コロナ禍で在宅医療の需要が更に高まっています。
そして、外来診療をメインにしていたクリニックでも、在宅医療に踏み切るケースが多々見受けられるようになりました。
当記事では、在宅医療をメインに開業したい医師、外来・在宅どちらの患者ニーズにも応えたい開業医のために、今後のクリニック運営で必要なポイントを公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会 副会長・岡村紀宏様にインタビュー。
在宅医療のために整えるべき環境、決めるべきことのほか、病院とクリニックとの連携面での課題についても伺いました。
在宅医療(訪問診療)における医療ソーシャルワーカーとは?
医療ソーシャルワーカーとは、保健医療機関において、社会福祉の立場から患者さんやそのご家族が抱える経済的・心理的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る業務を行う存在のことを指します。(参考:厚生労働省健康局長通知 平成 14 年 11 月 29 日健康発第 1129001 号「医療ソーシャルワーカー業務指針」 )
今回取材した岡村様から見た医療ソーシャルワーカーの役割については以下に記載しています。
※以降は、取材時の岡村氏の発言をもとに記事化したものです。
ソーシャルワーカーは主にご本人の退院後の生活について、患者さんやご家族と一緒に考えていく存在だと思います。また在宅医療においては、患者さんとご家族、そして病院や関係機関などの橋渡しをする役割が大きいと感じています。
橋渡しのひとつとして例えば、病状などへの理解を深めてもらうことがあります。病院側がご本人・ご家族へ病状説明をしても、内容の理解にお時間を要する場合や専門用語等もあるので、伝わりにくいことがあります。反対に、在宅医療(訪問診療)クリニックの先生が病院へ申し送った内容について、ご本人・ご家族があまり理解されていないこともあります。そういった状況をすり合わせるために病院の医療ソーシャルワーカーと、在宅の医師・医療ソーシャルワーカー・看護師などが連携し、ご本人・ご家族の理解を深めるためにコミュニケーションをとっています。
また、本当は自宅で過ごしたくても「医療行為が発生する場合、入院しなければならない」と考える患者さんが多いです。このような時に医療ソーシャルワーカーは、患者さんが在宅医療(訪問診療)を利用してできる限り自宅で過ごせるよう、多職種と情報共有しながら最適な過ごし方を一緒に考えていく存在といえます。
病院のソーシャルワーカーから見た、在宅医療(訪問診療)クリニックに必要な3つの要素
退院される患者さんが在宅医療(訪問診療)を希望された場合、病院のソーシャルワーカーが窓口となり、在宅医療(訪問診療)クリニックへ対応を依頼することになります。
ここでは、病院の医療ソーシャルワーカーから見た、連携する在宅医療(訪問診療)クリニックに必要な要素を3つ紹介します。
(1)看取りと往診の体制
(1−1)機能強化型の在宅支援診療所になる
在宅医療(訪問診療)を行うクリニックには、24時間の往診・訪問看護などの体制が整った「在宅療養支援診療所」があります。中でも、複数の医師が在籍して24時間の往診と在宅での看取りの実績を有する体制の診療所は「機能強化型在宅療養支援診療所」として厚生局に届け出ることができます。その多くは、複数の医療機関の連携による「連携型」となっています。また、1つの医療施設で要件を満たした、「単独型」の「機能強化型在宅療養支援診療所」も存在します。
継続的に在宅医療(訪問診療)に注力するビジョンがあるのであれば、この「機能強化型在宅療養支援診療所」となることを意識していただければと思います。
在宅療養支援診療所と機能強化型在宅療養支援診療所では、同じ診療内容でも診療報酬の点数に差がありますので、診療報酬という側面から見てもメリットがあると考えられます。
(1−2)クリニックの診療体制(外来・在宅)を決め連携を最適化する
そして、看取りや訪問診療を在宅医療として長く続けていくためには、他の病院や関連施設と連携できる体制を構築することが不可欠です。私の勤務先も、複数の在宅療養支援診療所と連携し、機能強化型在宅支援病院としての役割を担っています。そのため、いつでも患者対応ができるだけでなく、先生方が不在の際は、他の先生方が代わりに診療できるようローテーションを組むことも可能となりました。
