クリニックを医療法人化した場合、役員を選任する必要があります。選任した役員には報酬を支払う必要がありますが、報酬額はどのようにして決めればいいのでしょうか? 詳しくみていきましょう。
医療法人の役員とは?
クリニックを医療法人化した場合、原則として、3名以上の理事および1名以上の監事を役員として置く必要があります。これは、医療法第46条の5第1項において決められていることです。また、理事のなかから理事長1名を選出しますが、原則として理事長を務める理事は医師である必要があります。これは、医療法第46条の6第1項において決められていることです。
理事、理事長、監事とは?
医療法人の理事は、医療法人との間の委任契約に基づいて、医療法人の常務を処理する役割を担っています。株式会社の取締役に相当する役職ですが、任期は2年間と定められています。ただし、再任も可能です。また、理事のなかでも権限が大きいのが理事長で、医療法人の代表という立ち位置となり、医療法人の業務に関するすべての裁判上または裁判外の行為を決定する権限が付与されます。理事が取締役なら、理事長は代表取締役ということになります。
では、監事の役割はということ、理事長および理事が適切に業務をおこなっているかを監督することです。医療法人の業務・財産状況の監査をおこなうほか、理事会に出席して、必要に応じて意見を述べることもあります。
医療法人の役員報酬は2種類ある
医療法人の役員への報酬は、以下の2パターンのいずれかの方法で支払います。もしくは、その両方の方法で支給することも可能です。
事前確定届出給与
所定の時期に確定額を支給することを決めて、事前にその旨を税務署に届出して支給する給与です。「社員総会の決議から1か月を経過する日」または「会計期間の開始の日から4か月を経過する日」のいずれか早い日までに、所轄の税務署に届出をおこなうことが必要です。
事前確定届出給与の届出をおこなうと、支給した役員報酬を「損金算入」することが可能です。「損金」とは、法人税を計算するときに所得から差し引くことができるお金のこと。損金が多くなれば、そのぶん所得が少なくなるため、課税される法人税が安くなります。また、「損金算入」とは、法人税の計算をするときに、該当の費用を損金ととらえられるという意味です。ただし、税務署に届け出た金額と支給額が異なった場合、金額が過大であるか過少であるかに関わらず、全額が「損金不算入」(=該当の費用を損金にできない)となります。また、そもそも役員報酬の額を高く設定しすぎていると、損金算入が認められない可能性が高いので注意が必要です。
定期同額給与
読んで字のごとく、定額で支給される給与です。事前確定届出給与とは異なり、事前の届出なしで支給額を損金算入できます。ただし、支給サイクルが一定かつ支給額が毎回同額であることが条件で、金額が変動していると損金扱いできません。支給サイクルは1か月以下で固定するのが原則。報酬額の変更は、事業年度開始日(期首)から3か月以内であれば可能です。定期同額給与として支給する額は、役員報酬において、事業年度ごとに利益額を予測することで設定しますが、総額として支給限度額も定めている場合、その限度額を超えた過大支給分は損金不算入となります。
役員報酬の決め方は?
役員報酬は、定款または株主総会の決議によって決定しなければならないことが、会社法によって定められています。ただし、小規模法人では定款に定められていないことが多く、また、定款に記載があったとしても、株主総会の決議で決める場合がほとんどです。医療法人の場合もこれと同様で、社員総会での決議によって決められることがほとんどです。また、社員総会では役員報酬の総額(支給限度額)のみ決定して、それぞれの役員の報酬額は理事会の決議で決定することもできます。
役員報酬額を決める際の注意点は?
続いては、役員報酬額を決めるにあたって注意すべきことをお伝えします。
高額すぎると「損金算入が認められない」「役員およびその家族の税金が高くなる」デメリットがある
前述した通り、役員報酬の金額は、高すぎると損金算入が認められない場合が多いです。役員報酬を高く支給することで、なるべく法人税を支払わないようにしているとみなされるためです。
また、高すぎることによって、役員およびその家族に負担がかかる場合があります。なぜかというと、役員報酬が高くなれば、そのぶん、所得税や住民税、社会保険料の額も上がるからです。
少額すぎると役員の生活が保障されない
では、安ければ安いかというと、それはそれで問題があります。役員およびその家族の生活が成り立たないような金額だと、そもそも役員を引き受けてもらえない可能性が高いでしょう。ただし、各役員が自院以外でも仕事をしている場合などはその限りではありません。
運転資金を考慮しながら金額を設定する
医療法人であろうとなかろうと、運転資金がまったくない状態で経営を続けることは危険です。医療機関は、毎月決まった額を稼げるわけではないためです。そのため、役員報酬額を決めるにあたっては、「前年の利益額または相当利益額-2か月分の運転資金」を超えない金額に押さえることが望ましいでしょう。
役員の勤務状況なども考慮する
各役員の勤務状況を考慮したうえで金額を決めることもとても大切です。役員として名前を連ねているだけなのに報酬を得ているようなことがあれば、内部の関係者から不満やクレームが出ても当然です。そのほか、医療法人の経営状況などを考慮することももちろん必要です。
医療法人解散時のことまで考えて役員報酬額を決定するのが理想
医療法人を設立したばかりであれば、解散時のことまで考えることはほとんどないでしょう。しかし、役員報酬額を考えるうえでは、解散時のことも考えることが望ましいといえます。なぜかというと、前述の通り、運転資金をプールしておくことはとても大切ですが、解散時に医療法人に残った「残余財産」は、すべて国のものになってしまうためです。医療法人に貯めこんだお金は、理事長といえども個人の生活に使用することはできないのです。そのため、なるべく損をしないよう、最終的に残余財産をほぼゼロにすることを考える必要があるためです。とはいえ、数年後、数十年後の経営状況などはわからないので、今のうちから遠い未来にちょうどゼロになるよう役員報酬額を設定することはできません。しかし、たとえば定期同額給与であれば、事業年度開始日(期首)から3か月以内なら金額を変更できるので、年度ごとに金額を見直すようにするなど、今のうちから対策をとっておくことはできますよ!
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この記事は、2023年5月時点の情報を元に作成しています。