医師は独立して開業医となると、自らクリニックを経営するのが一般的です。では、クリニックを経営するためにはなんらかの特定の資格が必要なのでしょうか? さっそく解説していきます。
個人開業医が院長のクリニックの場合、クリニック経営に必要な資格は「医師免許」
まずは本題。
クリニック経営に必要な唯一の資格は、「医師免許」です。ただし、絶対に医師免許がなければクリニックを経営できないかというとそうではありません。
クリニックを経営するために医師免許が絶対に必要なのは、クリニックの経営主体が個人の場合です。クリニックの経営主体は、個人の場合と法人の場合がありますが、前者の場合、開設者である医師本人が経営者ということになります。
法人の場合、クリニック経営に必要な資格は「なし」年齢制限なども「なし」
では、クリニックの経営主体が個人ではなく法人の場合はどうかというと、結論から言うと、経営するために必要な資格はありません。つまり、医師免許のない非医師が経営者となることができるということです。年齢制限などもありません。誰でもチャレンジできます。
非医師が病院やクリニックを経営するためには法人の開設者となることが必須
非医師が法人の経営者となるためにはどうすればいいかというと、「医療法人」もしくは「一般社団法人」を設立する必要があります。
「医療法人」「一般社団法人」の業務内容および設立のステップに関しては、以下の記事をご参照ください。
クリニック経営者が医師か非医師かで業務内容に違いが出る
続いては、クリニック経営者の主な業務をみていきます。
クリニック経営者の業務は、クリニック経営者が医師の場合と非医師の場合とで異なりますが、業務内容の幅が広いのは圧倒的に前者です。具体的には以下の業務をこなす必要があります。
診療業務
クリニック経営者が医師の場合、もっとも重きを置くべき業務内容は診療業務となります。他に医師を雇うことなく、ひとりで診療業務をおこなう場合などは特に負担が大きくなります。
スタッフの採用、教育、勤怠管理
スタッフの採用、教育、勤怠管理も大切な仕事のひとつです。どんな医師も勤務医時代には人を雇うことなどは経験していないため、労務や支払いに関しては一から知識を得ていかなければならないということになります。
経営・経理
収支について考えることも大切な仕事です。何にどれだけの資金を投入してどう回収するのかを決めていくことは、決して簡単なことではありません。労務に関しても同様ですが、自分ひとりで決めていくことが不得手である場合、専門家を頼ってサポートしてもらうという手もあります。
集患・増患対策の策定
集患・増患対策を考えていくこともとても大切です。自院の魅力をいかにして多くの人に知ってもらい、多くの医療機関のなかから選ばれるクリニックになるかを考えることは簡単なことではありません。また、より多くの潜在患者に自院のことを知ってもらうために、SEO・MEO対策を講じていくことも大切。そのために、ホームページを更新したりSNSで発信したりとやらなければならないことは山ほどあります。
上記業務内容のうち、非医師が自らおこなえないのは「診療業務」のみです。逆にいうと、非医師がクリニックの経営者である場合、診療業務を医師に任せるぶん、そのほかの業務のクオリティを上げていくことが求められるということになります。
病院やクリニックの経営に役立つ資格はある?
前述の通り、病院やクリニックの経営に必須な資格は、個人開業医のクリニックにおける医師免許のみですが、そのほかにも、経営に役立つ資格はいくつか存在します。
病院経営管理士
一般社団法人日本病院会の認定資格である「病院経営管理士」の資格取得のために勉強すれば、病院・クリニック経営に活かせる幅広い知識を身に着けることができます。資格取得のためには、一般社団法人日本病院会の「病院経営管理士通信教育」を2年間受講する必要があります。
医業経営コンサルタント
「医業経営コンサルタント」は、公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会が認定している資格です。クリニックや病院などの経営コンサルタント向けの資格で、協会主催の指定講座を受講した後、筆記試験、論文審査に通過して、協会の正社員となれば資格を取得できます。同資格は、取得した後も継続研修が義務付けられているため、能力向上のための努力を続けることが必要となります。
医療経営士
医療経営士の資格を取得するためには、一般社団法人日本医療経営実践協会が実施している「医療経営士資格認定試験」に合格することが必要です。医療機関をマネジメントするうえで必要な医療および経営に関する知識、経営課題を解決する能力を測る試験で、3級から1級までの3つのレベルが用意されています。
参照:一般社団法人日本医療経営実践協会 医療経営士資格認定試験
防火管理者
経営する病院や医療機関が入居するテナントビルの収容人数が30人以上である場合、防火管理者を選任する必要があります。防火管理者は、経営者本人ではなくスタッフでも問題ありませんが、スタッフが退職する可能性があることを考えると、経営者が取得しておいたほうが安心といえます。防火管理者の資格を取得するためには、一般財団法人日本防火・防災協会が実施する「防火・防災管理講習」を受講する必要があります。
クリニックで働くスタッフに取得してもらいたい資格とは?
