クリニック開業時の融資について|金融機関の特徴と融資を受けるために必要なこと

融資を受けるということは、いわゆる”借金”をすることです。借金というと聞こえが良くないですが、クリニックを経営するにあたって開業時には土地や建物、医療機器の新規購入など、開業後にはクリニックをより大きく拡大するため、老健施設の建築など、多額の資金を必要とする場面は数多くあります。

今回は開業時に融資を受ける際、気を付けておきたいポイントや知っておきたい情報を中心に、銀行員の経歴を持つ筆者の経験からお伝えできればと思います。

金融機関の種類について

クリニック経営において、融資を受ける金融機関は主に4つに絞られます。クリニックの開業では融資金額の上限や金融機関の性質から主に都市銀行地方銀行がメインバンクとなることが多くなります。

開業する地域によって、特に地方都市では地方銀行がメインバンクとなることが多いですが、都市圏では都市銀行をメインバンクとしていることが多いです。

開業する土地に強い金融機関を選ぶことで多くの情報を得られると思います。また、金融機関によって返済方法などに大きな違いはありません。

都市銀行

全国に支社、支店があり、主に大企業や富裕層をターゲットとした金融機関です。潤沢な資金と信用力を有しており、商品ラインナップも数多く揃えられています。しかし、地方における支店数や情報力には弱い傾向があります。

地方銀行

地方都市に本店をおいた地域密着型の銀行です。全国規模での支店展開は行っておりませんが、地方における支社、支店数は圧倒的に多いのが特徴です。

地方での情報力に強みがあることから、クリニック開業時には地方銀行をメインバンクとすることが比較的多いです。

信用金庫

銀行と違い、信用金庫法という法律により、展開エリアが限られています。その分、地方銀行よりも地域に根付いたサービスを行っています

資金力も限定されていることから主に個人や事業主を中心とした顧客を有しています。法人への取引も可能ですが、融資金額などの取引限度額が決まっていることから、クリニックのメインバンクとして選ばれることは少ないです。

国民生活金融公庫

政府系金融機関で全国に支店があります。融資業務が中心で預金業務は行っていません。そのため、メインバンクとして取引を行うことはできません

経済の発展に寄与することを目的として設立された金融機関であることから、小口融資や他の金融機関からの借り入れが難しい場合などに利用できます。融資金利は銀行と比べて低利に設定されています。

 

金融機関別・審査基準について

それぞれの金融機関によって審査基準は異なります。金融機関の種類ごとに特徴をまとめてみました。※個人でのクリニックをイメージして記載しています。

種類融資金額※上限額金利審査の通りやすさ
都市銀行約2億円約1.5~3.0%通りやすい
地方銀行約1億円約1.5~3.0%通りやすい(減額の可能性有)
信用金庫約500万円約1.5~3.0%通りにくい(小口に限る)
国民生活金融公庫約500万円約1.5~3.0%通りやすい

金融機関は融資申し込みがあると、返済能力や資産背景、借主の信用調査などを元に審査を行います。

 

返済能力の判断基準について

まず基本的なこととして、返済能力についてはクリニックの場合、その年の売上、経費から算出した利益部分が基準となります。当然のことながら、毎年赤字(売上が経費を下回っている)のクリニックに返済能力があるとみなすことはできません。また、一時的な売上変動の可能性も加味されることから過去3ヵ年程度の決算書(確定申告書)も必要となり、長期的な目線での審査がなされます。

それでは、”開業時に対する融資の場合、返済能力の審査基準は何をもって判断しているのか”ということですが、ここで重要なのは『事業計画書』です。

新規事業を立ち上げる場合、どの金融機関も不採算案件には融資を行いません。先生がクリニックを開業した際、どれだけの集患を見込み、1日あたりの手技・検査料を予測して売上を計算、そこから人件費等の経費を、あくまで”見込みとして具体的に”記載することがポイントです。

医療圏調査をしっかりと行い、実現可能な内容にした上で返済能力があることをしっかりアピールできるように作成します。

資産背景について

返済能力に少し不安がある場合でも、資産背景として先生や先生世帯の預貯金、所有する土地・建物、連帯保証人の返済能力などの調査で融資が通ることも十分にあり得ます

また、収益物件などを所有している場合は、返済能力と資産の両面からプラス材料となりますのでしっかりアピールするようにしてください。極端な話ですが、1億円の融資を行う際、返済能力が仮に0だとしても1億円以上の価値(評価額)がある土地や建物、収益物件を”担保”に入れればほとんどの場合、融資は通るという訳です。

