難病を患った患者さんは、的確な治療を受けることができるまでに長い時間を要します。そもそも難病だと分かるまで、正確な鑑別診断が下されるまでに時間がかかることが多いのと、その治療に携わる医師を見つけるまでにまた時間がかかるからです。
これだけIT技術が進歩していても、このようなミスマッチが起こるのは問題です。治療を求める患者さんに的確な医療サービスを提供できるよう、ミスマッチ解消のためのデータベースを作成している会社があります。
『ミーカンパニー株式会社』です。同社は『SCUEL(スクエル)』という独自の医療機関データベースを作成しています。2022年6月30日、この『SCUEL』で「小児希少難病の精査診療機関検索サイト」を運営することを発表しました。
これは医療サービスにおけるミスマッチを解消するための素晴らしい第一歩です。
『健やか親子支援協会』の難病に対する取り組みの熱意が生んだ
「小児希少難病の精査診療機関検索サイト」は、非専門医と専門医をマッチングするためのWebサイトです。第1弾として、「原発性免疫不全症(約45疾患)」と「レックリングハウゼン病」の医療機関の掲載を開始しました。
難病に罹患した患者さんを診察するかかりつけ医師が、検査機関や専門医を検索する——という利用方法を想定しています。
今回のデータベースは、長きにわたって小児希少難病の患児や家族に寄り添い、支援のインフラ整備に取り組んでいる『一般財団法人 健やか親子支援協会』(以下『健やか親子』)の熱意と努力が結実したものといえます。
というのは、医療系情報サイトは多々ありますが、難病と診断されるまでの検査や特殊な検査をどこに依頼したらいいのかといった情報、また専門医は誰でどこにいるのかといった情報はほとんど見当たらないのが現状です。
しかし、『健やか親子』では長年の取り組みから難病についての精査された情報、国の機関や学会、患者会との深い関係性を有しています。小児希少難病の患児や家族に寄り添ってきた経験がなければ精緻なデータベースを構築することはできなかったでしょう。その意味で、このような日本初とも言える取り組みが実現したのは、やはり『健やか親子』の「患児や家族に的確な医療を届けたい」という熱意の結果と言えるのではないでしょうか。
『健やか親子』の川口耕一理事は、以下のように述べています。
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このたび、「精査診療機関検索サイト」を構築、「精密検査機関の情報」と「専門医のいる医療機関」の情報を掲載していきます。これにより、次の状況を改善したいと考えています。
1.医療系情報サイトは数多くありますが、残念なことに難病と診断されるまでの検査のステップ、検査項目、特殊な検査の依頼先に関する情報がほとんど掲載されていません。
かかりつけ医が「難病かもしれない」と思ったときに、どこに精密検査を依頼したら良いかが分からないという現状があります。
2.特殊な検査項目では、外部の検査機関に精密検査を依頼するケースがありますが、難病の場合は国内で検査できる施設がほんの数カ所のみということもあります。
検査施設や検査会社以外に、大学医局等で研究的に行われている検査もありますが、その検査依頼先を探す手がかりもあまりない状況です。
3.難病の場合、疾患について全体的に詳しく理解している専門医は、非常に少ないのが現状です。
かかりつけ医と専門医との間で、うまくコンタクトを取りながら治療に当たれる環境づくりが望ましいと言えます。
第一弾は「原発性免疫不全症(約45疾患)」と「レックリングハウゼン病」となりましたが、次の段階に掲載を予定している約100の疾患に関する予備調査についても、患者会のTo Smile様にデータ収集作業を進めていただいております。
ご家族の疾患についてリサーチしてきた豊富な経験をお持ちで、患者会メンバーの方のスキルが大きな助けとなっており、この場を借りて感謝申し上げます。
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テーマは「難病患者と医師とのマッチング」
上掲は、「小児希少難病の精査診療機関検索サイト」のメンテナンススキームですが、精査されたデータベースが維持、運営されるように考えられています。
患者会、学会の協力を仰ぎ、医師・医療機関・検査施設の同意を得て、常に最新で的確な情報が掲載できるように考えられています。