クリニックの場合も、1〜2人の先生だけで365日24時間体制で診療するとなると大きな負担となります。近隣の病院と連携することで、負担を軽減できるでしょう。
そのためにはまず、クリニックの診療体制を明確にしておく必要があります。診療時間や看取り体制を明確にしておくことで、連携しやすい体制が構築できると考えています。
また、在宅医療(訪問診療)には訪問看護との連携も欠かせません。
看取りを行う在宅医療(訪問診療)としては、24時間対応の訪問看護との連携が必要です。訪問看護により、例えば患者さんの病状に変化があった際、まずは訪問看護師が対応し医師の必要性を判断してもらうことで、医師の負担軽減に寄与します。
そのためクリニックによっては、訪問看護ステーションを併設しているところもあります。併設した先の訪問看護師の方が引き継ぎもしやすく、迅速な対応ができるというメリットがあります。
医療依存度の高い患者さん方を受け入れする上では、訪問看護の事業所とコミュニケーションをとっておくことが、看取り体制の基盤を作るポイントになるでしょう。
ちなみに、私の勤務先は在宅療養支援病院として、在宅医療の後方支援機能(入院)を担っており、病状悪化時などに入院できる体制を確保しています。反対に、先生方の特性や地域性を考えて、退院された患者さんの訪問診療を連携しているクリニックに依頼することもあります。合わせて、訪問看護ステーションも併設されており、訪問診療に最適な環境を整えています。このように医療機関や関連施設と、何かあった時に相談できる関係性や信頼関係を築いていくことが重要だと思います。
(2)後方支援体制の構築
在宅療養支援診療所には入院機能がないところが多いです。先述した内容とも一部重複しますが、クリニックが在宅医療を行う上で在宅療養支援病院との連携、つまり在宅療養後方支援体制の構築が非常に重要です。病状悪化時の受け入れ体制が万全になるだけでなく、患者さんやご家族のご意向に柔軟に対応できるからです。
例えば、患者さんが当初は在宅での看取りを希望していても、実際に自宅に戻ると「やはり最期は入院したい」と意向が変わることもあります。そのご意向に添うためには、在宅療養支援病院との連携といった後方支援体制の存在が欠かせません。
また、無床診療所が 在宅療養支援診療所としての届け出を厚生局に提出する際には、必ず後方支援先の医療機関を記載する必要があります。
上記の項目は、書類上連携していることを示すことができれば良いわけではなく、事実として連携しており、良好な関係性を築いておくことが大切です。
(3)ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の実施
厚生労働省では、人生の最終段階における医療・ケア(ターミナルケア)について、本人が家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合う取り組みを「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」と名付け、医療機関等に対し実践を促しています。この「ACP」は「人生会議」とも称されています。
(参考:厚生労働省「人生会議してみませんか」)
病院は、在宅医療(訪問診療)のクリニックから患者さんを紹介していただいた際、病状や治療内容などは、診療情報提供書をはじめとする資料から把握できますが、ご本人・ご家族のお考えは話をしてみないとわからないことが多いです。入院された際は病状が悪い状態であることも多く、初対面でいきなり今後に関わる重要なお話をしなければならないなどがあります。そんな時、事前に在宅医療(訪問診療)の先生から「実は以前、本人とこういうこと話してました」といった情報提供をしていただけると、病院側としても動きやすくなります。
こうした患者本人との事前の意思疎通や認識共有のための取り組みが「ACP」です。
「ACP」と聞くとつい治療方法に目が行きがちですが、在宅医療(訪問診療)において大切なのは「どこで生活したいか」というところだと思います。在宅医療(訪問診療)では「ACP」の視点に立って、患者さんの望んだ生活での治療を検討するといった意識を持っていただくとよいと思います。
在宅医療(訪問診療)クリニックが、病院と連携する方法
ここでは在宅医療(訪問診療)クリニックが、病院と連携するための方法を2点紹介します。
(1)病院の連携窓口へアポイントをとる
