
「リハビリテーション総合実施計画書」と「リハビリテーション実施計画書」は大変よく似た名称ですが、どんな違いがあるのでしょうか? それぞれどのような計画書で、どのようなシーンにおいて必要となるのか、また、どんなことを記載するのかなどを解説していきます。
リハビリテーション総合実施計画書とは
まずは、リハビリテーション総合実施計画書がどのようなものであるかを解説していきます。
リハビリテーション総合実施計画書とは、リハビリを提供した際の診療報酬を算定するために必要な書類です。リハビリテーション総合実施計画書は、医師や看護師、理学療法士、言語聴覚士、社会福祉士などの多職種が共同で作成するもので、完成したら、内容を患者と家族に説明して同意を得たうえで、計画に基づいてリハビリテーションを実施していくことになります。
なお、リハビリテーション総合実施計画書は、医療保険によるリハビリテーションを実施する際に不可欠 とされる書類であって、介護保険によるリハビリテーション実施時には適用されません。
医療保険によるリハビリテーション(医療リハビリ)と介護保険によるリハビリテーション(介護リハビリ)の大きな違いは、患者または利用者がリハビリを受ける場所です。医療リハビリの目的は「治療」であるため、患者は医療施設でリハビリを受けるのが基本です。入院中であるか通院して受けることになるのかは問われません。一方の介護リハビリの目的は、「利用者がその人らしく生活できるようサポートすること」であって、介護施設や自宅などで提供されます。介護リハビリのうち介護施設で提供されるものを「通所リハビリ」、自宅で提供されるものを「訪問リハビリ」といいます 。
リハビリテーション総合実施計画書の記載項目は?
リハビリテーション総合実施計画書には、原因疾患(発症・受傷日)、合併疾患・コントロール状態、リハビリテーション歴をはじめとするさまざまな項目が設けられて おり、複数枚にわたって記載する必要があります。患者の身体面だけではなく精神面の状態、今後の方針なども詳細に記載する仕様となっていることから、多職種で内容を確認することによって、チーム医療の精度が上がることが期待できます。
リハビリテーション総合実施計画書を作成すると「リハビリテーション総合計画評価料」を算定できる
リハビリテーション総合実施計画書を作成して、適切なリハビリテーションを実施すると、「リハビリテーション総合計画評価料」が算定できます。リハビリテーション総合計画評価料は、細かな条件によって「リハビリテーション総合計画評価料1」と「リハビリテーション総合計画評価料2」の2つにわけられます。
リハビリテーション総合計画評価料1:300点
「リハビリテーション総合計画評価料1」の算定要件は以下の通りです。
【算定要件】
心大血管疾患リハビリテーション料(I)、脳血管疾患等リハビリテーション料(I)、脳血管疾患等リハビリテーション料(II)、廃用症候群リハビリテーション料(I)、廃用症候群リハビリテーション料(II)、運動器リハビリテーション料(I)、運動器リハビリテーション料(II)、呼吸器リハビリテーション料(I)、がん患者リハビリテーション料または認知症患者リハビリテーション料に係る医療機関で、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長などに届出をおこなった保険医療機関において、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等の多職種が共同してリハビリテーション計画を策定して、当該計画に基づき、心大血管疾患リハビリテーション料、呼吸器リハビリテーション料、がん患者リハビリテーション料もしくは認知症患者リハビリテーション料を算定すべきリハビリテーションをおこなった場合または介護リハビリテーションの利用を予定している患者以外の患者に対して、脳血管疾患等リハビリテーション料、廃用症候群リハビリテーション料又は運動器リハビリテーション料を算定すべきリハビリテーションをおこなった場合に、患者1人につき1月に1回に限り算定する。
リハビリテーション総合計画評価料2:240点
「リハビリテーション総合計画評価料2」の算定要件は次の通りです。
【算定要件】
脳血管疾患等リハビリテーション料(I)、脳血管疾患等リハビリテーション料(II)、廃用症候群リハビリテーション料(I)、廃用症候群リハビリテーション料(II)、運動器リハビリテーション料(I)または運動器リハビリテーション料(II)に係る医療機関で、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長などに届出をおこなった保険医療機関において、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等の多職種が共同してリハビリテーション計画を策定して、当該計画に基づき、介護リハビリテーションの利用を予定している患者に対して、脳血管疾患等リハビリテーション料、廃用症候群リハビリテーション料または運動器リハビリテーション料を算定すべきリハビリテーションをおこなった場合に、患者1人につき1月に1回に限り算定する。