経営者が取得しておくと安定した経営につながりやすい資格があるのと同様、スタッフが取得しておくと安心な資格もあります。代表的なものとしては、レセプト処理能力の証明となる資格です。なぜかというと、診療報酬点数は2年おきに改定されるので、基礎知識が十分あって、なおかつアップデートにも対応していけるスタッフがいるといないとでは、経営の安定感が大きく違ってくるからです。
レセプト処理能力を証明できる資格としては、たとえば以下のような資格があります。
診療報酬請求事務能力認定試験
診療報酬請求事務に従事する人の資質の向上を図るために、公益財団法人日本医療保険事務協会が実施している全国一斉統一試験です。医科と歯科にわけて学科試験と実技試験がおこなわれます。
参照:公益財団法人日本医療保険事務協会 診療報酬請求事務能力認定試験
レセプト点検業務技能検定試験
レセプト点検に特化した試験です。レセプトの病名に対して行われた検査や治療、処方された薬が正しいかどうかなど、請求業務の全般的な知識が試されます。
参照:日本医療事務協会 医療事務検定情報サイト レセプト点検業務技能検定試験
医療事務技能審査試験(メディカルクラーク(R))
医療事務に携わっている人の多くが受験する試験です。レセプトの知識以外に、患者待遇などについても問われます。
医科 医療事務管理士(R)技能認定試験
日本で最初の「医療事務の資格」として、幅広く医療機関に認知された資格です。診察の受付、カルテ管理、会計、診療費の請求等さまざまな業務を問題なくこなせるだけのスキルがあるかを測るのに役立ちます。
参照:JSMA 技能認定振興協会 医科 医療事務管理士(R)技能認定試験
医療事務実務能力検定試験
診療報酬請求事務の従事で求められる一定の能力を有すことを証明するための試験です。比較的短期間での資格取得が目指せるため、無資格のスタッフに取得をすすめるのもありでしょう。
参照:特定非営利活動法人 医科福祉情報実務能力協会 医療事務実務能力検定試験
医事コンピュータ技能検定試験
医療事務、コンピュータの知識、レセプト作成能力が問われる試験です。医療事務に関する一般的な知識と技術、ITスキルの両方が備わっていることが必要とされます。
参照:一般社団法人医療秘書教育全国協議会 医事コンピュータ技能検定試験
病院やクリニックの経営のリスク軽減に役立つ保険は?
また、病院やクリニックを経営するうえでのリスクを軽減するためには、保険に入っておくことも役立ちます。保険に入っておけば、万が一の事態に陥ったときに、金銭面での負担をカバーしてもらえるからです。
具体的にどのようなリスクが考えられるかというと、たとえば以下が挙げられます。
それぞれのリスクに対してどのような保険が役立つのかを説明していきます。
就労不能リスク
GLTD(団体長期障害所得補償保険)
ドクターの病気やケガが原因で就業不能となった際に役立つのは、「GLTD(団体長期障害所得補償保険)」です。万が一の場合でも、事業の借り入れを返済して、住宅ローンや家族の生活費を払っていけるようなプランを組むことが大切です。
生命保険
あまり考えたくないことですが、ドクターが死去した場合の家族の生活についても、きちんと考えておく必要があります。月々の支払いがいくらの保険に入れば、その後の家族の生活を守ることができるのかをFPにアドバイスをもらいながら考えるのがおすすめです。
災害発生リスク
火災保険
火災や京風、浸水などの自然災害発生時の被害を保障してくれる保険には、必ず加入しておきたいところです。戸建てクリニックの場合も賃貸物件の場合も同様です。開業すると、施設そのものに対してのリスクヘッジが不可欠となります。
休業損害補償
火災や浸水などの自然災害によって休業を余儀なくされても、家賃支払いや借入金返済、酢タフへの給与支払いは免除となりません。そのため、休業時の売上をカバーする休業損害補償に加入しておくと安心です。
医療事故・訴訟リスク
医師賠償責任保険
医療事故が発生した場合や、訴訟を起こされた場合を考えて入っておきたい「医師賠償責任保険」は、ドクターのみが入っていればOKというわけではありません。開業医となると、クリニック施設やスタッフの管理に対する責任も負うことになるので、施設管理に対しての賠償責任保証も確保しておくべきなのです。
医師ではなく非医師を経営者と定める場合、理由や目的を意識するとうまくいきやすい
本記事で説明した通り、条件にもよりますが、クリニックを経営することは医師でも非医師でも可能です。どちらでもOKとなると、多くの人は「それなら医師が経営者の役割も果たしたほうが経営もうまくいくだろう」と考えるでしょう。それでも敢えて非医師を経営者に据えるのなら、「それぞれが自分の業務に集中できる」などの、医師と経営者をわけることのメリットをきちんと理解して意識すると経営がうまくいきやすいですよ!
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2023年10月時点の情報を元に作成しています。