実際にデータベースを運用する『ミーカンパニー株式会社』の前田健太郎代表取締役にお話を伺いました。
——『SCUEL』を構築することになったきっかけを教えてください。
『ミーカンパニー株式会社』は、人と人が出会うことで生まれる価値をつくる会社として約12年前に創業し、ミスマッチが問題となっている領域について調査を行いました。
その際に、最も課題を感じたテーマが「難病患者と医師とのマッチング」でした。
多くの難病患者の方は、自らの疾患名が分からない状態が長期間続きます。「症状が出始めてから数年の間に、様々な病院を受診して病名が判明すれば早い方で、10年くらいかかることもあるけれど、判明するだけ運が良い」と話す方もいる世界です。
それを聞いたときに衝撃を受けて、そこからデータベースを作り出した、というのが始まりです。
——『健やか親子』との出会いはどのようなものだったのでしょうか。
『健やか親子』は小児希少難病に特化した財団で、長年患者さん、家族と寄り添って活動してこられました。ある患者さんの紹介で『健やか親子』の方とミーティングをすることになったというのが最初です。『健やか親子』の課題としては、先生が異動してしまうことがありました。
難病診療って施設ができるかどうかっていうよりは、その先生が研究をしているか、そこにいるかどうかなのです。そうするとですね、データベースは、やっぱりメンテナンスをしていかないといけないわけです。
最初頑張って調べたはいいけれども、先生が異動したりとか、研究をやめたりするともう使えないデータベースになってしまうという問題があったわけです。
——なるほど。
私たちの方では、施設とか医療機関、先生方のデータベースを整備していたものですから、お互いに協力することによって、難病診療を行う先生を定期的にウォッチして、公開サイトに反映していくことができるかもしれないね、という話からスタートしています。
行っているのは、どの先生がどんな疾患を診ているのか、どこにいらっしゃるのかを精査して、先生の許可をとってから無料で公開している、ということです。
——現在は医師向けのサイトですね。
鑑別診断が出ないと紹介もできないものですから、現在は非専門医と専門医をつなぐサイトという位置づけになっています。
難病というのは難しくて、見た目で分かるものもありますが、やはり遺伝子検査などの専門的な診断を行って初めて鑑別できるというものが多いのです。難病だと分かったら、その先生が専門医を検索してもらう、という仕組みになっています。
現在は定期的にメンテナンスを行っていますので、これまでのように「昔はその先生が研究していたんだけれども今はもうやっていないから相談する先がいなくなってしまった」といったことは減らせればと思います。このサイトを見れば、マッチングしなかった非専門医と専門医をうまくつなげられるという目的でやっています。そのためにも、どの先生がどの難病の専門医なのかを整理することが最初のステップです。
課題は「データベース」のメンテナンス
——第一弾の公開が行われたわけですが、これからの展望をどうお考えですか?
次の段階では約100の疾患に関する掲載を予定していまして、目標は難病の種類を増やしていくことです。また、AI問診についても展望の一つです。これは難病の鑑別が行えるようにという取り組みです。疑わしい方がいたら、専門医療機関を紹介するということを行えたら、と考えています。
——では課題はなんでしょうか。
やはりメンテナンスです。継続して何年もあり続けなければならないと考えると、メンテナンスをどのように行うのかが課題になります。
——なくなったら困りますものね。読者の医師にメッセージをお願いいたします。
第一弾の公開が終わったばかりですが、できるだけ使えるサイトにしますので、ぜひご活用いただければと思います。
——ありがとうございました。
『ミーカンパニー株式会社』の構築している『SCUEL』、『健やか親子』の熱意によって生まれた「小児希少難病の精査診療機関検索サイト」は日本初の試みであり、非常に重要な意味を持つデータベースです。このデータベースが発展、維持されれば、難病の患者さんと家族にとって大きな希望の灯になるでしょう。非専門医と専門医をつなぐというサイトにご注目とご支援をお願いいたします。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2022年8月時点の情報を元に作成しています。