
どんな業界にも、その業界の人しかしらない特殊な言葉は存在します。医療業界も同様で、一般の人は見聞きすることのないさまざまな言葉が飛び交っています。そのひとつが「SOAP(ソープ)」。具体的にどんなことを意味する言葉であるのか、詳しく説明していきます。
SOAPとは?
SOAP(ソープ)とは、医療・看護記録の記入方法の一種で、記入する際の考え方でもあります。SOAPの単語を構成する4つのアルファベットは、「S=Subject(主観的情報)」「O=Object(客観的情報)」「A=Assessment(評価)」「P=Plan(計画・治療)」の単語それぞれの頭文字。つまり、これら4つの項目にそって看護の記録をつけていくという方法であり、これら4つの項目について考えることで問題を解決していくという方法でもあります。
4つの項目について、たとえばどのようなことを記入して、どのようなことを考えるのかをみていきましょう。
Subject(主観的情報)
患者の訴えや患者の感じたこと、患者の病歴などを記入します。つまり、患者の主観ということです。「お腹が痛い」「寒気がする」などの患者自身の訴えに加えて、既往歴も記入します。また、患者が意識的に説明していることだけでなく、会話のなかでポロっとこぼした何気ない情報まで拾うことが大切です。
Object(客観的情報)
医師の診察や検査によって得られた客観的情報を記入します。患者の訴えをもとに診察や検査をおこなうことで、正確な病名を探り、根拠となるデータを拾っていきます。たとえば、「息切れがする」との患者の主訴をもとにバイタルサインを測定したら、測定したデータは客観的情報ということになります。
Assessment(評価)
Subject(主観的情報)とObject(客観的情報)をもとに医師が下すのがAssessment(評価)です。たとえば、「目がかゆくて鼻水が止まらない」という主観的情報と、スギ花粉に対する皮膚テストや特異的IgE抗体検査の結果という客観的情報を踏まえると、花粉症の可能性が高いと判断することができますが、この判断が評価にあたります。
Plan(計画・治療)
評価に基づいて、治療計画や治療方針を決めることがPlan(治療・計画)です。この項目は、主に看護計画の立案に活用されるもので、病状や怪我の回復のためにどんな看護をおこなうかを記します。看護計画や治療計画は、他の人が見てもわかりやすいように記しておくことが大切です。なぜかというと、治療途中で担当者が変わることがあるからです。担当者が変わっても、わかりやすく記された看護計画があれば一貫したケアを提供できるため、患者の回復にも影響を及ぼすことがありません。
SOAPの理想的な書き方は?
続いては、SOAPの理想的な書き方をみていきます。
Subject(主観的情報)
患者が話した内容を詳しく書き留めます。また、看護の対象には患者の家族も含まれることから、患者の家族が話したことも、Subjectとして記録します。患者が痴ほうや精神疾患などの場合は、患者の家族が話してくれる普段の様子などはより重要になります。
(書き方例)
Object(客観的情報)
Objectには、聴診、触診、視診、内診などの所見や検査の結果をそのまま記します。
(書き方例)
【バイタルサイン】
血圧 96/64、脈拍 78回/分、SpO2 99%、体温 36.0℃
Assessment(評価)
Assessmentには、記入者の主観を入れないことが基本とされています。また、問題点を明確にしたうえで、適切な評価を記すことが大切です。
(書き方例)
Plan(計画・治療)
Planには、具体的な処方内容や内服終了の受診指示などを記入します。また、次回の診察につながる内容であることも大切です。
(書き方例)
SOAPのメリット
続いては、SOAPのメリットをみていきます。
第三者が見てもわかりやすい
SOAPのメリットは、4つの項目に沿ってわかりやすくまとめられているため、記入者以外が見ても理解しやすいことです。また、主観的情報と客観的情報が混ざっていないため、考察の流れも第三者に伝わりやすいといえます。
問題点を洗い出して考察するスキルが身に着く
SOAPを記入する訓練を続けることで、問題点を洗い出して考える力が身に着きます。
SOAPのデメリット
続いてはデメリットです。
一刻を争う状態のときは記入している場合ではない
4つの項目に沿ってわかりやすくまとめるには、それなりの考察が必要なため、緊急処置が必要なシーンなどでは、記入そのものだけでなく、SOAPの考え方にのっとって考察することも難しいでしょう。
複数の症状がある場合、さまざまな病歴がある場合はうまく機能しない
また、いくつもの症状を発症している患者や、さまざまな病歴がある患者に関しては、情報が複雑になるため、すべてを書き留めていくと、かえって重要な情報を見落としてしまうことがあるでしょう。
長期的なプランにも適さない
そのほか、一生付き合っていかなければならない持病がある患者の記録をつけることにも、SOAPは向いていません。
SOAPの質を高めるためのポイント
SOAPのクオリティを上げるためのポイントは大きく3つあります。
基礎データをきちんと収集する
病歴をはじめとした基礎データを収集することなく、現在の病状のみでSOAPを作成しても、間違った考察をしてしまう可能性が高いといえます。
S、O、A、Pそれぞれのつながりを意識する
SOAPを記すうえでは、SubjectとObjectの2つの情報を整理して、その2つをもとにAssessmentで問題を考察して、その考察をもとにPlanを立てることが大切です。つまり、S、O、A、Pに一貫性を持たせることが非常に大切だということです。
追記したいことや修正したいことがあればその都度書き込む
一度作成したSOAPをいじったらいけないというルールはありません。追加や修正がある場合にきちんとSOAPにも落とし込むことで、よりよい医療を提供することができます。
SOAP記載時の注意点
続いては、SOAP記載時の注意点を説明します。
診察後すぐに記録する
まず大切なのは、診察後、すぐに記録することです。なぜかというと、電子カルテに記録した情報はリアルタイムで反映されることから、記録した時間が診察した時間だと判断されることが多いためです。すぐに記録できないときには、内容と時間の簡単なメモを残しておいて、後でまとめる際に、実際の診察時間より遅れてしまったことも記録します。
誤った書き換えをしないよう気を付ける
前述の通り、SOAPは修正も追記も可能ですが、修正にあたって虚偽の情報を入力してしまわないよう、重々注意する必要があります。
原則として削除はしない
紙カルテでも電子カルテも、記録を削除すると「データを改ざんした」と判断されます。そのため、万が一、元の情報が間違っていて、紛らわしいから消したいという場合も、削除前の情報と削除後の情報の両方を確認できるようにしておく必要があります。
最初はうまくまとまらなくても問題なし!
主観的情報と客観的情報を完全に分けることは、慣れていないと意外と難しいものです。そのため、最初のうちは2つの情報が入り混じってしまったり、SOAPに一貫性を持たせられなかったりするかもしれません。しかし、記録することを習慣づけていると、次第にスキルが上達してくるうえ、書くスピードもアップしてきます。しかも、「うまく書けている」ということは「うまく考察できている」ということなので、提供できる医療にも差が出てくることはいうまでもありません。毎回きちんと記録をつけることは時間的にも難しいとしても、無理のない範囲でSOAPを続けることで、クリニックとしてできることの幅も広がっていくことが考えられるので、ぜひできる範囲で続けてみてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2023年4月時点の情報を元に作成しています。