入院時訪問加算:入院中1回に限り150点
「リハビリテーション総合計画評価料1」「リハビリテーション総合計画評価料2」には加算できる場合もあります。うち1つが「入院時訪問加算」です。算定要件は次の通りです。
【算定要件】
当該保険医療機関の医師、看護師、理学療法士、作業療法士または言語聴覚士が患家などを訪問して、当該患者(ただし、回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者に限る)の退院後の住環境などを評価した上で、当該計画を策定した場合に、入院中1回に限り加算できる。
運動量増加機器加算:月1回に限り150点
もう1つは「運動量増加機器加算」です。算定要件は次の通りです。
【算定要件】
脳血管疾患等リハビリテーション料(I)または脳血管疾患等リハビリテーション料(II)に係る医療機関で、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届出をおこなった保険医療機関において、別に厚生労働大臣が定める患者に対して、当該保険医療機関の医師、理学療法士または作業療法士が運動量増加機器を用いたリハビリテーション計画を策定して、当該機器を用いて、脳血管疾患等リハビリテーション料を算定すべきリハビリテーションをおこなった場合に、運動量増加機器加算として、月1回に限り150点を所定点数に加算する 。
リハビリテーション総合実施計画書の様式は
リハビリテーション総合実施計画書の様式は、厚生労働省のホームページにアップロードされている「別紙様式23またはこれに準じた様式」もしくは、「別紙様式2-2-1または これに準じた様式に、いくつかの必要事項を記載した様式」とされています。
詳しくは次の通りです。
①別紙様式23またはこれに準じた様式
②別紙様式2-2-1またはこれに準じた様式に、(イ)から(ヘ)までのすべての項目および(ト)から(ヲ)までのうちいずれか1項目以上を組み合わせて記載する様式。ただし、回復期リハビリテーション病棟入院料1を算定する患者については、必ず(ヌ)を含めること
(イ) 疾患別リハビリテーション開始前の日常生活動作の状況
(ロ) FIM(機能的自立度評価法) を用いた評価
(ハ) 前回計画書作成時からの改善・変化
(ニ) 今後1ヶ月のリハビリテーションの目標、リハビリテーションの頻度、方針および留意点
(ホ) 疾患別リハビリテーションの実施にあたり、医師、看護職員、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、その他の従事者が担う具体的内容に係るもの
(ヘ) 今後十分なリハビリテーションを実施しない場合に予想される状態の変化
(ト) 疾患別リハビリテーション終了後のリハビリテーションの提供の必要性および必要な場合の具体的なリハビリテーションの内容
(チ) 病棟における日常生活動作の状況(入院患者に対して、リハビリテーション総合計画評価料を算定する場合のみ記載することができる)
(リ) 関節可動域、筋力、持久力、変形、関節不安定性、運動機能発達に係る障害、麻痺等、個々の運動機能障害における重症度の評価
(ヌ) 身長、体重、BMI、栄養補給方法(経口、経管栄養、静脈栄養)などに基づく患者の栄養状態の評価に係るもの(栄養障害等の状態にある患者については、必要栄養量、総摂取栄養量等も踏まえた評価をおこなう。なお、嚥下調整食を必要とする患者については、栄養障害等の有無にかかわらず、当該嚥下調整食の形態に係る情報として、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類コードも必ず記載する)
(ル) リハビリテーションの観点から、家庭や病棟において、患者自らおこなうことが望ましい訓練
(ヲ) FAI(Frenchay Activities Index/脳卒中患者の日常生活における応用的な活動や社会生活における活動を評価する指標 )、LSA(Life-Space Assessment/身体活動の範囲やレベルを評価する質問紙 )、日本作業療法士協会が作成する生活行為向上アセスメント、ロコモ25(平成22年厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野長寿科学総合研究「運動器機能不全(ロコモティブシンドローム)の早期発見ツールの開発」において作成されたもの)または老研式活動能力指標のいずれかを用いた患者の心身機能または活動の評価に係るもの
なお、FIMを用いた評価などに関しては、下記リンク先の様式で確認できる通り、「0:していない 1:まれにしている 2:週に1~2回 3:週に3回以上」などから該当する番号を選んで○をつければOKです。
参照:厚生労働省(別紙様式23)「リハビリテーション総合計画書」
参照:厚生労働省「令和6年介護報酬改定について」※「リハビリテーション・機能訓練、栄養、口腔の一体的取り組みに関する通知」内に「別紙様式2-2-1 リハビリテーション計画書」が格納されています
リハビリテーション総合実施計画書作成時の注意点は?
