クリニックの土地相続で起こり得るトラブルは?

相続が発生すると考えなければならないことがいろいろでてきますが、とりわけ戸建てのクリニックの場合は事態が複雑になりがちです。なぜかというと、不動産と事業を切り離して考えることが難しいためです。具体的にどんなトラブルが起こり得るのか、どんな対策をとればいいのかをみていきましょう。

目次
  1. 戸建てのクリニックの相続発生時に問題が生じる原因は複数ある
  2. 子どもが2人以上いて、そのうちの1人が承継する予定である場合
  3. 医師資格のある子どもがいない場合
  4. 持分のある医療法人を相続する場合
    1. 持分ありの医療法人は、持分なしの医療法人に移行することもできる
  5. 相続については早い段階で話し合っておくことが大切

戸建てのクリニックの相続発生時に問題が生じる原因は複数ある

戸建てのクリニックを経営している開業医の多くが、将来的にクリニックを承継してもらう可能性について考えることがあるでしょう。なかには、自身のお子さんにクリニックを継いでもらう予定であるという医師もいるでしょうし、子どもが医師免許を取る予定がないなら、どのようにして承継を実現させるのかというところから考えなくてはなりません。そのため、「相続に際して発生し得る問題」とひとことで言ってもいろんなパターンが考えられます。

また、クリニックが医療法人であるのかどうかによっても問題が変わってきます。

一つひとつ説明していきます。

子どもが2人以上いて、そのうちの1人が承継する予定である場合

院長に子どもが2人以上いて、そのうちの1人がクリニックを承継する場合、遺産を均等に分配することが難しいため、揉める可能性が高いといえます。

戸建てクリニックのなかでも郊外に建っているものに関しては、土地も建物もクリニックの資産であることが多いうえ、自宅兼クリニックとして建てられたものも多いため、クリニックを承継する子どもがそこに住まうことになると、どうしても不公平が生じてしまうのです。

土地も建物もクリニックの持ち物であるという条件のもと、財産の分配の偏りをある程度解消する方法はいくつか考えられます。

たとえば「承継しない子どもがクリニックの土地および建物のオーナーとなり、承継する子どもに賃貸する」という方法が考えられます。しかしそうすると、クリニック経営における必要経費が増えることとなることから、承継する子どもは首を縦に振らない可能性が高いでしょう。しかも、オーナーとなった子どもが後々、分配された不動産を売却したいと言い出す可能性もゼロではありません。

また、クリニックに隣接しているか、もしくはクリニックからは近い距離に駐車場があるなら、承継しない子どもが駐車場を相続するという方法も考えられます。しかし、これによって駐車場がクリニック専用でなくなった場合、患者にとっての利便性が悪くなることから、経営が悪化する恐れがあります。

医師資格のある子どもがいない場合

医師免許のある子どもがいないものの、地域のためにもクリニックは存続させたいという場合、身内以外から医師を迎え入れるか、M&Aをおこなう必要があります。

その場合、問題となるのが子どもたちへの相続です。「クリニックの存続が最優先事項。子どもたちには遺産を相続させなくても、それぞれ自分の力で生きていくことができるから問題ない」ということならいいですが、事業は承継できなくても収益源を引き継ぎたいという考えであるなら、たとえば子どもの出資によって株式会社を立ち上げ、クリニックの土地と建物を買い取り、事業を引き継いだ医師と不動産の賃貸借契約を結んで賃料を受け取れるようにするという手があります。

もしくは、医師資格のない子どもと新しい医師に事業のパートナーとしてやっていく意思があるなら、MS法人という形をとる選択肢も考えられます。

ただし、いずれにしても、承継する医師がすぐに見つかるとは限らないので、この方法を実践したい場合は、相続が発生してから動き始めるのではなく、早い段階で将来を見据えて準備を進めることが賢明です。

持分のある医療法人を相続する場合

医療法人の出資持分は配当が禁止されています。そのため、医師資格のある子どもとそうでない子どもがいた場合、後者は出資持分を相続しても自分では活用できないですし、配当もできないので意味がありません。そのため、相続するとしたら医師資格のある子どもになりますが、出資持分は配当が禁止されていることから評価額が上がりやすくなることから、遺産分割においてどうしても大きな差が出てしまいます。

こうなると、医師の資格がない子どもには不利に思えますが、実はそうとも言い切れません。なぜなら、法定相続人には、「遺留分の主張」が認められているためです。「遺留分」とはなにかというと、法定相続人が最低限の遺産を相続できる割合のことです。“最低限”とはどのくらいかというと、子どもが1人の場合、基本的には「法定相続分の半分」で、直系尊属者のみが相続人の場合は「法定相続分の3分の1」と定められています。

たとえば、亡くなった前院長に子どもがふたりいたとして、前院長の配偶者が既に死去していれば、子どもふたりで相続することになるため、法定相続分は全体の2分の1。1人あたりの遺留分はその半分なので4分の1となります。前院長の配偶者が生きていれば、子ども全体の法定相続分は2分の1、1人あたり4分の1なので、遺留分は8分の1となります。

そのため、たとえば前院長の遺産に1億円の価値があり、前院長の配偶者が既に死去していたとすると、医師資格のない子どもは、医療法人を継ぐ子どもに対して、遺留分の2,500万円を請求できることになります。これを「遺留分減殺請求」といい、遺留分減殺請求が認められれば、医療法人を継ぐ子どもは、そうでない子どもにその金額を支払わなければなりません。

では、この2,500万円をどうやって捻出するかというと、医療法人を継ぐ子どもが自分の貯金などから支払う以外ありません。なぜかというと、医療法人の出資持分は換金できないためです。そのため、医療法人を継ぐ予定だった子どものほうが遺留分を支払うことができないことが理由で、医療法人を承継できなくなるということも考えられます。

持分ありの医療法人は、持分なしの医療法人に移行することもできる

上記のような問題が発生した場合、持分ありの医療法人から、持分なしの医療法人に移行する手続きをとることで、トラブルを回避することも可能です。

持分なしの医療法人になれば、出資金の相続税評価額をゼロにすることができるからです。ただし、基金拠出型医療法人の場合は、ゼロではなく基金額が上限となります。

また、持分なしの医療法人に移行するには、出資者全員が出資持分を放棄する必要があるうえ、贈与税がかかる場合があります。また、解散時には蓄積した利益が戻ってこないデメリットもあることを覚えておく必要があるでしょう。

相続については早い段階で話し合っておくことが大切

自分が被相続人となるケースに関しても、相続人となるケースに関しても、相続について考えることは気が進まないという人は多いかもしれません。しかし、「まだまだ先のことだから」と思えるくらい早い段階できちんと話し合っておくことこそ、トラブル回避の一番の助けとなり得ます。とはいえ、一度の話し合いでは意見がまとまらない場合も多いので、みんなが納得できるまで何度でも話し合いの機会を持つことはとても大切。大人になると家族で集まる機会も少なくなりますが、正月休みなどで顔を合わせるタイミングに、将来のことについて全員で話し合う習慣をつけてもいいかもしれませんね。

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