とくに、開業時には”担保”を求められることが多いです。開業での融資で土地や建物を購入する場合、住宅ローンと同じで担保という形で借り入れした金融機関が一番抵当の担保権を設定します(※実際には融資が完済すれば担保を外すことは可能)。事業計画書だけで信用貸しをする訳にはいかないので、担保が必要となることも頭にいれておくといいかと思います。

担保の種類は土地や建物以外にも、例えば預貯金(定期預金)を設定することもできます。預金担保は土地や建物と違って評価額が変動しないので、担保としての価値は非常に高いです。つまり、担保次第で融資額を引き上げることは可能ということになります。

信用調査

信用調査についてですが、こちらは借主と金融機関が直接面談して判断するポイントとなります。ここで判断されるポイントを大きく3つご紹介します。

まず、『決算書(確定申告書)に嘘偽りがないこと、また書類の内容を把握していること』です。と言っても、開業時にはこのような書類はないと思いますので、代わりにこれまで勤務されていた源泉徴収票や所得証明を提出する必要があります。一番重要なのは事業計画書です。経営者として自身の会社(クリニック)がどういう状況なのか、なぜ融資を必要としているのかということは当然ながら把握して説明できるようにしておかなければなりません。

次に見るポイントは『クリニックの売り』です。他院と比べて、自院はどこが優れているのか、または集患できる材料はあるのかというところです。クリニックを維持、発展させていくために経営者として考えておく1つのポイントとなります。このあたりの項目は事業計画書に盛り込んでもいいかと思います。

最後のポイントは『金融機関と協力体制を築くことができるか』というところです。銀行や信用金庫は営業ノルマがあり、今回の融資で取引拡大が狙えるポイントを探しています。例えば、先生やスタッフの定期預金や給与振込指定、住宅ローン、個人ローンなどが挙げられます。クリニックと金融機関がWIN-WINの関係を構築することができれば、今後の取引にも積極的に取り組んでくれるようになります。

金融機関ごとにそれぞれ審査基準を設けていますが、前述のような内容を加味した上で総合的に判断することになります。

 

開業資金の融資を受けるために必要なこと

開業資金は融資額が多額となり、且つ返済できる保証がないためいくらでも借り入れできる訳ではありません。少しでも希望する融資額に到達できる可能性を高めるために必要なことをお伝えします。

事業計画書

何度も触れておりますが、開業資金を受けるにあたって事業計画書は非常に重要です。何よりも優先し、時間をかけてじっくりと検討してください。事業計画書の作成にあたって、ポイントを2つお伝えします。

1つめは『実現可能な計画』です。多少過大に作成することは問題ありませんが、金融機関側も多くの開業実績があるはずなので「これは無理だろう…」と思われると融資希望額よりも減額された回答を出さざるを得ません。

2つ目は『コンセプトがしっかりしていること』です。なぜ開業しようと思ったのか?クリニックの売りは何か?をしっかり説明できるようにすることが重要です。またこの点はアピールポイントにもなります。私の経験で、事業計画は厳しい状況でしたが「栄養点滴を売りにした営業展開で集患が増加する」という内容で上司と掛け合い融資が決定した事例もありました。

今後の展望(未来像)

金融機関は面談の際、事業計画書をはじめとした数字ばかりにて判断するのではなく、先生方の人間性、誠実性など総合的に評価した上で判断します。私も多くの経営者の方と面談してきましたが、今後の話をリアルに、且つ楽しそうに目をキラキラさせて話をしてくれる人とは長く継続して良い関係を構築できています。

また、今持っている技術をクリニック開業に活かすことができれば申し分ないですが、プライドや過去の栄光に浸り、そればかりを話す人は残念ですが将来の見込みは厳しいという判断となります。お金を貸し借りするということは、信用の上で成り立ってこそ初めて成立しますので、明るい未来を語っていただける人には好印象を持ちます。

 

まとめ

開業時に予定していた融資額を下回る回答があったとしても、違う金融機関では満額回答が出る場合があります。金融機関ごとに審査基準が違いますし、審査する人も違うからです。

また、状況に応じて複数の金融機関で融資を受ける協調融資という方法もあります。日々、忙しくされているかと思いますので、その際には開業コンサルに頼るのも1つの方法です。ここでお伝えした内容が少しでもお力添えできれば幸いです。

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執筆 医療ライター ken

銀行にて融資/開業支援部門にて従事したのち、医療機器メーカーに転職。基幹病院からクリニック、動物病院まで幅広い営業顧客を有する。
現在は営業の傍ら開業支援業務も行い、多数の社内表彰を受賞。『顧客に寄り添った価値提案』をモットーにしています。


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