リハビリテーション総合実施計画書は、前半で述べた通り、医師や看護師、理学療法士、言語聴覚士、社会福祉士などの多職種が共同で作成する必要があります。ただし、リハビリの基本方針に関しては医師が決定することになるため、計画書の作成も医師が主導を取ることが必要です。とはいえ、前述した必要項目をすべて埋めるためには、幅広い専門職の知見が不可欠 なので、項目ごとに専門職の意向も確認しながら作成を進めていきます。
また、完成した計画書をスタッフ全員で確認して、治療方針に関する認識を共有することも不可欠です 。
もうひとつ大切なことは、計画書を書くにあたって、専門用語に頼りすぎず、患者やその家族が理解しやすい表現も併せて落とし込むということです 。計画書作成時に「どのような言葉で説明すればうまく伝わるか」をしっかり考えておけば、患者から口頭での説明を求められた際にもスムーズに対応することができます。
リハビリテーション実施計画書とは
続いては、リハビリテーション実施計画書について解説していきます。
リハビリテーション実施計画書とは、医療リハビリテーション をおこなうにあたっての計画が記された書類です。つまり、書類の役割としてはリハビリテーション総合実施計画書と同じで、多職種で共有することによってリハビリ内容の理解度や精度を高められるものとなっています。
「リハビリテーション総合実施計画書」と「リハビリテーション実施計画書」の違いは?
では、リハビリテーション総合実施計画書とリハビリテーション実施計画書は何が違うのかというと、書類を作成することで診療報酬を算定できるかどうかという点です。つまり、リハビリテーション実施計画書を作成しても、診療報酬を算定することができません。「それならリハビリテーション総合実施計画書のほうがメリットが大きいのでは?」と思って当然ですが、リハビリテーション実施計画書にもメリットがあるのです。具体的には、「書類作成の負担が少なくて済む」というメリットです。リハビリテーション総合実施計画書は、前述の通り、多職種で共同して作成する必要がありますが、リハビリテーション実施計画書は、医師とリハビリスタッフのみで作成することができま す。そのため、手間も時間もかかりにくいという点において軍配が上がります。
なお、医療リハビリテーションをおこなうにあたっては、「リハビリテーション総合実施計画書」または「リハビリテーション実施計画書」のどちらかを必ず用意しなければなりません 。
また、「リハビリテーション実施計画書」の様式は、先に紹介した「別紙様式2-2-1」となります。
参照:厚生労働省「令和6年介護報酬改定について」※「リハビリテーション・機能訓練、栄養、口腔の一体的取り組みに関する通知」内に「別紙様式2-2-1 リハビリテーション計画書」が格納されています
また、令和6年度診療報酬改定によって、入院患者の退院時の情報連携を促進して、退院後、早期に連続的で質の高いリハビリテーションを実施する観点から、「リハビリテーションに係る情報連携の推進」「退院前カンファレンスへの通所リハ事業所等の医師等の参加の推進」に係る見直しがおこなわれました。
これによって、リハビリテーション実施計画書の該当患者が介護保険の通所リハビリテーション事業所等によるサービス利用に移行する場合、移行先の事業所に対してリハビリテーション実施計画書等を提供することが求められるようになりました。
また、患者の退院前には、介護保険のリハビリテーションをおこなうことになるリハビリテーション事業所の理学療法士等が退院前カンファレンスに参加することが望ましいとされました。なお、これに関しては、退院時共同指導加算として、1回につき600単位の診療報酬が算定されることとなります。
参照:令和6年度診療報酬改定 II-2 生活に配慮した医療の推進など地域包括ケアシステムの深化・推進のための取組等「リハビリテーションに係る医療介護障害連携」
リハビリテーション総合実施計画書、リハビリテーション実施計画書に関するよくある質問
続いては、リハビリテーション総合実施計画書、リハビリテーション実施計画書についてよくある質問とその回答を紹介します。
Q1:リハビリテーション総合実施計画書およびリハビリテーション実施計画書について、患者自身が書類に署名することが困難で、かつ患者の家族も遠方在住などの理由で署名が困難な場合はどうすればいいか?