各病院には地域の医療機関との連携窓口が設置されています。「医療相談室」「地域連携室」「患者サポートセンター」など、その名称はさまざまです。そして連携窓口には担当医師が配置されており、他医療機関からの入院相談窓口として受け入れの判断をしています。そういった連携担当の医師と顔合わせしておくことで、連携しやすい関係性を築けるでしょう。
ただ、一度も顔を合わせていない先生へ直接連絡するのは難しい場合があると思うので、そういった場合に医療ソーシャルワーカーを頼っていただいていいかと思います。病院の医療ソーシャルワーカー同士は病院の挨拶周りなどで顔を合わせることが多いので、医療ソーシャルワーカーを通じて連携担当の医師や院長ともご挨拶するという方法が最適かと思います。
(2)協議会や研修会からコミュニケーションをとる
病院で直接の顔合わせが難しい場合、地域で開催されている協議会や研修会などで面識を得る方法もあります。
例えば札幌市豊平区には「とよひら・りんく(札幌市豊平区西岡・福住地区在宅医療連携拠点事業推進協議会)」と呼ばれる協議会があります。同協議会は、地域の医師、歯科医師、看護師、薬剤師、社会福祉士などの多職種協働による包括的かつ継続的な在宅医療の提供や、今後の在宅医療に関する政策立案などを目的に設立され、年4回ほどの合同会議や、ニュースレターの発行などを通し、顔の見える連携ができるよう取り組んでいます。 (参考:とよひら・りんく)
地域ごとの連携ルールや、地域の特性などがあると思うので、こうした場で実際に顔を合わせて繋がることでお互い連携しやすくなるでしょう。
在宅医療(訪問診療)クリニックと病院間連携の課題
国は2025年までを目処に地域包括ケアシステムの構築を目指しており、その実現のためには在宅医療が欠かせません。しかし、在宅医療(訪問診療)クリニックと病院間の連携における課題はいまだに多いです。
特に大きな課題として、クリニックと病院の連携の向上があると思います。
在宅医療の中では、意向が日々変化をしてきたり、病状が変化をしてきたりなど、様々な状況があります。日ごろから病院との関係性を深めていくことで、その地域、地域の連携ルールができ、良い連携につながるはずです。
病院と在宅医療(訪問診療)の医師やスタッフ、それぞれがお互いに役割を理解することが、連携を深めるひとつの手段になると思います。
また地域の多職種連携においてはICT(Information and Communication Technology「 情報通信技術」)の活用も必要だと思います。現在では各都道府県単位で在宅医療の推進にかかわる支援事業もあり、補助金の活用ができる部分もあるでしょう。
当地域でも平成30(2018)年からICTを導入し、連携がよりスムーズになりました。ただし注意点は、あくまでもICTはツールであり、やはり人と人との連携は必須だということだと思います。
(参考:とよひら・りんく「在宅医療従事者の負担軽減の支援」)
まとめ
在宅医療クリニックにおける医療ソーシャルワーカーは、ご本人・ご家族だけでなく、関係機関の連携窓口の役割を果たしています。
病院のソーシャルワーカーから見た在宅医療(訪問診療)クリニック に必要な3つのポイント
(1)看取りと往診の体制
(2)後方支援体制の構築
(3)ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の実施
そして、クリニックが在宅医療を行う上では、他のクリニックや病院・訪問看護など、さまざまな関係機関と連携することが大切なのです。
各医療機関の医療ソーシャルワーカーの配置について、各都道府県の医療ソーシャルワーカー協会にお問い合わせいただいてもよいと思います。
特徴
対応端末
システム提携
提供形態
診療科目
この記事は、2021年9月時点の情報を元に作成しています。
取材協力 公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会 副会長 | 岡村 紀宏
医療ソーシャルワーカーとして、社会医療法人恵和会 西岡病院に務めている。北海道札幌市豊平区西岡・福住地区における多職種連携・継続的な在宅医療の提供のために尽力し、北海道在宅医療連携医支援センターの運営にも参画、地域包括ケアシステム構築に関わるセミナー等にも多数登壇。
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