%無くすことはできません。患者の多くは、院内掲示物やホームページを隈なくチェックなどしていませんし、目を通していたとしても、「自分には関係のないことだ」と無意識にスルーしている場合がほとんどです。
そのため、当該クレームが入った場合に備えて、患者に対してどのように説明するのかを考えておくことが非常に大切です。どのスタッフがクレームを受け付けた場合でもきちんと説明できるよう、患者への説明のためのマニュアルを用意しておくなどすると安心です。
なお、「なぜ診察時間内なのに時間外対応加算を請求されるのか?」との患者からの問いかけに対して、「自動的に請求されるものです」などの事務的な答えを返すことは絶対にいけません。これは、時間外対応加算以外の診療報酬点数についての説明を求められたときにも言えることですが、患者の疑問に対しては丁寧に答えなければ、「あのクリニックは本来とるべきではない点数までとってきた。ぼったくりだ」などの口コミを書き込まれる可能性もあります。反対に、患者からどんな質問が上がってきたときにも丁寧に解説することで、「信頼できるクリニックだ」との認識を持ってもらいやすくなります。
時間外対応加算を導入することによるスタッフの負担を軽減する方法は?
前述の通り、時間外対応加算を算定するためには、診療時間外にかかってくる電話などにも対応することが必要です。万が一すぐに出られなかった場合も、速やかに折り返すことが求められているため、対応する医師やスタッフは1日中気が休まらないことも考えられます。
では、どうすれば時間外対応加算を導入することによるスタッフ側の負担を軽減できるかというと、主に次の方法が考えられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
時間外対応業務をシフト制にする
まず考えられるのが、時間外対応部分の担当をシフト制にすることです。診察時間内も含めて、24時間365日対応しなければならないとなるとしんどいですが、シフト制にして、「電話などで問い合わせがある可能性があるのはX曜日とX曜日だけ」ということになれば、担当者が大きな負担を感じることを避けられます。
比較的負担が少ない「時間外対応加算3」または「時間外対応加算4」を導入することにする
前述の通り、「時間外対応加算3」に関しては、休診日、深夜および休日などには、留守番電話などによって、地域の救急医療機関などの連絡先の案内をおこなうなどすることも認められています。
また、「時間外対応加算4」に関してはさらに負担が少なく、患者からの電話などによる問い合わせに対して、複数の診療所による連携によって対応することが認められています。
そのため、「時間外対応加算1」や「時間外対応加算2」に比べると、対応するスタッフが負担を感じにくいといえます。
クリニック用の携帯電話を用意する、またはクリニックの代表電話に留守電メッセージを残してもらって転送する
時間外対応加算を算定するためには、診療時間外に連絡のつく電話番号をホームページや院内掲示物に記載する必要があります。これに、院長のプライベートの電話番号などを記載して対処すると、四六時中、公私混同の状態となってしまい、精神的に疲弊してしまいます。そうした事態を防ぐために、クリニック用の携帯電話を用意する、またはクリニックの代表電話に留守電メッセージを残してもらって転送することが得策といえます。
ビデオ通話で対応する
患者からの電話による問い合わせで、「症状を実際に見てほしいから今からクリニックに来院したい」など要望されたとしても、緊急性があると思えない場合は、ビデオ通話に切り替えて確認することも可能です。ビデオ通話を利用すれば、直接患者を診療しなくていいぶん負担が軽減します。
ただし、緊急である可能性が少しでもある場合は、直接診察するか、もしくは救急対応している医療機関につなぐなどの対応をとることが不可欠です。
他院連携をおこなう場合の手続きは?
前述の通り、「時間外対応加算3」または「時間外対応加算4」を導入するためには、他院連携の手はずを整えておくことが必要です。
協定書を交わす
他院連携をおこなうにあたっては、連携契約の協定書を交わしておくことが大切です。協定書には、たとえば次のような項目を記します。
連携内容
「甲の患者から診療時間外(平日○時~翌○時、土日祝終日)に電話などによる医療相談があった場合、甲が対応できないときは乙がこれに応じ、必要に応じて当該患者の診察・治療をおこなう」などと具体的な連携内容を記します。
情報提供・共有
「甲は予め患者に本連携体制を周知するとともに、乙が電話相談・診療をおこなううえで必要な診療情報を適宜提供する。乙は対応後、速やかにその概要を甲に情報提供して、患者の継続診療に協力する」など、情報提供・共有に関しての条件をまとめます。
連絡体制
「甲の代表電話を時間外に転送する電話番号(または甲から患者へ周知した直通番号)として、乙の代表番号(または直通番号)XXXXXXXXを利用するものとして、甲は当該転送設定および留守番電話案内設定等必要な措置を講じる」など、連絡の方法および電話番号を記します。
責任区分
「本協定に基づき乙が診療をおこなった場合、その責任は乙に帰属するものとする。ただし甲および乙は常に緊密に連携して、患者に対する安全で適切な医療提供に努める」など、責任の所在を記します。
契約期間
「本協定の有効期間は令和○年○月○日から1年間とし、期間満了時には双方協議のうえで更新の可否を決定する。期間中に解除する場合、甲乙いずれかは少なくとも○か月前までに書面で相手方に通知するものとする」など、契約期間を記します。
上記はあくまでも一例で、実際に記すべき内容は、地域や医療機関の実情によっても変わってきます。まずは上記をベースととらえ、必要な項目を追加したり修正したりすることで、自院が協定を結ぶにあたって必要とする項目を考えていくといいでしょう。
厚生局への届出に協定書を添付する
協定書が完成したら、厚生局に提出する「時間外対応加算」の届出に協定書を添付します。
各医療機関用に、保管用の協定書を用意する
完成した協定書は、各医療機関で1通ずつ保管します。目的は、何かあった際に参照できるように備えておくことと、連携体制の監査などで厚生局から提示を求められた際、速やかに対応できるようにしておくことです。
「時間外対応加算」に対する患者の認識を知るためにもSNSをチェックしよう
前述の通り、時間外対応加算がどういうものであるのかを理解していない患者からクレームが入る可能性は大きいといえますが、それ以外に、「時間外対応加算がどういうものであるのかがわからないことから、請求されたことに不満を抱いているものの、その不満を医療機関にぶつけられずにいる人」もかなりの数いることが考えられます。その証拠に、SNS、特にXでは不満の声が多く、なかには、「時間外対応加算について質問しても『自動加算なので』の回答しかなかった 」「実際は時間外に電話して留守電にもならなかったのに加算された 」といったポストも見受けられます。こうした不満を自院にぶつけられないためにも、時間外対応加算を導入する際にはきちんとした対応をとれるよう、対策をよく練ることがとても大切です。その際には、患者はどんなことに不満を抱き、改善してほしいと思っているのかを知るために、Xのポストを隈なくチェックすることをおすすめしますよ。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2022年8月時点の情報を元に作成しています。
執筆 執筆者 藤原友亮
医療ライター。病院長や医師のインタビュー記事を多く手がけるほか、クリニックのブログ執筆やSNS運用なども担当。また、法人営業経験が長く医療機器メーカーや電子カルテベンダーの他、医師会、病院団体などの取材にも精通している。
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