開業医は、医師でもありますが、同時に自身のクリニックの経営者でもあります。クリニックに関する決断は、経営者として、原則ご自身で行わなければいけません。とはいえ、こうした決断をお一人で行っていると「この決断で良いのか?」という迷いや「スタッフをマイクロマネジメントしなければならない」などのバイアスを引き起こしがちです。
そこで、今回第7弾は、「コーチング」をテーマに、兵庫県や東京都に計8クリニックを経営する、「医療法人 梅華会」の理事長である梅岡比俊医師にお話いただきます。梅岡医師がコーチングを受けた背景、受けたことで得られたメリット、コーチングとコンサルティングの違い、自分にあったコーチを見つける方法などノウハウを余すことなくご紹介します。
以降は梅岡医師によるアドバイスとなります。
コーチングを受ける目的は?
私は2015年から月1回のペースでコーチングを受けています。
コーチングとは、個人や組織の目標達成や自己成長を促進するために、専門的なスキルや質問技術を用いて行われるプロセスです。コーチングの目的は、クライアントの自己認識、目標設定、行動計画の策定、行動の実行、評価、改善などをサポートすることにあります。
コーチングは、単にアドバイスや指示を与えるのではなく、クライアント自身が持つ能力や資源を引き出し、自己成長や目標達成に向けた自発的な行動を促すことを重視しています。コーチングは、ビジネスやスポーツ、教育などの分野で広く活用されています。
当時の私はコーチングを求めていたわけではなく、紹介を受けたからどんなものか軽い気持ちで受けてみたというものでしたが、効果を感じ8年経った今でも継続してコーチングを受けています。
コーチングで経営に注力できるようになった理由は?
これまでコーチングを受けて、自分で一番変化を感じることは、すべてを把握したいタイプから業務を部下に任せられるようになったことです。
当時、梅華会の間接部門を本院の2階に置いていました。そのときの私の動き方と言えば、午前診療が終わると2階の事務所を訪れ、午前中に何があったか、今どのような仕事をしているかを逐一確認していました。そして午後はまたクリニックで診療を行い、午後診療が終わるとまた事務所を訪れ、その日何があったか、何の仕事が終わったかを確認する。それを繰り返す毎日でした。
そんなときにコーチから言われたことは、「梅岡さんが本当にやりたいことはなんですか?」でした。
その問いかけでハッとしたことを覚えています。そのときの自分の答えは、「権限委譲、仕事を人に任せる、組織を作る。時間は限られているので人に任せられることは任せて、自分は自分にしか出来ない仕事をしたい」というものでした。しかし頭では分かっているものの、実際の自分の行動と言えば先程述べたとおり。部下を全く信用せず、一日中部下の動きを監視している状態でした。
言葉では「結果が大事だ。プロセスはある程度任せる」と言っておきながら、自分の思うような進め方をしていなければ口を出す毎日でした。このままではいけないと思った私は、間接部門の人数が増えてきたことを機に、クリニックから3km離れた場所への事務所の移転を決行しました。まずは物理的に距離を離すことにしたのです。その結果だんだんと権限委譲は進み、今では私は経営者としての仕事に注力できるようになっています。
コーチングとコンサルティングの違いは?
よくコーチングとコンサルティングの違いについて聞かれます。コーチングとコンサルティングは、どちらもビジネスや個人の成長や改善を促すためのプロセスですが、そのアプローチや役割に違いがあります。
コーチングは、クライアント自身が持つ能力や資源を引き出し、自己成長や目標達成に向けた自発的な行動を促すことを重視しています。コーチングは、質問やフィードバックなどのスキルを用いて、クライアントが自ら答えを見つけ、自己実現に向けて行動を起こすためのプロセスです。
一方、コンサルティングは、専門知識や経験を活かして、クライアントの問題解決や改善に向けたアドバイスや解決策を提供することを目的としています。コンサルタントは、クライアントに対して専門的なアドバイスを与え、問題解決のために、具体的な戦略や手法を提供することが求められます。
コーチングの良いところは、自分が本当はどうなりたいかということに気付かせてくれて、自分で心の底から納得して行動に移せることです。ダニエル・ピンクが提唱した「モチベーション3.0」があります。モチベーション1.0は食欲・睡眠欲・性欲といった人間の根源的欲求、モチベーション2.0は飴と鞭。頑張れば給料が上がる、頑張らなければ給料が下がるというもの、モチベーション3.0は内発的動機づけ。私は心の底からこうなりたいというもので、これを引き出すのがコーチングです。
性格が合うコーチを見つけるには?
自分がこうなりたいという想いがあっても一人ではなかなか実行に移せないものです。そういった点でコーチングを受けることはおすすめです。しかし、いきなりコーチングと言われてもいろいろなコーチがいるのでどういうふうに選べば良いか分からないかもしれません。
コーチングは人と人との対話を通して成果がでるため、コーチとの相性がとても重要になってきます。ですので最初から契約するのではなく、お試し体験などの制度を利用して、いろいろな方のコーチングを受けられてみてはどうでしょうか。
インターネットで「先生が今悩まれているジャンル コーチング」で検索するとたくさんの情報が出てきます。私は最初10名程のコーチングを受けました。相性の良いコーチと出会えるまで、いろいろと試してみてください。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2023年4月時点の情報を元に作成しています。
執筆 医療法人 梅華会 理事長 梅岡比俊
1973年生。
2008年、「梅岡耳鼻咽喉科クリニック」を開設。
2011年に医療法人梅華会理事長に就任し、分院開設。
以降は2021年までに分院・フランチャイズなど合わせて9つの施設を開設する。
『卓越したクリニック運営が日本に普及浸透し、関わる人々を幸せにする』をミッションに掲げた開業医コミュニティ「M.A.F ( https://maf-j.com/ ) 」も主催する。
トライアスロンやマラソンに挑戦するアスリートの一面や、野菜ソムリエ、歴史能力検定。ファスティングマイスターなどの各種資格も併せ持つ。
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