A1:リハビリテーション総合実施計画書またはリハビリテーション実施計画書の内容について医師が患者およびその家族に説明をおこない、説明した医師本人がその旨、診療録に記載します。また、リハビリテーション総合実施計画書またはリハビリテーション実施計画書の署名欄に、同意を取得した旨、同意を取得した家族などの氏名およびその日時を、医師本人が記載します 。
では、医師本人が記載する代わりに、患者またはその家族に電子署名してもらうのでも問題ないかというと、その場合は、原則としては押印が必要とされています。
なお、医療リハビリテーションは、患者本人や家族の希望を踏まえたうえで実行することが大切 であるため、患者本人や家族の理解を得られない場合、リハビリをおこなうことができません。
Q2:リハビリテーション総合計画評価料を算定できる期間に上限はないのか?
A2:上限はありません。なお、標準的算定日数の上限を超えても、引き続き算定することが可能です。
Q3:リハビリテーション総合計画評価料は、「適切な研修を修了しているあん摩マッサージ指圧師などの従事者」が医師の監督下においてリハビリテーション総合実施計画書を作成した場合にも算定可能であるか?
A3:可能です。医師と共同で作成しており、そのほかの算定条件も満たしていれば算定することができます。
Q4:月の途中で転院した場合、転院前、転院先の医療機関どちらでリハビリテーション総合計画評価料を算定できるのか?
A4:当該点数の算定要件を満たしていれば、転院前の医療機関、転院先の医療機関のいずれにおいてもリハビリテーション総合計画評価料を算定することが可能です。
Q5:リハビリテーション総合実施計画書に関して、「別紙様式23または“これに準じた”様式」とは具体的にどのような様式であればいいのか?
A5:別紙様式23に記載している情報を概ね網羅している様式であれば問題ありません。特に、最終的な改善の目標や改善の見込み期間については、十分に詳しく記載していることが求められます。
なお、作成したリハビリテーション総合実施計画書の原本を電子データとして保管したい場合、スキャンした文書(PDF)に電子署名およびタイムスタンプを付与する必要があります。また、原本に関しても破棄は推奨されておらず、真正性・保存性の観点から考えても、保管することが望ましいと考えられます 。
Q6:入院時訪問加算は、入院起算日が変わらない再入院の場合でも算定可能であるか?
A6:当該病院への入院日前7日以内または入院後7日であれば算定可能ですが、入院起算日が変わらない再入院の場合は算定することができません。
Q7:運動量増加機器加算は、具体的にはどのような機器を使った場合に加算できるのか?
A7:「特定診療報酬算定医療機器の定義等について」(令和2年3月5日保医発0305第11号)に掲げる定義に適合する医療機器を使った場合に算定できます 。
Q8:複数疾患のリハビリを同時におこなう場合は複数枚の書類を用意するのか?
A8:リハビリテーション総合計画評価料1およびリハビリテーション総合計画評価料2は、前述の通り、患者1人につき1月に1回に限り算定可能です。そのため、複数の該当疾患にかかっていたとしても、1枚の書類にまとめます。リハビリテーション実施計画書についても、リハビリテーション総合実施計画書と同じ働きをするものであることから、1枚の用意で問題ないと考えられます。
ただし、リハビリテーション実施計画書があれば、疾患別リハビリテーション料を加算することが可能 で、これに関しては、それぞれの疾患ごとに加算することができます。なお、診療報酬点数は疾患によって異なります 。
Q9:月途中で転院した場合のリハビリテーション総合計画評価料の算定はどうなるのか
A9:当該点数の算定要件を満たすものであれば、転院前および転院先の医療機関においてそれぞれ算定可能です。
参照:厚生労働省「特定診療報酬算定医療機器の定義等について」(令和2年3月5日保医発0305第11号)
リハビリテーション総合実施計画書、リハビリテーション実施計画書を丁寧に作成してリハビリテーションの精度を上げよう
リハビリテーション総合実施計画書、リハビリテーション実施計画書ともに記載すべき項目が少なくはないため、さくさく書き上げられるものではありませんが、当該患者に携わるスタッフで共同して作成して、患者への理解を深めることによって、よりよいリハビリテーションを提供できることは間違いないので、一書類ごとに丁寧に作成することを心がけてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2025年3月時点の情報を元に作成しています。